トキヒコとダークエルフ
それは事故であったのか、故意による物だったのか、今となっては誰にも分からない。
一人のエルフが崖下で倒れ、息絶えていた。
息絶えていたエルフとは別の者の血痕が森の中へと続いていた。
概要はこうだ。
崖際に近い所で二人のエルフが争った。そして両者は崖から落ちた。
一方は命を落とし、一方は姿を消した。
何故、二人のエルフは争ったのだろう?何故生き残った者は姿を消したのだろう?
そして二人は兄弟であり、命を落としたのは弟であった。
二人は『クシュビィの兄、弟』と呼称されており、建物を作る事(大工仕事)を生業としていた。二人の仲の良さは誰もが知っていた。
この『崖下でのエルフの死』は王の元へも報告が届いた。
王は現地に赴き、残った『クシュビィの兄』を探すように王宮の者、里の者達に伝播した。
しかし『クシュビィの兄』は見付からず、その姿を見た者も表れなかった。
王は『クシュビィの兄』を見付け出したら、どうしたのだろう。
この兄弟の間に何があったのだろう。弟の死は兄が原因であったのだろうか。仮に弟の死の原因が兄であったとしてもエルフの社会に罰は無い。
それは太古の時よりエルフ社会を形成してきた何か決まり事のような文化であり歴史でもある。
王は何を想い何を考えていたのだろう。誰にも何も言わず、ただただ『クシュビィの兄』を探すよう皆に伝えた。
しばらくすると、森の中で鳥や獣の死体が散乱されている事を度々目にするようになった。
その後今度はエルフ達の建物(家屋)が何者かによる襲撃によって傷つけられたり、破損させられる事が相次いだ。
それはもう『事件』であった。そしてそこには『クシュビィの兄』の姿があった。
エルフ達の前に姿を表した、彼の精神は正気では無かった。
『弟を殺した』と後悔と罪の意識から精神を蝕まれ、理性を失った。理性を失い正気を保てなくなると籠っていた場所から飛び出し、暴れ出した。
そして理性を失ったエルフはその身体にも影響を及ぼしていた。
彼の体表は茶色と黒色のマダラに変色していた。黒く染まっていた。
ダークエルフとなっていたのである。
ダークエルフとなった『クシュビィの兄』は他のエルフを攻撃し傷付ける事は無かったが、それは誰もが時間の問題であり、遅かれ早かれ自分達の身に振りかかる災いになるのではと考えた。
『クシュビィの兄』の発見が王宮に届き、エルフの王は現地に向かった。
その手には大剣が携われていた。
外は小雨が降り出し、空は悲しげな色をしていた。
エルフの王が現地に到着すると、ダークエルフとなった『クシュビィの兄』はそこにいた。
王の姿を目にしたダークエルフは落ち着きを取り戻したように見える。
そしてエルフの王はダークエルフとなった『クシュビィの兄』と対峙した。
両者は見つめ合った。
言葉は発しられなくとも、彼らの間で多くの会話が繰り広げられていたのだろう。
雨足が強くなり出し、永い時間が過ぎていた。
『クシュビィの兄』は何かを達観したのだろうか、エルフの王は何を知り、何を覚悟したのだろう。
エルフの王は大剣を手にした左腕を振り上げ、差し出された様な姿勢のダークエルフの首を落とした。
王は何かを知っていたのだろうか。
また『クシュビィの兄弟』が争った理由も不明のままだ。
「この者を葬ってくれ」
震える王の声には悲しみが刻まれていた。
王が流す涙は雨に紛れた。
そして王はその妻と共に姿を消した。
玉座にはダークエルフの首を切り落とした剣が置かれていた。
ザーララから聞かされた話しは短かったが、エルフ殺し、ダークエルフ、初代王、、、衝撃的であった。
里同士での争い事はあったと聞かされてはいたが、平和を愛し、永き時間を過ごして来たエルフ達の中にも(実際は未解決だけど)悪意が存在したのか?悪意なのか?
私が接し、出会って来たエルフ達からは想像が付かなかった。
彼らは真面目で、有る意味呑気で、事を急がない雰囲気には惹かれる事が多い。
「トキヒコ、ユーカナーサリーの玉座の背、後ろの壁に剣が掛かっているだろう」
刀身が2m程有る大剣が持ち手を上に、刃先が下向きに縦の状態で壁に掲げられている。
こんな大物を振り回せるのは、どれ程の大男だろう?と想像した事もあったが。
「あれは飾りでは無いのですね」
エルフの王の力を示す象徴か何かだと思っていた。
「あれは初代王、ファウスの置き土産だな」
初代王ファウス、、、どんなエルフだったのだろう。
ザーララは遠くを見つめるような目をしていた。




