女王への贈り物 アジサイのブローチ
「出来たよ」
由香里さんから女王様用に製作依頼をしたブローチが完成したと連絡が来た。
丸っと2週間掛かったが、当初言われた半月から三週間に比べ早かった。特急料金が功を奏したのかな?
製作のお願いに伺った時と同様にリーザと車に乗って由香里さんの住むアパートへと向かった。
「どう?」
見せられたアジサイのブローチは見事だった。
複雑で小さな花が幾つも集まり大きな花を形作っている。それが赤、青、白と3つ。
小さな花の端はそれぞれが金色に縁取られていて高級感も漂う。
当初のデザインスケッチには無かった、アジサイの花の下に走る茎と葉も加わっていて緑色が複数色使われ、複雑な色合いとなっている。
ブローチがキラキラ、キラキラと自分で輝いている様に見えた。
見れば見るほど細部が丁寧に作り込まれている事を発見する。
「由香里さん、コレ、何か凄いです。スゴくいいです!」
「あー細かい所が多くなっちゃって、時間が掛かっちゃったよ。でもその分、作り込みは頑張ったよ。凝り過ぎちゃったかも知れないねえ」
「いやぁコレ、リーザに着けてもらいたい。他の誰かに渡すのが惜しくなっちゃいます」
女王様に似合うぞ、きっと似合う!
「ありがとうございます。何か、自信を持てました」
「大袈裟だな。で、そのブローチだけど、誰にプレゼントする物なんだい?」
「エルフの王様、女王様に贈りたいと思ってます」
「王さま!?」
「はい。リーザの国、エルフの里国の王で、こんな私にも良くして頂いてます」
「ちょっとぉ~、王さまへの贈り物が私のそんな物でいいの?もっと宝石とか散りばめたり!」
「いえ、私はこれが、このブローチを贈りたいです。由香里さんは私に女王様へ物をお贈りする自信をくれました。ありがとうございます」
「あんたがいいならいいけど。リーザさん、いいの?」
「はい。トキヒコさんが我が王に対してお選びになった事です。私も由香里さんが作られましたそのアジサイのブローチを見て、王が喜ぶ顔が浮かぶようです」
よし、物は揃った。自分の気持ちも持てた(たぶん)。
でも、渡すきっかけというか、エルフの里国に行く用事が無ーい。何か、困った~ぁ。
「トキヒコさん、ホーリョンの紡ぐ者がトキヒコさんに上衣を作られたので取りに来いと言われました」
『ホーリョンの紡ぐ者』はリーザのお母さんだ。
でも親子であっても、呼称で呼び会うエルフ社会って、変なのぉと思っちゃう。
まあ独立した個人(個エルフ?)と認め合っているからなんだろうけど。
「ん?おお、、、おお~!」
「トキヒコさん、どうされました?」
「リーザ、エルフの里国に行く理由が出来た!」
ナイスタイミング!ありがとうお義母さん!
私とリーザはエルフの里国の王が居る『花の間』の扉の前に並んで立った。
こちらに着いた時、別段空が曇ってるとか、暗い範囲気が漂ってるとかは感じ無かったんだが。
「ではトキヒコさん、参りましょう」
リーザが扉に手をかざすと、扉は音も無く部屋の内側に向かい開いた。
淡く、良い香りに包まれる。
「スルガ・トキヒコ、スルガ・リーザリー・エストラルク・ホーリョン・サー・フェアルン、我が王への謁見に参じました」
あ~この入場の挨拶方法、何度やっても緊張する。リーザが言ってるんだけどね。
リーザは名乗りを済ますと、何の躊躇いも無く、スッスッと女王様の玉座に向かい歩を進める。私は一歩遅れて、リーザの後を何時も追う形になってしまう。
玉座に近づき、リーザと揃って片膝で屈み頭を下げ、畏まる。
ちらっと見た女王様のお顔が、確かにいつもの明るい笑顔では無いなぁ~と思う。
「王におかれましては、ご機嫌麗しゅう。本日はトキヒコと共にホーリョンの里へと赴きます」
「越える者の里じゃな」
「はい」
「トキヒコ殿は如何だ」
「はい、私は元気に健康体で過ごせていると思っております」
「それはなにより、良き事だ」
ん。何か冴えない感じ。
「女王様」
「何か?」
「はい、私の居る人間社会では、他人に何かを贈る習慣があります。それは記念であったり感謝の礼に対してであったり、何か自分が感じた時など様々な理由であり、別段理由が無くとも贈り物をいたします」
「ほう」
「また、人間は目にした物と誰かを関連付ける事が有ります。服を見たのなら、あの人が着たら似合いそうとか、この食べ物はあの人が喜びそうと想像します。今回私は女王様に見て頂きたい、お渡ししたいと思った物を見つけました。今日それを持参しました。受け取って頂けましたら私が嬉しいです。受け取って頂けますか?」
私は女王様に対して、特別言葉を飾らず(少しだけ改まって)素に近い状態で話し掛けた。それで女王様が不快に思われたら、それは私が至らないだけであり、しょうがない。それが私だ。背伸びをしても、それはいつか戻さなければならない時が来る。
エルフの里国の王、ユーカナーサリーは同意と取れる頷きをした。
私は赤いハンカチに包んだアジサイのブローチをポケットから取り出した。
「これです」
私は赤いハンカチを広げ、ブローチを女王様に差し出した。
女王様はハンカチからアジサイのブローチを摘み上げた。
「なかなかに良い物だのう」
え?反応が薄い。何かミスったか?
「トキヒコ殿、これでは我ら里国で分ける事はままならんなあ」
え?あっ、エルフの里国は皆で分け合う社会だからか。あー。
「女王様、申し訳ございません。この品は女王様の分しか準備出来ておりません。お許し下さい。人間は、いえ私が浅知恵ですので、大局を見れませんでした」
あー、所詮私の浅知恵です。視野も考えも想いも狭い。中々すんなりとは行きません。
「トキヒコ殿、するとこの品は、個としての我に対する申し入れとなるのか?」
「はい、そうなりますし、そのつもりでした」
あー、余計に機嫌を損ねちゃったなぁ。
「そうか!我にか!個としての我に対しての事なのだな!」
「は、はい」
「そうかそうか、そうなんじゃな!」
ん?
「素敵じゃ~綺麗じゃ~光を受け輝いておる。これは良き物じゃ~」
あれ?女王様、何時の素になってます?
「我が王よ!」
リーザが強めに女王様に声を掛けた。
「どうしたリーザよ?」
「王よ、玉座におられます」
女王ユーカナーサリーは『あー』という顔をした。
でも先程、花の間に入った時と空気が変わった気がする。
「う、おう。トキヒコ殿、良き物を頂いた、我は嬉しゅうぞ」
女王様の顔色、雰囲気が戻った気がする。
「はい、女王様に喜んで頂ける事が何よりです」
あ~良かった。
「なあトキヒコ殿、これを我に着けてはくれぬか」
え、いいんですか?リーザは横で頷いた。
「えーでは失礼します」
女王ユーカナーサリーは玉座から立ち上がると、胸を突き出して来た。私より背が低い。
「女王様、右の胸の辺りでよろしいでしょうか?」
左胸は心臓に当たるので、右を選んだ。
「良いぞ」
では失礼しますね~あ、ユーカナーサリーの胸、触っちゃった。
アサガオのブローチを着けた女王様は満足げな顔でリーザを見る。
「越える者よ、これで我も同等ぞ!」
「いえ王よ、滅相もございません」
女王様、何を張り合ってるの~
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは満面の笑みを見せてくれた。
「流石です!トキヒコさん!」
喜び顔のリーザに抱きつかれた。
「エルフの誰がユーカナーサリーの気持ちを戻す事が出来たでしょうか!」
あーリーザ大袈裟、感激屋さん!
いや、女王様チョロイのか?
「あんなにも澱んでいたと思われた空気が変わりました!」
私は何にも感じて無かった。単に鈍い?
「女王様が気に入って下さったみたいで、ホント何よりだよ」
力が抜けた。
『アサガオ』は私と女王様との間では、因縁めいた点もあったけど、私が好きな花のひとつだから、思いを乗せ易かったのかも。素直な自分に、、、少しは成れたのかなぁ
でも結果として、私は自分の力、自分の考えでは何ともならない事に対して、一人で勝手に何か悩んで考えて、変に心配し過ぎていたのかなぁ。あー変に思い悩んでバカみたい。
あ〜でもバカはバカなりに、色々と思い考えなくっちゃ、とも思った。
女王ユーカナーサリーはストレートな対応を何時もして下さっているし、今回の女王様のご機嫌ナナメの件はリーザに聞いただけだったけど。
だけどリーザが言う事、感じた事は100%正解だし、受け入れる。あっ、1000%か。
それで女王様、エルフに限らず人々も笑顔であって貰いたい。
でないと私が話し掛けずらいからな。
この後、リーザの里へトゥクルトッドドゥーに二人乗りで向かった。
トゥクルトッドドゥーのサーシャインは私達二人を乗せても全く意に介しない走りだ。疾走した。
(スピード重視でリーザが手綱を握ったが、私振り落とされそうで生きた心地がしなかったのだが)
リーザのお母さん『ホーリョンの紡ぐ者』から上衣を三着も頂いてしまった。
あーコレ、由香里さんにまたブローチを発注しなくっちゃなぁ




