邪竜との決戦
「我の死を掛け邪竜に挑もう。そして皆の生を勝ち取る」
それは『失敗した者』大槍を持つ者だけの思いでは無かった。
共に戦いに赴く者、戦う能力を持たず待つ者、傷つき倒れ戦えない者、、、残されたヒトとエルフ達、皆の思いであった。
この場に立ち合う全ての者達の思いは同調していた。
大槍を持つ者とヒトの術者、二人は連携し邪竜に挑み続けた。
その二人の間に、一時ながら、不思議で奇妙な独特な連帯感が生まれていた。
二人はそれぞれがいつの間にか『目前のこの者を守る』思いを抱いていた。
命を掛ける、死に向かいながらこそか、二人に芽生えた二人だけの奇妙な連帯感。
場面や角度、刻が違うならば、それは言うならば『愛』だ。
しかしエルフ族達はやはりジリジリとで有るが、邪竜に押されていた。
とうとう大槍を持つ者は、その先陣に立ち『邪竜の槍』を天高く掲げた。
「邪竜よ、我の死を賭けようぞ」
邪竜も大槍を認識した。
そして大槍を持つ者に向かい、その爪で相手を削るべく激しく上下降を繰り返し攻撃して来た。
他のエルフの戦士達の攻撃、術者による攻撃を受け、避けつつ大槍の持つ者を第一の目標として。
邪竜は決して大槍を持つ者を掴み掛かったり、喰いには行かなかった。
それは相手の持つ『邪竜の槍』を警戒してとの事が見て取れる。
邪竜は疲れ知らずで何度も攻撃を繰り返す。何度も、何度も。
一方で大槍を持つ者は疲弊して来た。
繰り返し行われる邪竜の攻撃に対し、都度槍を突き出し、攻撃を避し、削られ、、、。
どれぐらいの時が過ぎ、どれぐらいの攻撃が行われたのだろう。
エルフ達は疲弊した。
最後の戦いと位置付けた戦いに敗れる。
大槍を持つ者も大槍を支えとして立っている事が精一杯に見える。
邪竜は見ていた。
エルフ達、この戦いに加わっている全ての者達を。
そして今こそが戦いの終焉となる事を悟った。
『この一撃でもって、戦いが終わる。我は安らぎか次の何処かへ行くのだろう』
邪竜の意思である。
邪竜は大槍を持つ者に狙いを定め、急降下した。
その時で有る、疲弊し倒れていたヒトの術者が飛び出した。
そのヒトの術者は自らの両目を邪竜に捧げた。
禁断の術であった。
『禁断の術』それは自身の肉体の一部を『術』の行使の原資となる”魔力”と置き換える事。
『術』の行使に捧げ宛がう部位が、自身に占めるを重きを置く部位に近き程、その効果を現す。
但し、その後に残るモノは無い。
邪竜は片側の視力を失った。
邪竜が怯む、邪竜に隙が生じる。
しかしそれも一時だけ、邪竜は再び空へ上昇すると、改めて大槍を持つ者に狙いを定めた。
「来る!」
急降下する邪竜、大槍を持つ者はその槍を掲げた。目に見えぬが互いは一直線に繋がった。
両者の距離が急速に縮まる。
その時、両の目を潰したヒトの術者がその直線上に再び入り両手両足を広げた。
またしても禁断の術だ。
その者は、全てを捧げた。
ヒトの身体はその肉片一片に至るまで細かな粒子となり、邪竜に向かうとそのまま吸い込まれるように、邪竜の中に入った。
邪竜が油断していた分けではない。
大槍を持つ者を一番の獲物と捉え、一点に集中してしまった。
それが隙となった。
ヒトの術者を取り込んだ邪竜の勢いは、しかし変わらなかった。逆に加速が進む。
大槍を持つ者との衝突の刹那、邪竜は攻撃の動作を行わなかった。
移動する動きはそのままに、実際の動作は止まっていた。
ヒトの術者が届いたのか?
邪竜は攻撃する加速の勢いのまま大槍を持つ者が支え構える大槍に自らが突き進むように向かった。
大槍が邪竜その胸から入り背中を貫いた!
「ぐわおああああ!」
大槍を持つ者に衝突の衝撃が走る。
両者はお互いが交わす事無く、文字通り衝突した。
大槍を持つ者の右腕は千切れ飛び、左目も潰れた。肩や腰、全身に渡り大きなダメージを被った。
もはや倒れた邪竜の下敷きとなり、虫の息であった。
地に落ちた邪竜を術者達が囲み、一斉に練り込んだ術をぶつける。
大岩や網、ロープ、杭、、、結界。それぞれが思い練った術を何度も何度も邪竜に送り込んだ。
力尽き、倒れる術者が出だした時、別の術者の集団が石や岩を集め、邪竜を囲みながらその身体を地中へと封印した。
大槍を持つ者は、多くの術で抑え込まれ、岩で囲まれ、封印の印を付けられた邪竜の体の下にあった。
まだ生きていたが、身動きを取る事は叶わなかった。
そして邪竜は、死んではいなかった。
元々不死成る存在。
邪竜その元は『渦』であり、『渦』は本来ひとつ『理界』を構成すべき要素を持ち誕生した存在。
しかし、大宇宙の摂理に反するイレギュラーであった存在。
だが、『邪竜』としての誕生は、生命体としての誕生でもあった。
生命体、、、命を持つ者は、死をも持つ。
『理界』形の無い、ひとつの世界を構成するモノ。
その要素の素が『渦』へと変わり『邪竜』と成った。意志や意識を持つに至ったが、命を持つ事にもなったのであった。
いずれにせよ、大宇宙の摂理に反する存在には変わらない。遅かれ早かれ消え行く定めからは逃れられない。ただ、自身の部位にて自身の最期を迎える事と成ったのも、イレギュラーであったやも知れない。
「こ奴を倒す、死に至らしめる事は叶わなかったのか、、、」
大槍を持つ者は邪竜の体から伝わる鼓動を感じながら思った。
しかし同時に、邪竜がこの先、地には上がれぬ、陽を見る事は叶わぬ事も実感した、、、それは自身も同様である事も理解した。
邪竜の鼓動は弱々しいままで、此度の戦いで傷付いた箇所も再生や治癒が働いていない。
あの大槍は邪竜の胸を貫いたまま、その血が滴り落ちている。
この結界の術と封印が保つ限り邪竜を抑え込む事になるのか。
「しかし、それはどれだけ?いつまでの事だ」
大槍を持つ者に安堵は無かった。絶望も無かった。ただただ自身が死へと向かう事だけが頭を過る、、、そこには覚悟も恐怖も無かった。ただその刻が来るまで、、、悟りに近かったのやも知れぬ。
「その刻(自身の果てる時)は来る、、、受け入れるのか、待つ事と成るのか、、、」
大槍を持つ者は身動きがままならない状態で邪竜との戦いを思い返していた。
どうしても、私の前に立ち、二度も己の身を捧げ戦ったあのヒトの術者の事に思いは行き着く。
ヒトの術者も戦った。
しかし結果として、私を助ける為にその身を掛ける事になった。
そうとしか思えなかった。
「あの者は、まだこの中に残っているのか?」
倒れた邪竜を感じながら思った。




