さくら日記 高校1年生 秋 迷い
「まただわ、、、」
さくらは起床した。いつもの朝だ。目覚まし時計は5分前に止めている。
さくらはベットから出て立ち上がると、パジャマ姿のまま部屋を出る。
両親の寝室では目覚まし時計の小さな音が鳴り続けているのが聞こえる。父トキヒコはまだ寝ているようだ。
階段を降りると母リーザが自分の為の朝食とお弁当の準備をしてくれている。
「ママ、おはよう!」
「おはよう、さくら」
いつもの明るい朝だ。
朝食を採り、洗面台に立ち、自室に戻ると着替えを済ませ、カバンを持って階段を降りる。通学カバンと大きめのスポーツバック。
階段の後ろから、父トキヒコが降りて来る。
「さくらおはよう。行ってらっしゃい」
「うん、お父さん行って来ます」
部活の朝練が有るさくらは、父親よりも朝が早い。
いつもの朝だ。
でも、最近の朝の始まりは少し違っていた。
さくらは、高校生となり女子サッカー部に入った。
競技としてサッカーを始めたのは部活に入ってからだが、本来持つ身体能力を発揮し、夏の大会を最後に3年生が抜けた後は、実質レギュラーとなっていた。
さくらのサッカーはお世辞抜きで下手だ。
細かなテクニックはまだまだ、トラップミスも多い。しかし、スピードとパワー、スタミナは男子生徒をも凌駕する。半分エルフの血が持つ所以か。
今は秋の大会に向け、練習に熱が入る。
「さくら、おはよう!」
「ああ友美おはよう!」
さくらの練習のパートナー的存在の桜井 友美である。
友美はサッカーを少年団から始め、中学校でも続けたテクニシャンである。
さくらにサッカーの技術を教える、先生的な存在でも有る。
朝練は大体、体を起こす事と基礎練習に時間を費やされる。第一は今日1日を怪我無く過ごす事だ。
準備運動~ストレッチに始まり、二人組のパス交換から全体でのボール回し。
そこは女子高生なので、大量の汗をかかない程度で。その後の授業が待っているから。
「さくら~朝から激しい~」
さくらは上達したかった。
だから積極的にボールを追い回し、少しでも多くボールに触れる事を望んだ。
友美はさくらに付き合い、朝から走らされる。
「さくら~、もう時間だよ。朝練終了~」
「あー、時間だね」
さくらはもっとボールを蹴っていたかった。でも、決められた時間で引き上げないと、学校側からサッカー部に対してペナルティーを与えられてしまう。
少し息の上がっている友美に対して、さくらは息も上げず、ケロッとしている。
「さくらは疲れ知らずか!」
「へへっ」
クラスでの授業が終わると、部活の時間だ。
授業中おとなしかったが、さくらは部活の時間になるとスイッチが入る。
サッカーは面白い。皆と一緒にひとつのボールを追い、走り、蹴る。
なにせ、おもいっきり走ろうが、叫ぼうが誰にも咎められない。それよりも、皆でひとつの事に向かう。
私は下手だけど、誰かがカバーしてくれる。だから、また走れる!もっともっと、走れる!
チームとしての連帯感が堪らなく心地いい!
「ただいま〜」
気持ちのいい疲労感と共に家に着くのは、陽が暮れてから。
「あ、女王様いらっしゃいませ」
あれ?こんなに遅い時間に珍しいな。
「おお、さくら、高等学校の生活はどうじゃ。人間は短き時間で生活様式を変える、忙しき事じゃ。しかしその順応力には驚かせられるのぉ」
「今日はどうされたんですか?何時もより遅い気がします」
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは、優しく嬉しそうな顔でさくらを見る。
「それはなさくら、お主の顔を見る為じゃ。お主の元気に過ごす顔を見んと、我が落ち着かん」
わー、嬉しい。
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは、さくらが人間時間で15歳となり、高校生になっても、人間とエルフ、その間で悪き干渉や併合が起こらぬ様に、観察と調整を行い続けている。
エルフが持つ力に関しても『術』と『魔力』を用いて、それを抑え込む『枷』を掛けている。
「女王様、私は今サッカー部に所属しレギュラー目指して頑張ってます。秋の大会も近いので、気合いも入ってます!」
あ、授業の事、勉強の事が二の次だ。ママの顔が陰った?
「サッカーか、良い良い。全員薙ぎ倒せ!そして勝て!トキヒコ殿も勝てと申しておろう」
そう、お父さんって何でも『全部勝て』って言うんだよなぁ~
「あー女王様、相手を倒す競技では無いんです」
「そうか、しかし薙ぎ倒せ!」
「はい!勝ちます!」
そうだ、、、
最近、朝起きると抱く迷い。
ママが一人だと何かちょっと言いにくい。でも今この場には女王様も居る。
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは、さくらにとって第二の母であり、何でも話せる特別な存在。
さくらは思いきって自分が今、抱えている何か~人が聞いたら些細な事かも知れない。ただの思い違いかもって言われるかも知れない~を打ち明ける事を決心した。
「女王様、ご相談が、、、私の話しを聞いて下さい。ママにも聞いて欲しい」
「うむ、どうしたのじゃ」
リーザもさくらと並び、さくらが打ち明ける話しを聞く。
さくらは先程とうって変わって、ふさぎ目がちに話し出した。
「私は朝、目が覚めた瞬間、自分が今居る場所がエルフの里国ではないのか、自分の部屋なのか、一瞬迷ってしまう事が時々有りました。でも、最近その感覚を多く感じるようになって来た気がします」
些細な事かも知れない。でも、、、
さくらの中ではモヤモヤした思いが広がって行きそうで、少し苦しかった。
「さくらよ、良くぞ話したの」
エルフの王は嬉しそうな顔をして、リーザに目配せした。
リーザは小さく頷いた。
「人は話さねばな、伝わらぬ。それは相手に対してだけでは無く、自分自身に対しても伝わらぬのじゃ。またの、自身が発する事により意識は落ち着き定められ、問題は本質を現す物じゃ」
女王様はいつも正面から受け止めて下さる。それがどんなに些細な事だったとしても。
「さくら、迷うたお主は何を思い、どう考えた?」
「何と言いますか、、、そう、不安を感じました。どうして、どちらへ私は居るべきだろうかと」
「そう、お主の不安は迷いからじゃ。しかしの、だからと言って、この世界なのかエルフの里のいずれかを選び決めたりしても、その迷い、その不安感は消えぬやも知れん」
選んでも、、、
「さくらは眠りから覚めた。夢から覚めた時やも知れん。そこはさくらの意識がまだ定まっておらぬ時間帯。云わば無意識の中に有る想いを無意識のままにコントロールする事は、我でも無理じゃ」
「ではユーカナーサリー、さくらはどうしたら宜しいのでしょうか」
母リーザは少し心配顔だ。
「ただのさくら、リーザよ、この事を解決するのは案外と近しき者に依るやも知れぬぞ」
「近しき者?」
「ユーカナーサリー、トキヒコさんですか?」
「然り。あの者に問うが良い。そしてあの者の言を聞くが良い」
お父さんってそんな力、持ってるの?
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは、自身の魔力を行使し、エルフの里国へと『繋ぎ』帰って行った。
女王様は私が何かを抱え出した事に気付き、待っていて下さったのかなぁ。
「ママ、ママからお父さんに聞いてもらえないかな?何となく、さりげなく」
「はい、いいですよさくら」
お父さんはどんな事を言ってくれるんだろう。
トキヒコが帰宅後の夕飯の席である。
母リーザが口を開いた。
「トキヒコさん」
「はい」
「お食事中に申し訳ございません。少しよろしいでしょうか」
え〜何だリーザ、改まって。オレ何かしたっけ?何がバレた?
「トキヒコさんは朝起きた時とか、ふと想いを巡らした時に、自分は今この世界に居るのか、それともエルフの里国に居るのか、一瞬でも迷われた事はお有りでしょうか?」
(ママ~、全然さりげなく無いよ~まとも過ぎ~)
何だ?何があった?
「う~ん、そんなのしょっちゅう有るよ」
(え?)注:さくら
「そんで、朝起きて、現実世界を認識した時は何時も後悔する。あ~会社行かなくちゃって」
「朝起きてさ、そこがエルフの里国だったら嬉しいじゃん。今日は何処まで行ける、どんなエルフと会えるのかって。以前さくらがリーザのお父さんから聞いたって言う、ヘビトカゲだかトカゲヘビを探しに行ってもいいだろうし。さくら、トゥクルトッドドゥーで黒くてデッカいヤツがいてさ、スゲーデカイの!そうだ今度そろそろ会いに行こう」
何故父は、こんなにも楽天的で都合いい事が思えるのだろう。
「でも休みの日なんて酷いぞー。ハッとして何時もの時間帯に目が覚める。ああ会社行かなくちゃ、いや、今日休みだよなぁ。あれ?休みか、どっちだ?って成る事が多い。寝坊してもいいのに、起きちゃった自分にすげー後悔して寝直す」
「寝直すのー、起きればいいのに」
「いや、オレは寝貯めるの」
「寝貯めって、それ、人間の身体能力には持って無い機能だよ」
「でもオレは有る、多分有る。もしかしたら、その部分だけ人類を超越した存在なのかも知れんぞ」
父の言い分は、何か間抜けだ。
だけど、、、
トキヒコの話しを聞く内にさくらは肩の力が抜けて行った。
トキヒコの話しを聞いていたら、自分の迷いから出た不安が馬鹿らしくなった。
父のような思いや考えには至らないかも知れないが、自身が目を覚ました時に持った迷いから来る不安、ここは人間社会かエルフの里国なのか。自分はどちらが今居る場所なのか、どちらに居るべきなのか。
それは自分の持つ気持ち次第である事に気付いた。
迷う必要なんて無い。どちらにいても構わない。今自分が居る場所で考え行動するのは、自分自身だから。
どこに居ようとも、自分はそこに居るのだから。
「お父さん、休みの日だからって、寝坊をしていい決まりは無いわ」
何ださくら、厳しいなぁ。




