ロウとの対決の果て〜帰還
冷てぇ。
再びトキヒコは目を開いた。
どうやら左頬を床に付け、うつ伏せの状態で倒れているようだ。
「気付いたか」
ザーララの声がする。
恐る恐る体を起こす。全身が痛む。
あぐらをかくように座った。
「オレはどうして、、、はっ」
トキヒコは慌てて両腕を摩る。続いて顔や頭、首回りをペタペタと触れまくった。
両腕が有る。何より首が繋がっている!
目の前にはザーララとユーカナーサリー姉妹がこちらを見ている。
「いったい、これは?」
ザーララの目配せの方向を見る。
頭を項垂れたロウが屈んでいた。
「お主は兄様を打ち負かしてしまったのじゃよ」
女王ユーカナーサリーが愉快そうに言った。
いや、私は全然何も出来ず、何もしてないのだが。
ザーララが続く
「お前は、全くわたしの想定外な展開となった中で大いに闘い勝利した」
「闘いって?何が?何で?」
どうして?どうなった?
確か私は両腕がもげ落ち、そして首も、、、そのまま暗黒の闇の中に落ちた。
思い出すと身震いする。
その後何故だか体が戻ってて、でもやっぱり消えた。その時はリーザとさくらと一緒に。
ポツリとロウの声がした。
「私は、神とはなれなかった」
ロウ自身の中といわれた空間に飛び込んだ。そこからはロウとの問答だった。
闘い?あれが闘いだとしても、まともに戦えて無かった。戦ったと言えるのか?ロウに触れる事も出来なかったんだが。生意気な事をいろいろと言った覚えは有る。
ザーララの指輪を投げ付けた作戦も万事休すで、その後のただの人間とハイエルフとの比べるまでもない闘い。
『ロウの中』と言われた空間で成すすべも無く、ただ必死にリュックを掴み続けた。
どこが勝ちなの?
「私は、私の持つ全てをあなたにぶつけた。」
ロウが呟いた。
「あなたは恐れずに向き合い、そして足掻いた」
淡々とロウのつぶやきが続く。
「わたしは、足掻けなかった。あなたには届かなかった、、、」
分けが解らん。
「私は、、、私は愛を持っていなかった、、、愛する者も愛してくれる者もそこには、、、いなかった」
ザーララはロウのこの言葉を聞くとムスッとしカツカツと歩み寄った。
そしてムンズとロウの頭を掴んだ。
「愚弟よ、お前は忘れてしまった。」
ロウの頭を掴んだまま、ザーララは目を閉じた。
すると、ザーララの頭の中にロウの記憶、記録、思いが洪水のように流れ込む。
程無くしてザーララの瞳から一粒、泪が頬を伝わりやがて彼女の尖った顎の先から流れ落ちた。
床に落ちた時に泪の雫は『カリンっ』と音を立てて床の上を滑って行った。
「ロウよ」
「、、、」
「お前は神などでは無く、人間になりたかったのか」
え?オレ正解?
ロウは人間界へと行き、人間の娘と恋に落ち、愛を誓い合った。
しかし彼らの愛は儚くも散った。
人間同士の起こした戦争に巻き込まれ、二人共、無残に死を迎えた。
だが、ロウは死ななかった。死ねなかった。
最愛の相手を失ったロウは悲しみに明け暮れ、そして哀しみと愛を捨てた。
正確には彼の心の奥底へ追いやり鍵を掛けてしまった。
そして時の流れと共に哀しみも愛の記憶も消えてしまった。
「ロウよ思い出せ、私やユーカナーサリー、父王、母様から与えられた思いを愛を」
ザーララはロウの頭の中を掻き回す。
音こそ聴こえて来ないが、凄まじい嵐がロウの頭の中で暴れているのが想像出来る。
やがて塞いでいるロウの両眼から涙が溢れ出した。
「ロウよ、お前がもし人間になれたとする。人間はお前が得た哀しみを抱えながら生きねばならん」
ロウは震えている。
「お前はそれが出来なかった。端から人間にはなれなかったのだ。」
ロウは嗚咽した。
姉妹達の前で幼き弟のように声を上げて泣いた。
ユーカナーサリーが私に歩み寄って来た。
「うむ。でかしたな。流石、我の未来の伴侶じゃの」
何か腑に落ちないが。
ロウを負かしたという、わたしの愛の中に女王様の分も含まれていたのかな?
「どこが戦いだったのでしょうか?私は何も出来ず、ただただ踏ん張ったつもりでしたが」
本当、殴り合うとか、ビームが出るとか一切無かった。
ザーララは口を開いた。
「トキヒコ、ロウが言っただろう『守ってみろ』と」
「ええ、そんな感じでした」
『守る』モノは何か感じたが、そもそも何から、どうやって守るのかは一切考えも出来ずに分からないままだった気がする。
ザーララはロウの頭の中から、あの状況を見たのかな。
「お前は『守る』という意志を見せた。強き意志をな」
う〜ん、やっぱ良く分からない。
「ロウはお前のその意志を越えられ無かった。普通、片腕が千切れたら反対の腕を伸ばせるか?」
「我は自信が無いのぉ」
ユーカナーサリーもこの会話に加わって来た。
「しかし、殺されました。死にました」
ホント、2回死んだよな。
「殺されるならまだしも、消滅の危機があったのじゃよ」
『殺される』事と『消滅』の違いが分からない。
「消滅とはの、貴公の存在自体が消される事じゃ。貴公が生きて来た証も記録もな。すると貴公の記憶を持つ者達からも忘れ去られてしまう」
記憶も消えてしまう、、、。私の死を悲しむ者がいたならば、それは都合がいいように思われる。が、残された者、家族、ましてや子孫にとってどうなんだろう。
さくらであったなら『親が誰なのか解らない子』となっていたのか。それは確かに悲しいな。
「消滅とはね、恐ろしい事なの。何も残らない。誰にも思われない。存在しなかった者となる」
ザーララが側に来ていた。
まあ、今はこの通り、なんとか帰還を果たしたのかな?
「しかしロウもあれで“ハイエルフ”と呼ぶに相応しい力を持つ者ぞ」
「そのハイエルフを人間が打ち負かしてしまうなんて、表現のしようが無いわぁ。ユーカナーサリー、里の者達は弛んでいるんじゃ無くて?エルフも地に落ちたって事?」
「姉様何を言う!我が里の者達は盤石じゃ。それよりも人間は我らが思うているより未知数で稀有成る存在なのやも知れん」
うんうん、人間捨てたモンじゃないでしょ。
「ならば現代、トキヒコの居る世界をどう説明する?浅ましく、我が富の為のみ生き、殺し合う社会を」
あー、、、
「成れの果て、かのぉ」
強力姉妹の問答は続くようですが、別段私、人類の代表でも無く、ただのおっさんなんですが。




