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引きこもり冒険者のおバカな英雄譚  第一部 暴れまくって王国を救う?   作者: 牟川
第1章 冒険者大会の狂った前夜祭
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第15話 真 終わる日常


 適当な量の薬草を採取した俺は、王都ムーク市に戻るべく移動していた。単に来た道を引き返せば良い。しかも、整った街道を進めば良いのだ。


 至って簡単な話だが、面倒が起こらないというわけではない。


「へぇ、今日は1人のようだね? 」


 そう声をかけて来たのは、『乙女隊』のリーダーを務めるエリン・アストリーだ。帰り道に彼女たちと遭遇してしまったのである。


 彼女たちと絡むと、精神的に色々と疲れる。


「1人だが、何か問題か? 」


 ソロでの活動自体に、問題はない。

 

「当然、問題アリよ」


 しかし、エリンはそう断言した。

 何を根拠に問題なのかは知らないが馬鹿にされた気分になる。

 

「どうしてだ? 」


「前にも言ったけど、ソロで活動しているとハンターに狙われるかもしれないわ。実力のある冒険者だって何人も犠牲になっているという話なんだから」


 ハンター……か。

 先日も、エリンはそんなことを言っていたな。どうやら、エリンになりに心配してソロ活動が問題アリと言ってくれたようだ。


「ハンター? 」


「そう。冒険者を無差別に殺害する正体不明の殺人鬼のことを、そうやって呼んでいるの」


 冒険者を無差別に殺害するだと? 

 今まで、そのような話は聞いたことがない。


「それは確かな話なのか? 」


「いえ、あくまでも都市伝説のようなもの。だけど『遊撃騎士団』が非公式に調査を行っているらしいの。まあ、私も偶然知っちゃっただけなんだけど……」


 非公式ということは、事実の有無に関わらず公にはされていない情報のようだな。

 しかし俺が調べようと思えば、それなりに情報を得ていたかもしれない。我ながらとんでもない失態だ。


「それで、ハンターの話が囁かれるようになったのは、いつからなんだ? 」


 エリンたちと絡んで面倒だと言っている場合ではない。

 とにかく、今は情報を収集しよう。


「それは知らないけど、何年も前から噂されている話だね。毎年、冒険者大会の時期になると、みんなハンターの話をするようになるの」


「どうしてだ? 」


「毎年冒険者大会が開かれる時期が、ハンターが最も活動する時期だからと言われているわ」


 冒険者大会が開かれる時期が、ハンターの活動時期……だと?

 馬鹿たれ。俺はどうしようもなく怠惰だ。引きこもりと言われても仕方ない。この程度の情報さえも、今まで得ていなかったのか。


 どうして、俺は間抜けなんだ。

 本当に。


 ちょっと、ほんの少し、他の冒険者たちと仲良くしていれば、この程度の話など既に耳にしていたことだろう。

 決めたやり方を実行するだけ……それしか考えていなかったのだ。

 もっとアンテナを張っておけば、他にも道はあったというのに。


「ど、どうしたの? 」


「いや、ちょっとな……。色々と教えてくれて、ありがとう。俺は急ぐから、また今度な。あ、あとこれ落としただろ」


 俺はエリンたちにそう言って、走り出す。その間際に、彼女の落とし物を預かっていたことを思い出し、『王女と傭兵物語』を手渡した。


「今さら遅いよ。このバカァァァァァ」


 エリンの声が木霊する。


 ともあれ、意外なところから意外な情報を得た俺は、直ぐに王都ムーク市に戻ったのであった。



 

 王都ムーク市に戻るなり、俺は冒険者ギルドへは向かわずに、ある場所へと向かった。

 それは、探偵事務所である。顔なじみである探偵であり、これまで何度か調査を頼んだことがあった。知り合ったきっかけは、親友のオーガストだった。彼が過去にその事務所で勤めていた経緯から、紹介してもらったわけである。


 ハンターとやらついて、早速調査を依頼しようと思っているわけだ。



 事務所のドアをノックすると、探偵が出てきた。


「おや、イゴルさん。……また調べものですか? 」


 調べて欲しいことがなければ、わざわざここへは出向かない。


「ああ。実は冒険者の間で、ハンターという正体不明の殺人鬼が噂になっていてな」


「ハンター……ですか。聞いたことがありませんね」


 探偵も、ハンターに関しては知らなかったようだ。

 

「俺も今さっき知ったばかりだ。それで、ハンターとやらは、冒険者大会の時期になると活発なるんだとよ」


「なるほど」


「既に、『遊撃騎士団』という冒険者のクランが非公式に調査を行っているらしい。俺が知っているのは、ここまでだ」


「わかりました。ハンターとやらについて、調べてみましょう。……ひょっとして、そのハンターとやらがオーガスト惨殺事件の犯人だと睨んでるのですか? 」


「まあな。話が早くて助かる」


「あの事件は惨殺死体以外、殆ど手がかりが無いと言える状況でしたからね。しかも捜査が突然中断となったり、私も気になっておりました」


「ああ。当初からお前に依頼する手もあったが、俺は1つの賭けに出るつもりでいた。地道に調査するよりは、そっちの方が手っ取り早いと思ったからね。だが今回、思わぬところから意外な情報を知らされたわけだ」


 俺はそう言って、金貨10枚を手渡した。


「わかりました。早速伝手を当ってみます」


「ああ、頼むぞ」


 俺はそう言って、探偵事務所を後にしたのであった。




 ロミーナ・アストリーは、昨日に続いて今日もイゴル・ボルストの尾行を行っていた。

 イゴル・ボルストは、不正な手段で物品を取得してギルドで売買を行っている疑惑が浮上しているのだ。

 しかもその物品の中には、ドラゴンのコアも含まれている。


「なるほど……今日は薬草採取に行くのね。まあ、F級冒険者としては順当なところか」


 と、ロミーナが呟く。

 彼女の言うとおり、F級冒険者が薬草採取を行うのは見慣れた光景であるため、何ら不自然なところはない。


 それから、ロミーナはイゴルを追跡した。

 するとイゴルは、草原地帯で薬草採取を始めたのだった。そのため、ロミーナは身を隠す場所を探すのに迷うはめになる。


 しかし、なかなか身を隠す場所など見つからない。



「あっ! 」


 追跡対象のイゴルと目があってしまい、ロミーナは内心焦る。

 直ぐに、視線を逸らしたものの、怪しまれたのは間違いない……そう彼女は思ったのであった。


「ダメね。なんてドジなのかしら、私は」


 ロミーナがそう声に出す。

 場合によっては、尾行の事実すらバレてしまった可能性もある。

 だが、実際には可能性などという段階を超えて、既にバレているのだ。イゴルは尾行の事実に気づいており、さらにたった今起こったアクシデントで、誰が尾行しているのかも判ったところである。


 そして、イゴルは薬草採取を止めて帰路についた。

 王都ムーク市へと戻る途中、イゴルは『乙女隊』のメンバーたちと遭遇する。


「あれは……エリンたちじゃない」


 エリンはロミーナの妹だ。


「何を話しているのかしら……」

 

 イゴルは真剣な表情を浮かべて、エリンと話しているのだ。ロミーナは少し距離がある場所から見ているため、その話の内容までは伝わってこない。


「引きこもりで怠惰な癖に、またエリンを誑かしているの!? 」


 ロミーナはそう勝手に解釈し、怒りを覚えた。

 一方でイゴルはエリンとの会話を切り上げると、途端に走り出したのであった。急展開すぎたため、ロミーナからすると、意味不明な展開を迎えることになったのである。


「エリンが気になるけど何かされたわけでも無さそうだし、それに仲間もいる。今はイゴルを追いかけよう」


 ロミーナはエリンが心配ではあったが、イゴルを追いかけることにしたのであった。途中でエリンとすれ違ったが、特に絡むこともなく、彼女はイゴルを追いかけることに優先する。


 そしてイゴルを追いかける形で、王都ムーク市へと戻って来た。

 ロミーナは、イゴルが冒険者ギルドへ行くのだと思ったが、彼が真っ先に向かった場所は私立探偵の事務所だったのだ。


 事務所の看板を見るなり、ロミーナはさらに困惑することになる。


「探偵? 一体何の用事があるのかしら……」


 ロミーナは考える。


 どう考えても、エリンと何かを話してからイゴルの行動はおかしくなったのだ。

 エリンとの会話の直後に突然走り出し、そして探偵事務所へやって来たのである。


 エリンとの会話に何かある。

 そう考えたロミーナは、今夜の予定をメモ帳に記しだしたのであった。


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