富士山山頂を目指そう
富士山。
標高3776m
山梨県と静岡県にまたがる霊山とも呼ばれる日本最高峰の山。
富士山は言わずもがな、日本一の山。美しい山。
殆どの日本人が“Yes”と言うだろう(個人的な意見です)。
神の集う山とも。
エルフの女王ユーカナーサリーの姉となるザーララは、その弟に当たるロウのいる(ザーララが感じた)場所のヒントとして、日本国内で一番深い所と一番高い所を示してくれた。
一番深い所だと、日本海側の海峡が考えられるが、国内〜国土と思うと少し違うか。
次のヒントは一番高いだから富士山だろう。
深い所と高い所が同じ場所となると、深い所は富士山の地下マグマ部分になる?そうなると行き様が無い。
現実的に私が行ける場所としては、富士山山頂を目指すのが妥当だろう。
よく富士山に登り、御来光を見るとか聞くが、私は実際に富士山を登った経験無し。
富士山登山だけでなく私、登山の経験無いし、知識も無い。体力的にも不安有り。あり、大有り。
それと色々と聞いた事が有る。
『登山を舐めちゃイカン』と。
山の天気は変わり易い。
実際にハイキングの延長で天候が急変し遭難となったり、登山のベテラン者でも遭難するとか、、、すでに不安しか無い。
先ずはしっかりとした知識と備えを、、、知人で登山家いないので聞ける人が身近にいない。
ネットで調べる、本屋にも行ってみた。
それなりの装備、登山計画、少し登山経験もあった方が良いみたい。
弾丸登山といって、1日で山頂まで行き、そのまま降りてくるやり方をする人もいる様だが、ちょっと真似出来そうにない。
疲労、暗がりでの視界の悪さ、高山病、、、様々な危険も伴うとの事。
山小屋は予約が要るのか。
登山を行う体力は、う〜ん、、、運動神経は自信が有るほう。
だけど、若い頃の話しで、体力となるとやはり、、、。
テレビでタレントの富士山登頂を観た事あるけど、ああは行けそうに無い。
おっ、富士山山頂では『お鉢めぐり』って言うコースも有るのか。
『お鉢めぐり』何か気になる。
富士山山頂の火口を一周するコースのようだが。
これが先ずは目指すトコかな?
さて、、、。
先ずは外観から入りますかね。
(何かスポーツを始める時に、いつもやっちゃう傾向)
郊外のショッピングモールへと向かった。
ショッピングモール内では、リーザとさくらとは別行動を取った。
ここには、登山用品を扱っているスポーツ用品店がある。
先ずは登山用バックパック、リュックサックを見る。
日帰りで片付くとは思えない。
何処でどんな状態で居る(はずの)ロウを直ぐに見付けられるのか?ロウが現れるまで、しばらく現地で粘る必要が有るのか?
せめて一泊の荷物は必要だろう。
「日帰りでなければ、こちらぐらいですね」
40Lの登山ザックになると店員が教えてくれた。
大きいなあ。背負ってみると登山に特化したリュックであり、ポケットも多く、背中へのホールド感、ウエストベルトを締めると荷物の重量を腰上で支える構造と、なかなかに良いしカッコいい。
これで20kg程の中身が入れば、まさに負担が少なく子供を背負うようだ。
う、お値段それなりにするなぁ。
寝袋は冬用を持ってるし、その下に敷くマットは以前キャンプで使ったりした物があるからいいとして、その他、登山となるともろもろ、色々と買い揃える必要が有りそうだ。
引き続き店員さんに案内してもらった。
登山靴。
登山用の服。
テントはどうする?山小屋か?
「お父さん、えらく買い込んだね」
リーザとさくらと合流した。
相当な出費となってしまったのは否めない。
「ちょっとな、一大事なんだ。」
怪訝な顔でさくらが言う。
「『一大事』に『ちょっと』って日本語崩壊してるよ」
あー、まあな。
「さくらがキャンプや登山をするなら、今回の事が終わったらコレ一式あげるよ」
登山用ザックは私の体型に合わせたサイズの選定もあるので、さくらは背負いにくいかも。
「そんな時が来ればね。だったらもっと可愛いのにして欲しかったなぁ」
ご最もですが。
こんな日常会話、私達の生活、明るい未来、明日、、、人間の生存を守る。
登山用品を一応一式揃えたが、富士山の山頂に登り、御来光を見る目的では無い。本末転倒にならないように。
私は富士山へ登山に行くのでは無い。
ロウを『渦』を止める為に行くんだ。
崩壊を止めに行くんだ。
家に帰り、引き続き富士山への登山について本を読んだ。
入山手続き、登山者登録、、、遭難した時の捜索や家族への連絡に、、、でもこれ、不味くない?
保険もダメだな。
人知れずに富士山山頂にたどり着く方法な無いものか。
あれ?開山期間?
富士山は別段出入口のゲートがある訳では無いので、いつでも登山出来るだろう。
開山期間は7月頭の山開きから9月10日、、、期間外だとシャトルバスが無い、山小屋が閉まってる等。
今日は10月24日、、、開山期間外だよ。
他の登山者と顔を合わす機会は減るだろうが、私自身が富士山を登山するにあたり、具合が悪い。
ダメだ、妙案が浮かばない。
さて、どうしたものかな。
「リーザ、女王様と繋げられる?」
ダメだ、開山期間外であり、人知れずなおかつ自力で富士山山頂への到着は無理っぽい。
女王様に助けを請おう。
「女王はこちらに来て下さるとの事です」
「いつ?」
痛たたた、、、。
女王様の到着である。
「おーいトキヒコ殿、リーザよ、来たぞ」
玄関にはエルフの里国の女王、ユーカナーサリーが真っ赤なドレスに深紅の外套を羽織り、腕を組んで立っていた。
「女王、ユーカナーサリー、急にお呼び立てをお詫び申し上げます」
「良い、良い」
カッカッカッカと、何時も通りだ。
女王は玄関で履物を脱いで上がる。
ようやく、この日本の風習や習慣に慣れて来て頂いたみたいだ。
「さくらは何処じゃ」
「あー、ユーカナーサリー、さくらは遊びに出掛けちゃってます」
「良い、良い。で、トキヒコ殿どうされた?」
「はい、富士山を登るに当たって、少し問題がありまして」
「富士山、知っとるぞ。貴公の国で一番美しいと言われる山じゃの。白き雪化粧をした青い富士山は確かに見事じゃの」
私は女王ユーカナーサリーに富士山山頂への登山に対し、富士山登山ルートへ向かう物理的な困難や制度的な都合の悪さを説明したが、正直言って一番の懸念である私の登山未経験の事と体力の衰えによる登山の難易度の高さについて相談した。
「飛んで行けば良いではないか」
「いえ、人間は飛べません」
体作りも少し必要と思われ、時間が掛かる事も訴えた。
「女王、ユーカナーサリー、例の夢を見られてから、、、先日のホビット族の時の事でいいのですが、、、どれぐらいの期間で病で小さき者、ホビット達の皆が倒れ出したんですか」
女王様の見た夢が現実となったのに、どれぐらいの時間が掛かったのだろう。逆に言うと現実になるまでの猶予ってどれぐらい有るのだろう。
「そうじゃなぁ〜トキヒコ殿の世界の時間で表すなら144〜150時間ぐらい。ざっと6日後ぐらいじゃろう」
一週間も無いのか。
「それで、今回『渦』とロウの夢を見てからどれぐらい経ってます?」
「そうじゃなぁ、3、4日は経つかの」
ええー!そうなるともう今日明日明後日にでも『渦』が動き出す。
「ユーカナーサリー、今から直ぐにでもロウを見つけ出さなくては」
女王様が前回見た夢と現実(正夢)になる感覚に違いが無ければ、もう時間が無い!
「ユーカナーサリー、時間が有りません!」
「我が連れて行こうぞ」
女王様が口を開いた。
「女王様自らですか!?」
リーザはじっとしたまま、私達の会話を聞いている。
「リーザでは、ちと重荷じゃな。それとロウも居るでな」
ロウは本当に富士山の山頂に行けば出会えるのだろうか。
『一番深い所』に居るのであれば、下山後に対策を考えなければならない。
今の時点で『一番深い所』と『一番高い所』とを同時に当るのは無理だろう。
「ロウ、、、トキヒコ殿の訪問が、あ奴に我やエルフが関している事は知られたくないからのぅ」
「ここで何処かに逃げられたり、隠れられたりしたらの、『渦』を何時使い出すやも分からんからの」
実際に『渦』の破壊、脅威を目にした者は残って居ない。女王ユーカナーサリーでさえ自身の父親、先代エルフの王が口伝された事を改めて聞き及んだだけである。
「トキヒコ殿、あ奴もあれで『ハイエルフ』と呼ばれるだけの力は持っておる。それに、、、」
それに?
「我らエルフの里国を離れ、人間世界で永きを過ごしておるからな、現在あ奴がどれ程の力を使えるのかは、我には分からん」
翌日。
富士山へ出発となった。
背中には少し大きい登山用のザックを背負い、防寒着、手袋、登山靴、あと防寒用のニット帽を被った。
登山者としての出で立ちはほぼ完璧だろう。中身は、知らん。
狭い玄関口で ユーカナーサリーと向き合い、女王様の両肩に手を伸ばし掴まった。
「ではリーザ、行って来ます」
「はい」
リーザは心配そうな顔をしている。
「帰ったら、鶏肉料理でお願いします」
リーザは少し微笑んだ。
ユーカナーサリーの力によって、私は同じ日本の空の下で、渡った。
一気に富士山山頂近くまで着いた。人気は無い。
ここから山頂まで見た目は直ぐだが、実際に登るとなると、三時間は掛かるのだろう。
「ここからは徒歩にて山頂を目指します」
私が運んで頂いたお礼に合わせてそう言った時、ユーカナーサリーに抱きしめられた。
「トキヒコ殿、此度は我一族の問題であるにも関わらず、お主を巻き込んでしまった。許せ。」
女王ユーカナーサリーの可愛らしい顔が歪む、悲痛な表情を見せた。
何時も明るく笑っている女王様からは想像も付かない様な、、、。
女王が私を抱きしめる力が強くなる。
「必ず帰って来い。でないと我はリーザとさくらに会わす顔が無い」
「それにお主とも、遊べん」
私も女王ユーカナーサリーを抱き返した。
「ユーカナーサリー、私はこう見えても、しぶといんですよ」
ユーカナーサリーの体、柔らかい。
寒っっっ!!
女王ユーカナーサリーが去った後、突然の寒さに見舞われた。
どうやら女王様の結界が外気を遮断していたみたいだ。
『「後はザーララの指輪がロウの元へ導くじゃろう」』
と女王様は言っていたが。
高山病対策でしばらくこの場に留まる事にして、腹ごしらえだ。
腹が減っては戦は出来ぬ。ベタ過ぎだがまぁ良し。
携帯ガスバーナーでお湯を沸かしつつ、カップラーメンを取り出す。2個。
ゴミになるけど、簡単さを優先させた。
おにぎりにハム、茹で玉子も持って来た。
おお~なんだかんだで食べ応えあるぞ。
何時もよりもゆっくりと時間を掛けて食べた。
これを「最期の晩餐」にするには貧し過ぎるから、帰ってしっかりリーザの作ってくれるご飯を食べよう。
そう思っても、カップラーメンが冷えた体に熱をくれる。助かるぅ。
ゴミは残さず、出来る限り小さくまとめてザックに仕舞った。
水は残ってる。まだ先の登山行程が待っているからな(まだ一歩も進んでいない。ここからが登山だった)。
「さてと、出発しますかな」
と一歩踏み出す時、思った。
ここまで、普通にむしろ当たり前の様に来たが、この世の中、世界を滅ぼしてしまうかの相手に私がたった一人で何が出来るのか?
もっと協力者がいた方がいいだろうし、それか実際に私よりも強靭な身体、精神の持ち主は多いので、他の者の方が適任では?
弱気と言うより、疑問と迷いが出て来た。
オレはスーパーヒーローでは無い。ただの中年のおっさんがやれる事は知れてる。自分が一番分かっている。
『渦』が動き出すまでの時間が無いのかも知れないが、私が一人でロウを探し出し『渦』を止める事は現実的では無い。非現実的が正しい。
だが、人間社会でこの事を知っているのは私だけしかいない。
「ふぅ〜」
と物思いに浸る為に腰を降ろそうとした瞬間、
リーザの笑顔が頭をよぎった。
さくらのスネた顔が頭をよぎった。
私は止まった。
何をしに来た。私が考え想う事など、たかが知れてる。
今、やれる事は私しか出来ない事だ。
人類の皆さんには申し訳ないが、私はリーザとさくらの今現在と未来を守る為に行動します。
それ以外は二の次だ。
だから、ロウを見つける。『渦』はそれからだ。
そうだ! 私は今から配達員だ。姉の指輪を弟に届ける。簡単な事さ。
「よし、行ってみよー!」
それでも一歩目から足取りは重かったが。




