トキヒコ、エルフの里国を行く トゥクルトッドドゥー
トゥクルトッドドゥーのサーシャインとヅリュースは大人しく待っていてくれた。
「ごめーん、お待たせ〜」
私は二頭のトゥクルトッドドゥーに駆け寄った。
二頭のトゥクルトッドドゥーは私の声を聞き、姿を認識すると二頭が揃って歩み寄って来た。
少し待たせてしまったが、二頭供、機嫌を損ねてなさそうだ。
「ハッ」
リーザはサーシャインを座らせると、可憐に飛び乗った。カッコいい!
私もヅリュースに座ってもらった。
「ヅリュース、また私を乗せてね」
ヅリュースにお願いをし、ここからが少し問題だ。
私は飛び乗る助走の為、座るヅリュースから少し距離を取ると、気合いと共にヅリュースに飛び付いた。
「でりゃー!」
左手で鞍を掴むのと同時に左足で踏み切り右足を振り上げる!やっぱダメだ。
鞍を掴み、右手は鞍を抱えるように、右足が掛かった状態で再びぶら下がった。
「あー、誰か下から押し上げて~」
ヅリュースが待ってましたとばかりに咥え上げてくれた。
「はあはぁ、助かったよ」
私はヅリュースの首をなぜた。
遠巻きに見ていたエルフ達から、拍手と歓声が上がっている。
かっこよくトゥクルトッドドゥーに乗れず恥ずかしかったのに、何故に拍手?
サーシャインに乗るリーザが私の横に来て並んだ。
「トキヒコさん、トゥクルトッドドゥーへの理想的な乗り方はトゥクルトッドドゥーに『乗せてもらう』事と我が王に教わりました。ヅリュースとトキヒコさんは今日お会いしたばかり。なのにトキヒコさんはヅリュースに『乗せてもらう』事を実行されています、素晴らしい事ですが、何がヅリュースをそうさせたのでしょう。私は感心するしか有りません」
へぇ~そうなの。
「そりゃあヅリュースとサーシャイン、二頭がとても優秀だからだよ。それに私がまともに乗れないので、手を出さざる得なかったんだろうね」
あ、口だったか。
私はヅリュースの首をポンポンと叩いて労った。
見送ってくれているエルフ達に手を振り、出発した。
食堂での時間は、美味しい魚料理も食べられたし、お箸が上手く使えないエルフ達も笑わしてくれた。楽しかった。
「トキヒコさん、あちらの森を抜けて戻りましょう」
王宮からここまで来たコースとは別のルートになるそうだ。私は右も左も分からないので、リーザの案内だけが頼り。
入った森は道筋が出来ているが、先程通り抜けた森よりも木々は高く緑が濃い。草木の匂いが強く森の深さを感じる。
「思っていたよりも遠出になりました。それはトキヒコさんがトゥクルトッドドゥーに上手く乗れたからです。初めからこんなにも上手くトゥクルトッドドゥーと付き合えたエルフを見た事がありません」
「リーザはトゥクルトッドドゥーに乗るのに苦労したの?」
トゥクルトッドドゥーと会話して、あんなに華麗に乗り、走らせるカッコいいリーザ。
「恥ずかしながら、なかなかトゥクルトッドドゥーには届かず、相手にされず、何時もトゥクルトッドドゥーに乗る者を走り追いかける日々が続きました」
ええー!走って追いかける?!
「トゥクルトッドドゥーはあのスピードです、追い付ける分けが有りません。ですが代わりに足が鍛えられました」
それ強引というか、凄い向上心なんじゃない?リーザ、前向きだなぁ
「我が王の元に赴いてからですね。我が王のお陰で私もトゥクルトッドドゥーに乗れるようになりました」
そう言うとリーザは愛しそうにサーシャインの首もとをなぜた。
「しかしトキヒコさん、トゥクルトッドドゥーと言えどもヅリュースは雌です。余り仲良くされると、妬けてしまいます」
あれ、リーザ妬きモチ焼きだったの?
「ヅリュース大変だ、リーザ『越える者』を怒らしたら怖いぞー」
トゥクルトッドドゥーのヅリュースは首を上げ空に向かい「キュキューン」と声を上げた。
リーザが私を睨んでる。
深い森の道は続く。
しばらく歩く速度で森を進んでいたが、リーザが何かに気付いた。
トゥクルトッドドゥー達が緊張したのも伝わって来た。
「トキヒコさん、少し注意して下さい。何者かが近付き、囲まれそうです」
「ええー!」
と声が出そうになった。
リーザは様子を見つつ、慌てずそして慎重にトゥクルトッドドゥーの歩を進めた。
そして大きな黒い姿、その者は私達の前に立ちはだかった。
私達を乗せた二頭のトゥクルトッドドゥーは足を開き体勢を低くして身構えた。トゥクルトッドドゥーの戦闘体勢だろうか。隣で構えるサーシャインはタテガミを立てている。
隣に並ぶリーザの顔が緊張しているのが分かる。
私達の目の前に現れたのは、真っ黒なトゥクルトッドドゥーであった。しかしその馬体(?)はサーシャインとヅリュースより頭ひとつ大きく、キリンとゾウが合体したみたいだ。まるで恐竜だ!
とにかく、見る者を圧倒する大きさ!
だが現れた真っ黒なトゥクルトッドドゥーは、戦闘体勢を取るでも無く佇んでいる。彼は後方に10頭程のトゥクルトッドドゥーを連れ立っていた。
ここら辺のボス・トゥクルトッドドゥーだろうか。
落ち着き払っているのは、その強さからか?
こいつの縄張りにでも入っちゃったのかな?
真っ黒のトゥクルトッドドゥーの後ろに控えている連中は、少し興奮しているように感じ、落着き無く動いている。
『草原の嵐』このタイミングでリーザが説明してくれたトゥクルトッドドゥーの恐ろしそうな一面を思い出しちゃった。
嵐に巻き込まれるのは、御免被りたいんだがなぁ。
我々と向こうはお互いに動かなかった。
真っ黒なトゥクルトッドドゥーのその目は私を見ている。
私は真っ黒なトゥクルトッドドゥーからは怒りも殺気も何も感じなかった。それよりもその目は友好と助けを求めているとしか思えなかった、
「ヅリュース、私を降ろして」
「トキヒコさん!何をおっしやるんです!危険です!」
う~ん、危険かもな。
「リーザ、向こうはやる気無いよ。もしかしたら私を珍しがって挨拶をしに来たのかも知れないよ」
私は座ってくれたヅリュースから飛び降りると、その背中に近い所をポンポンと叩き(心配しなくていいよの意思表示)、まっすぐに黒きトゥクルトッドドゥーに向かった。
「オレはトキヒコ、人間だ。初めまして」
私は攻撃する意思は無い。それよりも近付き見た、真っ黒のトゥクルトッドドゥーの毛並みが惚れ惚れしてしまう程美しくて驚いた。
「お前の名は無いのか。それよりも、その美しい毛並みに触れてもいいかな?」
返事は無いが、拒絶も無いようだ。
私はその黒き毛並みに触れた。美しい。艶々ピカピカに輝いて見える。
サーシャインとは真逆の色合いになるが、どちらも負けず劣らずだろう。
私は黒き毛並みをなぜながら、このトゥクルトッドドゥーを見上げた。
彼の目は訴えている。何をだ?
不意にこの真っ黒なトゥクルトッドドゥーは右の後ろ足を挙げた。
「私に見ろ、と言っているのか?」
私は彼の体を回り込み、挙げられたその足を手にした。足の裏にトゲだか針の様な物が刺さっているみたいだ。
「リーザ」
私はリーザを呼んだ。
サーシャインが腰を降ろすとリーザは直ぐ様飛び降り、私の元に駆け寄って来てくれた。
「これ」
私はリーザに何かが刺さっている真っ黒なトゥクルトッドドゥーの足の裏を見せた。
「コレ、上手く抜いてやれないかな?」
私が強引に引っ張ったら、凄く痛みを伴いそうだが、リーザが術を使えば少しは痛みが緩和されないかなぁ。
「どうでしょう、やってみますね」
リーザは術を使いつつ、トゲだか針を引き抜いた。それは真っ直ぐに刺さっていて、10cm近くの長さが有った。
「コレは痛かったろう。歩くのにも支障が出てたんだろうな」
トゲを抜いた場所から、血が流れ出した。黒きトゥクルトッドドゥーは声ひとつ上げなかったが、リーザの術のお陰だと思う。
「トキヒコさん、しばらくお待ち下さい。何か薬と成る物を探して来ます」
そう言い残し、リーザはガサゴソと草木をかけ分け森の奥へ進んで行った。
「他に怪我をしている者は居ないか?」
私はその場に居るトゥクルトッドドゥー達に呼び掛けた。
すると、黒きトゥクルトッドドゥーの後ろにいた一頭のトゥクルトッドドゥーが歩み出て来た。
野生に生きる者達にも、私の声が届いた!意思が伝わったのか!?
黄色い全身に緑色の濃い色、薄い色のラインが入った鮮やかな色のトゥクルトッドドゥーだ。
そのトゥクルトッドドゥーの左前足には大きなトゲを持つツル植物が絡み付いていた。
「うわぁー痛そうだな」
私はその左前足に近付き、トゲ付きのツルの状態を見た。
ツル植物のトゲは一部が刺さっていたり、足に傷を付けていた。乾いて固まった血の跡も見える。
「太いな、それに変に絡まっちゃてるな」
何とか上手く、このトゥクルトッドドゥーが痛く無いように外せ無いか?手を出した。
「痛ったー!」
早速刺さった。大きなトゲ以外にもツルの至る所ビッチリ小さなトゲが付いてる。
「痛たたた、、、」
私は木の枝を拾い上げ、直接トゲに触れない様に、服の袖を伸ばして手袋代わりにしてみたが、手の平は血だらけになった。
「お待たせしました」
程なくして、リーザが赤色の大きな葉を数枚とこれまた赤い小さな松ぼっくりみたいな物(杉の実みたい)を手にして戻って来た。
リーザは近くの石を台にして、赤い葉と赤い実を別の石ですり潰し出した。
そうだ!
「リーザ、小刀持ってたよね。それ貸して欲しい」
リーザは腰の後ろ辺りに手を回し、小刀を取り出した。
「どうされました?」
「うん、あいつ」
と言って、トゲのツルが絡み付いているトゥクルトッドドゥーを見た。
「リーザはその薬を作ってやって。私がこの借りた小刀であのツルを切ってあげるよ」
リーザに借りた小刀は手に馴染んでその上良く切れた。
小刀を使うと、トゲのツルは難なく切れ、外す事が出来た。良かった。
「トキヒコさん、お手伝いをお願いします」
リーザに呼ばれて行くと、真っ赤な塗り薬が出来ていた。何か辛そう。
「薬が出来ました。コレを塗れば止血と化膿を防げます。この黒いトゥクルトッドドゥーの足を押さえていて下さい」
私は黒きトゥクルトッドドゥーを見上げた。
「薬を塗るぞ。さあ、足を上げて」
黒きトゥクルトッドドゥーに言葉が通じたのか。大人しくトゲの刺さっていた後ろ足を膝から折るように再び挙げた。
リーザが傷口に赤い薬を塗り込むと『グーググー』と低く唸り声を上げた。痛かった?
「これで良いでしょう」
リーザは続けて、トゲのツルが絡まっていた黄色いトゥクルトッドドゥーの左前足にもこの赤い薬を塗った。
黄色いトゥクルトッドドウーは『ギャアギャア、ブグー!』と暴れに暴れた!
あちゃー痛かったか、薬が浸みたのか。
「では次はトキヒコさんの番です」
「え?オレも?」
「はい」
リーザは私の手を指差した。
そっか、さっきのトゲ付きのツルを外そうとした時だ。でも見た目はだいぶ血で赤いけど、傷は浅い。
「では、塗りますよ」
リーザに手を掴まれて、赤い薬を塗ってもらった。
「うぎゃー!!」
すっげー痛い!それにめちゃくちゃ浸みるし痛いー!
あれ?でも塗った瞬間だけ。段々と染みたのもビリビリと痛かったのが引いて行く。
「あれ、リーザ不思議な薬だね。でも反対の手も塗らなきゃダメ?」
「はい」
微笑むリーザがサディストに見える。




