ザーララとの密会
私は読書をしていた。
『今日から始める家庭菜園・初級編』だ。
その時、私は摘ままれた。まるで何かクレーンキャッチャーの景品のように。
そして景品取り出し口に落とされる。
ポトンっと。
ザーララの山岳城のホールに『今日から始める家庭菜園・初級編』を読み出した姿のまま。
「よう、トキヒコ」
ザーララが目の前にいる。
紫色でキラキラと反射するロングコート、中の服はアンダーウエア風な黒の服(下着のまんま?)、カッコいい格好。
「『よう』じゃないですよ、ザーララさん!突然過ぎます!」
ザーララは全く悪びれてない。
「もしも私がお風呂に入っていたり、トイレだったら、、、車の運転中でしたら大事故ですよ!」
「まあ、私が引き起こした事なら、直すが」
もう、神様みたいな事を言って!、、、でも実際に直しちゃうんだろうな。
まあ、私のいた状態も確認済みなんだろうけど。
「はー、どうしたんですか、急に」
余りに急!ホント突然だ!
「いや何、暇だからさ」エルフは『暇』という概念を持たないはず、、、だったと思うけど。
あ~もう。まあ、私も別段忙しい分けでは無いですが。
こんな事は三度目である。
「ザーララさん、靴もお願いします」
「靴?」
「私の履物です」
何か合点がいったのか。
「では、思い浮かべてみて」
私は玄関と下駄箱の中にある自分の靴を想像した。
音も無く、目の前に私の履物が現れた。
ザーララはクスクスと笑っている。
目の前の履物、確かに私がいつも履く物だ。
でも革靴とサンダルが片方づつ、それも両方共左、、、。
絶対にわざとだ。
ザーララはクスクスと笑っている。
一応、この履物を履き、ザーララについて屋上テラスを目指す。
以前、ザーララとエルフの里国の王、ユーカナーサリーが登ったのとは別の階段を進む。
外に出ると透き通るような青空だ!エルフの里国の大地が緑の絨毯のように広がり、絶景である。
遠くに針のようにかろうじて見えるのが、エルフの王宮だ。これは”魔力“による可視化で、私でも見える様にしてもらってる。
「なあトキヒコ、わたしはいつもここから、エルフ達を見ている」
そよ風を受けているザーララの横顔が美しい。
「ザーララさん、エルフの里国自体は嫌ってる分けではないんですね」
「私の一族が作った国よ、嫌いな分けが無い。そうだろ」
物事や人を嫌いになる理由を自分から作っちゃダメだからな。
「わたしが何時もエルフ達を見ていた中でね、リーザリー・エストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンの心理的、感情的な側面に何か変化を感じた時があったわ」
ザーララさん、リーザの事知ってたの?見てたってエルフを全部?
「余り変化の感じられないエルフの世界で、それは新鮮な事だった」
ふむ。
「その変化の原因があなた、トキヒコだったのね。エルフの精神を成長させたなんて驚きよ」
精神の成長?そうなの?
「エルフが精神面で成長する事を具体的に説明するのは難しいわ。でも確かに昨日とは違う精神構造を持ったエルフが立っていた。驚きよぉ~」
へぇ~。
「それって、人間社会に汚染された、、、って事です?」
「ニュアンスとしては有るわね。でも違う。それだったら、負の側面に覆われるでしょう」
はい、人間は卑怯で腹黒いです。
「エルフが人間誰とでも接すれば同じ様に精神面での成長を遂げるのか、、、有り得ないわ。」
「元々、変化や成長を行わないのがエルフとも言えるし、エルフの民達も進化とも呼べよう行為、社会の変動を望んではいないもの。」
良く分からないが。
「人間、トキヒコ、あなったって何か特別なの?」
身に覚えが無い。
「リーザが特別なんじゃないですか?こんな脆弱で卑劣で強欲な人間に寄り添ってくれるのは」
「そうなのかしら」
ザーララ自身は気付いていないが、彼女の内面も確実に変化している。
「ああそうだ、ザーララさん、未来を見る事は出来ますか?」
さくらの将来、人間かエフルか、どちらの道を歩む?ザーララ程の力があればきっと、、、。
「トキヒコ、それは無理だわ」
あれ?即答!
「未来はね、向かっては行くけど、形が無い物。存在しない物なの」
私には、初の考えだ。
未来人がタイムスリップして来て、現代人に警告をするとかはSFの範疇を脱せられないって事か。
タイムマシーンも夢物語か。
「でも、過去は見れるわよ」
「おっ過去には行ける?」
「行くのは無理ね。覗き見るだけ。見えない壁というか、膜があって干渉出来ないわ」
『過去は変えられない』ってやつか。
ついで、と言っちゃあ何だが、この機会に。
「ザーララさん、私へのご褒美の件、まだ有効ですか」
これの結論を出して無いのが、(超強制的に)呼びつけられる理由になっても困るからな。
「もちろんいいわよ」
「私が欲しい物、私が願う事を色々考えましたが、私はあなたの力をお借りしたい」
「わたしの力で世界征服でもしちゃう?」
「いえいえ、リーザとさくらなんですが、今後2人の身に危険が迫った時、それこそ生死に関わるような時」
「うむ」
「あなたの力で2人を助けて頂く事はお願いできますか?」
「ああ、2人には『印』も付けたし、造作も無いが。何回だ」
「ずーと、です」
「ずぅ~と、か」
「はい、ずうぅぅぅ~~~とです。私は強欲ですから」
「良い、、、が」
「常に監視していて下さいとは言いません。2人の身に、命に関わる危険が迫った、重大事項が起こった時。それは私が死んだ後も、ずうぅぅぅとです」
「まるで『呪い』だな」
「はい」
「おまえへの褒美だぞ、それで良いのか」
「はい、これが私が望む事です。私の力では不可能ですので、お力をお貸し下さい」
「良いが。しかしこれ程の事となると、わたしとの別の契約が必要だな」
「契約?」
「そうだ、『契り』とも言う」
魔術世界の独特な何かかな?
「お願いします」
「ではトキヒコ、その場で目を閉じよ」
「はい」
私は両手で頭を抱えられ、ザーララにキスされた。
強烈なキスを
「痛っ」
そして唇に嚙みつかれた。血が出る程に。
ザーララは一度唇を離すと、私の唇から流れる血を舐め、再び口付けした。
今度は甘く、濃厚なやつを、、、。
「良し、これで契約だ」
何の?
「本当はこのような行為は不要なんだけどね」
「じゃあ、なんで」
「わたしがなんか、こうしたい!と思ったの。なんか儀式的で良かったでしょ。まぐわっても良かったけど」
あ~それ、困る。
今度はザーララに優しく抱きかかえられた。まるで包まれるように。
ザーララさん!胸が、おっぱいが顔に当たってます!
「おまえのその想い、、、分かった、わたしの母様と同じだわ」
親が子を想う気持ちはどの世界、どの時代でも変わらないものなのかなぁ
「トキヒコ、おまえはわたしを神、、、人間の概念での神様みたいに言うけど、わたしも万能では無い。出来ない事、叶えられない事は多いわ、、、」
あ、そうか王家三兄弟のお母さん、、、ザーララの力を以ってでも戻せないのか。
と思ったら、今度は体を突き離された。
「でもなんでその想いが、わたしに向けられてないのよ!腹立つわ」
ザーララの苛ついた声と共に『パリッ』と青色の電気が上半身から発せられた。
「それと何でわたしがユーカナーサリーの次、それも三番手なんて、腹立つわ!」
「何がルールよ!腹立つ~」
バリッ、バリッ!
えっ、そっち?
ルールって、大自然の摂理までひっくり返しちゃうかも知れない力を持つザーララが、ルールに従うって笑っちゃう。
「はははははは」
ほんと、笑っちゃった。
「何が可笑しいのよ」
ザーララ拗ねてる。
「だってザーララさん、どんなルールでもあなたには通用しないのに、なんで?」
可笑しい!
「だって、何か楽しそうじゃない。今まで知らなかった感覚なのよ」
平和で穏やかな時間はゆっくりとだが進む。
「トキヒコ、お前は本当に罪深い」
「わたしに嬉しさ、楽しさを思い出させた上、寂しさまで思い出させたのよ」
「あの日(ロウがエルフの世界に帰って来た日)からわたしもロウと一緒、色々と思い出したわ」
ザーララあなたは一体、、、嬉しさや楽しさを忘れてしまうなんて、、、一体どれだけの時を寂しく、一人で過ごして来たのだろう、、、。
邪竜の血が濃いから、力が並外れているから、運命だからなのか。
「トキヒコのせいだから、罪を償なわなくてはならないわ。罰を受けるのよ」
「えー、女王様ユーカナーサリーはエルフに罰は無いと」
「あなた、エルフ?」
「いいえ」
「では、罰を受けなさい」
「え~」
ザーララはグズっている。
今度は隣から肩を組まれた。
「トキヒコ、たまには遊びに来てくれよ~。罪を償えよ~」
無敵の魔人がただの寂しがり屋さんだ。
「では今度はさくらも一緒に来ましょう」
「なぜ」
「私たち親子がキレイでカッコイイ女性が好きな事、知ってるでしょ」
「あはははは」
ザーララの明るく高らかな笑い声が響いた。
『今日から始める家庭菜園・初級編』の本、持って帰るの忘れた。




