女王ユーカナーサリーのお仕事
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーのわが家への訪問は頻繁にある。
これは、リーザが妊娠〜さくらの誕生〜さくらの生育に関し、女王様のお力添えで私達を見守って下さっている(実際に魔力を行使して、さくらの成長に手助け頂いている)一環だ。
でも、エルフの里国を出て、その玉座を空けちゃっててもいいのかなぁと思う事もしばしば。
今、リーザとさくらは揃って自転車で夕飯の買い物に出掛けた。
私と女王様は留守番だ。
こんな風に女王様と二人っきりになると(二人っきりにならなくても)、殆ど何かのゲームで対決している。
が、ほぼ何時も私が負けている。
女王様とボードゲーム系をすると、説明がてらの1回目は勝てるのだが、女王様がルールを覚えた以降はさっぱりだ。
将棋、チェス、オセロなんかはその差が歴然と現れる。
カードバトルでは、山に残っているカードを記憶しちゃってるし、カードの僅かな傷や汚れなどカードが持つ『癖』で判別しちゃうし、術を使われたら、カードなんて透かして見えるだろう。トランプもしかり。
心理戦では、相手の思考を読んだり(一応、我が家(人間社会)に来た時は人の頭の中を覗く(エルフであるなら聞きに行く)事を禁止して頂いているが)されたら、手の打ちようが無い。(思考を読まれるのを逆手に取る事も有るが。)
はっ、もしかしてサイコロなんかは術で出目を操作しているのでは!?
それと、、、負けず嫌い。
負けず嫌いな上に、圧倒的な勝利を望む。タチが悪い。
しかし、私もゲームや遊びで誰かに負ける事は望まない。常に勝ちを目指す、、、方。
だから暇な時、時間が空いた時は花の王、ユーカナーサリーを負かせるゲームを探したり、考えたりしている。
しかしなかなか『コレなら勝てる』と言ったモノに出会わないし、思いつかない。
なんか、悔しい。
そして今日は、トランプのスピードを行ったが、、、スピードはトランプの場札に出た台札に数字がつながるカード(次の数字か手前の数字)をどんどん上に重ねて行く。早いもの勝ちだから判断力と反応を働かせれば、、、ワンチャン有りか。
あっさりと負けた。
「カッカッカッ、我の勝利じゃが、しかしトキヒコ殿の瞬間的な判断能力は早いのぉ」
「でも負けました。それもあっさりと」
やっぱ負けるのは悔しい。
「しかし中々じゃな。瞬間的な判断は早く、我を越えたとしても我は動作で貴公を上回れるからの」
「まあ、早い判断と言っても『勘』も働かせてますからね」
正直、勘を頼りに出たトコ勝負的な形で挑む事も有る。
「その『勘』じゃがの、トキヒコ殿、エルフはな人間のように直感や第六感と言われるモノが働かん。働きにくいのじゃ。どうしてもの、我らエルフの思考はな直感も働くが、思考を巡らす順番がの、どうやら観察から入ってしまう」
へぇ、勘が働きにくい、、、初耳だな。
エルフは人間とは判断するシステムの順番が逆なのかも知れないな。
「目の前に有る者、事、物に対して観察し解析しそれから答えや判断を導き出そうとするものが先に来る。これはエルフの性質とも言え、常に己が見聞きした事を先ず読み解こうとする傾向じゃの。感覚より事実を優先してしまうのじゃ」
そんなプロセスで物事を考え、判断していたとしても、その回転スピードは人間では真似出来ませんが。
「人間は『勘』が働くと言うがの、その『勘』は一体何処から来るのじゃろう?」
まあ、確かに何処からでしょう?
「そもそもは脳内のメカニズムから導き出される事じゃろうが、自身が経験した積み重ねの中から導き出すと言う者もおるし、天から〜神や祖先の霊が〜知らせるなどオカルトの要素を説く者もおる」
ホント、何故『勘』が働くのか、発生するのか、考えた事も無かった。
改めて考え無い程、普通の感覚だからなぁ
「また、対峙した物事について考え、判断を下すより先に『勘』を働かし答えを出す事は可能と聞く」
「いずれにしても人間の脳内で働いている事じゃろうが、不思議な現象じゃな」
別段、思いもしなかった。
「でもユーカナーサリー、私達人間の『勘』は常に正しい判断を下すとは限りませんよ。想像と予測、そして判断。不確定な要素だけですから、勘を頼りにして失敗した事例は山ほど有るでしょうし、直感的に判断した結果の半分以上は失敗に繋がってるでしょうね」
『当てずっぽう』も一種の『勘』だよな。
「それでもな、『勘』を頼りに優先して選択し、行った事全てが間違えでは無かったろう。思考を巡らし判断をするより早く正しい判断となった事もあろうぞ」
まあ確かに。確率は低くても自分が瞬間的に思った事で判断する事は意外に多いかも知れないな。
あ〜女王様、そんなに考察しないで〜『勘』が適当やいい加減と同意の時もありますので。
でも、勘を頼りにしても、エルフの女王様にゲームで勝てないのは変わらない。
「さてトキヒコ殿、次は何で我に挑む気じゃ」
「ユーカナーサリー、何やっても強いもん」
少しムクれた。
「カッカッカッ、当たり前じゃ、我は王なるからな」
うーん、何か、、?、新聞のサンデー版が目に入った。(おまけ的な紙面でパズルとかクイズ等が載っている)
あれ、コレなら意外と行けるかも。
私は紙面の中から、クロスワードパズルを選んだ。
エルフの女王は日本語を学び(独学で私の為に)、我が家に来た時はインターネットサーフィンを行なったりする。
知識や情報を得る姿は正に貪欲で、その姿を見せられるこちらの頭がパンクしそうなぐらい、短時間で多くの事を頭に詰め込んでいる様に見える。
実際に何事にも理解は早く、記憶力、記憶する量は底知れない。
確かに、漢字や慣用句なんかは私の何百倍も何千倍もの知識を持ち合わしているだろう。
日本語に限らず、世界の組織や体系、言語、世界の情勢なんかも我が家に来た都度仕入れているし。
辞書や百科事典もその頭の中に入っているのだろう。
でも実は日本語の『ことわざ』が苦手みたいだ。
ことわざや名言は日常生活の中で活用される事が多く、元々人生や社会の矛盾、ユーモアセンス、人情の機敏さを持ち合わしている事柄であり、何と言っても人間社会の歴史の中で発生した言葉である。
つまり、人間とエルフの歴史背景や生活習慣の違いからユーカナーサリー自身がことわざを当てはめて使う機会が無いから、『ことわざが苦手』だと推測される。
そしてこの新聞のクロスワードパズルは、私も数回やった事は有るが、物や動物、建物の名前から、ことわざ、過去の出来事、流行、今現在耳にするようになった事など、バラエティーに富んでおり、その上ヒネリも有ったりする。
決して難しくは無いが、実際にココで暮らしていない、この社会で日常会話を行わないユーカナーサリーが自身の持つ知識だけで解くとなると、いささか難するかもな。
「ユーカナーサリー、ちょっとしたゲームをしましょう」
「望むところじゃ」
「クロスワードパズルって知ってます?」
「おう。空いたスペース、コマにヒントから導き出した言葉を文字として埋めるモノじゃな」
うむ、ご存知であったか。
「では、コレをやりましょう」
私は新聞のサンデー版を広げた。
「基本、日本語を埋めます。どちらが早く解くかの競争です」
「ほう、知識面で我に望むか。片腹痛いわい」
そんな言い回しも知っているのか、、、やっぱ難敵だ。
「ルールとしては、インターネット検索したり辞書もダメです。自分の知識で答える。あ、私の頭を覗くのもNGですよ」
「調べる事が出来んとなると、トキヒコ殿が不利になるのでは無いか」
女王様はニヤリと挑発して来た。
「まあ不利かも知れませんが、ヒントの中に現代社会の時事問題も有ったりしたらどうです?」
そう、今の今の事が問題になっていたら、そこは私が有利でしょう。
「まあ良い。始めるかな」
紙面は1枚しか無いので、問題に対して左右からお互い覗き込む形となった。
そして、あっさりと負けた。
「全てを埋める必要は無いからの。そもそも問題は太マスに入った文字を並び変えて何を問うとる事じゃから、連想や想定出来た段階でゴールじゃ!」
合ってる。お世辞に文字が上手とは言い難いが、きちんと解答が書かれている。
答えは、今流行っている現象の事だったんだけど、ユーカナーサリー知ってたの!?
あー、こういうのって、ヒント全問解いて、全てのマスを埋める事に注力しちゃうのよね。
「はい、私の負けです。負けました」
答えは期待していた今の今の事だったのになぁ。有利なはずだったのに。
「勝者に与えられる褒美はの、アイスじゃ」
あ、勝手に決めた。私はトボトボと冷蔵庫へと向かった。
冷凍室の扉を開けると、、、アイスは無かった。
「ユーカナーサリー、残念なお知らせが、、、アイス無いです」
女王ユーカナーサリーがガバっと体を起こす。
「何ぞ!アイスは切らさぬ事では無かったのか!」
いや、そんなに怒らなくても。
女王ユーカナーサリーの周囲の空間がメラメラと歪んで見える。メッチャ怒ってる。
「あー、申し訳ございません。如何いたしましょう、、、あ、買いに行きます?ご一緒に」
女王様を買い出しに誘ってみた。
「んー、うむ、そうじゃのう。一度ぐらいは買い物成る事へ行ってみるかの」
おお、怒りが少し収まってくれたか。冷めやすい?
ただ、真紅で跳ね上がるギミック付きの上着にロングスカートの出で立ちはどうだろう?
コスプレみたいだもんなぁ。
「トキヒコ殿、我の格好の事を気にしておるか。これならどうじゃ?」
女王ユーカナーサリーは一瞬にして、普通(?)の服に着替えた。
「え?えぇ?」
ユーカナーサリーは何か得意顔だ。
「これはのぅ、衣服を着替えたんじゃないんじゃよ」
え??
「お主からこう見えるように術を掛けた」
そう言い終わると、元のいつもの服装に戻った。
「着替えられて無いんですか?」
「そうじゃ。これならどうじゃ」
今度はテーブルの上に有る、さくらが置きっ放しの雑誌の裏表紙の広告モデルの服装になった。
「す、すごい」
「これはの、トキヒコ殿に術を掛けたようなもんじゃ。実際には我を見た者にこう見せさせる術じゃな」
わ、凄い、すごい。
ちょっと変に興味が沸いた。
先程のテーブル上にあるさくらの雑誌をパラパラとめくり、可愛らしい服のコーディネートをしているモデルを女王ユーカナーサリーに見せた。
「ユーカナーサリー、これはどうでしょう」
難なく、瞬く間に雑誌のモデルのコーディネート(ロリータ)姿にユーカナーサリーがなった。
「か、可愛いい〜」
私がそう言うとユーカナーサリーはあからさまに照れた。
「なんじゃお主、こういった格好の女子が好きか」
「いえいえ、ユーカナーサリー似合ってます。可愛いく似合ってます」
「そうか」
女王様、満更でないな。
「では、この出で立ちとするかの」
ありゃ、やっぱコスプレじゃん。これはこれで変に目立ってしまうが、まあいいか。
「行きましょう」
因みに私は、ジャージ姿だが。
おかげ様で徒歩で10分も掛からぬ所にコンビニが出来た。
天気も良く、失礼ながら私は散歩がてら、クロスワードパズルの勝利者のご褒美としてのアイスを買いに、ユーカナーサリーとコンビニまで歩いて行く事とした。
「のうトキヒコ殿、地球の重力は一定じゃな。惑星としての定義が安定している事は良い事じゃ」
いやもうちょっと普通の、日常会話を期待したんだが、視点と言うか意識が違い過ぎる。
前からご近所のご婦人が通る。
「こんにちは」
「こんにちは。あら?」
ご婦人、ユーカナーサリーをガン見して来た。
「親戚の娘が遊びに来てまして」
「あら、可愛らしいわ」
ふぅ〜上手く誤魔化せただろうか?
「、、、ど、どうもじゃ」
ユーカナーサリーはモニョモニョと消ええる声で答えた。
あれ、もしかして?私とさくら以外の人間と接するのは初めてか?
「これトキヒコ殿、余り人と話すで無い。我が窮するわ」
「いえ、普通の挨拶ですから。逆に挨拶が無いと不信に思われてしまいますよ」
「そ、そうか、、、そんなモノか」
この後は私の知る人も含めて、誰ともすれ違わずにコンビニに到着した。
「いらっしゃいませ」
店員さんが挨拶をして下さった。
「、、、ど、どうもじゃ、、、」
ユーカナーサリーは先程と同じ様な受け答えをやはり小声で交わした。
「ユーカナーサリー、この挨拶の返事は別段不要でも良いです」
「あ?分けが分からんじゃろ、先に申せ」
ユーカナーサリー、少し顔が赤らんでるか?
いくら頭脳明晰で知識が豊富であっても、生活習慣や日常の現象は実体験を伴った行動を経験しないと無理かな。
リーザの柔軟さが思い浮かんだ。
それも一瞬の事。店内に並ぶ商品を見て、ユーカナーサリー歓声を上げた(特にお菓子コーナー)。
「なんじゃぁ、ココは!凄い物が並んでおる!それも種々と言い、量と言い!」
変に興奮なされてる、こんな姿初めて。ああ〜リーザに見せたい!
少し跳ねるようにお菓子の並ぶ棚にへばり付いている。
その内に一つの小箱を手に取ると、箱を開封しちゃった。
「あっユーカナーサリー、ダメです」
「ん?」
ユーカナーサリーに悪気は無い。
「お金を払わないといけません」
「何お言う。我は王、、、」
そう、日本においてはエルフの王だとしても通用しないし。そもそも現代社会において、ユーカナーサリーは存在すらしないのかも知れない。
「、、、貨幣文化じゃな」
「そうです」
当然、理解はされていただろう。どうやら目の前に並ぶ多種多様なお菓子に、、、少しだけ、、、我を忘れてしまったようだ。
「すまぬな、トキヒコ殿」
「いえ、それより先程のクロスワードパズルの勝利者賞です。でも、アイスで無くて良かったのですか?」
「何!アイスはココ、この小売店の取り扱い商品群の中に有ると言うのか!?」
お菓子に目を奪われ過ぎ。
「ええ、あちらに行きましょう」
私はユーカナーサリーが少し開封してしまったお菓子を買い物カゴに入れ、店内を移動した。
「ま、まさかなトキヒコ殿!ここに並んでおるのは全てアイスか!」
「はい、そのまさかです。飽食の時代に生きる私達の眼前には、いつもこの様な誘惑が満ち溢れています」
わが家の冷蔵庫の冷凍室を開けても、ユーカナーサリー用のアイスが2個か3個有るのが最大だろうから、コンビニ、まあお店で並べられているアイスの商品群の種類や数量を見たら驚くかもな。
でもその驚き方が極端で失礼ながら微笑ましい。
「かー参ったのぉ、トキヒコ殿、全部持って帰るぞ!」
また無茶な。
「いえいえいえユーカナーサリー、全部は無理です。そこまでのお金を持って来てません」
「な、なんと。いや仕方あるまい、貨幣文化の弊害じゃな」
いえ、単に私が貧乏ったれですので。
「ではそうですねぇ〜2つ選んで下さい」
あ、帰り道で溶けちゃうかな。
「う〜む、これだけのモノを目の前にして2個とは。渋いのぉ〜トキヒコ殿」
「さっき一つお菓子開けちゃったので。それよりユーカナーサリー、術でアイスを溶かさずに持ち帰る事出来ます?」
「まあ造作も無いが」
それは良かった。
「では改めて選んで下さい」
「うむむ、、、」
冷凍庫のアイスとユーカナーサリーのにらめっこが始まる。
「、、、トキヒコ殿、、、」
「はい、どうされました?」
ユーカナーサリー、決められないのかな。
「、、、無理じゃ、、、無理じゃ、我には決めれん、、、」
「はい?」
ユーカナーサリー、冷や汗でも流しそうな困惑と諦めの顔でアイスとにらめっこが続いている。
どうしたものかなぁ。
このまま様子を見ていても埒が明きそうに無い。
私は思い切って冷凍庫のガラス扉を開けると、チョコレート味とバニラ・ストロベリー味のカップアイスを取り出した。
「あああぁ、、、」
2つのアイスを手にした私に対し、何故か泣きそうな顔をしたユーカナーサリーの目が追って来た。
「ユーカナーサリー、今日はコレとコレにしましょう。他の物は別の機会に取っておきましょう。楽しみを先送りする事も大事ですよ」
諦めと言うか、今日はこれで納得して欲しいのだが。
「お、おう。そうじゃな、トキヒコ殿にはゲームでは負けやせんし。なにせ我は王故に納められた物に対して感謝はすれども、不満を申す事は無いでな」
表情が戻って来た。
自身で選択が出来なかった事を恥じながらも、エルフの王としての威厳を取り戻そうとしているようにしか見えない。
私は2つのアイスも買い物カゴに入れ、お菓子コーナーに再び向かった。
「ユーカナーサリー、特別ですよ、お菓子を後2つ選びましょう。でも先程みたいにならない様にアドバイスをさせて下さい」
ユーカナーサリーの目が輝いたように見える。
「どうしたトキヒコ殿、我に気を使うか」
取り戻した王としての威厳を保ちつつも、お菓子を前に浮き足立っているのが分かる。
でもやはり2つのお菓子が決まらなくて、アイスが溶けちゃうので早々に決めましょうと言ったら術でアイスを凍らせた。
「ユーカナーサリー、そろそろ決めてもらいませんと日が暮れちゃいますよ」
「ほう、それは日本人の言い回しの一つじゃな。こういった場面で使うが吉か。生憎、我はこのお菓子選びに時間を惜しまんぞ」
いや、リーザとさくらが帰って来ちゃうよ。
「ユーカナーサリー、私は明日仕事が有りますし、リーザとさくらも買い物から帰って来ちゃいますよ」
「うむ、まあ仕方ないのぅ」
なんとか、クッキーとチョコパイを買い物に入れ、レジへ向かった。
ユーカナーサリーはレジ前では私の背後に隠れるように並んでいた。
会計を済ませ、コンビニを出ると
「トキヒコ殿、我の肩に手を当てよ」
「ユーカナーサリー、ここでの『移動』はダメです。人目も有りますし」
「何故じゃ」
「人間社会ではあり得ない現象だからです」
「トキヒコ殿が明日は仕事だと言うからの、すぐにでも戻るべきだと思ったのじゃが」
いえ、早く戻ってお菓子が食べたいのですね。
「はい、明日は仕事です。ところでユーカナーサリー、エルフの王のお仕事って何をされるのですか?」
ユーカナーサリーはその魔力でもって、エルフの里国にその先祖達によって作られた結界を維持し守ったり、里国全体を見守る為の結界を蜘蛛の巣状に覆っているとは聞いているが、具体的には何をしているのだろうか。
執務?王制だろうから全ての政治的な判断とか。
いつも机の上には書類が山高く積み上げられていて、、、
「トキヒコ殿、王の仕事か」
「はい」
「王なる我の務めはの」
「はい」
「特に無い」
「はい?」
「だってそうじゃろ。我らエルフには特に決まった決められた決まり事は無い。皆自由じゃ」
え?決め事が無い。法律やルールが無いって事?
「トキヒコ殿が今思った通りじゃ。では何故エルフの里国に決め事が無いのか。それは何故こちらの世は決め事ばかりなのか、その必要性を考えてみいよ」
法律やルールの必要性、、、それは決まりを守らない者が居るから。ルールがあった方がスムーズに事が運ぶから。
そもそも決まりなんて無く、他人に迷惑を掛ける者がいない、第三者に判断を委ねなくてはならないような争いが起きなかったら。ルールを決めなくとも、問題無く事態が進むのであれば、、、。
「そんな事って、可能なんでしょうか?」
いくらエルフと言えど、それぞれ個性を持ち、意見や想いの違いは有るだろう。
「先ずな、エルフはエルフを殺す為の道具を持たん」
我々人間の社会は、太古より相手を蹂躙し支配して来た、、、と思う。実際に殺傷能力を持つ武器は時代と共にその性能を上げ、如何に多くの人間を効率的に殺せるのかを競い進化させて来た。
「またな、エルフは『要求する者』『与える者』の両面を持ち合わした奇妙な生き物じゃ」
「ちょっと意味が分かりません」
「トキヒコ殿、決まりやルールの無い世界で、相手が持つ物を欲っしたら如何いたす?」
決まりやルールの無い世界、、、無法地帯と一緒かな?
「相手より自分の方が力が有れば、強ければ奪い取ると思います」
「まあ、そうじゃろう。我らエルフの場合はじゃな、先ず自分で探す、作るなどじゃな、なんとか己で手にする方法を行う。それが実現したとして、しかし満足が行かん。そこで相手に求める」
「求められても、自分が気に入っている物なら、相手に渡したくは無いでしょう」
何でも気に入られちゃったら、相手に渡したら自分が損だし、それこそ無一文になっちゃうよ。
「そこなんじゃな、我らの中に『奪う者』はおらん。そうして社会を形成して来たからの。だがの、たとえ相手から譲り受けたとしても、それは決して自分の物と考えられんのじゃ。『要求する者』は『与える者』となり、元の持ち主の元へ戻って行く。元の持ち主は『与える者』じゃ。両者が満たされる回答を二人して探すのがエルフじゃ」
「いつも私が解り易い言葉を選んで下さっているのは恐縮しますが、でもやはりイマイチ、私では理解が難しいです」
なんだろう、ニュアンスとしては何となく分かったような気がするが、エルフを理解出来るようになるには遠そうだなぁ
「でもユーカナーサリー、以前に私がプレゼントしたブローチは喜んで下さったではないですか」
何年か前にリーザにクリスマスプレゼントに贈ったスズランのブローチを見て、駄々っ子のように自分も欲しいって大騒ぎがあった。
「あれはな、個としての我に対して準備し与えられた物じゃ。人もエルフも自身に向けられた贈物はいっしょじゃ、お主も嬉しいじゃろ」
まあそうですが、自分という個人に向け誰かにプレゼントを貰ったのなら、不特定多数の中の一人として貰ったプレゼンとは感じる、得る嬉しさは違う、別だよな。
だからと言って、やっぱりエルフの『与える者』と与えられ貰った立場の違いが良く分からない。
「まあ感覚じゃからな。エルフと人間とでは、歩んで来た道も歴史も違う。違って良いのじゃ。であるからして我が王としての務めは特に無い。無いが、存在意義は有るぞ」
「教えて下さい」
「どうしたトキヒコ殿、我の玉座を狙っておるのか」
「いえいえ滅相もございません。単なるわたしの興味ですが、いけません?」
「トキヒコ殿は我に遠慮は不要じゃ。なんせ我はリーザの次なる伴侶なるからな」
「ユーカナーサリー、それ解除して下さいよ」
「さあな。それより王としての意義じゃが」
「はい、お願いします」
「我らエルフとて万能では無い。迷い悩み困る事は数多にある。その中でも、我が民達が出来ない事、行えない事を我が代行したり、導く立場じゃ。選択を促す時も有ろうぞ」
さっきアイスやお菓子をご自身で選べ無かったのに?
「ん?何か言いたげじゃが」
「いえ、ありがとうございます。折角お話しして下さったのに、私の理解度が追い付かず“何となく”程度でお恥ずかしいです。申し訳ございません」
「何を言う、良い良い。それよりもトキヒコ殿、食べ歩きの文化が有ると聞いとるぞ。このアイスをじゃな、食べ歩いても良かろうか?」
家まで我慢出来ないんだな。
「食べ歩き文化は、正直言って余りお行儀が良いとは言えませんが、外で歩きながら食べるのも美味しいし、楽しいから『文化』なんて言って、言い訳逃れしているだけです」
「そ、そうかのぉ〜」
「ユーカナーサリー、私は『食べ歩き文化』賛成ですよ」
ユーカナーサリーの顔がパアッと明るくなった。
「じゃろ!」
ユーカナーサリーはカップアイスをスプーンですくい、一口入れると何とも言えない素敵な笑顔を向けて来た。




