ダークエルフ 女王の出陣
「お〜い、リーザリー、フェアル〜ン〜」
小声だ。
続いて、コンコンコンとドアを叩く音。
私はドアをガバっと開けると
「ムギュ〜」
外のドアの前でふわふわと浮いて居る者を掴んで、さっとドアを閉めた。
私が掴んだのは、風の民『クーリャ・ククール・なんとか』だ。
風の民は身長50cmぐらい。背中に光の羽根を広げ、ふわふわと漂う。
見た目はモロ、妖精さんなんだが、エルフの里国ではイタズラ坊主で少し厄介者扱いされている。
クーリャは以前、リーザにくっ付いて私の家まで来てしまった事が有った。
「いきなり何すんだよー!トキヒコ!あれ?トキヒコ何でここに居るの?ここリーザリー・フェアルンのお家だよ」
「リーザの家だから、オレが居てもいいんだよ」
お〜、ちゃんと日本語で会話出来てる。
この小人妖精クーリャは、悔しいけど私以上の質量というか概念的な大きさが有る。そうだ。
「それよりもクーリャこそ、どうしたんだよ」
「あー私の名前、略すな!」
「クーリャ・ククール、、、ナハ、、、女王様もお前の名前、長いって言ってたろ」
「まあ、許す」
クーリャはエルフの里国の王、ユーカナーサリーには弱い。
「あたいはねー久しくこっちに来たので、リーザリー・フェアルンに挨拶に来たの」
自分だってリーザの名前、間をすっ飛ばしてるじゃんか。
「リーザは(多分)留守だよ」
「そっか、じゃあ帰るね」
何処に帰るんだ。ん?待てよ。
「あー、クーリャ・ククールさん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「何だぁ〜、人間の願いって、ろくでも無いからなぁ〜」
カチンと来るなあ!抑えて抑えて。
「あのですね、クーリャ・ククールさんにしか出来ない事なんですが」
「あたいにしか出来ない事ー!」
チョロい。
「ちょっとですね、王宮までお届けして頂きたい物が有りまして」
私は戻って来た使役?代理?の術のロウ蜘蛛を見せた。(デカイよぉ〜)
「ギィ〜〜〜ヤァーーーーー!」
クーリャはロウの術が掛かった蜘蛛を見るなり、背中から光の羽根を出して飛び上がると、天井に頭をぶつけた。
「あっ」
落ちて来た。
キャッチ。
「あたいは、クモが苦手なんだよ〜」
クーリャは、天井にぶつけた頭を擦りながら、ブルブルブルブルと震え出した。
ロウ蜘蛛を王宮近くまで運んで貰おうと思ったが、無理か。まあ私も蜘蛛は凄く苦手と言う程では無いけど、こいつデカ過ぎでちょっと怖い。
まあ、頼むだけ頼んでみるか。
「クーリャ・ククールさん、この蜘蛛をですね、王宮近くまで連れていって頂きたいのですが」
「嫌だよぉー、無理だよぉー」
ちっ、ダメか。
「クーリャ、連れて行ってくれたらチョコあげるよ」
今は持って無いけど。
「本当かー!」
「ああ、リーザに紅茶も出してもらおう」
「よしっ、あたいやるよ!」
チョロい。
よし、これで王宮までの時間を縮められるな。
「トキヒコ殿、風の民とは余り関わらない方が賢明だと思われますが」
ロウは、クーリャに協力を仰ぐ事を賛成しかねている感じだ。
「う~ん、こいつも少し友達?なんで」
以前一緒に、私としては命からがらの冒険をしたので。
「わートキヒコ友だち!でも少しってなんだよ!」
「いいんだよ。クーリャとは余り会わないから、 少しづつ友達となって行く。そんなもんだよ」
「そんなもんかー」
危ない危ない。せっかくロウ蜘蛛を運んで貰える事となったのに、ここで機嫌を損ねられたら。
「ロウ、どうだろう。ここでクーリャ・ククールさんに頑張ってもらって、蜘蛛を王宮近くまで運んでもらおう。そうすれば時間の短縮になるんじゃないかな?」
「それは、風の民にて運ばれる方が事実として時間が早き事です。なお利点として、他の生物からの守りともなりましょう。しかしながら現実問題として、この者が確実に行動出来るか否か私には測れません」
「何だよー、デカエルフゥ〜!あたいは89番位なんだよーあたいの凄さを知らないからだな。見てろよぉ〜」
そう言って、ロウに啖呵を切ったものの、実際に蜘蛛に向かうと物怖じしている。
「どうした、クーリャ・ククールさん?やっぱ無理でしょうか。板チョコが1枚、冷蔵庫に入っていたけどなぁ」
「何だよー!あたいはチョコレートが欲しくてクモを持つんじゃ無いよ!このデカエルフにあたいの凄さを教えてやるのー!」
そう言っても、大きな“ロウ蜘蛛”を見て震え、ビビってる。
「やー!嫌だぁ~、やー!あぁ、、、やー!、うぅぅクモぉ~、やー!」
うるさいながらも(その声は小さい)、何とかロウ蜘蛛を抱え王宮へ飛び立った。
ロウは意識を半分蜘蛛へ、半分はココに残してクーリャによって王宮まで届けられるのを待っている。
私はクーリャに抱えられ、運ばれいるロウ蜘蛛を見守りつつ、先ずはロウを守る事、クーリャが無事に跳び続ける事を祈る事ぐらいしかする事は無い。
お、意外と早い。頑張れ〜クーリャ(なんか他人事、棒読み)
クーリャ、蜘蛛に気を取られて王宮の外壁にぶつかる。ロウ蜘蛛を落とした!
「ああ!ロウ大丈夫?」
落ちたクーリャはまぁいいや。
「トキヒコ殿、問題有りません。では王宮の内部へと進みます。でも、どちらへ?」
「そこはもうストレートに花の間に向かおう」
エルフの里国の王の玉座の有る部屋だ。
ダークエルフ追跡の特別本部とかが別室に設けられたりしたりして。
「女王様の結界はどう?」
「良いですね、物理的な囲いや網は有りません。このまま行けます」
私は状況を見る事が出来ないので。ロウは蜘蛛の複眼で王宮の中を見ながら進んでいるのかな?目が回らないのか?
「トキヒコ殿、花の間の扉前まで到着しました」
おっ、早かった。
「しかし、この蜘蛛では花の間の扉は開けられませぬ。失態です、申し訳ない。一度外へと出、外壁を伝わり窓より、再び花の間を目指します」
花の間の背の高い扉。何時もリーザが手をかざして扉を開けているが、あれ『術』の一種なのか。では私も開けられ無いや。オレって蜘蛛と一緒かぁ。
「トキヒコ殿!ザーララから来ました。ダークエルフが出たとの事。北の深森地区、その東の山麓です」
北の深森地区って、ザーララさんの山岳城の有る北山の麓になるんじゃないか?
ん?着替えを取りに来たけど、ザーララさんの所で待機してた方が情報が入るの早かった?
ザーララさんはダークエルフの追跡や捜索、そもそもダークエルフには関与してないと思っちゃってた。あー、素直に彼女の力に頼った方が良かった?
「ロウ、花の間に戻れる?周り込める?」
「ええ、戻ります」
ロウ蜘蛛、頑張れ!見えないけど。
「トキヒコ殿、花の間の扉が開きました。ユーカナーサリーを先頭として、左者、右者にリーザリーが続き部屋より出ました!」
ザーララさんの連絡がユーカナーサリーにも入ったか?
「ロウ、ダークエルフの連絡が女王様にも入ったって事?」
「トキヒコ殿、その可能性は大いに有りますね。『左に立つ者』レウラーイ、『右に立つ者』ピラウロウを揃えておりますし、『越える者』リーザリーも含め、皆で出ました故」
レウラーイとピラウロウは大戦士だ。それぞれエルフの里国への三つ有る入口となる内の東門、西門の守護者だ。鉄鉱石から削り出された武器を持つ事を許されている。リーザも出撃なのか。でもたったの4人なの?
「ロウ、私達も北山の東の山麓へ向かおう」
「ええ、少しお待ち頂きたい。蜘蛛にて王宮外まで戻ります故。どうやら王宮の者達は、トゥクルトッドドゥーに乗りまするようです」
トゥクルトッドドゥーは私が知る限り、エルフの里国で一番速い移動手段かも知れない。(女王様やロウの『渡り』〜ワープの様な移動〜は別)王宮の皆が出てから、トゥクルトッドドゥーの厩舎に寄って私も追い掛けるしかないか。
でも、ヅリュースが居なかったら、私を乗せてくれるトゥクルトッドドゥーは居るかな?あーダメだ。そもそも疾走するトゥクルトッドドゥーに一人では乗れないや。激し過ぎる!
「トキヒコ殿、我らも向かいましょう」
ロウは蜘蛛を王宮の外まで出し、意識をこちらに全て戻したようだ。
「あ~ロウ、オレはトゥクルトッドドゥーは無理かも。オレを乗せてくれるトゥクルトッドドゥーが居るのか分からないし、駆け足か疾走されたら振り落とされる」
トゥクルトッドドゥーに乗って、リーザや女王様を追い掛けるのは無理っぽい。
「いえトキヒコ殿、私が連れ渡りますので」
おお~流石ハイエルフ!
「でもロウ、オレの家まで呼び出しちゃったし、ここ、リーザの家までも渡ったし、蜘蛛も使役して、大丈夫?相当負担掛けさせちゃってるから、その、あれだ、術を繰り出すエネルギーか、大分無理させてない?」
リーザも時々術を出す『エネルギー不足』で連続して『越える』事が出来ないって、、、充電時間が要るような事を言ってたけど。
「トキヒコ殿、心配には及びません。私が持つ魔力は無尽蔵に近きモノ。これは先代より王家の我らに与えられた特権やも知れません。ありがたき事です」
何だー!エルフ王家の姉兄妹は無敵か?チートキャラか?
「それに、」
「それに?」
「はい、それにトキヒコ殿は多くのルイラーを纏われまする。」
ルイラー、、、自然界、草花や生物達から流れ出る、魔力の素。
「トキヒコ殿にご助力を頂きまする。」
あー、勝手に使って下さい。
私は見えもせず、取り込む事も出来ません。
「まあ、魔力無尽蔵プラス私のルイラーね。でもロウ、無理はしないで欲しい。そうだ、今回の事が終わったら何か美味い物を食べに行こう。お礼としてオレに奢らせてよ」
あ、エルフの里国での飲食はお金、要らないんだった。




