夢魔1 眠れるリーザ
その朝。
おかしい。
リーザが起きない。
「リーザ、朝ですよぉ〜」
ダメだ。
くすぐる。体を揺する。どさくさ紛れにキスする。リーザの唇は柔らかく、温かい。
ダメだ。
何かがおかしい。
リーザは良い顔でスヤスヤと眠っている。
何時もであれば、私より先に起きているのが常だ。そう言えば私が朝方に、リーザの寝姿や寝顔を見た事が無い(単に私が寝坊助)。
だからもしかすると、貴重なシーンだったりして?
でも、、、う~ん。
「さくらー!」
隣の部屋の自室で寝るさくらをこの場から呼ぶ。
さくらは朝、寝起きが悪い、機嫌が悪い。
「、、、何〜、、、」
案の定、でも珍しく直ぐに反応して来た。
ぼさぼさの髪、スリッパは片方だけ。機嫌が悪い。
「さくら、リーザが起きない」
さくらがリーザの枕元に近づく。
「ママ〜、お腹減った」
と体を揺すっても反応が無い。
スヤスヤと寝ている。
眠れる森の美女ごっこか?
いや、それなら王子様である私が先程キスした。役不足?
これは本格的に何かおかしい。
「さくら、女王様に念話とか出来る?」
「出来ないよ、、、」
う〜ん、困ったな。
あ、そうだ!
「さくら、ザーララさんの指輪に話し掛けれるか?」
「ちょっと、やってみる」
あああ、待った待った!
「さくら、さくら!ザーララさんを呼んじゃダメだぞ。女王様と連絡が取りたいとお願いしてみて」
エルフの王家の長子ザーララ。
私が神の行いとも感じてしまう事が出来、その内に秘める魔力も強いと。もしかしたら、『強い』なんて表現が当てはまらない次元かも知れない。
概念としての大きさがどうだとか、自分で言っていたから、この世界にやって来る事があったら、どうなる?何かが起こっちゃう?
「うん」
さくらは、屈み込むように、そっとザーララの指輪に話し掛けた。
「ザーララさん、女王様と連絡を取りたいのですが、、、」
どうだ、通じたか?
痛ってぇ〜!
「なんじゃあ、呼んだか!」
エルフの里国の王、花の王の呼称も持つ、女王ユーカナーサリーが現れた。
早い!早過ぎる!むしろ突然過ぎる!
エルフ王家の姉妹の間で連絡を行き来する時間って、皆無なの?
下の階、玄関口から女王様の声が聞こえて来た。
しかし、花の王ユーカナーサリーの行動の早さはどうなってるの?王宮のお仕事は良かったのかしら?
さくらと二人して、慌てて階段を駆け下りた。
真っ赤なドレスに深紅の外套、何時もの女王ユーカナーサリーが可愛らしい顔で立っている。
「あ、女王様。来て下さったのね」
今日の女王様の『繋ぎ』は強烈で、いつもより女王様が来る時の痛みの感覚が強かった。
「女王様、、、ユーカナーサリー、突然お呼び立てして申し訳ございません」
「良い良い。姉様からの、さくらが呼んでいると聞いての、飛んで来たわい」
カッカッカッカ、と何時ものように笑う。
「しかし珍しいのぉ、お主らから我が呼び掛けられるとは。ん?リーザがおらんが」
「女王様、ユーカナーサリー、そのリーザの様子がおかしくて、、、」
階段を上がり再び2階へ。
女王様をリーザが眠る寝室へ案内した。
「コレは、、、!?」
ユーカナーサリーもリーザの異変に気付き少し驚いている。
「いつからじゃ」
「昨夜は一緒にベットに入り、、、多分私が先に寝付いたと思いますが、、、今朝、私が起きた時に気づきました」
ちょっと、ひとつのベットに一緒に入っている事がバレたみたいで、なんか恥ずかしい。
「いつもは大体リーザが先に起きるのですが、今朝は起きません」
なんだろう、すごく不安になって来た。
女王様はベットに横たわるリーザに手の平をかざし、頭の先から足の先まで、今度は返すように足の先から頭の先へ、診断するように手の平を動かした。
そして、リーザの頭の位置でその手の平を止めた。
「うむ。これは外からの干渉を受けとる事と成ろう。」
外から、、、。
「此れ成るは多分、、、いや、ほぼ夢の奴の仕業ぞ。以前聞き及んだ事がある。『夢魔』とな」
夢の奴?ムーマ?ムンマ?
「夢の奴って、何者なんですか?」
女王様、ユーカナーサリーに尋ねた。
「うむ。我も我が里に来た外来者から聞き及んだに過ぎぬが、眠れる者が見る夢の中に入り込む者が有る、と聞いておる」
「入り込むって、でも睡眠中の“夢”って、実体は有りませんよね。何かに取り憑かれた感じですか?」
オカルトっぽいな。
「まあ、その様なモノじゃが。すまぬが、詳しくは解らんのじゃ」
女王は続ける
「ただの、夢へ入り込んでいる者が起きぬ限り、入り込まれた者も起きぬと聞いておる。眠れるままだそうじゃ。」
そんな、何時入り込んだ?物音がすれば、、、昨夜は一切何も感じなかったが。
(すいません、私、一度寝ると睡眠途中では起きません。)
「それで、リーザの夢の中に入った者は、リーザの頭の中に今実際に居るんですか?」
ユーカナーサリーは頭を振った。
「今現在のリーザの頭の中に実体として入り込んどる者はおらん。眠っている意識の中に入り込んでいるんじゃ。実体はこの場にはおらぬ。」
では何処に居る?何処から入っている?電波?通信みたいなモノ?
「ユーカナーサリー、リーザの体全体を遮断するとか、結界で囲んでしまえば?」
う〜ん、とユーカナーサリーは腕組みしたままだ。
「トキヒコ殿、我の結界はな、既にリーザを囲っておる。だがの、その効果が見られんのじゃ。」
うわぁどうなってるの?
「少しシャクじゃが、姉様のトコロへ行くか」
ザーララの山岳城へ。
「姉様ならばもう少し分かるじゃろうて」
女王ユーカナーサリーの知識と魔力を持ってしても、判明しない事が!これは大ごとだ!
「トキヒコ殿、リーザを連れられよ。」
「はい」
私はパジャマ姿のままのリーザを抱えた。リーザは身長178cmの私の身長と近いのだが、筋肉質でも有り、実はかなり重い。
私達は、玄関口に立つ。
ユーカナーサリーは私の肩に手を置いた。
「さくらはどうするのじゃ?」
私はさくらに振り向く。
どうやらさくらは、もう目は覚めてるようだ。
「さくらは学校へ行きなさい」
さくらは留守番だ。
「うん、分かった。私に今やれる事は無いみたい。それに女王様とザーララさんがママを見てくれるのであれば、それ以上の事は存在しない。」
さくら、エルフ王家の姉妹をえらい信頼してるなぁ〜、でもそれが正解。
「お父さんもママと一緒に行くんでしょ。なら大丈夫」
いや、大丈夫なその根拠は何だ?
「女王様、ママをよろしくお願いします」
さくらは女王ユーカナーサリーにペコリと頭を下げた。
「さくら、少し待っておれ。我はエルフの王として民を守る。リーザは特別にえこ贔屓に守る」
あ〜女王様らしからぬ発言が。
あっ、ちょっと待った。
「すみませんユーカナーサリー、出発前に一応私、着替えたいのですが」
Tシャツにパンツ一丁だと、さすがに外へは出ずらい。




