幻獣の森
『ここを登り切れば、池とも呼べる、大きな泉が有る』
エルフの里国の西方面に位置する、『ドゥブリーザチョッドレウン』の里の長から、そんな事を聞かされたら、行くしかないじゃん!
私は森を進む。
リーザとさくらとは、別行動で。あの二人はリーザの住居でお菓子作り中。
良し、行きましょう。
人達が通った道すじの轍などが付いて無い、斜面の森を進む。
誰かが行った事はあっても、通路や獣道が有る分けでも無く、未開の地と変わらない。
草木を掻き分け、木の枝を掴かみ(ちょっと折りながら)、頂上に有るという、池だか泉を目指す。
迷子にならない様にと準備して頂いた、赤い葉っぱと赤い実を磨り潰したモノを木製のケースに入れて貰い、通り過ぎる木々の高い位置にスタンプしたり、横棒を描いて目印にしながら。
きつい!
フトモモと腰に来る。
日頃の運動不足と不摂生がたたられる。
滑らないように、転ばないように。怪我でもしたら、つまらない。
でも、気持ちがいい。どんな景色が見れるのか、期待感は疲労を上回る!
誰も居ない一人だけの斜面の森の中。
恐怖心は無い。それは、私の命を脅かすような獣は出ない、毒素の強い植物も無いと聞かされていたから。
それと、見知らぬエルフに出会ったとしても、エルフは相手に対して積極的に攻撃して来たり、悪意を持って近付かないから。
「あれっ!?」
一瞬、火だ!山火事になる!と思ったが、それは何かの生き物、動物の一種であると同時に判断した。
赤い炎、炎のように揺らめくモノが有る!
なんとか駆け寄った先には、仔犬が子キツネか、全身を赤とオレンジにピンクっぽい色が重なり合う長い毛並みに覆われていて、小刻みに震えるその姿は、まるで炎が燃え上がってるみたい。
見た事の無い生き物。まあ、見た目の派手な色合いに関しては、色鮮やかなトゥクルトッドドゥーもこちらの世界には生息しているからな。
観察する。無闇に手を出して、引っ掻れても噛みつかれても嫌だしなぁ。
ヒクヒク、ピクピクと動いているけど、私が近づいても移動をしない。逃げない。何?
観察する。
ん?あれ?
その生き物は怪我、、、胸から腹に木の枝が刺さり突き抜けている?
恐る恐る手を伸ばす、、、も、炎に見えたけど、熱くは無いな。でも、どうしよう。
両手で易々と持ち上げられる大きさ。
抱え上げた私の手に、べったりと血が付く。赤い血が。
ヒクヒク、ピクピクと震えながら、体温が伝わってくる。
どうしよう。
私は思い出してしまった。
飼っていたインコが、私の手の中で、体温を落とし、硬直して行く間を。涙が出そうだ。
私は叫んだ!
「リーザ!誰か!」
私の叫び声に反応したのは、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーであった。
「我の結界内ぞ」
私はこの傷付いた見慣れぬ動物を抱えたまま、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーのお力でもって、ザーララの山岳城へと、飛んだ。
でも、何でザーララさんの所に?
「トキヒコ殿、幾ら我とて得体の知れぬ者を我が王宮には持ち込めぬ」
得体の知れない者~?それって私がその代表格なんですが。それに比べ、こいつはなんか可愛い小動物なのに。
「トキヒコ、また、エライモノを見付けたなぁ。お前は面白いなっ!」
ザーララさんまで、エライモノって?
「こやつは異成る空間に属する、届かぬ世界の見えざる者と同意成れ。幻と呼ぶが一種であろうぞ。我らの行けぬ場のモノとも成るであろう」
見えない、行けない、幻の世界が~?そんなの所が在るの?それなのに何かが居るの?でも何でお二人は知ってるの?
幻世界の生き物、、、幻獣か。
「そ、それよりも、こいつを助けてやって下さい」
こんな木の枝が刺さって、血が流れてて、死んじゃうよ!自分の手の中で何かが息を引き取るのは、ごめんだ。
「トキヒコ殿、良いのか?」
「ええ。何か問題が?」
「うむ、この者が何の場で死を迎える運命では無かったのか?悪戯に変化を与えて良いのか」
運命~?
「ですが、、、では、あの場で私と出会った事も、こいつの運命の一環ではないでしょうか」
何処から何処までが運命なんだ?
「トキヒコ殿がそう言うならば、良い」
私は、ザーララさんが準備してくれた、台の上にこの未知成る生物、幻獣(?)を横たえた。両手と服の袖口には、この生物の血がこびりついていた。
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは、台に置かれた幻獣に向き合うと、先ずは胸から腹部に貫通する枝を抜いた。
何か『術』なり魔力を使ったのだろう、流れていた血が止まっている。
続けて女王ユーカナーサリーは、横たわる幻獣に手をかざす。
隣で見ているザーララさんは、じっとしているだけだ。
「良かろう」
「ああ、いいな」
治療完了?
「トキヒコ殿、これでこの者の直接的な死を迎える原因は取り除かれよう。幻と呼べるであろう世の生物成れ、我らが里の者との基本は変わらぬようじゃ」
助かった?
「ありがとうございます。私も、私の手の中で何か動物が死んでしまう思いをせずに、助かりました」
あ、蚊とかハエは潰しちゃうけど。
「しかしトキヒコ、こいつをどうする?」
あー、ペットとして飼う気は有りません。ペット達との死別で懲りてますので。
「もう少し、動けるようになったら元の場所へ戻しましょう」
それまでココに置いといてもらえないかなぁ~。
でも、幻獣って?
「お二人は、こいつの事を異なる世界、幻とも呼べる世界の生き物、それこそ『幻獣』っておっしゃってましたが、行けない場所に居る生き物が何でこちらに来たのでしょう?」
こっちからは行けないけど、向こうから来るのはOK?
「解らないわぁ」
「それよりも、ザーララさん」
「何だ?」
「こいつがもう少し治るまで、ココに置いといて貰えません?」
さすがに連れては帰れないからなぁ。
「ん、ん、ん?お、お、お、トキヒコー!私に頼みか!」
「ええ、出来ればお願いしたいのですが」
「あはははは!いいぞ、いいぞ!お前から改まって頼まれるのは初めての事だ。いいぞ、いいぞ!」
頼むのはこっちなのに、どうしてこんなにも喜ばれる?
「うん、うん、どうする、どうする、どうしょうなっ!」
「いや、ですので、しばらく様子見をして頂けたら」
何だ?このはしゃぎ様は!
このやり取りを見ていた女王ユーカナーサリーも、姉であるザーララの取る態度に驚いているようだ。
「トキヒコ~、もっとわたしに頼んでいいんだぞ、もっと頼っていいのよぉ~」
今まで何度か頼んだような事、あったけどなぁ。まあ、女王様経由だったりもしたか?
「トキヒコはな、癪だが、リーザリー、ユーカナーサリーの次がわたしが伴侶。わたしの物はお前の物だ」
「あ、それ出て来ちゃいます?」
「トキヒコ殿、姉様は、我らが血の者以外より言が無き。まして頼まれ事など皆無に等しき。だからなのじゃ、我も驚き表す事と成る態度と成ったか」
「あっ!ちょっと待った」
私に抱き付いて来た、ザーララさんを引き剥がす、、、私の力では、剥がせない。
幻獣、台の上で立ち上がってる。しっかりと四本の足で、震えも治まってる。
幻獣、、、未知なる生物。




