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ハーフエルフの父  作者: タマツ 左衛門


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北の山の悪いエルフ

 エルフの里国の北部地域は、険しく広く、深く、高い山脈が形成されており、それは外部からの来訪者を拒む程の一種の防護壁となり、国境相当にもなっている。

 北の山岳地帯。

 この場には、エルフの里国に暮らす者はほとんど立ち寄らない。そもそも近付きもしない。


 ひとつは、天候は不順で気温も低く、いつもどんよりとした雲に覆われている。

 常に不安を感じさせる天候は、狩るべき獲物も多くは育たず、採取すべき樹木実等も多くは見込めない。『不毛の地』とまでは行かなくとも、期待させられる成果が得られない地。


 もうひとつは、決まりの無いエルフの里国において数少ない決まり事とも言えよう、3つ或るとされる『禁忌の地』のひとつと数えられているからである。


 それが故、エルフの里国の者は行くべき場では無い。


 そしてこの山岳地帯には『山岳城』と呼ばれるザーララの居城がある。

 険しい地形、不順な天候に合わせ山岳城には近付く事さえままならず、いつしかそこには禁忌の地と合わせ『悪いエルフ』が居るので行ってはならないと噂立った。

 エルフの里国において、『悪』と表現される唯一の存在であったかも知れぬ。

 事実、山岳城の城門に届いたエルフは居なかった。



 エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーの“魔力”に依る魔『術』の行使によって、トキヒコ、リーザの三人は山岳城の城門に立った。

 天候は荒れ気味で、今にも雨が降り出しそうであった。

「ここはな、我が里国の中で唯一雷が発生する場所ぞ。」

 リーザが困った顔をする。

「リーザよ、案ずるな雷を生ずる雲が出ておらぬ。尚も、我もトキヒコ殿も一緒におる。それに雷はそう頻繁に発生するモノでは無いからの。」

 女王がお声を掛けても、リーザは余り落ち着かないようだ。

「さて、姉様あねさまに会うとするかの」

 女王ユーカナーサリーは右手を城門にかざすと音もなく開いた門を進んだ。

 トキヒコとリーザは女王に続いた。


 エルフの里国の王、花の王の兄が人間世界に行くきっかけは、北の山岳地帯の『山岳城』に住む女エルフ、通称『北の山の悪いエルフ』と呼ばれるザーララが知るとの事だが。

 その行先(現在の潜伏先)も分かるだろうと考え、ザーララの元へ出向く事とした。


 ザーララはエルフ王家の長子、女王の姉となる。

 ザーララは祖母である邪竜の力を引き継ぎいだ。

 溢れ出る魔力を抑える為に、彼女達の母親がその重責を担った。

 しかし、母は力尽き石となってしまった。

 だが母の愛は石となっても、この山岳城にザーララがいる限りその力を抑えるかせとなっていた。


姉様あねさま

 女王ユ-カナーサリーは、建物内に入るなり1階フロアより上階を見上げながら声を上げた。

 程なくして人影、丈の長い洋装を身に着けた女エルフのシュルエットが現れた。

「あら、久し振りね。まだ生きていたの?」

 上階のシュルエットから声が届いた。

「お姉様あねさま、それはこちらのセリフじゃが」

 久しぶりに再会し早々、喧嘩腰な姉妹のやり取りが始まった。

 エルフ同士の会話は私の耳に優しく届く。

 だけどエルフの言葉を理解出来ていない私には、この二者の会話の内容が分からない。

 だけど、今この二者の間に割って入る様な事をしたら、、、何か近付いたら噛み付かれそう。


 我々は、上階へと石造りの大きな階段を登り向かった。


 女王ユーカナーサリーに案内されるが如く、着いた場所は広いフロアーであった。

 床は白と赤の大きなタイル状の石であろうか、チェッカー状に張り巡らされている。


 我々(私とリーザ)は、仲睦まじく再会を喜び合う?姉妹から少し距離を取り、遠目がちに二人のやり取りを見ていた。

 リーザはそんな中、初見となった女王ユーカナーサリーの姉、北の山の悪いエルフ、ザーララからの『圧が強い』と言い何か苦しそうだ。顔色も良く無い。

 ザーララの目線がこちらに向く。

「そこなフェアルン、苦しかろうから下がって良いぞ。」

 リーザが答える。

「ご挨拶のいとまも無く申し訳ございません。お気遣い、、、ありがとうございます、ただ」

「ただ?何だ?」

「もう少し、、、こちらにいさせて、、、下さい」

「まあ、久しくの来客だからな。好きにすれば良い」

 気丈に答えたリーザであったが、その場で倒れ込んでしまった。

 ビックリしたぁ!


 突然の事で私は慌てたが、なんとかリーザを抱えるように片膝を着いて支えた。

『パチン』

 とザーララが指を鳴らすと私の横にベットが現れた。

「そこへ寝かしてあげて」(たぶん、そんなニュアンス)

 私はコクりと頷くと、リーザをベットに横にした。

 するとベットはザーララの影響下から距離を取るように音もなく壁際まで移動した。

 ザーララは私を見て、女王ユーカナーサリーに顔を向き直した。

「おや、面白いモノを連れてるな、人間か?」

 私はザーララの目くばせに合わせるように、姉妹の元へ近づいた。


 ザーララ。

 エルフの里国の王家の長子にして、女王ユーカナーサリーの姉。

 先ほど聞かされた、この世界の過去に発生した邪竜の血を強く引き継ぐと言う、女エルフ。

 その顔立ち、姿は女神か?と惑う程に美しい。

 エルフは皆、整った容姿をしてるけど、エルフの王家は別格なの?


 色の境目が分からない赤と黒の外套を羽織り、透けるような、、、透けてるわ!の青から紺色のグラデーションの掛かったインナーに身を包んでいる。

 そして、彼女の神秘性、魔性的な雰囲気を高めているのが右は漆黒の黒、左は燃えるような赤いオッドアイ。

 見る者に恐怖を感じさせるが、目を逸らす事が出来ない。

(私はリーザが一番なので耐えれます。)

 もう、ただただ、、、ラスボス。


「おまえは何も無いのか、感じるものはないのか?」

 ザーララの目線が舐めるように私の全身に注視した。

「なるど、ふむふむ」

 何か見つかったのかな?

「ふむ、ユーカナーサリーの守護の術が掛かっているのね。かのフェアルンのそれは無いも同じね。」

 ザーララがニヤリといやらしく笑った。


「よし、それ(ユーカナーサリーとリーザの付けた守りの結界)を取ろうぞ」

「よせっ!」

 女王様が叫ぶよりも早く、私は緑色の光に包まれ、何かが抜ける感覚が有った。ポワ〜ンと。

「トキヒコ!」

 女王は再び叫ぶと共に右手を差し出しながら私に向かって駆け出した。


 何も起こらない。

 私はぼや~んと立っているだけであった。

「ほう」

 ザーララが微笑む。 

「ふむ、こな人間、なんか面白そうだな。よし、思考・言語をおまえに合わそうぞ。」

「少し待て。」


 ザーララは腕組みをして立ち止まったようなポーズでいる。

 女王が怒りの顔でザーララを睨み付けた。

「姉様!無茶をしてもらっては困ります!」

 無茶?

「ああ、この者がたとえバラバラに砕けてしまおうと、直せば良いではないか」

 あっ、日本語来た。この世界の人達は、皆天才!?

 でもバラバラって、、、、もしかして、わたし?


 女王ユーカナーサリーはワナワナと震えている。

「死した生命は取り返す事が出来ぬ!」

「わたしは出来るぞ。」

 難なくそう言うとザーララは、ペロリと舌を出し唇を拭った。

「わたしが行った事はわたしが済ませれる。まあ何事も無しだ、良いではないか。」

「しかし」

 女王は言い淀もうとしたが、思い留まった。


「面白いのお〜人間、わたしの影響を受けぬか。ユーカナーサリー、何故だと思う?」

 女王は少し困惑しているようだ。

「こやつな、わたしをわたしの存在を認識しているわ。恐れを持たぬのは先入観を持たぬ現れか。」

 いや、しっかりと聞かされてます。

 女王は私に振り向き『信じれない』みたいな顔をしている。


「もしやおまえ、わたしら一族のしるしを持っているのか?」

 印?

 姉妹に凝視された。それこそ頭の先から爪先まで。

「それは無いな」

「無いのう」

 何か計られていたようだ。

 だが、邪竜の血を持つザーララ、強力な魔力を操る女王ユーカナーサリー達でさえ、見落とす程にか細く儚い小さな光の糸が一本、トキヒコに付いていた。


「ふふふ、なあ人間。わたしを見てどう思う?率直に答えよ」

 率直?臆する事は無いかぁ?ご機嫌を取るような事を言ってもなぁ、どうせ心を読まれているだろうからな。

「ほれ、どうだ」

 ザーララが促して来た。

「美人、綺麗、ステキ、それで強そうでカッコいい!」

 女王様は先程より驚きの顔で私の顔を覗き込んで来た。口が少し開いてますよ。


「ははは、それらは褒め言葉なのか」

 トキヒコは睨みつけるようなザーララの眼差しを受けた。

 うわ、何かミスった?バラバラが〜?!

「えーまあ、私が綺麗な女性に対して使う最大級の賛辞ですね」

 ザーララは私に近付くと頬に手を当てて来た。ピリリッと電気が走った。

 あーやっぱ何かミスったかな。砕かれちゃうのかな?


「嬉しい、、、」

 ビビっ、、、た〜えぇっ〜?

「わたしはな、もう永きに渡り褒められた事なぞ無い。それはこの先も永く続く事であろう」

 セーフ?

「何かを思い出した気分だ。わたしを褒めてくれる者などもう誰も現れぬと感じていた事を思い出したわ」

 セーフ?


「人間、名は持つのか?」

「スルガ トキヒコと申します」

「ふん、生意気にも姓と名を持つのか」

 ザーララはつまらなそうに言う。

「ふむ、わたしはザーララ。それ以外に何も無い」

 ザーララは穏やかな顔になった。

「気分がいい。ひとつ良き事を教えてやろう。わたしの名とユーカナーサリーの名を付けて下さったのは、母様だ。この事はユーカナーサリーも今知ったであろう」


 女王は何か衝撃を受けているようだ。

「我が名は母様が授けて下さったのか、、、おおおおお、、、母様、母様、、、」

 女王は震え、その場に屈み込んでしまった。

「合わせてな、わたしの愚弟、ロウを名付けたのは父王なんだ」

 屈み込んでいた女王がさっと顔を上げた。

「この事もユーカナーサリーは今知ったのかもね」

 女王は取り乱している。

「姉様!何のような重大な事をご存知だったとは驚きですが、しかし何故この者にお教えになられるのです?」

 ザーララは私を見た。

「こな脆弱な生命体、己が命と2つの命を背負いここに立っているわ。覚悟と希望を持つ者。ではそれに見合った事をしてあげても良いのではなくて」

「しかし姉様、、、いえ、姉様が決める事ですから、、、」

 女王様が歯向かえない相手が此処にいる。

「人間、スルガ トキヒコ、この事はあちらこちらで言ってはならぬが、いつか役立つ時が来るぞ」

「え〜と、光栄です」

 こんな返事で良かったのかな。


「わたしはお前が気に入った。ここで暮らす事を許すぞ。」

 これは『光栄です』と返事しちゃマズそうだ。

 すかさず女王様が助け舟を出してくれる。

「姉様、この者はダメじゃ」

「どうして?ユーカナーサリーのモノでは無いのだろ?」

『モノ』か。ちょっと引っかかる。

「先程のフェアルンはリーザと申すが、この者の連れ合いじゃ」

 そうそう、私は既婚者なのよ。

「私は構わぬが。」

 いえいえ、ダメです。

「そういうわけには行かぬ。男と女はそういうものなんじゃ」


「それにな、リーザに何かあれば、次のトキヒコ殿の伴侶は我に決まっておるのでな。」

 いや女王様、それ解除してよ。

「では何か、わたしはユーカナーサリーの次って事になるのか」

「まあそうなる。フフンッ」

 どっちも、ならんならん!


「ではでは早速リーザなる者を亡き者とせよ。その後わたしとユーカナーサリーとで争おう!」

「それはダメじゃ。ルール違反じゃ。それにそもそもリーザは我の一等じゃからな。あの者に何か仕出かしたら例え姉様でも容赦はせぬぞ。」

 ザーララは微笑む。

「ルールと申すか。何やら決まりが有ったとせよ、しかし、本気でわたしとやり合えると思って?」

「まさか。しかしな、やってみなくては分からん事も有るやも知れぬぞ。」

 ザーララと女王は不敵に微笑えみ合う。


 この空気、耐えられん。

 それに、ここに来た本題が始まってません。

「あ~、ところでザーララさん、女王様のお兄さん、ロウはどこに居ますか?」

 ザーララがトキヒコを見る。

「わたしを恐れぬか、良かろう。また単刀直入だな、ユーカナーサリーの入れ知恵か?」

 女王様が口を挟む。

「だからわざわざこんな所へ来たんじゃろうが」

「こんな所とはまた、挨拶だな。なんならこちらからおまえの、エルフの城まで出張っても良いのだぞ。」

 女王はブルブルと震えた。

「そんな、そんな事、母様が許さんぞ!」

 沈黙のまま姉妹二人が睨み合う。


「ユーカナーサリーよ、それを言うな。」

「す、すまない。」

 涙目ながら女王はペコリと頭を下げ詫びた。

 女王様を謝らせる相手、すげー!やべー!



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