新婚旅行 リーザ海に行く 旅館
「リーザ、お風呂はどうする?」
今日は大浴場でも部屋風呂でもどっちでも入れる。両方でもいい!
「はい、実はですね、大浴場に見知らぬ人といっしょに入るとなると、少し勇気が要ります」
おや、何事にも物怖じしないリーザにしては珍しい。
「ちょっと何でしょう、恥ずかしいのでしょうか?」
おやおや、珍しい。
「う〜ん、でもさ、(日本人の)女性がどんな風にお風呂に入るのかの参考になるかもよ?」
「ん〜ですが、やはりちょっと何か、勇気でしょうか要りそうです」
まあ、今日は部屋風呂が有るしな。その為に宿探ししてこの旅館にしたんだし。
「リーザ、こういった旅館はちょっとした順番があってね」
「順番、ですか?」
「まあ大体だけど、チェックインして案内された部屋で少し休んで、風呂に入る。浴衣に着替えると夕飯の時間になって食事が部屋に届けられたり、食堂に行ったりするんだ」
まだ夕食までに時間があるから、お風呂には行けるな。
「リーザ、夕飯まで時間があるからお風呂に行こう。大浴場に入ってみようよ」
「そうですね、何事も挑戦、経験ですね」
浴衣は着ていくべきかな。
私の浴衣の着方は我流なので、内線電話を掛けて仲居さんを呼んだ。
程なくして仲居さんが来てくれた。
「お忙しい所すみません。彼女に浴衣の着方、帯の結び方を教えて頂きたいのですが」
リーザを見て少し驚かれたようだったが、それは“外人さん?”程度の事だろう。
隣室でパッパッと着替えが済んだようで、すぐに浴衣リーザが誕生した。
あーちょっと見惚れた。
「お背が高いので浴衣がお似合いですね」
と仲居さんに声を掛けられ我に返った。
本当、リーザ、スラっとピシッとカッコいい!ステキ!
それに比べて、私の浴衣姿だらしない。
「あのぉ~すみません、私ももう少しピシッとしてもらっていいですか?」
仲居さんに揃って浴衣姿になった所を写真に撮ってもらった。
再び旅館のスリッパを履いて地下1階までエレベーターで降りた。
先程とは違い、男湯女湯共幾つかのスリッパが脱がれて置かれている。
「リーザ細かい事だけど、履いてきたスリッパは脱いで揃えて置きます。でも出る時に自分が履いて来たスリッパと同じ物が無いかも知れません。誰かが悪気があってリーザが履いて来たスリッパを履いて行ってしまったのでは無く、どれも共通した旅館の物なので入れ違う事が有ります。だからリーザも出る時に『これかな?』と思った物を履いて下さい」
「はい、気にするなって事ですね」
「うん」
明日も大浴場には入れるから、どんな所か様子見程度で10分ぐらいで出ましょう、と言ってそれぞれ『男湯』『女湯』ののれんをくぐった。
20分ぐらい過ぎただろうか、リーザ、出て来ない。
心配はしてないが気になる。
そおっと何気ない振りをして女風呂に聞き耳を立てる。
キャッキャ、ワイワイと何やら賑やかな声がしている。
リーザ出て来た。
「お待たせしました」
わ、リーザほくほくのツヤツヤだ。
「トキヒコさん、花火に誘われました」
続けて見知らぬ女性が。
「あら、旦那さんね。今夜海岸で花火を予定しているからリーザさんを連れてきてね」
「は、はい」
夜の8時半ぐらいを目安にしているとの事。
リーザの後ろから、くっ付ていて来るように多くの女性、女の子が正にゾロゾロと出て来た。
何?リーザお風呂でも人気者に??
部屋に戻るとタイミングを見計らったように仲居さんが来た。
食事の時間との事。
今夜は部屋で夕食を採る事になっていたので、お膳が運び込まれた。
テーブルの上にも色取り取りで豪華な食事が並んだ。
リーザで無く共、目を輝かせるには十分過ぎる。
「凄いです!」
リーザの率直な感想。
そう、豪華。でも旅館での夕飯や宴会料理って少し、多いんだよなぁ。
でもリーザが一緒だと、丁度良いかもな。
お料理の説明や食べ方を仲居さんが説明してくれる。
リーザは『ふんふん』と真剣に、興奮気味に仲居さんの説明を聞いている。
あー微笑ましいし、仲居さんも説明のしがいがあるだろうな。
先ずは食前酒。小さなグラスに注がれた果実酒だ。
「そう言えばリーザ、お酒は?アルコール飲料は大丈夫だった?」
私は殆ど飲酒をしないので、そう言えばリーザ(エルフ)はお酒を飲むのか否か、聞いた事が無かった。
「ええ、私達もお酒は飲みます。でも私は殆ど飲みませんね。ユーカナーサリーは少しお飲みになられますが」
へぇ〜、エルフの世界にもお酒は有るんだ。
「リーザ、今日はどうする?別に無理して飲まなくていいよ」
私もお酒に執着は無いので、どっちでもいい。
「せっかくの機会ですし、先程頂きましたご説明によりますと、今夜の食事に合ったモノを用意されているとの事ですから、頂いて見たいと思います」
「よし、では乾杯〜」
「乾杯〜」
リーザ、乾杯は知ってたか。
「リーザ、大丈夫?」
多分アルコールに対する免疫は無いのだろう。
「はい、大丈夫ですが、少しふわっとしました」
「それが進むと、酔っ払うって事だよ。今夜はお酒よりも食事を楽しみましょう。こんなに凄い料理が目の前に並んでいるし」
「はい」
乾杯を合図に仲居さんが動き出す。
「いただきまーす」
美味い。リーザはキレイに整えられたお造りをマジマジと見て、パクりと食べ出した。
「美味しいです!」
あー食事をするリーザの顔を見ちゃった仲居さんにリーザの喜びが伝わったようだ。
私は嬉しい。
「リーザ、ゆっくりでいいからね」
リーザはお行儀良く食べるのだが、何故か迫力を感じてしまう。
仲居さんは一通り料理を並べ、配膳をすると退出となった。
「何か必要な物がございましたら内線でお呼び下さい。お食事が終わりましたらご連絡下さい」
ご飯のおひつを置いて行ってもらった。
リーザは食事に夢中だ。
「リーザ、何が美味しい?どれが好き?」
「モグモグモグもぐもぐ、お肉ですね。モグモグモグ」
リーザは固形燃料で熱しられた石で焼かれた牛肉を示した。コレ、美味しい。
いつも食べるお肉より柔らかくて、いい肉だと一目で分かる。
「リーザ、半分あげる。沢山食べてね」
まあ旅館の料理や宴会料理は初めてでは無いので、惜しくは無い。それよりも幸せそうに食事をするリーザを見ていたい。楽しい。
「いいんですか!でもトキヒコさんの分が無くなっちゃいますよ」
「いいの、いいの。私は似たようなモノを食べた事が有るから。それよりもせっかくの旅行だし、リーザには何かと満足してもらえたらなぁと思ってる」
「はい、色々と満足させて頂いてます!ですけど貰っちゃいまーす」
パクりと食べたリーザがいい笑顔を向けて来た。
満足させてもらってるのは、間違い無く私の方だ。
ちなみに、おひつのご飯は二人で食べて空になった。
本当に豪勢な夕食を済ませ、お腹がパンパンだ。
一度浴衣から着替え、花火に向かう事にした。
配膳に来た仲居さんに散歩がてら夜の砂浜へ向かう事を伝えた。
少し売店を覗き、夜の8時半が近づいたので、昼は海水浴場の砂浜へ向かった。
砂浜は真っ暗では無かった。
海岸は防犯の為か街灯が設置されていて、近くの人の顔を確認出来る程度の程よい薄暗さであった。
砂浜では花火で遊ぶ家族連れや若者の集団がいた。
「トキヒコさん、あれは?」
「あれがリーザの誘われた花火だよ」
リーザ、花火を見るの初めてか。
「花火と言えば、夜の上空で火薬で作製した大玉を爆発させる物ばかりだと思ってました」
どっかの花火大会の映像でも観たのかな?
「花火大会と言う催し物なら、何尺玉とかの大きな花火を夜空に打ち上げるけど、我々一般庶民が楽しむ小さな花火も楽しいよ」
(あー花火、準備しなかったなぁ~少し後悔)
「あっ!リーザさん、こっちこっち!」
先ほど大浴場前で声を掛けられた方だ。家族連れで旦那さん、男の子と女の子の兄妹もいっしょだ。
それと、その他大勢も居るようだ。
「これやってー」
リーザは女の子から手持ちの花火を渡された。私の分も男の子がくれた。
「ありがとう」
すでに始まっていた小さな花火大会。
この家族以外も集まった周囲の人達(お風呂で知り合った人達かなぁ)も参加している。
私はこの兄妹のご両親にお礼を言い、リーザと揃って花火に火を付けた。
『シュー、パチパチパチ』
と勢いよく手持ち花火が点いた。
リーザはちょっとだけ驚いた仕草を見せたが、直ぐに理解し、その炎を見つめた。
「キレイです」
「向こう(エルフの世界)には、花火は無いの?」
まあ、単なる火遊びと思われても致し方が無いのだが。
「ええ、残念ながら有りません。でも花火、、、とてもいいですね。あっ、、、」
花火が消えた。
「うん、キレイで楽しいんだけど、あっと言う間に終わっちゃうね」
この後、手持ち花火を三本貰ったが、この家族も集まった皆んなに花火を配ったので、早々にに終わってしまいそうだ。
「おーい」
誰かが月明かりの下の砂浜を掛けて来た。
「買って来たぞー」
この小さな花火大会に参加している誰かの連れ合いが花火を買って来てくれたみたいだ。
その方は皆に花火を配ってくれた。我々もご相伴に預かった。
もう一度花火に人を点けた。
こうやって花火をする事は、いつ以来だろう。
「よし、火を点けるから少し離れて」
誰かが言った。少し大きめのドラゴン型の花火が砂浜から空に向かって炎を吐いた。
リーザ、少し見惚れてる。
これがこの小さな花火大会のエンディングのようだ。
参加した皆んなで花火のカスやゴミを集めて解散だ。
私は誘って頂いた家族にお礼を言った。彼らはもう少し、線香花火とか残された小さな花火をやるとの事だった。
「花火、キレイでした。でももう少しやりたかったです」
「また今度、私達二人でもやりましょう」
「はい、約束ですよ」
旅館へ戻る道は涼しく気持ち良かった。
部屋に戻ると、食事は下げられ布団が二組並んで敷かれていた。
「お布団が敷いてあります」
「うん、コレも旅館の順番のひとつだよ」
リーザは少し不思議がった。
エルフの里国では、王の側で働く者にリーザは世話をしてもらっているが、ここはエルフの里国では無い。いったい誰が?
「リーザ、何か戸惑ってるみたいだけど、コレもこの旅館に泊まるサービスの一環だよ」
「サービスですか」
「うん、サービスと言っても宿泊する者は料金を払うお客さんであって、その料金の中にお風呂や食事、寝泊まりする事が含まれているんだ。お金を払ってサービスを受ける貨幣社会の一部だよ」
「貨幣社会、対価等は学びましたが、実感はまだまだですね」
「うん、お金を払うのだから何でもやっていい、と言うのも違うしね」
「はい」
「そこは人としてのマナーや節度を持って皆暮らしているからね。でもその節度が人によって範疇と言うか範囲の違う人がいたり個人差があるからトラブルも発生したりするけど」
まあ、良くあることだ。
「ごめん、何か説教くさくなっちゃった。それより、この部屋はお風呂付きですが、入ります?」
「はい、入りましょう!」
半露天風呂となっている部屋風呂にリーザと一緒に入った。
風呂桶は大きな丸い桶のような形をしていて、流し湯になっている。
ただただ、ゆっくりと浸かった。
夜の海岸を見下ろす事が出来る。う〜ん、贅沢だ。
海の近くはアブが飛んでいる事が多いと思ったが、露天風呂に虫の姿は少なく感じ、蚊はいないようだ。この施設の設備かな?半露天風呂なので一部は外に面しているが、虫の心配が無さそうだ。
リーザと暮らし出して自分の中で変わった事と言ったらお風呂、入浴もそうだ。
私ってお風呂、特別好きでも無い。毎日入らなくてもいい。
でもリーザと暮らし出して、人間(日本人)のお風呂を教える為に一緒に入ったり(すごく恥ずかしかった。今でも)、自分をきれい、清潔にしとかないと相手であるリーザに失礼と思うようになった。
リーザもエルフの入浴と違って、熱い湯や丁度良い湯に長く入る習慣は無かったとの事で、日本の風呂文化は気に入ったみたいだ。
「リーザ、お風呂好きみたいだね」
「はい、日本のお風呂、温かく、こうして人と、、、トキヒコさんと一緒に入るのも好きです」
うん、すごく平和で幸せな時間。
「リーザ、今日はどうでした?」
「はい、海にも入りましたし、それに泳げました!大きなお風呂に入って、豪華なお食事をして花火!それとイカ焼き!何もかもが初体験で嬉しくって、ありがとうございます!」
イカ焼きが入って来たか。
「でも、、、」
「でも、どうしたの?」
「はい、何か私だけが良い思いをし、楽しんで、、、エルフの里国の民達に申し訳ない気持ちを感じてしまいます」
そっか。
「リーザはさ、私を選んだ、選んでくれた。そしてこちら、人間の世界に来る事を決めてくれた。確かにエルフの里国から人間世界に『越え・渡る』事が可能な者は少ないかも知れないね」
「はい」
「でもさ、リーザだってこちらに来る事、住む事に関して、不安や恐れは多くあったと思う。だけど決めた。エルフの皆んながみんな、リーザのように『越え・渡る』事が出来たとしても、果たして住む者は多く居るのだろうか。実際分からないし、皆んながリーザのように楽しいと思うだろうか」
「でもですね、私がこれだけ楽しいのですから皆も同じと思います」
「じゃあさ、リーザの特権だよ。そもそも危険を冒してこちらに来た。実際に危険な目に合ったし」
「特権を許されるのは我が王のみです」
う〜ん。
「では、俺が許します。リーザがこちらで沢山の楽しみを見つけ、感じ、体験する事を私が許す。それでどう?」
「はい!そうして下さい!」
「でもね、人間社会は楽しい事ばかりじゃ無いから、リーザもこれから嫌の事を感じる時も有り得ると思ってて欲しい」
リーザはエルフだと言う事で人間社会から好奇の目で晒される事が遅かれ早かれ来る。自信は無いが、そこから守るのが私の役目だ。そんな中でもリーザには色々と見て、感じて欲しい。この両立を目指すのが今の私の使命かな。
「それと、エルフの里国、女王様、エルフの皆んなの事はいつも思っておきましょう。リーザは向こうと往き来するし、私もまだまだ連れて行ってもらいたいからな」
何かがひとつ、解決したような気がした。
「リーザ、明日もイカ焼き食べる?」
「はい!」
お風呂から出て、リーザの髪を乾かした。
ドライヤーの熱、風量を弱に設定しゆっくりと、そーと髪をとかしながら。
「あの時を思い出すようです」
あの時、、、リーザに初めて会ったあの夜。
リーザが落雷の影響を受け動けず、雨でずぶ濡れになり、アパートの部屋に駆け込んだあの日。
もう一年になるんだぁ。改めてしみじみと思ったが、早い。
「トキヒコさん、時々こうして髪を乾かして欲しいです。気持ちいいです」
「う、うん」
リーザが何かにしろ要求して来るなんて滅多に無いので、正直ドキっとした。
ずうっとこうして、リーザと一緒にいたい。




