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ハーフエルフの父  作者: タマツ 左衛門


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リーザの出産

 連絡が来た!

「はい、ありがとうございます。なんとか早めにお伺いします!」

 ヨシッ!

 早引きと休暇の届けを出し(書類は申請日だけ空欄で準備していたし、周囲には言っておいた)、午後の勤務時間内だが会社を後にする。

 来た、来た、来たー!


 連絡を下さったのは、リーザが出産で入院している産婦人科の病院、マタニティクリニックからだ。

 私に先んじて、同伴者がリーザに寄り添って頂いている。

 同伴者は、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーだ。

 リーザの出産に関しては、立会い出産を申し込んである。

 出産立ち会い者も、女王ユーカナーサリーだ。


 妊婦のリーザは特別だ。

 それは、リーザのお腹の中には人間とエルフとの間にて初めての命を宿している。


 私達の赤ちゃん、人間とエルフ、未知なる者同士の融合とでも呼べるのだろう。

 だから、リーザの懐妊の発覚から今日まで、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーの魔力と術によって、観察と調整を行って来て頂いた。

 だからと言って、不確定要素がゼロでは無いだろう。

 それと、私は不安感と心配心で潰れそうだ。

 それは、赤ちゃんの誕生に対する期待と肩を並べてしまっている。

 不確定要素と不安要素。

 だから、女王ユーカナーサリーに助けを求めた。


 私はアパートへも寄らず、職場から直接マタニティクリニックへ向かった。

 早く、早く、早く~!

 気は焦るが、電車は必要以上に速くは進まない。

 分かってる、分かってるけど。


 駆け込む様に、マタニティクリニックの診察受付窓口に顔を突っ込む。

 リーザは?!

 まだ入院となった、個室の入院室に待機中との事。

 病室番号を再確認して、駆け出す!

 あ、、、ここは大人しく、気持ちが空回り。


「リーザ、どう?」

 陣痛が始まっているとは聞かされていたが、リーザは苦しいとかキツいみたいな態度は表れていない。

 ただその時を、来るべきその瞬間を穏やかに待っているように見える。

「現在分娩第一期の終盤へと向かってるに思われます。私は陣痛室へ赴く事せずとも過ごせそうです。ですが徐々に痛みを感じる事が増えて来ました。3分間隔で陣痛と成る刺激と痛みが参ります」

 わぁ〜、全く分からない。リーザ大丈夫なの?


「ユーカナーサリー、リーザをお腹の赤ちゃんをお願いします」

 私はエルフの女王にすがる。

 私は想像される不確定要素にも自分が持つ不安要素にも、無力だ。

「トキヒコ殿、案ずるな。ここまで、今も順調ぞ。我が保証する。それは我自身の命に同位となる事ぞ」

 女王様の太鼓判。それでも私は不安感に取り付かれている。

 心配と恐怖心に襲われ、震え出しそうな体を必死に抑える。



「トキヒコ殿、時が来たようじゃ」

 女王ユーカナーサリーがそう言うと、ドアにノックの音がし、ストレッチャーを押しながら二人の看護師さんが部屋に入って来た。

 リーザは自力でストレッチャーに乗ると、横になった。

 私はリーザのその姿を見たら、ろくすっぽリーザに声を掛けられていない事に気付き、慌ててストレッチャーの横に立った。

「リーザ、調子はどお?」

 声を掛けたが、何かオレ、間抜けだ。

「問題無きでございます。」

 そう言って微笑むリーザに救われる。

 私は何時でもリーザに救われている。こんな時でも!

 ストレッチャーに横になるリーザの手を握りながら分娩室へと続く廊下を進む。


「それではトキヒコさん、行って参ります!」

 リーザは気丈だ。

「うん、リーザ頑張って!」

「はい!」

 飛び切りの笑顔を向けてくれた。

「皆さんお願いします」

「女王様、お願いします」

「うむ、トキヒコ殿、案ずるな」


 分娩室は新しい生命が誕生する、明るく希望の有るべき場所だ。

 だけど私は、、、

 私は希望を持ち、期待を胸に、笑ってリーザを送り出せなかった。

 リーザの目に写っていた私の顔は、、、どんな顔をしていたのだろう。

 こんな気持ちで居ちゃいけない。でも、自己嫌悪の場所が有るなら、私は真っ逆さまに落ちている。


 私が待つ、この場所からは分娩室の様子は見えない。

 何もやれる事も無い。

 祈る想いしか無い。

 だけど、そうだ、祈るぐらいは出来るであろう。

 私が祈りを送る相手は今頑張って要るリーザ。リーザの近くで見守って下さっている女王ユーカナーサリー。何よりお腹の中の子。そして、自分にも、ちょっと。

 私の想いの幾分かでも、リーザに届け!お腹の子に届け!

 


 泣き声が響いた!

「産まれた!?」



 実は半年を掛け、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーによって詐欺とも言える大規模な結界を構築して頂いた。

 それは半径1,000Kmに渡り、巨大と思われる一種の大結界を掛けて頂いた。

 初めの1ヶ月目、基礎的な考えと、下地作り。

 次の2ヶ月は、『術』の内容をこの地、この結界内の世界に定める事。

 定める事の内容は、この結界内に入った者が認識してしまう『術』を構築した。それは、、、


 アジアとヨーロッパの間に『エルファール』という、人口200人余りの小さな王制の独立国家をでっち上げた。

 この国の民達は現代社会から少し外れ、森林地帯に暮らし、『エルフ人』『エルフ族』『エルフ』と呼ばれ、ファンタジーや空想の物語に登場する『エルフ』のモデルとなった者達である。

 そして、この結界内で『エルファール』~『エルフ』等を思った時に、、、実在する存在として認識させられる『術』。

 それをその後、3ヶ月掛けて、半径1,000kmまで拡大して行った。


 リーザとは、この結界術の効果を使って婚姻届けを提出し、社会保険と扶養家族の手続きを行った。

 リーザと出会った6月1日をリーザの誕生日と設定し、健康保健証、母子手帳を入手した。詐欺だ。

 許される事では無いが、私とリーザの血が絶えるまで、この結界の効果は維持される。

 よって今日、生まれるこの子は日本人とエルファール国のエルフ人との混血児となる。



 分娩室の隣、新生児室のガラス窓の向こうで、女王ユーカナーサリーが産まれたばかりの赤ん坊を抱え、その姿を私に見せに来てくれた。

「うわぁ~これが新生児!私とリーザの子供!」

 生まれたての赤ん坊は、赤い顔をして皺っぽく、目が開いていない。可愛い!


 小さな口を大きく開いて、震えながらも元気に泣いている。

 泣いている様にしか見えないが、実は何かを叫び、何かを訴えているのか。

 私やリーザを探して泣いていてくれていたらいいのだけど、それは分からない。

 あー、ただただ感動!もう感動!

 手も足もそれぞれ5本づつ指が生えているし、私の持っている知識やイメージの中の赤ん坊と何も変わらない。無事に、そして普通に、、、普通に生まれてくれた!

 私の両目から涙が流れる。



 そもそもは、私とリーザは命有る者とするが、違う生命体。

 そんな二人の間でそもそも赤ちゃんが出来るのか?私が持った疑問、悩み、、、苦悩。

 解決せぬままに、リーザは身籠った。


 私はリーザの懐妊よりも、二人の間に宿ったとするモノが生命体として成立出来る存在なのか!?

 狂おしい、本当に気が狂ってしまう程の心配と悩み!そして恐怖!

 怖くて怖くて怖くて、、、死んでしまいそうな恐怖に見舞われた。


 そこにはエルフの里国の王、女王ユーカナーサリーが居た。

 女王は自身が持つ魔力を行使し、この小さな命を護り見守り、育てて下さった。

 そして今、女王の腕の中に生命体として成立した私の子が居る、、、普通の赤ん坊だ!

「あぁあー!」

 私は、、、その場に崩れ落ちた。



 私は看護師さんに抱えられ、リーザの個室へと向かったようだ。良く覚えてない。

 部屋へと入り、備え付けられているソファーに座った。

 座っているのだが、気持ちはフワフワとしていて、落ち着かない。

「赤ちゃんが帰って来ましたよ」

 そう言って入って来た看護師さんの声で我に返った。

 看護士さんの後ろには、赤ちゃんを抱えているリーザの姿が!

 あああぁぁぁ~~~

 白いおくるみに包まれた赤ちゃん。

 言葉が出ない。


 確かに赤ちゃんだ!普通の普通の赤ん坊だ。

 パンパンの腕と足。握られた小さな手。ふよふよの髪の毛。シワの有る赤ら顔。

 小さく小さく、弱々しい。

 でも確かに、しっかりとここに存在している。

 不思議な気持ちだ。

 良かった、良かった。本当に良かった。

 トキヒコはこの一年抱えていた心配と悩みから解放された瞬間だった。


 全身の力が抜ける、再び崩れ落ちそうだ。しかし、

「リーザ、おめでとう!ありがとう!ありがとう、ありがとう」

「はい、トキヒコさんも抱いてあげて下さい。」

 リーザにおくるみに包まれた、赤ちゃんを渡された。

「お、おおぉ~」

 軽い!何と言う軽さと小ささ!

 同時に重い。新たな命を持つ者の存在の重さ。

 まだまだ実感は無かったが、この儚いながらも大きな感覚が、親となった重さを意識させられる。


 看護師さんに促されて、一緒に運ばれて来たベビーベットに赤ちゃんを移した。

「おおおぉぉぉ」

 壊れちゃいそうだ。

 扉の向こうから、今回の出産に立ち会って頂いた、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーが室内に入って来た。

 私は人目も気にせず、女王様を抱きしめ、泣いた。

「ありがとう、ありがとうございます」

「トキヒコ殿、リーザよ、誉れじゃ」

「はい、ありがとうございます」


「後でお伺いますね。」

 看護師さんは、一時退室された。

 この後の一定期間、私達の赤ちゃんはベビールームに行き、経過観察になると。この産婦人科の慣例であり、産後の妊婦を休ませる為の措置との事。しかし今この時間は、家族水入らずの時間を与えてくれる。


 女王ユーカナーサリーもご一緒して下さる。何よりこの場に居て欲しい。

「リーザ、ご苦労様。ありがとう」

 出産を終えた我が妻。少し疲れた感じの中、遠慮がちな微笑みをたたえている。

 私が今まで見て来たリーザの中で、一番いい顔をしている。

 母となった事を感じているのだろうか。

 私達は3人でベビーベットを覗き込む。

 生まれた時は、あんなに泣いていたのに、今はスヤスヤと眠っているようだ。


 お、むにゃむにゃと動き出した!

 そして赤ちゃんの目が開いた。

 我が子は、赤い瞳を持っていた。


くれないの瞳の者

     幻想をも超える力を持つ』

 女王ユーカナーサリーが呟いた。


「?」

「我らエルフに伝え聞く、伝承されとる伝説ぞ。トキヒコ殿、この者は伝説を作る存在と成るやもな」

 トキヒコは、新たな心配事と悩みを抱える。



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