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ハーフエルフの父  作者: タマツ 左衛門


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トキヒコ、エルフの里国を行く 食堂に寄る

トゥクルトッドドゥーはゆっくりと歩を進めてくれている。

ゆっくりなので揺れは少ないが、『前後の揺れに合わせるように体重移動を行います。トゥクルトッドドゥーの動きに合わせましょう』とリーザの指導を受けた。


合わせて、初めはゆったりとした姿勢で良いとの事。前後の体重移動を心掛けて大分慣れて来た。

「トキヒコさん、次はスキップの様な速さに移りますよ」

リーザとサーシャインは少しスピードを上げた。乗馬で言うトコロの速足はやあし)で、上下の揺れも加わった。ヅリュースもサーシャインを追う形でスピードを上げた。

私は前後の体重移動に上下の動きも加え、伝わる動きにタイミングを合わせ、体全体もゆったり感からの体勢を上がったスピードに合わすように整えた。


「トキヒコさん!バッチリですね!」

振り向いたリーザがそう言うと、スピードがもう一段階上がった。

二頭のトゥクルトッドドゥーは駆け足に移った。

先程よりも前後の揺れが大きくなったが、タイミングが上手く取れていたので私自身もスムーズに上がったスピードに合わせられた。

時速にすると40Km/hぐらい出ているんじゃないか!

リーザが振り向き、私とヅリュースを確認してくれる。

ヅリュースがトゥクルトッドドゥーに乗り慣れていない私に気遣ってくれているのを感じる。

トゥクルトッドドウーの上に乗る目線は高く、少し恐さも有るが、バイクとは違う今まで感じた事の無い、味わった事の無い爽快感が上回る。


『人馬一体』には程遠いが、ヅリュースから伝わる気遣いが安心感に変わって行く。

正に風になった様で気持ちがいい!

だがこの流れでギャロップ(全速力で走る)まで移られたら、このままトゥクルトッドドウーに乗り続けられる自信は無い。多分振り落とされる、今が精一杯だ。

チラチラと後ろを振り向き私の状態を確認してくれているリーザも、察してくれているみたいだ。

爽快感はそのままに、でも手綱を掴みヅリュースの背に乗る私は必死にリーザとサーシャインの後ろを追った。


丘を越え、森を抜け、草原に出るとその先に湖が見えて来た。

「トキヒコさん、湖のほとりまで行きましょう!このまま大丈夫ですね?!」

サムズアップして答えたい所だが、しっかりと握り締めた手綱を片手であろうとも離す分けには行かない。離せない。

「行こう、リーザ!」

私は大声で答えて、リーザとサーシャインの後を必死に追った。

ヅリュースも私に気を遣いつつも、駆ける速度を一段上げた。

途中、何人かのエルフがこちらに手を振っていたのが見えたが、手を振って応えられ無かった。

リーザは私とは違い、手を振るエルフ達に手を挙げ応えていた。まさに『人馬一体』である。


 湖畔に着くと、私はヅリュースに降ろしてもらった。

 そしてそのまま、その場で大の字になって倒れた。心地良い疲れがやって来た。

 足も腰も両腕も、ガクガクだ。


 リーザもサーシャインもヅリュースも、息ひとつ乱れていない。私だけが休憩を申し入れた形だ。

 息荒く、倒れている私の隣にリーザが腰を降ろした。

「トキヒコさん、トゥクルトッドドゥーの初乗りはどうでしたか?」

 リーザが微笑んでいる。

「いやぁ〜、リーザ凛々しくてカッコ良かった。それにサーシャインとヅリュース、凄く綺麗だ。走る様もカッコイイ!すっかりトゥクルトッドドゥーが好きになったよ!」

 少し離れていたサーシャインとヅリュースに聞こえたのか、二頭は私の近くに寄ると頭を下げてクチバシで優しく突いて来た。

 私も彼らの行為に応えるようにそれぞれのクチバシを撫ぜてやった。

「トキヒコさん、トゥクルトッドドゥーとすごく仲良しになられましたね」

「だってこいつら綺麗で賢くて、いや賢いだけでは済まされない。しっかりとした知性も有るし何か頼もしい。こっちが仲良くなりたいよ」

 本当に凄い生き物だ。意思が伝わるなんて、驚きだ!

 いや、動物に私の意思や意識が伝わるなんて、感動しているのが正直な所。夢の様だ!

 こうなって来ると、彼らの全力疾走をする姿が見てみたくなる。


「トキヒコさん、あちらの建物に赴き、何か食べる物を頂きましょう」

 そう言ってリーザが指し示した先に、一軒家に相当する立派な木造二階建ての建物が有る。遠目で見て、ログハウスっぽいかな。

「お腹減ってません?それと何か飲み物も頂きましょう」

 リーザそう言って立ち上がると、私が起きるの手を引き助けてくれた。


 少し休憩させてもらったので、呼吸は整ったが、ちょっとお尻がヒリヒリする。

 駆け足中は自然と中腰の姿勢になったのだが、お尻も擦ってたのかなぁ。

「ありゃ?」

 私は起き上がり立ち上がったが、足が少しガクガクと来た。日頃の運動不足がたたられる。

 それでも何とか立ち上がり、屈伸をしてガクガクの足を治めた。

 先に見える湖畔の横の建物は、トゥクルトッドドゥーに乗ってまで行く程の距離でも無いので、リーザと二頭のトゥクルトッドドゥーと歩いてあの建物に向かう事とした。


「それにしても、トゥクルトッドドゥーはスゴイ!たぶん疾走するゾウに乗ったらあんな感じなのかな」

 野生のゾウは怒り狂って走ると、時速40~60Km/h以上に達する事が有ると、以前テレビで観た事があった。

「リーザ、トゥクルトッドドゥーの全力疾走ってどれぐらい速いの?」

 なんか抽象的な質問になっちゃたが。

「そうですね~今の駆け足の倍ぐらいは出ますね。時速に換算しますと100Km/hにはなるのでしょうか」

 時速100Km/h!車やバイクならいざ知らず、動物の背に乗った状態で、当然先程以上に前後と上下の揺れ幅や強さが増すだろう、人間が掴まっていられる速度では無いな。

「疾走するトゥクルトッドドゥーは『草原の疾風』と呼ばれています。しかしトゥクルトッドドゥー同士の戦いを見た者は『草原の嵐』と呼んでます」

『草原の嵐』、、、トゥクルトッドドゥーの第一印象は「獰猛さ」を感じたが、この体躯で戦い合ったらやはり凄まじい事となるのは想像が付く。

 でも、今私たちの横に並ぶ二頭のトゥクルトッドドゥーは従順で大人しく、何より綺麗で可愛い。

 しかし、野生に身を置くトゥクルトッドドゥー達は、いざ自身やプライド(縄張り)、家族を守る為ならば、嵐と変わるのだろう。巻き込まれる様な事があったら大変だ。


 程なくしてログハウスを思わす建物に到着した。

 建物全体は木を削り出したり、丸太を活かしたままの木造二階建て家屋だ。

「リーザ、あれは?」

 私が指さしたのは、軒下にぶら下がる木製の看板。

 木彫りのレリーフには、魚と何か動物みたいなのが彫られている。

「この建物の目印となりまする。」

「魚と動物だから、食堂?」リーザも『食べる物を頂きましょう』と言っていたし。


「流石です、トキヒコさん!」

 いやきやいや、充分過ぎるヒントを貰っていたし。


 この建物は、我々人間社会の一般住宅の2件程の大きさが有り、1階は外向きにオープンされた部分も有り、正に食堂だ。

 中には、長テーブルと丸テーブル、木製のイスが多く配置されていて、すごく大きなオープンカフェ。一度に100人以上は入れるだろう。

 建物の向こう側の外に向かっても長机やイスが並び、多くのエルフ達がくつろぐように集まっている。


「リーザ、なんか多くのエルフ達が居るよ」

 多くのエルフ達を一度に見た私は何やら物怖じしてしまった。

「うふふ、大丈夫ですよ」

 リーザはトゥクルトッドドゥーのサーシャインとヅリュースに何か話し掛け、二頭は寄り添うように周囲の草をついばんだり、建物の横に備わっている桶の水を飲んだ。

 私達が店内に居る間、建物の外で『お留守番』をしてくれるそうだ。


 リーザが店内(?)に入ると、わっと多くのエルフ達が席を立ち、リーザに近寄って来た。

 私は多くのエルフ達と会うための、気持ちの整理も身構えも、何も準備が整っていないのにぃ〜!


 集まって来たエルフ達は皆、無表情では無く、少し和らいだ表情を見せていた。

 リーザは皆に向かって、一言二言(エルフ語で)話すと私に振り向いた。

 その場に集まった20人程のエルフ達の視線が一斉に私に注がれた。

 ああ、たぶん紹介されたんだな。


「え~あ~、私はスルガ トキヒコと言います。人間と言う、ちょっと離れた場所から来ました。私は皆さんの言葉が分かりませんし、皆さんの気持ちや思いも読み取れません。ですがよろしく」

 ペコリと頭を下げた。

 その場に居合わせたエルフ達は『うんうん』『おうおう』と言うような返事(?)をしている。が反応が良く分からないなぁ。

「トキヒコさん、奥のテーブルに行きましょう」

 リーザに手を引かれ、エルフ達から注がれる視線を感じながら奥の丸テーブルにリーザと向かい合う形で席に着いた。

 すかさず、給仕と思われる男エルフがやって来た。


「トキヒコさん、お魚の焼き具合は強めですね」

「うん」

 出されるのは焼き魚か。私は半生焼きの魚が少し苦手なので、リーザが魚を焼く時もほど良く焼いてもらっている。

 リーザが何やら話し続けると、給仕の方は奥へと引っ込んで行った。

 でも、

「リーザ、お金持って来て無いよ」

 エルフの里国に『越える』時、金属の類はなるべく避けましょうと、リーザに言われていたので、小銭入れに限らず、財布もまるっと置いて来た。


 あっと、リーザも言い掛けたけど、

「私も持って来てません。でもトキヒコさん、エルフの里国ではお金は必要有りません。お金、貨幣を用いた社会は有りませんから」

 貨幣が無い社会って、想像着かない。

 いや、お金に代わる何か対価を求められるのかなぁ〜?

 でも、何か食事を注文しちゃったようなんだけど。


「え~では支払いはどうやって?女王様のツケで?」

 リーザは微笑んだ。

「トキヒコさん、ここ、この食堂ですね、誰でも何時でも好きなだけ自由にお食事を頂けます」

「えー!なんで?!」

 支払いフリー食堂?あったら幸せ。

「私達エルフの里国の者はお金を用いない、貨幣社会が無いと言いました。それは、誰かが誰かの為に活動し、働いているからです」

 対価は労働かぁ。今まだ、腕も腰も膝もガクガクなんですけど。

「共産主義、なの?」

「う~ん、トキヒコさんの世界の社会主義が近いですかね」

 でも社会主義は能力の差による報酬差も出るんじゃ無かったかなぁ

「そうですね、この食堂を例に上げると適当かも知れません」

 リーザはココ、その食堂を使って、エルフの里国の社会の一部分を話してくれる。


「私達は、皆それぞれ何かの活動をしてます。この食堂であれば料理を作る者、食材を作る者、採る者、運ぶ者。誰かが行った事は誰かに繋がり、仮にこの食堂に直接関わっていない者の行動や行為も何処かで誰かと繋がっています。ですから、何処かで誰かが行った事はそれ以外の事に対する対価となるのです」

 まあそれは、私達人間の現代社会でも同じなんだが。働いた『対価』がお金であって、お金で別の対価相当を代用しているんだが。


「でもさリーザ、皆が皆、働き者で無かったり、個々によりその成果や量の違いも出るだろうし、病気や怪我で対価分を生み出せ無いエルフも居るんじやない?」

 たとえエルフが皆真面目で勤勉であったとしても、個人による仕事の差は出るだろう。

「トキヒコさんが思われる事は当然有ります。今からお魚料理を出してもらいますが、その食材を何時も狩る者が休んだら、もしくは釣果が思う程揚がらなかったら?」

 そんな事態は起こるだろうな。

「そのような時は別の者が手を出します。誰かが出来ない、誰も行えない、では誰が出来る?話し合い相談します。私達の里国は全体としてひとつのコミュニティを形成してますので問題は里国周を回ります。者も物も里国周を回り、繋がってます」

 電気や電波の無い世界で情報を回すって、『術』かな?


「そして何より私達には我が王が居ます。私達が解決出来ない事は我が王が解決して下さります。」

 エルフの里国の王、女王ユーカナーサリー。見た目はうら若い少女の様にも見えるのだけど、そんな信頼を得ているの。特別な力、膨大な魔力をお持ちと伺ってはいるけど、、、流石、王成る所以か。

 社会主義というけど、やっぱもう一歩進んだ共産主義的だな。

 リーザの話しを聞いていると、飲み物が届いた。


 木をくりぬいて作られた木製のコップに水が入っている。ちょっと大きい、ビールジョッキぐらい有る。

 両手抱える様に、早速一口

「美味い!」

 水は水だ。でも透き通った美味さ、、、味の表現としてはイマイチ変か。でもそんな感じ。

 何も混ぜられていない、匂いも、、、匂いは何か有るような無いような、まあ問題無し。


 水が『美味しい!』と思った事は多々有る。部活でヘロヘロになったまま、蛇口を咥え込む様に飲んだ水。友人と彼の里の山奥を散策した時に飲んだ湧き水。

 確かにトゥクルトッドドウーに乗り走った疲れは有ったにしろ、最高の水だ。

「リーザ、この水はどうしたの?美味しい」

 エルフの里国で出して頂く飲み物は、ハーブティーみたいなモノが多い。

 ここで出されるハーブティーは消毒作用や滋養強壮、体調管理に適しているそうなんだが、私苦手。


 リーザはこの食堂の前に広がる湖を指した。

「この湖はジエジオラ湖と言います。私達エルフ全ての水源と言っても良いでしょう。ここの水をろ過して飲水などに使っています。この食堂のろ過機には一部消毒の効果を持つ薬草相当の草を混ぜ込んでいて、トキヒコさんは、その味か匂いを少し感じられたかも知れませんね」

 私は決してグルメでは無く、質より量を選んじゃうタイプ。

 だけど不思議な美味しさを感じた。

「ひとつ付け加えますと、以前トキヒコさんと行きました湖の族長のいる集落はここの対岸、反対側になります。かと言って呼び掛けてはいけませんよ、湖を渡って来てしまいますから」

 と微笑んだ。

 そう、確か湖の族長は『渡る者』の呼称を持っていたな。

 この『渡る』って、湖を渡る事だったのか。


おっ、魚を焼いているのだろうか?でも焼き魚とは別の何とも香ばしいのが匂って来た。

すると大きな木製のお皿(まな板かよ!)とこれまた木製の大きなボールがテーブルに運ばれた。

木製のお皿に乗せられた焼き魚は割かれたお腹の中に何やらゴロゴロと入って要るのが分かる。木製ボールの方はサラダだ。

「わー、リーザ、焼き魚って言ってたけど全然想像してたのと違う、何か立派な料理だよ!お腹の中は何?」

焼き魚って聞いていたので、もっとシンプルな鮎みたいに姿焼きが出て来ると思った。

「ええ、ちょっと無理を言って少し豪華というか特別なのを頼みました。折角トキヒコさんがこちらで食事を採られるのですから、調理人も任せろと、腕を振るうと同意してくれました」

うわぁ、感激だなぁ。

「では早速いただきます!」

と、思ったのだが、食べる道具がお好み焼きのヘラみたいなのが大きいのと小さいのが二つ。こちらは木製では無く、何かの石か動物の骨から作り出したみたいだ。

「リーザ、これどうやって食べるの?」

このヘラをどう使う?

「ああ、トキヒコさん、コレはこうします」

リーザは大きなヘラを右手に持ち魚を押さえると、左手に持つ小さなヘラを器用に使い、魚の身を取った。

私もリーザを見よう見まねでトライしたが、ちょっと上手く行かない。

なんかご馳走を前に四苦八苦だよ。

そんな私を見たリーザが微笑んでいる。

「トキヒコさん、少しお待ち下さい。席を立つ事をお許し下さい」

リーザはそう言うと席を立ち、厨房の方、店の裏手に回った。


程なくして戻って来たリーザは2本の細い棒を持って席に戻ると、腰のあたりから小型の短剣ナイフを取り出した。

「トキヒコさん、お箸を準備しますね」

リーザは細い棒にナイフの刃を当てると、先細になるように削り出した。

先細に削り出すと、今度はナイフの刃を立ててカンナ掛けをし、お箸を仕上げた。

最後にお箸を卓上に置き、垂直にナイフの刃を立て上から圧を掛けながらコロコロと転がし、その付いた溝に沿って箸を切り折り、長さを調整した。切断面を再びカンナ掛けして1本の箸を完成させた。

2本目も同様の工程を短時間で行い、見事なお箸が一膳、完成した。

「ありがとう」

渡されたお箸はとても硬い木を使ってるようだ。それをいとも簡単に削り出してしまったリーザの持つ技術に感心した。そして持ち易く使い易かった。


改めて調理された焼き魚に箸を伸ばす。

ホクホクとして美味しい。お腹の中に詰め込まれている何かの味もしみ込んでいるようだ。

「トキヒコさん、魚の中に入れられている物ですが、各種のスパイスと考えて下さい。それと殺菌作用のある果物の実と種も入っています。種は食べなくてもいいですよ、歯が折れてしまうかも知れませんので」

ニンニクとかなのかな。でもスパイスと言われた中身は変な臭みも無いし。

黒くて丸く豆粒大のスパイスの一種と思われる物を単体でパクッと口に入れ、カリッと噛んだ。

「ぐう〜〜〜ガガガ、がぁあぁ~ヒィィィ〜」

苦くて辛くて酸っぱい!死ぬ、、、。

私は慌てて木製のジョッキを抱えた。

リーザは慌てて席を立つと、大声で厨房に向かって何か大声で声を掛けた。

「ぐわぁ、はあはぁはぁ、、、何かえらいモノを食べちゃたよ」

死ぬかと思った。

「トキヒコさんが今、口にしたのはガガーザンの種です!」

ガガーザン。強烈過ぎる!口が取れるかと思った凄い味だった。

「トキヒコさん!ご無事ですか!」

「ええ、ご無事です」

気を失うかと思った。

「良かったです。何よりもご無事で。流石です!私は『術』にてトキヒコさんをお救いすべく、体制は整えましたが」

何が流石?お救い?

「ガガーザンは大変珍しく、なかなか見つからない希少種の果物です。希に我が王に出される料理に使われます。どうやら料理を作った者は相当に特別な対応をして下されたようです。この種の中身はトキヒコさんが味わった通り。ですがその表面は中身に反して程よく甘く、良い香りを食材に与えます。残念ながら、私に出された料理には入っておりません」

さっき確かに種は食べなくても良いと言われたが、どれが種なのかの確認はしなかったよ、とほほ。

「でもですね」

「はい」

「私達エルフがガガーザンの種を食べますと、死に至らしめるのでは無いかと言われております。それぐらいの刺激が有るそうです」

なにそれ、恐っわぁ~、いや本当死ぬかと思ったよ。耐性があったのかなぁ?鈍い人間で良かった?

「リーザそれ大袈裟じやない?ガガーザンが乱獲されないようにとか、一人占めされないようにとか、、、」

「いえ、我が王は実践し、大変な目に合ったと、、、」

何、女王様チャレンジャーか!

「でも女王様、お亡くなりにはなってないよね」

「ええ、ですがご本人曰く『死ぬ目に合った』と、仰ってましたので」

やっぱ、チャレンジャーだな。流石は王!


リーザがさっき声を掛けたからだろう、木製ジョッキを両手に持った男エルフがやって来た。

空いている席にドスンと座ると、音を出さずに優しく木製ジョッキをテーブルに置いた。

「トキヒコさん、この魚料理を作った者です」

男エルフはリーザと一言二言会話を交わす。

「料理のお味はどうかと聞いております」

この男エルフが料理人か!大きな体型でゴツイ手足している。

リーザが一緒で無かったら、近付かないタイプかも。

「凄く美味しい、どちらかと言うと私は肉派なんだけど、初めて体験する味も有るし、魚料理でこんなに美味しく思ったのは初めてかも知れない!」

まあ、ガガーザンの種を食べちゃって、死にそうになったけどね。

今魚料理を頂いている感想を率直に、サムズアップ(親指を上げる)も付け加えた。

料理人のエルフに私はの気持ちは伝わったみたいで、喜んでいるみたいだ。でも、サムズアップの仕草には困惑気味。

「リーザ、これは凄く満足している時や、相手を讃える時の動作だと伝えて」

リーザが伝えた事により料理人エルフの困惑も解けたみたい。その証拠に彼も私にサムズアップして来た。


しかし彼の困惑はもうひとつあった。

私が手にしているお箸である。

これもリーザに説明してもらった。私の世界、日本の食文化であると。

私はお箸を使って、小骨を摘まんだり、鱗を剥がしたりしてお箸の使い方を見せてみた。

この動作を見た料理人エルフは身を乗り出して来て、お箸を求めて来た。

私はリーザに促され、彼にお箸を渡した。

彼はお箸を手にするとまじまじと眺め、どう持つ物なのか考えを巡らしている。

私は席を立ち、彼の後ろに立つと背後から手を回しお箸の持ち方を教えた。

そして頂いている魚料理が乗った木製のお皿を彼の前に引き寄せた。

彼は私に一度確認の意味で振り向き、魚料理を手にしたお箸でつついた。でも、魚の身にしろ骨であっても上手く摘まむ事は出来なかった。

大柄でゴツイ男が(彼の体格からすると)小さなお箸で魚料理をつつき、何度も何度も掴み損ねる姿が微笑ましく、声を出して笑ってしまった。

彼も自分の行為に照れ笑いしている。

そんなやり取りをしていると、いつの間にか多くのエルフ達が私達が座るテーブルに集まっていた。


「皆はトキヒコさんに凄く興味を持っておりましたが、何かのきっかけが欲しかったのでしょう」

私は木製ボールのサラダを手掴みでバリボリと食べながら、彼らを見守った。

集まったエルフ達は順番にお箸を使う事にトライしていた。しかしなかなか上手く扱える者は現れなかった。

小さな歓声が上がった。が、無情にもポロリと摘まみ上げた魚の小骨は落ちてしまい、小さな落胆のため息となった。

食事を終えた私は、リーザの作ってくれたこのお箸が気に入ったので持ち帰ろうとしたが、エルフ達はどうしても置いて行けと願い出た。

「トキヒコさん、また作りましょう。それよりもトキヒコさんが気に入って下さり嬉しいです」

エルフの食器が扱えなかった私に、機転を効かしてくれたリーザに感謝だ。何よりそれがきっかけでエルフ達との距離が少しでも近付けた気がするのは、大きな収穫だ。

私とリーザとのやり取りを聞いていたエルフは日本語を片言で話してくれたし、次はいつ来るのかと迫られた。




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