リーザのお菓子作り
「トキヒコさん、お願いがあります」
私はさくらとお絵描き中だ。3歳になったさくらはお絵描きが大好き!(たぶん)
買い与えたお絵描き帳やスケッチブックは直ぐに満タンだ。
12色のクレヨンと36色の色えんぴつを使っているが、今や広告の白い裏、ダンボール箱、プラモデルの箱の底等々、何でもさくらのキャンバスになってしまう。
自由に思いっきり描いて欲しい。描けばいい。
でも、さくらが赤いマジックペンを手にした時は大変だった。
私のフィギュア、模型雑誌、バイク雑誌、、、気付いた時にはそれぞれの口の辺りがグニュグニュぐにゃぐにゃっと赤のマジックで描かれている、塗られていた。
(攻撃の?)対象は男、女、動物の関係無く、『口』と判断されたモノ、その箇所はさくらの赤マジックペンの餌食となっていた。どうやら唇のピンク、もしくは口紅を描き加えたと想像される。
でもさくら、自分の絵本には描いて無いのな。
珍しい、リーザがお願い?要求する事が有るなんて。
「はい、なんでしょう?」
何か見付けたのかな?キレイな服とか、鞄?靴?
「ええ私、お菓子作りを始めたいと思います。ですが、色々と道具を揃える必要性が発生してしまいました」
「お菓子作りの道具?」
「はい」
ん~、具体的にどんな物が必要なのか、分からん。
「お菓子作りにつきまして、色々と見たり読んだりしましたら、どうも我が子へのおやつは母親が作るべきとの結論に達しました」
エルフは自身が決めた事を、、、いや、ここでは母としてかな?
「おやつは、市販の物でも遜色はございません。でもですね、お菓子作りを私も見て、知る内にですね、私も興味が湧きました!」
いい!個人的な趣味を余り持たないエルフにとって、凄くいい傾向だと思う!
リーザはどんなお菓子を作ろうと思ってるのかな?
「ですのでトキヒコさん、お願いします」
リーザが自分の前に手を合わせ、お願いして来た。
「全然OK!むしろそれなら、こちらがお願いしたいよ」
「ありがとうございます!」
この程度で抱きつかれるなら、もっと色々要求して!
「良かったな~さくら、ママがお菓子作ってくれるぞ~」
「ママがお菓子、作る〜沢山〜作って!ケーキ!」
さくら、伝わったか?でも嬉しそうな顔をして、かわいい!
「で、さくらのおやつって事だけど、私の分もあるの?」
「もちろんです。トキヒコさんは毒見役ですから」
え?毒見役って、、、何を作ろうとしてるの?
ただ、お菓子作りを知らない私にとって、リーザがどんな道具、何を要求して来るのかは、ちょっと想像付かないので怖いトコも有る。
「それで、お菓子って、何から挑戦する予定?」
リーザ、何を作ろうとしているんだろう?
「トキヒコさん、それはマドレーヌです!」
マドレーヌってどうやって作るの?どんな道具、特別な何かが必要なのだろうか?
「マドレーヌいいね、私好き。甘くてしっとりしてて、美味しいよね」
リーザとさくら、三人揃っていつもの郊外ショッピングセンターへ向かった。
車で出発!
マドレーヌの材料は、無塩バター、バターと同量の小麦粉、卵、砂糖、ベーキングパウダー、、、これらは買い揃えられるな。
ショッピングセンター内には、お菓子作りの材料や道具を扱う専門コーナーがあった。
店内を見て回ると、キッチン用品とはちょっと違う形の道具が並ぶ。
並ぶ道具はピカピカでキラキラしてどれもきれい。そしてアールの付いた優しい形の物が多い。
お菓子やケーキの飾り付け用の材料である色取り取りのチョコレートやカラービーンズ、クルミの実や小さなナッツ等が小袋に入れられキレイに陳列されている。
その並ぶ小袋を見ているだけでも、色取り取りでキレイで見ているだけでも楽しい(実際にカラフルなのを口にした時の感想とは別)。
さくらのワクワクも伝わって来る。
さて、ではではどんな道具がお菓子作りには要るのかな?
ボール、泡立て器、測り。この際計量カップも買い替えよう。
「リーザ、あと何が必要?」
「そうですね、焼き型に使用します『型』ですね」
ああ、焼き上がった背中(上?)に付く貝殻の形のヤツね。
一概に『型』と言っても色々と有る。材質も金属製の物から、シリコン製!?シリコンって熱に耐えられるんか!
焼き菓子の類いであれば、紙製のケーキカップなんて物の有る。
マドレーヌ用の型、、、見慣れた長めの物から、もう少し小さくって二枚貝の片側みたいなやつ。
シリコン製のキャラクターの顔や形の物も有る。でもコレだと人形焼き?
さくらはクマちゃんの形の物に興味を示したが、実際にクマちゃんの焼き菓子が出て来たら、可愛いくって食べれ無いぞ。
「コレにしましょう」
リーザは結局、オーソドックスな長めの貝殻見たいになる焼き型に決めた。
「基本から、って感じでいいと思うよ」
一度に六個マドレーヌが焼ける。
電動式の泡立て器も合わせて買った。
リーザの運動能力ならば泡立てなんて問題無いかも知れないが、折角この世界に居るのだから、文明の力を使っちゃいましょう。さくらも将来お手伝いで使えるだろう。
お菓子道具、マドレーヌの材料を買い込んで帰宅した。
早速リーザは腕まくりをして、キッチンのテーブルに道具と材料を並べた。
「では、やってみます」
お菓子作りのレシピ本は買っておらず、リーザがネット検索で見たモノのメモがレシピだ。
でも、マドレーヌ作りの工程は、頭の中に入っているそうだ。
エルフ、賢いからなぁ。
マドレーヌの材料、無塩バター、小麦粉、卵、砂糖、ベーキングパウダー、、、混ぜる。
香料を加え良く混ぜ合わせオーブンで焼き上げる、、、。
なんだそうだけど、生地を泡立てたり、途中で冷蔵庫に生地を寝かしたりと、思っていたよりは手間が掛かるみたい。
オーブンは先日購入した、ちょっとお高い電子レンジ、オーブンレンジにパンやケーキを作る機能を持っているので、取りあえずそれを使ってもらう事とした。
生地は、パウンドケーキとほぼ同じで、レモンの皮としぼり汁を加えることもあるそうで、確かにレモンの風味の有るマドレーヌを食べた記憶がある。
最後に溶かしたバターを混ぜいれ、生地を焼き型に入れてオーブンで焼く。聞かされると問題無さそうなんだが。
「お菓子作りは、『レシピ通りの分量を守りレシピ通りに作る』ことが大切です。よって正確さが重要です」
「はい」
「生地を混ぜて作る時には色々と、手間と加減が重要です」
「はい」
「混ぜ方が足りないのはいけません。ですが、勢いよく混ぜてしまい大きな気泡が出来るのもいけません。生地の仕上がりに悪影響が出てしまう為、気を付ける点です」
「はい」
私とさくらはキッチンから退散し、お絵かきに戻った。
「さくら~、何描いているの?」
さくらの自由帳を覗き込む。
ぐしゃぐしゃっと多くの色で多くの曲線が入り乱れ、正直分からん。
「ママ」
「ママ?」
私がそう答えると、さくらはキッチンでお菓子作りに励むリーザを指差した。
「そうか、さくらにお菓子を作ってくれてる、ママか」
さくらはニコ~として私を見上げて来た。
「さくらの絵と、ママのお菓子とどっちが先に出来るかなぁ」
楽しい嬉しい。私は嬉しい。
こんな風に家族に囲まれ、一緒に過ごす生活なんて、想像すらした事が無かった。
そんな自分を想像する事も思いもしなかった。
そんなこんなで、生地が混ざって完成したと。
「この後、冷蔵庫で2時間程寝かします」
「ええ〜、手間が掛かるんだ。もっとすんなり焼きの工程に入ると思ってた」
「何事も準備と順番は大切です。手間が掛かった方が、美味しい物が出来る気がしませんか?」
「うん、一理有る」
きっちりとリーザが2時間を計った。
冷蔵庫で寝かされていた生地を取り出し、ようやく今回購入した貝殻型の焼き型の上に生地が載った。
「オーブン機能で190度、12分に設定しました。もうすぐに出来上がります」
リーザが「フンムっ」と気合の入った顔をしてる。
わぁ〜、これは楽しみだ。
さくらの絵が描き上がった。
2時間以上を掛けた(途中で昼寝してたが)大作だ!
描き出しはぐちゃぐちゃの入り乱れる線の集合体だったのに、そのまま描き進め、人の姿とお菓子作りの道具が浮かび上がってる。
天才か!?
「さくら、凄いよ、すごくいいよ!絵の才能が有るぞ!額に入れて飾ろう!」
親バカで有る。
さくらは私をニコ〜と見上げて来る。
将来は画家か?
親バカで有る。
そんな事を思っていたら、マドレーヌが焼き上がる、いい匂いがして来た!
「出来ました!」
リーザの笑顔と共にマドレーヌが届く。
「トキヒコさん、毒味役をお願いします!」
「さくらより先でいいの?」
さくらが見上げて来る目線が怖いのだが。
「さくら、トキヒコさん。お父さんの判定を待ってからとなりますよ」
責任重大だなぁ。さくら、お預けされてる仔犬みたいだぞ。
「では、お先に!頂きま〜す」
ハグっと!
焼きたてだ!外側は「カリッ」としているが、中は「ふわっ」だ!
「美味しい!焼き立てのマドレーヌを初めて食べたけど、美味しい!温かいのもいい!感動!」
うわぁ〜最高の毒味役だ!
さくらも一口食べて、嬉しい顔を振りまいている。
「リーザ最高!リーザ・パティシエの誕生だ!」
もうお店のモノは食べられ無い。




