女王への贈り物 ブローチ作り
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーにプレゼントするブローチの製作依頼をする方は、ブローチ作りを生業にする者では無く、あくまでも趣味の範疇であり、何かのタイミングで軽い副業程度で販売したりしている。
私は以前、マルシェ(バザー的な催し)でたまたま店先に並べられた色々採り取りのブローチに目が留まって、リーザへ贈ったスズランのブローチを相談したのが彼女との出会いだった。
リーザと車に乗り込んだ。
「よし、急ごう」
でも安全運転第一ですよ。
しばらく夜の市街地に車を走らせると。
「トキヒコさん、急ぐと言われましたが、他の自動車に抜かれてます」
おや?リーザが競争を望む?
「いいんだリーザ。この車はスピードを競うヤツじゃ無いからね。それに道路交通法で規制されているから、自分勝手に車を走らせると捕まっちゃうよ」
私の愛車は1300ccのファミリーカー。
いいのいいの。市街地でいくら速くても、カーブや峠に行ったらオレの方が100倍速いから。
そう思ってハンドルを握ると、イラついたり、早る気を抑えられるから。
「すみませんトキヒコさん。確かに先程の自動車は、エンジンルームの寸法からトキヒコさんの自動車の倍の排気量でしょう。車格や車軸に関してもクラスが違いますね。でも、そもそも道路交通法でした。道路交通法は交通事故を抑制する為に制定されておりますし、それに上手な運転は事故を起こさない事です」
「リーザ、分かってるぅ〜」
「でもですねトキヒコさん」
「はい」
「人間は自身の行動により、出せる速度は10km/h程。なのに自動車運転者は50〜100km/h以上の速度を出し車を走らせます。そもそも自分の持つ速度の5倍以上の事柄をコントロールしようとします。本来であれば不可能な事ですが、テクノロジーが可能とさせてます。人々はそれに気付かないのか忘れてしまってます。ですから交通事故は後を絶ちません」
あ〜確かに。自分自身が肉体を使って出せる速度、、、知れてるなぁ。
「ですからトキヒコさん、お気お付け下さい」
「はい」
全くリーザのおっしゃる通り。
『ハンドルを握ると人が変わる』って言われる人、居るなぁ。でも私もそうだと自覚しないと。
車は快適な乗り物だけど、安全は担保されて無い事を皆んな忘れちゃってる。
自動車事故はしてもされても、何一つ得づる事は無いから。
今の生活、リーザとの暮らしを続ける為にも、気をつけます。
『オレの方が速い』は事実だとしても、驕りだな。
リーザの説教は、、、沁みる。
それは客観的に周囲の状況を見て的確に知識に裏付けされた判断が出来、批判を行わないからだろう。
エルフの特性なのか、リーザならではの性格なのか。いずれにしても身近に居て欲しい存在である。リーザは今や私の自制心にもなっているみたい。
車を走らせる事約一時間、彼女の住むアパート前に着いた。
彼女、由香里さんは30代成り立ての独身と聞いている。(本人談)
玄関ドア横の呼鈴を押した。
(今時ブザーかよ。テレビドアホンとまで行かなくとも、せめて通話式のインターホンぐらい、、、)
直ぐにドアが開き、由香里さんが顔を出してくれた。
「かー!こんな美人さんが彼女だと、私が付け入る隙はやっぱ無かったか!」
挨拶も飛び越え、そんな一声だった。
「すみません、突然に。それに夜の時間にうら若き乙女の一人暮らしのお部屋にお邪魔してしまいまして」
「お〜言うねぇ。それだったら一人で来なさい」
そんな挨拶を交わし、部屋の中にリーザと揃って招き入れてくれた。
「こちらは由香里さん、スズランのブローチを作って下さった方。そしてこっちはリーザ、私の奥さんです」
リーザと由香里さんは初対面なのでそれぞれを紹介した。
「初めてまして」
リーザは深々とお辞儀をした。
「見た目は外人さんかと思ったけど、日本人?」
「う〜ん、リーザはエルフなんです」
別に隠す気も無いし、由香里さんが悪気の無い人と感じていたので普通に話した。
「え?エルフってファンタジー世界の?」
「ええ、まあ、そんな感じです」
「こりゃぁ驚きだよ」
話しが長くなりそうだ。
「いやぁ〜しかし、綺麗だねぇ〜」
「由香里さん、すみません。早々に本題に入りましょう」
由香里さんのペースにハマると、夜が明けちゃうだろうからなぁ。
「なんだよ、素っ気無いねぇ」
「まあまあ、また追い追いと」
「で、どんな感じのブローチなの?」
あっ、デザイン?イメージ?
「すみません、、、具体的なトコ、考えてませんでした」
ちょっと焦ってた。
「しょうが無いねぇ。じゃ、デザインから描こう」
「描く?」
「そうだよ。で、何のブローチにするんだい?」
ああ、由香里さんが描いてくれるのね。
「う〜ん、リーザ、何にしよう」
「そうですね、私が頂きましたのと同じく『花』をモチーフにされたらどうでしょう」
お花かぁ〜、うん、いい。流石リーザ。
「おや、リーザさんいいねぇ。で何の花にするんだい」
あっ、そっか、何の花?
「あ、アジサイ。アジサイにします」
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーに初めてお会いした時にお渡しした花。でもその後ひと悶着あったけど。
「あー、ピンクのアジサイはダメです。青と赤と白。三つが纏まったデザインで。大丈夫ですか?」
「ピンク色のアジサイはそりゃダメだろう。あんた既婚者だからな」
由香里さん、アジサイの花言葉を知っていたか。流石!
「アジサイが三色、三つが合わさったデザインって、欲張りだな」
「ええ、まあ。私とリーザにとって大切な方ですので、何とかお願いします」
由香里さんがサラサラっとアジサイのブローチのデザイン画を描き上げた。
「出来た。とりあえずコレでどう?」
青と赤のアジサイが並びその真ん中前に白色のアジサイ。カッコいい。
「凄くいいです。流石です!」
リーザも私の横でデザイン画を覗き込む。
「素敵ですね。私も欲しくなってしまいそうです」
良し、コレで進めてもらおう。
「あっ」
「今度は何だい?」
コレ、完成したら、私達でエルフの里国へお届けする事になるよな。
「このブローチの材質なんですが、なるべく金属の使用を少なくして欲しいんです」
リーザが『越える』時に負担を減らしたいからな。
「粘土、焼物でベースを作れば問題ないでしょ。留ピンは金属になるわよ」
まあ、その程度なら。
「お願いします」
「高いわよ」
「はい?」
「だってそうでしょ。こんなにキレイな奥さんが居るのに、コレ女性へのプレゼントでしょ?なんか悔しいわ」
あわわわ、そうです、このブローチを贈る相手は女性です。
「嘘よ。でも普通にお代は頂きます。それと花の形が複雑で多いでしょ、下絵と形を作るのに時間が掛かるわぁ」
ユーカナーサリーへのプレゼントだ。しっかりした物がいい。
「由香里さん、時間もお値段もお任せします。リーザのスズランのブローチの次に傑作となるのをお願いします」
リーザのスズランのブローチが出来た時は『最高傑作』と言っていたからなぁ。
「うん、任されよう。ただし条件が有る」
「条件、ですか」
何だろう?
「このブローチができたらさ、今度どこかでマルシェを出す時、リーザさんを売り子として1日借りるよ」
えー!




