さくら日記 10歳 冬休み
さくらは冬休みに祖父母の所へ一人で遊びに行く事となった。
2泊3日の小旅行。
エルフの里国の祖父母の元に。
「さくら、私はここまでです。あとは一人でユーカナーサリー、、、王の所へ出向きなさい」
リーザはさくらと共にエルフの里国にある、王から与えられている自宅に『越え』た。
「それと必ず『王』もしくは『女王』とお呼びするように。人にはそれぞれ立場と言うものがあり、王たる地位となる者は尚更です」
「うん、解った」
「その返事は余り良くありませんね」
リーザの教育は少し厳しいかも。
「はい、解りました」
さくらは察して訂正した。
「よろしいです」
リーザの教育は子供に強要したり決して自分が怒ったりはしない。
子供が気付く事を導き、待つ。
「少しお説教をします」
「はい」
「さくらは自由よ」
「はい」
「でも何故さくらは自由なの?自由とは何かを学びなさい。そして何故自由があるのか。自由と不自由との違いは。なぜ不自由があるのか」
「はい。でも何か難しい〜」
リーザもさくらも笑顔である。
「これは私からの冬休みの宿題です。この3日間でさくらが何かを学べたら、ラッキーです」
「はい(ラッキーって、、、)」
エルフの里国
さくらが冬休みであっても、エルフの里国では1年を通して、ほぼ温暖な気候が続く。
「女王様!」
「おおさくら、来たか。良い良い。よくぞ来たな」
「はい、おじいちゃんとおばあちゃんの所へ行って参ります」
さくらはエルフの里国の王、花の王ユーカナーサリーにしっかりとした挨拶が出来た。
さくらはリーザの出生地、ご両親の住んでいる『ホーリョンの里』を目指す。
「さくらよ、如何にして過の里へ向かうのじゃ?我が送り届けようぞ」
「いえ女王様、道は覚えましたので、歩いて行きます」
「うむ、徒歩でも行けぬ事は無いが、距離がちと有るのぉ」
女王ユーカナーサリーは少し思案した。
自分が術を行えば、直ぐに到着するであろう。しかしそれをさくらは望んでおらぬ事が分かる。それとリーザも勝手な事をしたと我を責めるやも知れん。
「さくらよ、トゥクルトッドドゥーを貸し出そうぞ」
『トゥクルトッドドゥー』はエルフの里国において、馬に相当する動物。
エルフの里国での形態は乗馬の馬のような扱いである。しかし頭は長い首の先に鳥のようなクチバシを持ち、馬と同じく四つ脚歩行で、背中に鞍を付け跨いで乗る。エルフの言葉も理解するし、従順ですごくおとなしい。
ただ、馬の2倍以上の大きさに成長する。
「ウメはいますか」
『ウメ』はさくらと同じ年に生まれたトゥクルトッドドゥー。さくらより少し前に生まれた事を知ったトキヒコが『ウメ』と名付けた。『桜』の前だから『梅』だそうだ。
「おお、居るぞ。お主と同じに元気に育っておる」
花の王ユーカナーサリーはさくらと手をつなぎ、自らの足でもって厩舎に向かった。
「ウメー!」
牧場のようなオープンスペースに放牧状態のトゥクルトッドドゥーにさくらが呼びかけた。
他のトゥクルトッドドゥーに比べて身体一つ小さいトゥクルトッドドゥーを先頭に5頭が駆け寄って来た。
馬の2倍の大きさの生物が集団で駆けて迫って来たら、恐怖なんだが。
トゥクルトッドドゥーの集団は女王ユーカナーサリーとさくらが立つ背の低い塀の前で砂埃を上げつつも整然と停止した。
さくらとウメはお互いを認識した。
顔を合わすのは半年振り以上なのに、問題は無かった。
「ウメ、大きくなったね」
前回会った時よりも二回り程ウメは成長していた。
トゥクルトッドドゥーの『ウメ』は全身を金色に近い黄色の美しい毛並みを持ち、所々に薄っすらと赤茶色の細いラインが有る。
さくらは人と話すように普通にトゥクルトッドドゥーに話し掛けている。
人間界でも愛馬に限らず犬、猫、鳥、時には金魚や亀にまで同様に話し掛けるであろう。
しかしトゥクルトッドドゥーはこちらが想像する以上に相手の言葉を理解し、心も繋げられるであろう。
でもさくらはエルフ語では無い、日本語で話し掛ける。
それでもウメはさくらの気持ちを読み取る。
「どうじゃさくら、ウメを連れて行くか?」
「はい女王様、いいんですか?お願いします」
さくらはペコリと頭を下げた。
「ウメよ、良いか」
ウメもブルっと返事をした。
「まあ、さくらがウメに連れられて行くんじゃがな」
カッカッカッカと女王ユーカナーサリーは笑った。
「さくら、こちらへ」
花の王ユーカナーサリーが出発前のさくらを呼び止めた。
「さくら、お主も人間で言う10の歳になるのぉ」
「はい」
「少しお主の力を解こうぞ」
「解く?」
「うむ。そちはな、エルフと人間の肉体と精神をそれぞれ持つ。それらがな、さくらの中でお互いに悪さをせぬよう抑えておる」
悪さって?
「女王様、少し解りにくいです」
「さくら、お主は人間であるトキヒコ殿とエルフであるリーザとの子ぞ。我は奇跡の子と思っておる」
奇跡の子、、、。
「かと言って、特別扱いはしとらん」
「はい」
「だがの、人間とエルフ、二つの血が混ざり合った事は今まで無かった」
私の混血の事だわ
「我はな、凄く良き事と思っちょる。だからなさくら、お主を守りたい」
「はい、ありがとうございます」
「エルフの王がエルフの民を守る事は責務である。さくら、お主も我が守るべき民の一人ぞ」
お父さんは入って無いのかも。
「長くなってすまんの、さくらの中での悪さじゃが、さくらの中に有る人間とエルフが持つそれぞれの力のバランスを取る事を我が少し手伝っておる」
「エルフの持つ力を全て出すと、お主の人間の友達はよう追てこれんかも知れんし、何かの拍子で怪我をさせてしまうやも知れん。これはさくらが人間社会で友達と遊べる為のお守りじゃな」
別に何にも変な風には無いし感じて無いけどなぁ
「力が抑えられてるといって我を恨むなよ。これはトキヒコ殿とリーザからの要望じゃからな。お主を思っての事じゃ」
「はい!」
さくらは自分に何かの制約が掛かっている事なんて、思った事も無い。実生活でも別段支障を感じた事は無かった。
そもそも、トキヒコとリーザに歯向かったり、反抗した事が無かった。でも、わがままは少し言っちゃうけど。
「『解く』事じゃが、さくらに幾つかの抑えを掛けておる。『枷』と呼ぶが、まあ紐の結びが有ると思え。それを今ひとつ、二つ解くぞ」
花の王ユーカナーサリーはさくらの頭に手をかざし、ブツブツと呪文を唱える。少しの時間。さくらを見つめた。
「よし、どうじゃ?」
う〜ん、特に何も感じなかったなぁ
「女王様?何も変わったように思えないのですが」
「うむ、少しだけじゃ。だがの、さくらの成長に合わせ追い追い結びは外して行くぞ。本来ならトキヒコ殿とリーザがいる所でないと外さんのじゃが、、、秘密じゃ。今日さくらの結びを解いた事は我とさくらとの秘密じゃぞ」
花の王ユーカナーサリーはそう言って、いたずらっぽくさくらにウィンクした。
「はい、女王様!秘密です!」
「これこれさくら、秘密はそんなに声を上げてはならん事ぞ」
二人は微笑み合った。
さくらは、トゥクルトッドドゥーのウメの横に立つ。
ウメは成長途中のトゥクルトッドドゥーであっても、鞍の位置は160cm程となり10歳のさくらでは届きもしない。
「さて、どうする?」
花の王ユーカナーサリーは興味深くさくらを見ていた。
さくらの周りには踏み台も無ければ、手摺りも無い。
さくらはウメに語りかけた。
「ウメ、あなたに乗せて下さい。良いのならしゃがんで下さい」
ウメにさくらの意思が伝わり、ウメはゆっくりとしゃがんだ。
「ありがとーウメ!」
それでも乗るには高かった。
さくらがウメに付けられた鞍を掴み悪戦苦闘をするも、背の上にあがり、鞍に跨げるようになるには程遠い。
余りにも上手く行かず、泣きべそをかきそうになった時
ウメがさくらの背負うリュックを咥え、ひょいと背中の鞍にさくらを乗せた。
「さくら、見事じゃ!」
今まで手も口も出さず、ただ見守っていた花の王ユーカナーサリーが讃えた。
「え?女王様、これで良かったの?ウメが気を使ってくれたみたいなんだけど」
ユーカナーサリーはさくらを乗せ、立ち上がったトゥクルトッドドゥーのウメの側に立った。
「トゥクルトッドドゥーへの乗り方に決まりなど無い。またな、従わす事は容易じゃ。じゃがの“トゥクルトッドドゥーに乗せてもらう”のが理想じゃな。さくらは一発で決めおったわ」
さくらは嬉しかった。女王様に褒められたのもそうだけど、ウメに私の気持ちが伝わったのかな。
「ウメよ、さくらを安全に届けよ」
トゥクルトッドドゥーのウメは女王にお辞儀をするように答えた。
エルフの里国での、さくらの一人旅が(短いながらも)始まった。
さくらのワクワクは止まらない。




