エルフの母王の帰還 さくらに流れる王家の血
ここ暫くのわが家の話題は、石からのご帰還となった、母王ジールの話題で持ち切りだ。
先日、その母王ジールとの謁見は行ったが、母王は何で石から還ったのか、何がそうさせたのか等、そこら辺は一切聞けずじまい。
不思議~、何で何で?の気持ちが続きっ放しだ。
そもそも何で石になっちゃうの?なんだが、そこは魔術だか魔力を持つ者達の世界や物語なので、私の理解は及ばない。
自分の拙い考えや、普通と思っている事、常識が無意味なんだろうなぁ~。だから想像しても、想像が尽きてしまう。
「トキヒコさん、以前にお話ししました。私は一度死を迎えました。その時に、私の生を残して下さったのが、我が王の母王となります。母王より血を分けて頂き、生へと留まれたのです」
リーザの興奮も収まっていない。
リーザの探し求めた命の恩人が、母王ジールだっただなんて!
こんな巡り合わせの出来事も、想像が及ばなかった。単に偶然の賜物なのだろうか?何か、それこそ母王が仰る『縁』なのか?
ほら、私の想像は尽きた。
以前に聞いた話しだと、リーザが人間の年齢感覚で行くと、16、17歳ぐらいの血気盛んな年頃。
一人で出掛けた
狩り場で、リーザは狩りで失敗し、獣達の逆襲を受けた。
勢いだけで突っ走っていた。狩りの技量も力も術も成熟されていない青二才。
角を持つシカ(だったっけ?)の群衆の逆襲に合い、複数の角に体を貫かれた。
傷付き倒れ虫の息。出血量も多く、死を待つのみ。
そこに一人の女エルフが現れた(エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーの母であったなんて!?)。
現れた女エルフは倒れているリーザに、治癒の術を流し込み、傷を塞ぎ、自らの血を分けて、リーザを救った。
その血がエルフの里国の王家、血族の血。邪竜を源とする魔力が含まれた血だったなんて。
でもその『血が持つ力』が有ったからこそ、リーザの命を留めたのかな。
命を留めたリーザは、ホーリョンの狩りの刃(お義父さん)の元に戻ると、狩りを学び直し、その後エルフの門の守護者の扉を叩き、武の力を身に付けて行った。
精神と術の鍛練も抜かり無く、いつの日にか、見果てぬ自身の命を救った者の恩に報いる為に。
「実はトキヒコさん、この辺りに、その時の傷が有ります」
そうでも言われなければ分からない。
リーザの右の乳房を持ち上げると、その乳房の下の付け根に沿うように、薄く細いケロイドの傷跡が有るように見えなくも無い。
おっ!リーザに昼間から誘われている?
「ですが、トキヒコさんと巡り合えました事が、この事に繋がってます。トキヒコさん、ありがとうございます!」
わー!リーザのアタックが強烈だ!嬉しい。
巡り合わせか、、、。
そしてあの日あの時、リーザは命を救われた女エルフに再会した。と言うか、認識した。
まさかそれが、エルフ王家の姉弟妹の母親であったなんて!
エルフ王家は邪竜の血を受け継ぎ、その力を魔力としてその体内に宿す。
さくらの持つ魔力は、エルフ王家の母王からリーザへと渡り、さくらに引き継がれた事になるのか。
ならば、さくらが何らかの力を持つ事に合点が行く、のか?しかし、そんな事が有るなんて、、、驚きで声も出ない。
力を持った血が、他者の間を渡る、、、またも想像は尽きた。
だけど、例えさくらにその“力”が渡ったとして、どうしてさくらの持つ力は、ザーララさんでも届かないような力を持つ事になる?
ぐるぐると、ちょっと目が回って来た。
「此は、力が抑圧され続けた事に依るのか、人間の血と混ざる事依るか?。いや両の相対による協調、バランス、それ故成るか」
わっ!お母さん!
「母王!どうしたんですか!突然!どうやって?!」
ビックリしたぁ~!
エルフ王家の姉弟妹の母が突如のご訪問。だけど、エルフの里国の誰かが来ると、何かの感覚を得て来た私は無反応であった。
だから、こちらに来られた事に、全く気が付かなかった。
あれ?さっき目が回りそうになったやつ?
「何、ユーカナーサリーの痕跡を辿ったまで。トキヒコよ、お主の肝は座っておる、我か来ようが驚きもせぬな」
いやいやいやいや、めっちゃ、驚いてます!
人の家に勝手に上がり込んでるし!そんで土足!
母王は、畏まるリーザに目線を投げ、取る体勢を緩めさせる。
「すまぬな、突然に」
ありゃ?母王詫びたなぁ。
「はい、正直ご返事のしようがございませんが。え~このようなあばら家にようこそお越し下さりました。一応お聞きますが、どうされました?」
「お主を迎えに来た、、、と申したいが、何やら色々と有るようなのでな。我が子、我が民より聞き及ぶ、我が子、我が民達を贔屓にしてくれた礼を言いに来た」
贔屓って?
「お主はザーララを救った。ロウを救った。ユーカナーサリーを救った。エルフが出来ぬ事を行った。我が子、我が民達に代わり礼を申し上げる。この通りだ」
母王は人間トキヒコに深々と頭を下げた。
リーザは驚きの余り声も出せなければ、身動きも出来ない。
エルフ王家の母王の突然の訪問ではあったが、それにも増し、エルフの里国の母王は、自分が仕えている王の親。そしてエルフ王家の者達に限らず、敬意と尊敬、威厳を持って民達に迎えられる存在である。その者が自分の夫であるトキヒコに頭を下げている。
あり得ない事だ。
確かにトキヒコはリーザが思いも寄らない行動をして来た。
しかし、それが我が王のそれも母王が、自ら出向いて来た上に、頭を下げる事など、思いも寄らなかった。
エルフであるリーザの想像と予測が及ばない出来事である。
「いえ、母王。ジールさんとお呼びしますが、面を上げて下さい。お礼を言いたいのは私の方です」
ゆっくりと顔を上げる、母王ジール。その顔は美しい。
「何故に貴公が。我は礼を言われる覚えは無い」
母王ジールはトキヒコを見つめる。
「はい、母王ジールは以前、リーザ、、、『越える者』リーザリー・エクストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンの命を救った。だから、今ここにいるリーザと暮らせております。母王が以前に行った事が、今の私に繋がっているのです。その節はありがとうございました、リーザを救って下さりまして、ありがとうございました」
今度はトキヒコが、深々と頭を下げる番となった。
「私の過去の行いが、貴公の今に繋がっていると申すか」
「はい。今、まさに目の前です」
「そうか、、、」
「はい」
「此れ成るも『縁』と成るや」
「かも知れません、、、ですので、今ひとつお許しを。先日お願いしたした件、我が妻リーザから、母王へも一言お許し下さい」
「良いぞ」
先日、母王ジールの元へ謁見の際に、リーザとの面会を申し入れていたので。
リーザの驚きと緊張は頂点に達し、ブルブルと震え出した。
トキヒコは母王と対等に話す。その上、リーザは突然にトキヒコにより母王へ申し入れをする機会を得た。
今この場、この狭き空間に同席している事さえ、おこがましく、、、分不相応で身の程知らずと思っている。その上に命を繋げる恩を頂いた者でもある。
リーザは畏まり、頭を下げ、母王の顔は無論、その姿さえ見る事が出来なかった。
しかし母王はそんなリーザの事を察した。
「リーザリー・エクストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンよ、面を上げなさい。我が民よ、お前にこそも、我は礼を申さねば成るまい」
リーザは母王の言葉を聞き、更に震え上がった。
しかし、この機会を最大限に使う!トキヒコが作ってくれた機会だ。
リーザはゆっくりと、顔を上げると、エルフの里国王家の母王、自身の命を繋いだ恩有る者に、真っ直ぐに向くと口を開いた。
「母王、、、私はあなたに救われました。生をお繋ぎ頂きました。礼を申さず今日まで過ぎました事をお詫び申し上げます。合わせて、合わせまして、あの刻に頂きました恩、ありがとうございました。ですので、私は今、ここでこうして居られまする」
リーザの口上は早くも無く、遅くも無く、しかし、しっかりと最後には自信さえ感じる程に、母王に対する想いを言い、伝え切った。
「では我も礼を言おう」
母王、リーザに何を?
「リーザリー・エクストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンよ、お前は人間であるスルガトキヒコと添い、子を設けた。スルガさくら也、誉れ也。その者の因にて、我は戻った。お主のお陰である、ありがたき事」
母王からリーザへ、礼である。
リーザはショックを受けた様だ。痺れてる?
でも、さくらが母王を石から戻した?
「スルガトキヒコ、今暫く刻、、、こちらの世での時間と成るが、良いか?」
「はい」
「話しがしたい」
「はい、私もお聞きしたい事が有ります」
「うむ、では貴公から話せ、何なりと申せ」
「はい。母王ジール、今こちらにいらっしゃられてますが、ザーララさんの力を抑える責は大丈夫なんですか?」
実は、母王が現れた瞬間に思った事。
「その事も貴公と話す一つである」
「はい」
「我のザーララへの責は解かれた」
「え?何故なんです?」
「其はなスルガトキヒコよ、ザーララを超える者が現れた。因ってザーララの力が絶対的では無くなった事を意味する」
「それが、、、さくらなんですか?」
「そう成る」
ザーララの力、、、神をも彷彿させる説明の出来ない力。無から有を造り出したり、そこに居るだけで他の者が身動き出来ない程、周囲を圧倒してしまう存在感。
それをさくらが上回るって、、、。
「スルガトキヒコ、貴公も知り得たと思うが、我ら王家は邪竜の力をルーツとする魔力を持つ。特にザーララに於いてはそれが色濃い。正に邪竜の生まれ変わりと呼ぶが宜しい。しかし」
「しかし、スルガさくらはそれをも超えた。それ成るが、魔力の抑圧であった事に因る事なのか、人間スルガトキヒコの血と混ざる事でそうなったのか」
「ですが、さくらに母王ジールの持つ、邪竜をルーツとする血が伝わったとして、リーザを経由してます。この事は関係無いのでしょうか」
「解らぬ、、、だがもし、此度の力が血が興した事と成ると、スルガトキヒコよ、貴公の血が狙われるやもな」
「え?何で私の血が?」
「力を持ちたい者が現れたとせよ。スルガさくらとザーララ、この二者の血を取る事が果たして可能か?ならば次なる手は貴公に伸びよう。我ならそうする」
いや、そんな物騒な者が居るとか思いもしない、平和なエルフの世界じゃ無かった?
魔術的な側面の世界が別に有る?
「貴公は“血”と表現するが、正確には異が有る」
「はい」
精子か遺伝子だな。
「“唾液”なり“精液”ならば容易に取れよう」
「えっ?まぁそうですが」
精液って、、、これでも製造期間とか製造工程が要ります。女性が言うのを聞かされると、何かエロいなぁ。
「又の、身体の一部、其れこそ組織細胞を要するであらば、貴公の身体を千切り取れば済む」
ひやぁ〜!それはマズイ。マジでヤバい!
「母王ジール、私の体を引き千切る様な者は存在するのですか?」
ちょっと、ビビってる。
「我も万能で無ければ、全てを知る者に非ず。しかし、力を欲する者はどの刻、どの場にも誕生し生息する事は、容易に想像される範疇で有る」
まあ、地球上の歴史は、形はどうあれ、力を求めた者達の物語でもあるもんな。でも、エルフの里国の有る世界でも?
「どうしましょう」
「案ずるな、スルガさくらを近く置け。叶わぬなら、ザーララを貴公に就かそうぞ」
ザーララさんは頼れる。だけどもう、私が何れ誰かに襲われる事が前提になってる!?
「母王ジール、先程あなたはリーザに、さくらの因にて、お還りなられたと言われた。先日の先代王ファウスとズゥイラーによる、王家の血が引き寄せられた事との関連では無かったのですか?」
ファウスとズゥイラーにエルフの里国の王の血族が、血の力を求められたからでは無いのか?
「其の事、我も引かれた」
石の状態でも!?
「だが其れは、此度の我の帰還に関しては小さき事。しかしながら切っ掛けと成るは、スルガさくら解放に遡り、その後のあれ成る“力”の認識こそが、全て」
ザーララさんの山岳城で、さくらが覚醒?した時に、お母さんを起こしちゃったのね。
では、遅かれ早かれ、さくらが“力”を発揮していたならば、母王は石から戻っていたのか。
でも、何で?だとしたら、、、
「では、母王、、、さくらの持つ“力”は、ザーララさんの様に誰かが抑えなければならないのですか?」
私がその責を担おう。ためらいも迷いも無い。
問題は、、、そんな事を行える力を私、持ってるの?
「其所が不可思議にて不思議也。スルガトキヒコよ、貴公はその言のみでスルガさくら也存在を制御しようぞ」
あ~、そこは親子の関係なので。
あれ?でも反抗期って?
「其かとな、スルガさくらは“力”を得、発揮とされる際には、精神面の熟成が進んでおった。其は幸い成り事、方向を知り得た後の事成る」
方向?さくらは何時でも迷っているけど。就活とかどうしてんだろう?




