悩めるエルフ ピラウロウ2
トゥクルトッドドゥーのヅリュースに私とピラウロウの二人を乗せてもらい、エルフの王宮の敷地を出た。
でも実は、特に行く当ては無かった。
「ピラウロウ、何処か行きたい所有る?」
あれ?オレが聞くの変か。オレが教えてもらう方だわ。
「いえトキヒコ殿、特には」
そりゃあそうだよなぁ。
まあ、私が行ける場所って『ジエジオラ湖畔の食堂』か『エルフ湯』ぐらい。
「何か食べに行くか」
うん、食堂に行こう。そうしよう。
「ヅリュース、湖の食堂までお願い」
トゥクルトッドドゥーのヅリュースは、歩み出す。
丈夫で大きな体躯を持ち、背中に二人が乗ろうと物ともせず、ゆっくりとスキップへ移行しながら、その走る速度を上げる。
背に乗るトキヒコの意思や指示が出ない限り、ギャロップや疾走にまでは速度を上げない。
「ピラウロウ、ピラウロウは東門を離れる事は有るの?」
まあ、先ほどまでは、エルフの王宮に居たけど。
「トキヒコ殿、私は東門にて、その任に付きます。故に基本余り東門を離れる事は少のうございます」
「じゃあ、里国の巡回とかは?」
「現在はございません。経験としてはございます」
相変わらず、何か言葉が固いんだけど、それはしょうがない。
湖畔の食堂に『右に立つ者』、ピラウロウが現れた。
エルフの里国の王の右に立ち、王を守護する者。
食堂に緊張が走る!続いて王が姿を現される!
食堂に居る全てのエルフ達が、それぞれの思いと、王に対して敬う姿勢を取り、王の登場を待つ。
「やっ、皆元気~?」
トキヒコは、湖の食堂に集うエルフ達の視線を一点に集めていた。
「おお~、皆やっとオレを敬う気になったか」
湖畔の食堂に集うエルフ達は脱力した。
「トキヒコか」
「なんだ、トキヒコか」
「トキヒコか」
「何だは挨拶だなぁ」
湖畔の食堂に控え目ながらも、笑顔が溢れた。
この光景を目の当たりにしたピラウロウは、正に後退りした。
「我ら民の集いし者達が、同時に集団にて笑いを顔に出しておる、、、」
エルフは無表情に近い。感情も表に現れ難い。
そして何より、人間であるトキヒコは、エルフの『術』を行えない為、エルフの思いを読み取れ無い。なのに、、、。
ピラウロウも今この場では、トキヒコによって『術』の使用を禁止されていた。
エルフ達の皆が、今何を思ったのか、自分が皆と一体の意識に成れなかった事が、少し歯痒かった。
「ピラウロ、食事は」
そう言えばピラウロウは、何時からエルフの王宮にいたんだろう。
「そうですね、何か頂きまする」
湖畔の食堂には、私が伺うと料理長が対応してくれる。
それは私がエルフの料理や食事に対して不慣れな事、それと何か変わった事を私から聞き出そうとして、興味を持ってもらっているみたいだから。
「料理長、テイクアウト出来る?料理を持って外で食べたいんだ」
「テイク、アウト?」
「料理を持ち出したり、家に持って帰る事だよ」
ズイッチャ(パンのような物)のハンバーガー、『エルフバーガー』を頼んだ。
『ズイッチャ』は、エルフの里国での主食のひとつ。小麦粉と同等の物、モオーカから作られるが、私の世界のパンと変わらない。
だけど、特別「美味しい!」って程では無く、少し固いけど、不思議と沢山食べられる。
ハンバーガー仕立ては私の案だが、その後はエルフ達のアレンジが加わっている。
ただ、マヨネーズに関しては、エルフの里国での再現に強くお願いした。
鶏卵的な卵から、マヨネーズは再現に至った。
それに加え、湖畔の食堂では水亀(淡水に住む亀だが、地球上の海亀ぐらいデカイ)の卵を使ったマヨネーズが完成している(ちょっと希少)。
料理長にズイッチャで作るエルフバーガーを二つ、中身はおまかせで。それと私の分は少し小さ目で。エルフって、めっちゃ食うから。
準備して頂いたエルフバーガーは、焼いた魚と煮込んだ鶏肉のダブル仕立てだ!
具沢山で多くの野菜と各種ソースが混ざり合ってる。
でも、焼き魚と煮込んだ鳥料理を一緒にしちゃっていいの?
ちなみに、料金は要りません。エルフの里国の社会に貨幣は無いので。
エルフは誰かが何処かで行った事が、その者以外の何処かの誰かに対しての対価となる、、、こちらで何も働いていない私にとって、何か何時も申し訳無いのだが。
エルフバーガーと一緒にサラダも頼んだ。サラダはトゥクルトッドドゥーのヅリュースの分だ。
「ありがとう!」
私とピラウロウは、準備してもらったエルフバーガーをそれぞれ抱えるようにして、店先を後にする。
外にある水桶を持って、建物から少し離れた所に腰を降ろす。
ヅリュースも共に歩んで来た。水桶を降ろす。
「ヅリュース、サラダ食べる?」
私は手掴みで少し野菜を口にしてから、トゥクルトッドドゥーのヅリュースにサラダボールを差し出した。
ヅリュースも食事タイムだ。
「トキヒコ殿、トゥクルトッドドゥーは木と繋がった状態の葉、大地と繋がっている状態の物以外は採りませんぞ」
「そお?」
ヅリュースは、サラダボールにクチバシを突っ込み、サラダをバリボリと食べ出した。
「!」
ピラウロウが困惑と共に慌て出した。
「ヅリュースは、オレが食べる物をいつも狙ってたからなぁ~。だから分けながら何かを一緒に食べる事もあるよ。トゥクルトッドドゥーが肉や魚とか、実際に何を食うのかは知らないけど」
サラダを食べるヅリュースの体にポンポンと手を当てた。
ピラウロウは少し放心状態だ。
「さっ、ピラウロウ食べよう!」
トキヒコに声を掛けられ、気を取り直したピラウロウは、モリモリと私の顔に近い大きさの『エルフバーガー』を食べる。1つでは足りなかったな。
さて、腹ごしらえも済んで、本題だな。
食堂からも、少し距離を置いたし。
ピラウロウに『術』の使用を禁止させたのは、ザーララさんについて、どう説明すべきか分からなかったから。
エルフは『術』でもって、相手の(表層的な)意識を読み取る。
それは日常会話的にお互いが相手に対して『開く』事によって成り立ち、多くの言葉を交わさなくても意思疎通してしまう。いち人間の私は出来ません。
ザーララさんについて、エルフの王家の者と言えばいいのか。
『邪竜』の力を継承した者と言えばいいのか。
女王ユーカナーサリーの実姉だと言えばいいのか、、、。
いずれにしても、自身の仕える、敬意と畏怖の念を持つ者に姉がいたなんて、衝撃を受けてしまうかも知れない。しかもそれが『北の山の悪いエルフ』。もしかしたら『騙されていた』と思ってしまうかも知れない。
リーザがその事実を知った時は、席から立ちあがり、口を押え、言葉を無くしたが、なんとか納まった。
それは、リーザは王の側近であり、親友と呼べなくも無い関係性が有り、私が同席していた事も少なからず影響はあったろう。
さあ、どう説明しよう。こんな風に迷った考えが、ピラウロウに伝わってしまったら大変だと思ったから。
エルフの里国の王家の姉妹、オレを悩ますなよなぁ~。
さあ、どうしよっかなぁ~。
「ピラウロウは『全てを知る者』になりたいのか」
『全てを知る者』、神とも言える存在。居るのか居ないかも分からない存在。
「トキヒコ殿、私にも探求心はございます。しかしながら『全てを』と成りますと、、、如何なのでしょう」
そう、全知全能って何だ?
「『全てを知る者』オレはどこかに少なからず、いいなぁ〜と思う、そんな考えを持ってる。人間は強欲だからね。でも、、、」
「でも、全てを知ってしまったら、、、どうなる?もう生きる必要は無いんじゃないかな」
エルフに限らず、人間にだって探求心は有る。それこそ、エルフ以上に持ってるかもな。
それは我々人類の歴史が語っている。
冒険家、発明家、革命家、新たな技術、文化、、、何かを探して、何かを解明して、新しい社会や時代を切り開いて来た。
「解らない事が有る、だから知りたい。見た事も無い景色が有る、だから見たい。知らないからこそ、生きる原動力となることも有る」
エルフの探求とか追及って、どうゆうのか知らないけど。
「だけど、オレはいつからか、知らなくてもいい事、知っては成らない物は有るのかな、とも思う様になった」
「だから、あの『北の山の悪いエルフ』もそんな存在かな」
ただ、あの『北の山の悪いエルフ』は特別だ。いやいや、特別でも括れないな。
でも、これじゃあピラウロウは納得しないよなぁ。
「ピラウロウ、種明かしをすると、私も女王様と同じで『北の山の悪いエルフ』とは知らぬ仲では無いんだ」
「トキヒコ殿は、『北の山の悪いエルフ』を知り得ていた、、、」
女王様はこのエルフの里国をお守りになってる。だから色々と知る必要が有る。知っていてもおかしくは無い。
だけど私は、エルフの皆さんとは違い、人間だ。それも何も持たない、只の人間だ。私の場合はたまたま居合わせた。『北の山の悪いエルフ』と会う機会が有った。そんなモンだ。
「だからあの時、『北の山の悪いエルフ』を前にして、オレが動けたのは、オレに有って、ピラウロウに無いモノは関係無いんだ」
「それでもトキヒコ殿は『北の山の悪いエルフ』と出会う機会を得られたとの事。それは私に無き事と成りまする」
「うん、たまたまだよ。ピラウロウは東門を守護する任に着いている。オレみたいにエルフの里国を好き勝ってには動けない。それだけの違いかもな」
「しかしながらトキヒコ殿、本日為れはヒント、を得ましたぞ」
ヒント~?そんな言葉知ってたか。
「トキヒコ殿と同行させて頂きした」
「うん」
「トキヒコ殿は分け隔てが無き言動と行動を為さる」
「いやいや、オレは偏見と劣等感の塊だよ」
「トゥクルトッドドゥー、エルフの食、然れば我が王。求められる存在為る。それは私も同意でありまする」
「それだと人気者だよ。オレじゃ無い」
「私も何かを得ねば成りません、その何かを探求とする事。それは私に課せられた道。探求心を磨き、我が王、我が民の為に。そして何時日かトキヒコ殿に披露する事が、されば私の新たな成る道」
ピラウロウ、なんか大袈裟か?
何か悩みじゃ無くて、違う何か問題が起きそうなんだが。
「トキヒコ殿、やはり貴殿から学ば為れば成りますまい。私が探求し、得べき何を導き願いたい」
、、、それは女王様に言ってよ。




