トキヒコ、 風の民の里へ
「トキヒコさん、どうされました?」
深夜時間、私は口と喉の乾きで目が覚めた。
「あ~リーザ起こしちゃたね、ごめん。何か口が乾いちゃって」
焼きそばのソース、掛け過ぎたかなぁ。
私は何か飲もうと、キッチンに向かった。
『パチン』
キッチンの照明を点けると、テーブルの上はチョコレートの包み紙が散乱しており、テーブルの真ん中でクーリャが大の字になって寝ている。
イビキこそ聞こえて来ないが、、、何やってんだよ!
「こらークーリャ!チョコ全部食べちゃったのか!」
クーリャは『ビクッン』とするとゴソゴソと起き出し、テーブルの真ん中であぐらをかいて座った。
「なんだよぉ~ドギビゴ~~~いい気持ちなんだよぉ~~」
そう言うと、ショボショボしている目で見上げて来た。
「何でチョコ全部食べちゃったんだよ!1日一個って言ったよな!」
まあ、チョコレートごときでそんなに怒る程の事では無いが、何かこの先の事を思うと考えさせられる。怒れて来る。
クーリャはフラフラとしつつ、テーブルの上で立ち上がった。
そして私の手を取ると、
「ドギビゴ~行くぞおぉぉぉ~~~」
「ちょっとちょっと!」
何コレ、すっげーバカヂカラ!
トキヒコはクーリャに引かれるまま、記憶の石に吸い込まれ、記憶の石は消えた。
「トキヒコさん!」
キッチンが騒がしいので、様子を見に来たリーザは、トキヒコとクーリャ、そして記憶の石が消えるのを見た。
「トキヒコさん、、、」
トキヒコは、クーリャに取り込まれるような形になって、記憶の石に吸い込まれた。
(うわわわあぁぁぁl~~~~吸い込まれる~~~)
そのまま、グルグルと回転するかのように、何処かへ飛んで行く感覚を全身に受ける。
(コレ、どうなってんの?!どう言う仕組み?!)
(う~気持ち悪い~)
(目が回る~気持ち悪い~)
(あああああ~~~)
どれぐらいが経ったのだろう。
「よーし、着いたぞー!」
(うぇ~着いたって、ここ何処?)
(あれ?)
なんだか様子がおかしいと言うか、、、
(あれ?私はクーリャの中にいるの?何で?)
(ちょっと、ちょっと、クーリャ!何かおかしいぞ、おーい!)
クーリャの目を通して見る世界になっている。そこには、寒々とした空が広がり、強い風が休む事無く吹き続いている。
少し遠くに目をやると、土地の上下が解らなくなる様な地形が続いている。
(記憶の石からクーリャが立体映像みたいな画像を出した風景だな。あ~目が回りそう。ここは風の民の里、なのか?それよりも、)
(クーリャ、クーリャ、どうしてオレはクーリャの中にいるんだ?!)
「おっ、おお~~ドギビゴ~、あたいの名を略するなーーあーあーあたいは帰って来たぞー」
(ここは風の民の里トファノキブーミ、嵐の国か。)
クーリャの中に取り込められたらしい私は、すっげーチョコレート臭い中に居る。
(クーリャ、クーリャ、オレをココから出せないのか。出してくれ!)
「んーとねぇ、分かんないー。あははははー」
(ダメだコイツ。何故だか酔っぱらってる)
どうやらクーリャは大量のチョコレートを食べた結果、何故かチョコレートで酔っぱらったようだ。
「あー!ねー様達だーわはははははー」
(クーリャが言っていた、29と30番位?の風の民か?)
「そうだよー、わはははははー」
クーリャは荒れ狂う風をモノともせず、ふらふら、ふらふらと二人並ぶ風の民へ宙を漂い突き進んだ。
「ねー様達良かった。会えたねーアハハハハー」
「何故にお前がここにいる?」
「あーあはは、ねー様達、先に帰っていたんだー」
クーリャはふらふら、ふらふらと漂っている。
「コイツ何か匂うわー、風童ともあろう者が酔っぱらってるなんて」
「お前は何をやっているんだ」
(クーリャ、この風の民二人に歓迎されて無いぞ。ドス黒い何かが伝わって来る。)
「だからお前は出来損ないなんだ!」
二人の風の民にクーリャは断罪される。
(クーリャの中にいるせいか、この二人の風の民の言葉が解る)
クーリャは光の羽根を消すとストンと地面に降り、そのまま横になり寝てしまった。
(おい立てクーリャ、クーリャ起きろ!)
「おい、この地を見てみろ。寒々とし何も無い、寝てるのか?」
「私たちはこの嵐の国が嫌になったのよ」
「ここを出る土産に記憶の石を頂いた。でも手違えでお前に地図の石が渡ってしまった」
「記憶の石の喪失はお前にしようと思ったのにな」
「でも、今からでも間に合うな」
(風の民の里から記憶の石を持ち出したのは、この二人なのか)
29と30番位の風の民、29番位のリイリー・カティン・べへアン・ウッタリー・バーダル・ヴィラーサットと30番位のナアシサス・カティン・マハンジィ・パスチィミィ・バッシャヒ・ヴィラーサット(※あー以後、二人の風の民で)は大きな岩を抱えて上空へと昇った。
(おいクーリャ、クーリャ!、、、あ、コイツ寝てる?)
倒れている(寝ている)クーリャに向かい、上空から大きな岩が落ちて来る!
(わあぁっ!危っぶねーーー!)
『ズッ、ドーーーン!!!』
間一髪、クーリャ(中身のトキヒコ)は体をゴロゴロゴロゴロと横方向に回転させ難を逃れた。
(何かヤバイぞ!逃げよう!)
クーリャ(中身トキヒコ)は走り出した。
(おー、体が軽い!)
(くっ、光の羽根は出せないのか。おいクーリャ!起きろ!殺されるぞ!)
二人の風の民は上空からクーリャ(中身トキヒコ)を追う。
「避けられたぞ」
「何故あいつは飛翔を行わない」
「何故走っているのだ」
(逃げろ、逃げろ、逃げろ!)
クーリャ(中身トキヒコ)は駆け続けた。
二人の風の民は上空から追い掛けて来る。
木の影や岩の影になるように走ったが余り効果は無さそうだ。
(風の民って火炙りでも、めったな事では死なないそうだけど、痛みは伴うって、、、クーリャの中に居るオレの場合はどうなるの〜?)
二人の風の民達の上空からの追跡は続いている。
「あいつは何故走っているのだ」
「何処に逃げようとしている」
(あっ、上手い具合に横穴?トンネルだ!飛び込め!)
クーリャ(中身トキヒコ)は足を止めない。
(でも、逃げて何処に行けばいいんだ?このトンネルは何処まで続いているんだろう。あー!クーリャ起きろ!)
(二人の風の民の追跡が続いている事は感じる、、、あっ)
道が二手に分かれてる。
(どっちだ、どっちだ、どっちだ!?)
『直感に従え』
(え?誰?)
(直感なら右だ!駆け抜けろー!、、、って、あーーーー違ったか?あ~落ちる?コレ落ちてるよ~)
トキヒコが直感で選んだ道の先は、しばらく進むと、だんだんと坂のように下って行き、その内に縦穴の様に真下に向かっていた。そして落ちた。狭い穴の中、無重力に近い感覚のまま、落下して行く。
(ああー!クーリャ起きろ!落ちゃう!羽根を出せ!翔べ!起きろー!落ちるぅ~)
狭い穴を落下し続けていたが、突然に周囲が広がりスポンッと広く眩しい空間に行き着いた。
そしてトキヒコはドスンと落ちた。
(あがー、尻がぁ!って、クーリャのお尻だった。そんで、ここは?)
どうやら風の民達の居住区の様だ。
建物に見える半球型の建造物が重なり合い並び、建物には丸い窓も見える。
半球型の建物は淡い水色、淡いピンク、淡いグレーの外壁の物が並び明るく綺麗だ。
風の民はふわふわと漂い翔べるので、高い位置に有る建造物に向かう階段が無い。
この横穴先の半地下(?)であらば、外の強い風は感じられない。
クーリャ(中身トキヒコ)を追い掛けて来た二人の風の民もこの空間に到着し、尻もちを着いているクーリャ(中身トキヒコ)の前に降り立って来た。
「お前は何故飛翔せずに走り逃げた」
「どこにも逃げ場など無いのに、結局家まで戻るのか」
「だからお前は出来損ないと言われるのだ」
(あー捕まったか、クーリャ起きろー!ヤバイぞ!)
「さあ、お前をどうしてくれよう」
(捕まった〜)
クーリャ(中身トキヒコ)は追い付かれた二人の風の民に左右から抱えられ浮き上がった。
見た目は寝たままで。
中身のトキヒコはなす術が無いまま、抵抗もせずに二人の風の民連れられて行く事になるようだ。でも何処に。
クーリャ(中身トキヒコ)は二人の風の民に左右から抱えられたまま、街に見える場所とは反対方向に連れられて行った。
「禁地に連れよう」
「もう一度、記憶の石を使おう」
「そうしよう」
ここには強い風が吹いていない。
走って二人の風の民から逃げていた場所とは、飛び込んだ横穴を挟んで反対側みたいだ。
空気は穏やかだ。
でもどこまで、何処へ連れられて行くのだろう?
だんだんと薄暗くなって来た。気温も下がった様に少し冷んやりして来た。
(おいクーリャ起きろ!なんか雰囲気が変だぞ!起きろー!)
「あ~ドギビゴか~」
(クーリャ!ここから出してくれ!)
「あ~アハハハハ、、、グゥ~」
(クーリャ!寝るな!起きろ!)
暴れて落とされたら凄く痛そうな高さだ。もう少し、じっとしてよう。クーリャの光の羽が出せれたら何とかなるかも知れないが。
「こいつは寝てるのか」
「先程まで走り逃げていたのに、何故今寝ている」
そのまま、すーとクーリャを左右から抱えた風の民の二人は、音も立てずに飛び進んだ。
ますます暗さが増す。気温も下がる。
いったい何処へ行き着くのだろう。『禁地』とは?嫌な予感しかしないんだが。
薄暗くなった奥の先に、薄明りが見えて来た。
明かりの元は山?ビル??何か建物が有る。
クーリャ(中身トキヒコ)を抱えた二人の風の民はあの建物に向かい進んだ。
近付いて分かる、これは宮殿だ。
先ほど見た、風の民達の住居と思われる建物とは明らかに違う。まるで図鑑かネットで見たインドの王宮のように、屋根の部分が大きな雫のような形をしており神々しく輝いている。
二人の風の民はクーリャ(中身トキヒコ)を左右から抱え持ちながら入り口と思われる場所に降り立った。そして光の羽を消した。
建物の中は薄暗いが、長い廊下が奥の奥まで続いているのが見える。
二人の風の民は、クーリャの左右の腕をそれぞれ掴み、クーリャを引き摺りながら徒歩で長い廊下を進んでいった。
(痛っ!)
引き摺られているので、段差で膝を打った。
(ここが『禁地』なのだろうか)
(おいクーリャ!禁地だぞ禁地!来ちゃいけない場所じゃないのか?起きろー!)
長い廊下を行き着くと、光の溢れる部屋に突き当たった。
照明器具が見当たらないのに何で明るいのだろう?
部屋の正面の壁は装飾がなされていて、その前にはまるで祭壇を思わせる作りの建具が幾重にも幾重にもなり、その中心部には『記憶の石』、たぶん記憶の石が卵台の様な上にそれぞれが乗り、横一列に10個輝きながら並んでいる。
(1、2、3、、、いや待て、11個あるぞ?)
「新しい記憶の石なのか?」
「こんな事は初めてだ」
「私達の為にハヴァバンドゥーンズローシミィが準備してくれたのでは無いのか」
「旅立つ我らへの贈り物だ!」
二人の風の民が関心を持った11個目と思われる『記憶の石』は他の物と比べ輝いていない。
まるで近づいた何かを吸い込む為に待っているように、不気味に見える。
しかし、二人の風の民は、こぞって飛び付く様にその『11個目』の『記憶の石』に手を伸ばした。
二人の風の民が『記憶の石』に触れるや否や、その姿は記憶の石に吸い込まれて消えた。
彼女達が触れた『記憶の石』も消えた。
祭壇とおぼしき場の10個の『記憶の石』は、何事も無く、変わらずに、台座に乗ったまま横一列に並んでいる。
コレが正常な状態なのか?でもこの状態を見ると、何故か落ち着きと安心感をすごく感じる。
11個目と思われた『記憶の石』は何だったのだろう。
それよりもだ。
(クーリャ!いい加減起きろー!ねー様と呼んでいた29と30番の二人が消えちゃったぞ。起きろー!)
「、、、グガガ、、、アハハハハ、、、グゥ〜」
(ダメだコイツ。さて、どうする?)
この祭壇?宮殿?を出て、住居地区と思ったあの場所まで戻ろう。
クーリャの家だか部屋だかは、誰か教えてくれるだろう。そこでクーリャが起きるのを待つとするか。
クーリャ(中身トキヒコ)は立ち上がった。
祭壇を背に歩き出した。
でもその顔は、寝顔が薄目を開いていて、気持ち悪い。




