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ハーフエルフの父  作者: タマツ 左衛門


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エルフの麺作り

「トキヒコさん、ちょっと大変かも知れません」

リーザがこんな事を言うのは珍しい。

何か、一大事が勃発?スッゲェー大問題が?

「何が発生したの?」

リーザの次の言葉に身構える。

「はい、我が王がですね」

女王様、女王ユーカナーサリーに何が!?

「麺類を食したいと、我らの里国にて食したいとの、お望みです」

ふえぇ~、麺類が食べたい?何か力が抜けたよ。


「越える者よ」

「はい、我が王」

リーザはエルフの里国の花の間にて、女王ユーカナーサリーと謁見中である。

女王ユーカナーサリーのお守りとも取れる。

「越える者よ、我が里国でも麺なるモノ、所望する事は可能か否か」

「王よ、麺と申されますと、トキヒコさんが良く好む、あの麺ですか」

「うむ、左様。うどん、ソバ、パスタ、ラーメン、、、その種類、仕様は多種多様であれど、我らでも食しても良いじゃろう」

「はい。王が申されるのであれば、取り組みまする。しかし、それ成る刻を頂きとうございます」

「うむ、如何に」

「はい、我らの里国にて入手出来ます食材、材料を検討したく思います。また、製作や調理に掛かるノウハウも入用です。それ故、お時間を頂きたく存じます」

「ならば越える者よ、トキヒコ殿に協力を仰ぎ、お主に一存で良いか?」

「ありがたき事。私にお任せ下さい」


「リーザ、ソバ打ち体験が出来る」

山間部に近いけど、車で二時間は掛からないな。お一人料金1,000円もいいな。さくらを連れて出掛けても大丈夫だろう。

トキヒコはネット検索して、ソバ打ち体験が出来る観光スポットを見付けた。

でも、ソバ打ちの体験教室、イベントとか催し物を実施しているの多い。

「ソバだと材料がエルフの里国で入手が可能かどうか分からないけど、取りあえず何かやってみるといいかもね」

リーザは私が普通に言う『取りあえず』に少し戸惑う。

それは、問題等に対して、考察も解析も行わず、予測される結果や結論が出ないままに行動に移す事だから。

エルフが苦手な行動。

でも、エルフ達の考察や解析、分析力は素早く深く広い。


「是非そうさせて下さい。私も麺打ちについて、色々と調べはしましたが、何事も実体験に優る事象はございませんので」

そんなエルフのリーザだが、乗り気になった。

それは、エルフは新たな事への“体験”が好きだからである。

リーザは特別に“大好き”なようだが。

「よしさくら、おソバ作りに行くぞ!あっリーザ」

リーザとは、お蕎麦屋さんに行った事有るけど(ざるそば食べた。リーザは4枚食べました)、さくらは?

ソバアレルギーが有るって、ソバアレルギーの人がそば粉を食べたら死んじゃう事も有るって。

「リーザ、さくらはソバのアレルギーって、大丈夫なのかな?」

これは、心配だ。親が無知であって許される事では無い。

「トキヒコさん、ご心配には及びません。先日の三歳児検診において、アレルギーなるモノ、反応についてございません。さくらはお医者さまから健康優良児のお墨付きを頂いております。誉れです!」

実は私も三歳児の検診で、住んでいた町から健康優良児に選ばれたんだよな。賞状も有る。だけど歯科検診をして下さった先生が『お口あ~んして』って言われて、唾を吹き掛けたそうだ。母から聞いた。記憶は無いけど。

「そうかそうか、さくらは誉れだ!よくぞここまで大きくなったな!」

さくらを抱き上げる。

さくらが元気に育っているのはリーザのお陰だ。

そして、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーの多大なお力添えの賜物だ。

「この誉れはリーザのお陰だよ!それと女王様にも感謝だ。そうか、ソバ作りは女王様への恩返しの足しになるな」

「はい!」


私は『休日そば打ち体験道場』に予約を入れた。

車で移動する事2時間ちょい(少し遠かった)、山あいの田舎の風景が広がる峠道に、その体験道場はあった。

これぐらい山間部が近いと、そば打ち体験そっちのけで、リーザとさくらが山に向かって走り出しそうだ。

でも今日は、そば打ち体験がメインイベントだから、二人の手綱をしっかりと握っておかなくちゃ。でも実際に綱つけたら、私は易々と引きずられてしまうだろう。


今日打つお蕎麦は、『二八そば』。

「二八に始まって二八に終わる」ともいわれるほど、水の加減具合や、練り込み、麺にする為の延ばしなど、そば打ちの基本となるモノだそうだ。

そば粉8割に対して、つなぎ粉である小麦粉を2割の割合で打つ。だから『二八』だ。そうだ。


体験者が特に何も準備せず、手ぶらでの訪問を可としている所が、この体験道場を選んだ理由である。初心者に対して、間口の広い対応をしてくれそうに思った。

「こんにちは~、予約をしましたスルガです。今日はお願いします」

「あいよっ!」

受付の女性の向こうから顔を出したのは、短髪で筋肉隆々の厳ついおっさんだ。うわぁ夜の飲屋街とかで出会いたく無いタイプ。

「こんにちは、そば打ち初体験ですので、よろしくお願いします」

「あいよっ!」

何か怖いわぁ~。

「本日はよろしくお願いいたします」

私に倣って、リーザとさくらもぺこっとお辞儀して挨拶した。

「大丈夫です。皆さんでおそばを打って、おそばを食べて帰りましょうね~」

このおやじ、破顔した。

でもリーザなのかさくらに対してなのかは、分からん。


作業場に移ると、木製台の乗る大きな机、そして漆塗りなのか?外側が黒く内側が赤色の艶が有り、大きくて厚みのある木製のボール。“こね鉢”と言うそうだ。

これにソバの材料であるそば粉と小麦粉を粉のまま良く混ぜる(私は二人前、リーザは四人前)。

水を徐々に足して行き、練り上げる。

そば打ちはスピードが大事との事、生地を乾かさないように、それでもねるだけで20分掛かるとの事。

手早く、耳たぶよりも少し固いぐらいに練り上げるのだが、力が掛かる、意外としんどい。

ねり鉢の中で手のひらを使い、テレビで観た時みたいに、親指の付け根の腹部分でそばをダンゴ状まで練り上げ、そこから更に押し回し練り上げる。やっと生地が出来上がる。ちょっとしんどい。やると思うとでは大違い。

私の隣で作業台に並んでいるリーザは汗ひとつかかない。そば粉、小麦粉共に私の倍の量、固まった生地も当然倍の大きさ。

なのに涼しい顔。力強い!

「奥さん、センスがいい!そう、優しく、でも力強く。上手です!」

そばを打つのに、そんな掛け声要るんか?まあ、いいけど。

何とか練り上がった生地の中の空気を押し出す。こね鉢のヘリに沿って生地を回転させながら円錐に整えば生地は完成。


でも間髪入れず次の作業へ。

木製の大きなまな板みたいな作業台に打ち粉を掛け、今出来た円錐状の生地のとんがりを下にして、手でつぶして行く。

そのまま手の平や親指付け根の腹部分を使って、まあるく、大きな煎餅みたいに成るように押し広げる。

あ、生地の厚みが、ちょっと片寄った。

ソバの生地作りは、肉体労働で有るが、この程度の量であれば問題無い。

実際に商いとして人の手で製造するとなると、重労働だ。


そしたら、あの丸く長い棒、麺棒の登場だ、

でもここは、おっさん先生に登場頂き、私の生地を延ばすのを見本に、同時にリーザに指導してもらった。

リーザは私の2倍の生地を素早く、薄く、均等に延ばす。先生の指導を仰いでいるが、どうもテレビやネットで事前に学習した事の答え合わせの場にしているみたいだ。

おっさん先生に麺の切り出しの指導もお願いした。


手持ち部分まで返しの刃の有る、ちょっと変わった形の麺切り専用包丁『尺包丁』を使う。

先生の技は見事だ。延ばされた麺生地の上に『駒板』という木の板を優しく載せ押さえ、包丁の動きと同時に横にスライドさせて行く。麺を真っ直ぐに切る当て木なんだろうけど、伸ばした麺生地が、素早く細く均等に切られて行く。見事だ。

リーザは麺切り専用の『尺包丁』では無く、普通の包丁をお願いした。

それは実際に自分でソバなり麺を打った時に、麺を切り出す為の専用道具(尺包丁)が手元に無い事を想定してとの事だそうだ。

短剣や刃物の扱いは元々得意。今や包丁を見事に使いこなすリーザにとって、一般包丁で麺切りを行う事に問題が無かった。

当て木の『駒板』を使ったのは半分まで。残りの生地は直接包丁を当て、麺を均等に切り出してしまった。


そば打ち体験の完了だ。

粉同士を混ぜ合わしたり、生地をペタペタしつつも、大人しく見ていたさくらも、本格参戦する試食タイムだ。

受付時の女性(おっさん先生の奥さん)がお湯を沸かしてくれる。


「リーザ、そば打ち体験はどうでしたか」

「小麦を粉とし、料理とする場合にはパンやナンやピザの様に、大体が小麦粉を固め延ばして終わりが多い中、蕎麦に留まらず、麺類という存在はそこからひと手間もふた手間も掛けます。やはり興味深いです」


リーザは休む事無く、麺の茹で上げにも立ち合う。

お湯の量は多く、麺が鍋の中で炎と湯による対流で良く動き、回るように。

湯で上がりの時間は生地の具合、茹でる麺の量、食事をする人の好み(固め、柔らか目とか)があるので、職人の感覚が大きいそうだが、タイマーを活用する事は奨められた。


ざるそばが出来た。私達の打った麺だ!

あの粉がこんな形のソバになったと思うと、少し感動すら覚える。

「さあ皆さん、ご自身で打った麺ですよ。頂きましょう」

おっさん先生の声が掛かる。

「先ずは何も付けずに少しだけ、蕎麦を食べて見ましょう」

艶々と光る麺を一本取る。もぐもぐ

「どうでしょう?」

「うん。何か、甘みを感じる。美味しい」


「いただきまーす」

ずるずるっと、旨い。

「あー、おいしいよ!」

「そうですね、美味しいですね」

さくらも『にたぁ~』として、美味しさを表現してる。

「おいしいよ」

「さくらもお手伝いしたんだぞ」

「うん!」

そう言うなり、ソバを続け様にずるずる~っと。

「この麺つゆ、鰹出汁ですね。それに昆布。お醤油は何か特別な物でしょうか?」

リーザの解析だ。麺つゆの研究だ。

「奥さま鋭いですね。お醤油はこの地元で作られた地元産の大豆、小麦を使っています」

へぇ~

「それらを使って、これも地元の蔵本にて作られた物となります。無農薬の素材に拘ってますが、良い醤油が有りますので、ツユに関しても自信を持って、お出ししております」

“も”って、おっさん先生の打つ麺と、麺作りの指導の事か。

自信が無いと出来ない事は、多々有る。


「ねぎは定番として、柚子や白胡麻も合う。ワサビもいいかも知れないけど。いや、加薬の類いは入れない方がいいかも」

「お蕎麦だけで、充分に味わえます」

目を離したさくらは、口から顎から胸元がつゆだらけだ。


「お蕎麦は美味しいのですが、我が里でも再現となりますと、難しいですね」

帰宅後のミーティングである。

「リーザ、やっぱ材料の面で?」

「はい、そう言った理由となります。小麦と大豆に関しましては、代用出来ます穀物を探れるでしょう。しかしソバ、それとツユとなるお醤油は菌による熟成が要ります」

エルフの里国にも醤油相当のモノは有る。だけどどちらかと言うと、ソースに近いイメージ。

わが国の醤油は、長年(日本人社会での)の技術に加えその環境の影響も大きい。


ここで言う環境とは、醤油作りには『麹菌』と言う麹をつくるための糸状菌の総称であり、カビの一種の存在。

日本をはじめ湿度の高い東アジアや東南アジアに生息しているが、どうやらエルフの里国には、いないそうだ(ヨーロッパやアメリカ大陸にもいない)。

その『麹菌』の中でも日本の麹菌は「コウジカビ」と言って、東アジアである中国や台湾、朝鮮半島などに生息する「クモノスカビ」とは異なり、日本独特のモノ。

よって私達は、醤油、味噌、酢、日本酒、みりん、漬物、、、多くの“日本食”に囲まれ、独自の食文化を形成されている事に『麹菌』より多大な恩恵を得ている。

先人達の知恵、感心と感謝しか無い。


だから、エルフの里国では醤油に加え味噌等の“日本食”を再現する事は難しい。

『麹菌』を向こうに持ち込めば、当然“日本食”を再現する事は可能だと思うし、もっと先の食文化が生まれる可能性は高い。

でも、それはダメだ。

地球上でも、国や大陸間を人間が意図せず共、人間の手、行動によって渡った植物・生物達が、渡った先の原生種の存在を脅かす、もしくは駆逐してしまう現象は多い。

そのきっかけをエルフの里国で私が行う事に繋がったら大変だ。

ただ菌類は、目で見える物でも無いので、私の体や衣服に付いていたモノが、実際に幾らかは向こうに行っちゃてるとは思うので、それらが勢力を広げ、エルフの里国に悪しき影響を現さない事を祈るばかりでは、有る。


「う〜ん、リーザ。うどんも小麦粉を塩と水で練り上げて作るから、麺作りの材料としてのハードルは低いと思ったけど、、、やっぱ麺ツユが再現出来ないと、厳しいな」

みんな大好きうどんだが、麺のコシや歯ごたえも有るけど、やっぱツユだしな。

「そうですね、おソバ、うどん、そうめん、冷麦は残念ながら保留としましょう」

まあ、女王様がこちらに来られた時に、召し上がって頂いたらいいか。

あっ、『これ成るモノを我が里国でも再現するのじゃ!』とか、言い出したりして。

う〜ん、まあ次行ってみましょう。





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