ロウとの対面
菱形の空間の割れ目と思われる所に、私は飛び込む形となった。
ヘッドスライディング。
立ち上がるが、幸い登山で痛めた部位以外に怪我は無さそうだ。
ただ全身は雪まみれ、防寒用の帽子は滑り落ちた拍子に脱てしまったようだ。
取り敢えず、五体満足な状態だ。
それよりもここは、、、寒くは無いが、音も感じられない。
上も下も解らないが、立っている感覚は有る。
ここはどこだ、何なんだここは?
周囲に明るさを感じるが、静寂な世界だ。不気味な程に。
登山服にまとわり付いた雪を払い除け、手袋を外してポケットへと入れた。
周囲を見回しても特に何かが有る、という訳では無いが空間全体が何やら、うねっているように感じる。
暗闇では無いが、色が有るのか無いのか理解すら出来ない。向こう方、どこまで先が見えているのかも検討もつかない。
不思議で、私では理解の及ばない空間。
あれ、でもどうやってここから出るの?
いや、この空間の何処かにロウは居る。
ザーララの指輪も右の中指でチリチリとそう告げているようだ。
けど、どうやって探す?
歩き出す。
歩いているのか、その場足踏みしているのか感覚が無い。
「おーーーい」
声は出るな。自分で聞こえてもいる。
歩く(たぶん)。
「おーーーい」
声を掛けてみる事も続けた。
何も反応も得れない。
一時間ぐらいか、何か時間の感覚が無くなって来た様に感じるが。
そんな感じでこの空間を歩いた(?)
「人間、、、か、、、。」
声がした。
振り向く。少し後ろ、10mぐらいか、人影があった。
私と同じ方向で立っている。いつの間に、何処から?
(やっぱ上下は有ったのか。)
私は無言のまま、駆け出す事も無く、その人影に向かった。
一歩二歩、三歩。
距離感が無いまま相手に近付いた、相手の姿が分かる。
銀髪、正面からでも判別出来る長めの耳、スラッとした体型。
身長は2m近く有るだろうか。私が今まで見た事のある、男エルフと大差無い。
ただ、何故か神々しく感じる。
ザーララの指輪の反応が止まった。
ロウ、、、だな。
私はココに偶然に迷い込んでしまった人間の登山者。
(ある意味、間違えでは無いし)
「こんにちは。すみませ〜ん、ココは何処なんでしょうか」
わざとらし過ぎか!
「人間、、、ここは私の世界、私の中だ」
ロウの中、、、。
「ようこそ、とは言わない。偶然かどうかは不明だが、ここへたどり着いてしまったお前は言わば闖入者だからな」
闖入者、、、か。
「まあいずれにせよ、お前がここに入った事が私に影響を及ぼす訳でも無く、人間とこうして会うのも久し振りだ。少し戯れようぞ」
以前は何時、ヒトと接したのだろう。
「人間、ここはお前の想像も及ばぬ場所だと説明しよう」
あんたの中って、精神世界とか言う感覚?
「案ずるな、今すぐにお前をどうこうする気は無い」
今は、って事だろ。
後でどうなる?
「私をどう見る」
へっ?いきなり意外な質問。
、、、あれ?なんかザーララみたい。自分が相手にもたらす印象が気になるのか?
エルフのようにお互いが『開き合って』無いから、不安なのか?
「神様、、、かな?」
この回答を待ってたんでしょ。
「神か、、、ただな人間、お前が想い描く神とは人間の創った、人間の想像の産物でしか無い」
ほう。
「だが私は違う。神として生まれた」
ここまで聞くと、厨二病としか聞こえない。
「折角だ、神なる私の計画を教えてやろう」
計画?
「私の計画とは、新世界の創造だ」
新世界の創造?
「天地創造の必要は無い。世界はすでに存在しているからな」
「だが、私はこの世、この世界を一度均す事とした」
均す?
「均すというのが、ちょっと分からないのですが」
「そこに気付くか。意味までとなると、まあ人間の思考だと無理もなかろう」
判りません。
「均しとはな、今この世、この世界の総ての人間達の思考の白紙化を指す」
「お前達人間持つ醜さを生み出すもの、、、価値観、競争心、支配欲、信仰を消す。その為にこれを使う」
ロウの視線が足元を見る。
『渦』だ。
『渦』が足下の遥か奥深くでゆっくりと渦巻いている。
ドス黒く不気味だ。時々光を放っているように見える。
奥深く距離感が掴め無いが、相当な大きさでゆっくりと回転している事が判る。
これがザーララが感じて出したヒントの『一番深い所』になるのだろう。
「あれ、何ですか?」
すっとぼけて聞いた。
「あれは『渦』と言う。あれは全てを呑み込む。物質、概念、悪しき慣習、偶像、文明、人間」
「全てを呑み込んでもなお、人間達は残るだろう。残された人間達を救い、導くのが神であるわたしの勤めだ」
自己都合、それ人間だよ。
「これが『均し』だ」
それ『滅ぼす』だろ。狂ってる。
神は神でも、破壊神だな。




