最下層の部屋
その日
「トキヒコさん、こちらに」
リーザに呼ばれて座布団の上に腰かけた。
リーザはトキヒコの背中に回り両腕を伸ばし術を唱えた。
そうして両手を開きトキヒコの背中にゆっくりと当てた。そのままトキヒコを背中から抱きしめた。
「ママ、何しているの?」
さくらが興味深々でリーザに聞く。
「ユーカナーサリー、、、我が王と明日、城の最下層まで降りる事となりました。私も初めて行く部屋です。トキヒコさんにとって体調に影響を及ぼすかどうか分かりません。ですので、守りの術を掛けました。しかし気休め程度かも知れませんね、私は王のような大きな力は持ちませんので」
フムフムとさくらが寄ってくる。
「私もやるよ。私の膨大な魔力でもって。ママ教えて」
さくらそんな魔力持ってるのか?発揮する?!
さくらもトキヒコの背中に両腕を向け、構えた。
「さくらが覚えるのはこれからです。ですが、今はこうしましょう」
リーザはさくらと並ぶとトキヒコの背に両腕を先程と同じように構えた。
「さくら、まだ今のあなたは何も出来ないかも知れません。ですが、だからと言って無駄だとか無理とか考えては成りません。そして自分が思うままに行う。。上手くしようとする事も成りません。」
「はい」
「あなたがトキヒコさんをお父さんをどうしたい、どう守れるのか考えて、思いを込めて」
う~〜〜ん、とさくらは少し長く唸りながら全身に何か力を込めているようだ。
「わたしは〜お父さんを守るわ。私のこの膨大な魔力を持って!ママも私も守る!」
「エーーーイ!!」
バチーン!とさくらに背中を引っ張叩かれた。
「痛ってーーー!って、三人分かよ」
振り向くとさくらは得意顔だ。
「そうよ、思いは多い方がいいの」
そうか、そうか。
背中がヒリヒリと痛む。
「すまんな、トキヒコ殿、リーザよ」
何時もの王の謁見の間「花の間」では無く、一番奥まった部屋『黒き間』と名付けられた部屋へと案内された。
リーザも立ち寄った事のない、いわば『開かずの間』である。
「では早々に移るぞ」
女王様がそう言うと突如、急激な落下感覚に襲われた。目が開けてられない。
「うわぁっ」
と、目を閉じた瞬間に落下感覚から解放された。
女王の周囲以外は暗闇が広がり、この空間の広さからなのか光が届かない程ー空間が広がっている。
シーンと静まりかえり、一切の音を感じない。吐く息は白く震える程寒い。
「ここが」
つぶやき声が暗闇に吸い込まれる。
「我が城の最下層にある部屋『邪竜の間』じゃよ」
「我も先代父王に連れられて来た以来じゃ」
ここの寒さからか、私の隣でリーザもブルっと振るえた。
「ここへは初めて参りましたが、、、何も無い、、、としか感じません」
女王もこの場では控え目がちになっている。
「ある意味正解じゃな。今、ここには何も無い」
女王が右手をかざすと周囲の明るみが広がり、その光に包まれると体温も上がった。
上階『黒き間』で準備されていた三脚の椅子はそのままここまで移動して来ていた。
「さてと」
女王が椅子に腰かけた。それを合図にトキヒコとリーザも椅子に着いた。
「わざわざこの場に来ての話す分けだが」
ゴクリと何故か生唾を飲んでしまった。その音が響いて恥ずかしい。
「今からの話しはの、誰に聞かれてもならん、感ぐられてもイカンのじゃ」
すごくヤバイ話しなんだろうな。
「トキヒコ殿知っているか?エルフは夢を見ん、ほとんどな」
女王はリーザを見る。
「はい確かに。我々エルフは皆無と言っていい程、夢を見ません。誰かが夢を見たならば、その話題でしばらく盛り上がるでしょう。でも、、、」
リーザは何故か恥ずかしがった。
「でもですね王よ、私はさくらを授かってから、夢を見る機会が増えたのです」
リーザはこの場の雰囲気もお構いなしに嬉しそうに話す。
「ほう、初耳じゃ。何故我に話してくれなかったのじゃ」
リーザはもぞもぞとし出した。
「それは、、、」
「それは何じゃ?」
リーザはもぞもぞとしている。顔も赤らんでいる。
「女王よお許し下さい。人様に言うような、、、聞かれる事が憚られるような内容ですので」
何かもぞもぞと照れながら話している時点で、夢の内容はエッチな事だと誰もが思うだろう。
「まあ、良い。後々聞かせてもらおうぞ」
女王の話しの腰がすっかり折れてしまった。
「話しを戻すぞ」
うなづく。
「エルフは夢を見ん、睡眠中のな。まあほとんどな。我はそれにも増して夢を見ん」
何の自慢大会?
「そういう我もいままでに数度は夢を見た。だがの我が見た夢は細部に差異はあれど現実と成る。必ずな」
予知夢、いや現実に起こる夢だなんて神託のたぐいか。
「以前な、多くの小さき者達が苦しみ倒れて行く夢を見た」
女王は続ける。
「するとしばらくしてじゃな、ホビット族が流行り病で多くの命を落とした」
予知夢かも知れないが、それよりもホビット族って初めて聞いたぞ。コレじゃあファンタジー世界と瓜二つになっちゃうよ。
私20年、やっぱ夢を見続けてるんじゃないかな?
「そして昨夜じゃ」
ホビット族が気になってしまうんだが。
「恐ろしい夢を見た」
「黒く、黒くじゃな、燃え上がり回転している炎の渦の中に多くのエルフ達、木々や岩、川すらも、何もかにもじゃ飲み込まれ吸い込まれ、そして消えてしまうのじゃ」
話す女王様の表情、態度がいつもと違う。
まるで何かに怯えて震えているようだ。
「そしてな、今回トキヒコ殿に来てもらった理由なんじゃが」
なんじゃが?
「そも炎の渦にな、人間達も喰われてしまうんじゃ」
え?私?我々も?
女王の話しは続いた。
「ただの、その渦の中に人影が見えた」
その渦巻きに吸い込まれない人。
「その影はの、確かに我が兄ロウであった」
リーザが口を開いた。
「我が王よ、ご兄妹がいらっしゃたのですか」
女王に覇気が感じられない。
「隠していた訳では無いのだが、誰にも問われた事が無かったのでな」
「それはリーザ、お前に対してもな。隠すつもりも無かったが、気を悪くしたなら詫びよう。許せ」
リーザは慌てた。
「王よ、お改下さい。私こそ気が回らずにご不自由な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」
主従関係って何か難しいなぁ。
「ですが王よ、どうして王の兄上がその渦と一緒に夢に出て来こられたのですか?」
女王様は真剣だ。
「我にも今、全ては解らん。ただこの渦はロウがどこかから持って来たのか、それとも作り出したのか、いずれにしてもヤツが扱っている事は確実だ」
「何故、お兄さんは渦巻きを使って、エルフや人間を攻撃しているんですか」
と私は単純な疑問で口を挟む。
あっ、攻撃って表現はどうなんだろう。
「すまぬ、分からん」
暫しの沈黙だ。
「すまぬな。ロウの事を話せばならんが、そうなると我の一族について少し話さねばならぬな」
女王様は一呼吸した。
「我はな、我は、、、」
女王様の声のトーンが落ちて行く。
「エルフではないんじゃよ」




