エルフの塩
私が訪れている、エルフの里国には海が無いと聞いている。
だから、塩をどうやって手に入れているのか疑問が湧いた。
ここで言う“塩”は、塩味の調味料や塩漬けに用いるモノだが、地球上の多くの生物は適量の塩=ナトリウムがないと生命を維持する事が出来ない。
それはこちらの世界の生き物、エルフ達にしても同じだろう。
塩の供給は、生命ある者にとって欠かせないものであり、塩分の補給は重要だ。
私達の世界、日本に居るなら、スーパーやコンビニに買に行けばいいのだけどね。
そんな生活環境にいたら、塩をどうやって手に入れる?何て、改まって考えもしなかった。
だからかな?エルフ達がどうやって“塩”を手に入れているのか知りたくなった。
我々人類も狩猟時代は動物の血や肉に含まれる塩分に頼っていた頃があったが、農耕が始まり穀物や野菜中心の食生活になると、別の形で塩分を取る必要に迫られた。そこで、海水や湧水からの塩の採取を行う様になった。
まあ、塩分の取り過ぎは高血圧とか腎臓病、心臓病、脳卒中などの病気を引き起こす遠因となったりするとも言われているが、お陰様で私は中年を向かえつつも、そこら辺の制約も気にせずに暮らせられている。リーザのお陰かな?
『ソース掛け過ぎ』って、咎められるけど。
今日は、エルフ達の塩の採取先となっている、ジェジーロソロと名の『塩湖』に来ている。
塩湖は、元々海であった場所が、地形の隆起と共に取り残され干上がった跡や、池や湖に塩分やミネラルを含んだ水が流入してもその出口がなく、水が蒸発するが溶け込んだ塩分はどこへも出て行けず、水中の塩分濃度が濃くなる事もある。
ただ、ここジェジーロソロ塩湖は、岩塩の上に有った湖が永い年月の果てに干上がり、塩分が残り『塩湖』と成ったと推測されている。そうだ。
ただし岩塩も、海水が地殻変動のため隆起して陸上に閉じ込められた後に、水分蒸発で塩分が濃縮し、結晶化したものとも言われており、やはりエルフの里国の外の世界には、海に相当するモノがあるのかなぁ~と思う。
海は生命の源だからな。
ジェジーロソロ湖。
水が干上がり塩湖となった場所。
見渡す限り、白い場所。
ここはエルフの里国としては、南に位置しエルフの里国の際、正確にはエルフの里国の外となる。国境かな。
ジェジーロソロ湖は、女王ユーカナーサリーの庇護の下と成らない、エルフの里国外のエルフ達も利用する。
お互いに契約は無いが、暗黙の了解は有る。
それは、お互いに干渉(邪魔)しない事。
エルフの里国としての管理は、南門の守護者『左に立つ者』レウラーイの管轄となる。
南門の守護者レウラーイは『左に立つ者』として、王の左に立ち、王を守る存在。
大戦士と呼ばれるエルフの一人である。
塩の採取は、ほぼ定期便のごとく行われ、精製されたり塩田を作る原料になったりと、エルフの里国周に配られる。
配られる塩は、大小の木製ボトルに詰められ、コルクの様な栓がされる。
実際にエルフ達の食卓にある塩は、私の世界の塩と見た目もしょっぱさも変わらない。
塩湖『ジェジーロソロ湖』
大分遠くまで来た感覚が有る。
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーの結界内の南端部になるそうなんだが、それはこの塩湖の際まで。塩湖には女王の結界は届いていない。
それはこの場を他の里のエルフ達も利用するから。
真っ白な地面の湖の跡。
意外と多くの人影が見られる。
「リーザ、土足で入っていいのかな?」
「はい、問題ございません」
「それと、、、」
「はい」
「女王様、ユーカナーサリーの比護の下とならないエルフ達との接触は、避けるべきかな」
私はエルフの里国の民達か、そうではないエルフ達の区別が着かない。
「先方から、向こうから何かの申し出等がございましたらで良いかと。ですが、別段に構えられなくとも良いかと。何かございましたら、私が居ます」
リーザ、頼もしい!
ただなぁ、何かトラブルメーカーなんだよな、私って。
遥か向こう岸、ジェジーロソロ湖を挟んだ対岸に広がる景色は、エルフの里国の外の世界。
この塩湖を迂回して行くには、山々を越えなければならない。
でも、塩湖を突っ切れば最短コースだろう。
どんなエルフ達が暮らし、町並みがあったりするのかなぁ~。
行けるモノなら行ってみたいのが、正直な所。
ただ、この塩湖であるジェジーロソロ湖の中に長時間留まる事は、喉の渇き、体内の水分を取られるので、長居は禁物との事。
だから塩湖を横断するには、それなりの準備が必要で、歩いて向こう岸まで行くことは、現実的では無いとも。
見えるけど、遠いって事ね。
ジェジーロソロ湖に足を踏み入れる。
『硬い!』が第一印象。塩(塩分を多く含む土)だから、サクサクと踏みつけ、削れながら歩くモノだと思ってた。
「リーザ、印象が大分違う。もっとサクサクと柔らかい土地だと思ってた」
「はい、持っていました印象と合わせて、見た目とは違いますね。何事も実体験には敵いませんね」
全くだ。
塩湖の地面に手を触れる。
白い塩粒の中に砂や土が混ざり込んでいる感じ。
ちょっと舐めると、やっぱしょっぱい。塩だ。
「トキヒコさん、あちらに伺いましょう」
リーザが指差す先には、三人のエルフが塩の回収作業中だ。
塩湖を歩く。
雪の中を歩くイメージをしたが、サクサクとする分けでも無く、どちらかと言うと、砂の乗ったコンクリートの上を歩いているかの様に硬い地面を歩く感じ。
リーザが声を掛ける。
複数のエルフが相手でも、同時に意志疎通までしてしまう。流石ハイエルフ!
あ、紹介されたな。リーザが私に振り向いた。
(私はエルフ語出来ないし、相手の意志を読み取れません)
「あ~、スルガ トキヒコと申します。別世界から来た人間です。皆さんの作業を邪魔しない様に見学させて下さい」
こう言った挨拶の時に、『越える者の夫です』『妻がいつもお世話になってます』とか行った方がいいのかなぁ?
あれ?そう言えばリーザって、何時も私の事を何と言って、相手に説明しているのだろう?
この塩の取り出し作業場は、既に地面に四角い凹みの穴が幾つか有る。
作業を見学すると、薄い円盤状に削り出された石板を木で組まれたキカイに地面に対して垂直にセットされている。
円盤状の石板は厚さ5mmも無いだろう。非常に薄く大きな円盤状のモノ。
木製キカイの上部に有るハンドルを回すと、石板の円盤が回転し、地面に切り込みを入れる。
私達の世界で言う所の、アスファルトに切れ目を入れる機械式の“カッター”だな。
既にある四角い切り出し場所を広げて行く形で縦、横、縦とそれぞれ一辺50cm強の切り込みが入ると、既に取り出した跡の窪みに降り、切り出す底に当たる部分に、木板をセットし、ハンマーで横に打ち込む。
すると、塩土の四角いブロックが切り出された。
いつもは縦方向に、ダーっと切り込みを入れるそうなんだけど、特別に単体でやってくれた。
切り出された、塩土ブロックを渡される。
だいたい一辺50cm、高さ15から20cmの塩土のブロック。重い。
この塩土ブロックを切り出しても、塩湖の外まで運び出さなくてはならないので、作業の全体時間が長引かないように、余り塩湖の沖、中心部には向かわないそうだ。
塩土の切り出し作業の見学を続ける。
だぁ~っと、2本の平行した切り込み線が5m程になると、今度は50cm間隔で2本の切り込み線を渡る様に、切り込みを入れる。
すると、先程の木板とハンマーの登場だ。
だいたい50cm四方の塩土ブロックか次々と切り出され、ブロックが10個になった所で、台車に乗せ塩湖の外へと向かう。
塩湖上での長時間作業は禁物だ。
私達も一度、塩湖を出る為に、台車を追う様に歩き出した。
ジェジーロソロ湖の外へ塩土を運び出した時、その者は歩いて塩湖を渡ってくる。
いや、瞬間瞬間に『渡る』止まるを繰り返して行い、まるで歩いている様に見える。
自分の身体を空気や風に近い状態の様にし(詳しく分からないです。そのメカニズムも形態も分かりません)『渡る』事が行えるのは、所謂『ハイエルフ』と呼ばれるエルフを一段超えた者であり、強い魔力を持つ少数の者。と聞かされている。
こちらに向かって来るのは、ハイエルフだ。
それも『渡る』を繰り返し行うなんて、相当強き魔力の持ち主だ!
何者だろう?
「リーザ、『ハイエルフ』が来る。知り合い?」
リーザも『渡る』を繰り返し、こちらに向かって来るエルフには気付いていた。
「私の知らぬ者です」
リーザ、少し緊張しているか?
何者?と思いつつも、あっと言うま間にそのエルフはジェジーロソロ湖の湖畔に立った。
こちらに向かって歩みをつづける。
リーザがそのエルフと私の間に立ち、何やら会話を交わす(エルフの言葉なので分かりません)。
ジェジーロソロ湖の向こうから来た者。
塩湖を横断するのに特別な準備も装備もせず、『術』か『魔力』を使いあっさりと渡って来た。
「私はこのジェジーロソロの向こうに位置する里の長である」
あっ、リーザになんと言って私が紹介されてのか、聞き損なった。
「人間スルガ トキヒコ。興味深い存在。会いたかった」
別のエルフの里の長と言った者。
長って、その里の村長か町長か?いずれにしても代表者。しいては『王』とも呼べる存在?
初対面となる、身体の大きなエルフに見下ろされている。
何の用?




