エルフの里国の母王への謁見
私と女王ユーカナーサリーは、エルフの里国の王宮の五階に当たる、最上階の部屋前に到着した。
私は初めて訪れる階、場所である。
この部屋の入り口扉も背が高い。でもそれは、エルフの里国の初代王であるファウスを知ると違和感は感じなかった。
だけど、、、突然の事とは言え、手ぶらだで来ちゃった。
「母様、スルガトキヒコ参りまする」
女王ユーカナーサリーの声と共に観音扉状に弱い風を含みながら、扉は外向きに開く。
一歩部屋内に進み、作り込みが細かい造作の柱や建具、家具などが並び、豪華な部屋である事を即座に感じた。
それはこの世界、エルフとしては、不釣り合いと感じる程に。
女王ユーカナーサリーは扉で立ち止まり、私と歩を合わせない。
「あれ?女王様は?」
「トキヒコ殿、我はここまでじゃ。我はこの場へと進む許しを母様から得ておらぬ」
ええっ?ユーカナーサリーはエルフの里国の王様なのに?!
「トキヒコ殿、母様を待たすでない」
私は頷くと、母王へと向き直る。扉は自動的に音も無く、閉じた。
私は歩み出した。一歩、二歩、三歩、四歩、、、15歩。そして左に折れる。
左に向いたその先には、二つ並ぶ左の椅子に、母王が座っている。
少し距離の有るままに、私はリーザと女王ユーカナーサリーの玉座へ訪問した際を真似て、片膝を着く。
「え~、お初に、、、」
先日会ってる。
「え~この度はお招き頂き、、、」
う~ん、挨拶の内容考えて無かった。
「スルガトキヒコよ、慣れぬ事は不要」
いえ、もう随分こちらに訪問を続け、大分サマになって来たと思ってたんだけどなぁ。
「スルガトキヒコ、近こう寄れ」
母王がそう言い、母王の前に椅子が現れた。
(わっ!ザーララさんと一緒、神の行い!)
「スルガトキヒコ、我に近こう寄り、座せよ」
命令口調なんだけど、日本語なんだよなぁ~。いつの間に学ばれた?
私はエルフの里国の母王の正面に座る。
どうやらこの部屋には、私と母王以外の者は居ないようだ。
この間受けた『圧』は感じない。さくらが付けてくれた印の効果か、母王の仕業か。
母王は若い。見た目はリーザやザーララさんと変わらない、人間で言う所の20代後半~30代前半。
実は女エルフは、性交渉の経験を持つと凄く艶っぽく色っぽくなる。男エルフ達は気付いていないみたいだけど。
それにも増して、母王は見る者を惹き付ける、目が逸らせられなくなる漆黒と真紅のオッドアイを持つ。反則だ。
見た目が美人だし、普通の人であればイチコロだ。
私は美人に苦手意識を持っているのが幸いしているし、何よりも、リーザが居るので耐えられる。
「我はジール也。このエルフの里国の先代王の伴侶であり、現王の母と成る」
はい。
「改めてまして。私はスルガ トキヒコと云う名の人間です。縁有って、ここ、エルフの里国に訪問させて頂いております」
母王が名乗った。私も名乗り礼儀を返したつもり。
「縁か、、、縁と申すか。人間、人間也か。我らとは異と成る場の生命体。しかし、こうして見ると、外見から来る差異は感じられぬ程と成るな」
そう、客観的に見ると、不思議、、、エルフの里国の初代王、ファウスの言葉から想像した内容が思い返えされる。
ファウスの右腕の細胞が、人間と云う生命体の基となる遺伝情報に混ぜ込まれた、、、いや、違う。
「え~母王ジール、失礼ながら、何用でしたでしょうか?」
畏れ多かったか?でも私にも私なりに予定は有るのよ。
「うむ、そなたの存在は感じておった。しかし、感じるだけだ。こうして逢い見舞える事と為ろうとは想いもせなんだぞ」
それは私も同じです。
「歳日にそなたを見た。其から、そなたへの興味が尽きぬ。スルガトキヒコ、そなたは何者ぞ」
え~、『我は神を創りし者、ゴッド・オブ、、、止めトコ。
「一般的(ちょっと劣るか?)な、人間です」
「異也。そなたは一般とする範疇で括れる者か?其はザーララ、ロウ、ユーカナーサリー、そして我が民達から伝わる意識より分かるぞ!何がそなたを括らさぬ」
何かやらかしたっけ?何がバレてる!?
「エルフの方達から見て、私は物珍しいのでしょう」
まあ、他の人類、他の人間の訪問者が今の所、いないそうだから。
「物珍しい、、、確かにな。又、そなたは『縁』と申すが、縁と成るべき因は何と也」
「それは、、、『越える者』リーザリー・エストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンとの出会いに遡ります」
「その流れ成る、ユーカナーサリーより聞き及ぶ」
あー、私の事は色々とお聞き済みですか。
「他成る『因』『縁』は如何に」
「う~ん、分かりません」
「うむ」
確かに、どうして私はリーザと出会えたのだろう。
リーザは女王ユーカナーサリーの命で人間界、私の居る町に来た。でも何で、私の居る町だったのだろう?そしてそこに、たまたま私が居合わせただけなのかも知れない。
たまたま、、、偶然だけなのだろうか?でも考えても答えは無い。それこそ『縁』なのかな。
「スルガトキヒコよ、先ずは我と添へ。其の後にこの玉座へ着け」
ええ~!何突然!どういった話しの方向!?
この前、女王様も似たような事言ってたよなぁ。親子だからか?
「母王よ、何故私がエルフの里国の玉座に。私は別世界の、それも何も持たぬ人間です。エルフでは御座いません」
能力も無い。
「お主には、その資質を持つ。」
資質?
「おっしゃられる意味が理解出来ません」
「現王ユーカナーサリーとて、正確にはエルフと呼べぬぞ。其は我自身が純成るエルフと括れぬと同意。しかしして、エルフ為らなければエルフの里国の玉座に着けぬ決まりは無き。」
「いえでも、能力とか民からの支持とか、資格とか、私は何も持ってませんよ」
王様の資質って何?
「構わぬ。」
「いえ、構います。それに私には伴侶も居ます」
「構わぬ。其方こそ、問題無かろう」
あれ?もしかして、エルフは一夫多妻のやつ?
「どうだ、お主には何も損、と成らぬであろう事。」
あ~、エルフが損得って、、、まあ、純粋たるエルフでは無いとおっしゃっていたが、ちょっとなぁ。
「母王ジール、このお話しは無しです」
「如何にて?」
「そもそも私にその気が有りません。それと、私はエルフの皆さん程の寿命を持ちません。私は、、、私は、、、」
私は、エルフと比べ凄く短命。
「私は、エルフと共にその生を歩めません、、、」
私の人生は、もう折り返し点を過ぎているだろう。
「そうか、無理強いは良き行いとは成らぬな。しかし、スルガトキヒコよ、諦め、も良き事とはならぬな」
いや、そこは諦める事も肝心です。
「して、スルガトキヒコよ、何ぞ望みは有ろうか。」
望み?
「そうですねぇ~」
何か『望み』を求められる事が良く出て来るなぁ。『エルフは与える者』の一面が?でも、私は何を望んでいるんだろう。
人間の欲望は無限だ!だけど、、、。
「私の望みは、今これと言って有りませんね。今の状態が望んでいる事のひとつなのでしょう」
あ、プラモを塗る時間!
「おかしいぞ、人間は『強欲為』と聞き及ぶ。お主は誠の人間成るや?」
「ええ、一応そうです」
「スルガトキヒコよ、此の場に留まれ。我は歓迎致す。我が民にて、其を望む者も多かろうと聞く。如何為る?」
「え~、いつの日にか、そんな日が来てもいいかとは思ってますが、まだ少し、向こうの暮らしも有りますので」
女王様、女王ユーカナーサリーには、散々お誘い頂いてますが、、、何か踏ん切りが付かないのと、さくらの学校教育が少し残っているし、さくらがその後、就職するのかどうするのかを見なくては、、、さくらの歩むだろう道を見て、知りたい。
そうか、私が望む事は、さくらの行く末を見る事か。
「母王ジール、私の望み、有りました。我が娘の事をもう少し見守る事です。ですが私は何もしません、ただ娘の将来をもう少し見たいのです。ですので、お誘いは嬉しいのですが、今はお断りさせて下さい」
「スルガトキヒコの児、スルガさくら成るな。」
「はい」
「あの者に、、、いや、我が言う事も無かろう。お主の児、其の道を決めるは当人也。が、しかしその独立を出すは親為る。」
『独立を出す』?何かイマイチ分からん。帰ったらリーザに聞いてみよう。
あ、リーザ。
「母王ジール、やっぱ望みと言うか、お願いが有ります」
「何ぞ?」
「はい。我が伴侶のリーザリー・エストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンに、母王ジールと面会する機会を与えては頂きませんでしょうか」
「構わぬが、我より都合は知らせようぞ。」
「ありがとうございます」
私は母王ジールの居るこの部屋から、無事退室出来た。
でも、ちょっと肝心なトコ、初代王ファウスの世界についてとか、何で母王が石からお還りになったのか、さくらの持つ力の根源とか、、、、今回のモロモロの事について、一切お話しをしなかったよ。
扉の向こうでは、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーが待っていて下さった。
「トキヒコ殿、如何じゃ。トキヒコ殿の受けた命は何ぞ?」
「命令?いえ、特に何も有りませんよ。あ~、改めて思い返しますと、何か世間話し?って感じでした」
別に何かを探られたり、返事に窮する事も無かったしなぁ。ホント、世間話しだったな。
「母様と世間話しをした者なぞ聞き及んだ事が無いぞ。我らにとり、母様は絶対的な位置と近い。母様の言が全ての時もあるのじゃ。故に何事も断れぬ、逆らえぬ。」
やっぱ、想像していた以上に権限を持ってそう、、、何か怖いし。女王様は母王に対して、畏怖の念をお持ちなんだな。リーザもそうだ。
あれ?でも私、何か断ったぞ、色々と。
自宅に戻ると、外は小雨が降っていた。
あー、、、。
私の使うプラモデルの塗料は、湿気は対敵です。
「母王ジール、、、一個貸しだぞ」




