王様への謁見 (の前日)
「王様に会う~~~!?」
「はい」
休日の土曜日、リーザが言った。
「ヒトは婚礼を決めたならば、それぞれの親元に挨拶に伺う慣例が有るではないですか。それです。」
私自身は親への挨拶というか、リーザの紹介を、、、後で、その内何かのタイミングでいいや、と思っていたのだが。
いやいやいや、エルフのリーザを自分の両親へ報告する自信が、、、自信はある。大いに有る。
ただ私の両親の反応が予想も出来ない。キレイ過ぎで卒倒する事は請合いだが、でもエルフ、、、それは正直、私を逃げ腰にしている。
「我が王は、我らエルフの民にとって親であります。ですから是非お会い下さい。」
王様が親?それで王様に会う事になるのか、でもなんか大事だな。でも王様に会うってどうなの?
「で、何時?」
「明日です」
「明日~!」
あららぁ~急だな。
「リーザ、王様にお会いする時って、どんな格好すればいいの?」
あたふた。
んーと、リーザは指を一本口に当て想像している。
「トキヒコさんの何時もの格好で構わないと思います。このヒト社会における最低限のマナーやエチケットの範囲で良いと思います。」
それでいいのか。王様に会うって事で変に構え過ぎかな。
「私達に無理に合わす必要は有りませんし、トキヒコさんがどのような格好で我が王に会おうと、誰にも文句は言わせません。」
と力強く言われて頼もしいが、当の王様が不快に思っちゃダメだろうし。
明日の事だしな、礼服なんて持ってないし、レンタルか?
乏しい思考を巡らす。
まあ、スーツにしょう。まだ買ってから幾日も経って無いしな。でもシャツと靴下ぐらいは新品にするか。よし。
「リーザ、出掛けよう。明日の為にシャツを買いに行こう」
「はい!」
隣室でリーザが街中へ、人前に出る為の身支度が始まる。
洋服は三着ばかりだが、下着と一緒にネットで購入した物が有る。
靴も同じで有る。
時間を掛けるのが髪型で、コレはリーザがネットの配信を観てエルフの外観的特徴のひとつである少し『尖った耳』を隠す髪型を研究してもらった。
外に出掛けた折に、普通の人々に変に興味を持たれたり好奇心の目に晒す必要は無い。ただでさえ彼女の容姿は男女を問わず興味を示してしまうかも知れないのに。(個人的な意見。うぬぼれた妄想)
『女は身支度に時間が掛かる』って聞いた事があるけど、リーザは早いんじゃないかな?まあ、私の人生上に比較対象が無いからなんだがな。
「お待たせしました」
出掛けるの止めよう。目立ち過ぎる。
「どうされました?」
「キレイです。好きです」
「私もです」
うふふ、とリーザは微笑む。
極力人目、人混みを避けたかったので車で出掛ける事にした。
向かったのは郊外型のショッピングモール。
車の駐車が無料で出来て、この場所一ヶ所で事を済ませられるしな。
ただ予想はしたが、人の混みようが尋常ではないかも知れない。全然人目、避けられません。
だけど他にお店知らないしなぁ。
辛うじて、駐車場の空き待ちで並ぶ事は逃れられたが、ほぼ満車状態。車を停めた駐車場位置からショッピングモールの建物までが遠い。
車を降りる前に。
「リーザ、人間界、ヒト社会の中では、相手の意識に問いかけたりリーザから相手の意識に向かう『開く』事は、使用禁止もしくは極力使わない方がいい」
「はい。」
「ヒトはね、自分の頭の中で思ってる事を相手に伝えられたり逆に知る事も出来ない」
「はい。」
「ある意味、相手が分からないのをいい事に。だからほとんどのヒトが妄想性を持っているんだ」
「はい。」
「妄想はね、要求や要望、欲望を自分に都合良く想像する事なんだ。人間は『妄想する生き物』と言っても過言でないくらいに」
「はい。」
「妄想の中には酷いモノ、惨いモノ、醜悪なモノが多くて、見も聞きもしたくないモノがリーザが『開く』事でなだれ込んで来るかも知れない」
絶対に来る。
「はい。」
「だからね、極力、身の危険を感じたりした時以外は控えましょう」
「はい。」
「相手に悪気が無くても、リーザが嫌な思いをするのは許せないから」
「はい、分かりました。」
リーザは素直でいい子。
「でも私、トキヒコさんの妄想は全て受け入れます。」
「いや、それは、、、」
トキヒコは一気に耳までも赤らめた。
「ちょっと建物まで遠いけど我慢してね」
「はい」
雨で無かったのも幸いだな。
リーザと手を繋いでショッピングモールの建物まで歩いて行った。
う~ん、幸せ。
やはりというか、ショッピングモールの中は、相当の来客者で人が溢れている。
先ずは紳士服コーナーに立ち寄り、白いカッターシャツと紺色の靴下を一足買った。
コレで本日の買い物の目的は達成してしまった。
人混みは頂けないが、リーザにいろいろとこの世界の一部を見てもらう良い機会だ。
「リーザ、お店を見て回ろう」
「はい。」
「何も買わないのに、お店を見て回る事をウインドショッピングと言って、楽しむ人は多いよ」
「はい、楽しみです。」
と、一発目に目に飛び込んで来たのは女性用のランジェリーショップだ。
女性用の下着、、、コレばっかりは勝手が効かないし、リーザにはどこかのタイミングで誰かに教わってもらって欲しかった。
店内は空いていて、店員さんも普通の人っぽい。
私は意を決して、リーザの手を引きながら店内に入った。
「いらっしゃいませ」
女性店員さんが出迎えてくれた。
あー、目のやり場に困るなぁ~。店員さんを目指して一直線。
「すみません、ちょっとお願いがあるのですが」
なんかオドオドしてしまう。リーザと一緒にいなかったら、いや、一緒にいても完全に不審者だな。
だけどここは、意を決して!
「あのぉ~彼女に下着を一着選んで頂きたいのと、下着の着け方、フィッティング?を教えてあげて欲しいのですが」
店員さんがどんな顔しているのか、怖くて見れないな。
店員さんの目がリーザに向けられる。少し驚いたような顔をした。
「あの~彼女、下着文化が余り無い所で暮らしていたそうなので、、、」
我々日本人の目には外国人としか映らないリーザに対しての説明だから、難なく誤魔化すというか、伝えられそうだ。
咄嗟とは言え我ながらなかなかの講釈だ、うん。
「ステキな方ですね!」
「ええ」
キャー恥ずかしい!私が。
「日本語、大丈夫ですからお願いします」
リーザに向き直る。
「リーザ、このお店で下着を一着買います。それとぉ~」
「はい?」
「下着のつけ方を教えて貰って下さい。コレばかりは私は分かりませんので」
「はい!」
リーザはニッコリとほほ笑んだ。
「私はお店の外で待ってるから」
「トキヒコさんはお側にいてくれないんですか?」
「このお店はね、女性専用のお店なんだ。本来は余り男は入らない。今日はリーザが初めて来たから特別に一緒に入ったんだ」
「そうなんですか」
店員さんに向かって
「私は外で待ちますので、よろしくお願いします」
と挨拶して、退散した。
ん?んーーーーー?待てよ、女性用の下着ってこんなにするの!?
『高級ランジェリーショップ』、、、あー。
「ちょっとすみません」
リーザの案内を始めた店員さんに再び話し掛ける。
ちょっと耳元で。
「すみません、このお店で真ん中ぐらいのお値段のヤツでお願いします」
小声で言う。
「分かりました」
店員さんはニッコリとほほ笑んでくれた。
「ふぅ~」
店の外に出る。
あれ?なんかこのお店の前、人集まってない?多くない?気のせい?
店の出入口が見える、少し離れた場所のベンチが丁度空いていた。
ベンチに座ったトキヒコの前を親子連れが通り過ぎる。
父親と母親との間で、左右両手をつながれた男の子、楽しそうだ。
いつか、私とリーザとの間に子供が生まれて、今の親子のように出掛けられる日が来るのかなぁ~
男の子?女の子?どっちでも!
ウキウキと一人想像、妄想する。
「はっ」
トキヒコは何かに気付く。
私とリーザとの間で、、、子供は出来るのか?
リーザの外観は(少し尖った耳以外)人間と同じに見える。
あっちの方も無事?事無きを得た。(内容や感想は最高!とだけ答えます)
でも、でも遺伝子や染色体、生物学、生命体として向き合った時に私たちの間に共通点がどこまで合致するのか。
リーザは人間からすると異世界の住人、未知の者だ。
遺伝子情報などは、どこかの研究機関などで知べれば判るのかも知れないが、そんな事は到底できない。嫌だ。
そもそも、妊娠とまで行くのか?
しかし、しかしもし妊娠し出産となって、死産。生れ出た子が特別なハンディキャップを持ったりしてしまっていたら、、、何で思わなかったのだろう。なんで、、、。
「トキヒコさ~ん!」
リーザの明るい呼び掛けに、トキヒコの暗い妄想時間は(一時的にも)追いやられた。
リーザが小走りに駆け寄って来る。
周囲の目がリーザを追うのが分かる。
下着のフィッティング効果か、大き目の胸は綺麗なラインを描き、エロいが美しい。
、、、私好み。さっきの店員さんに感謝。
「下着買えましたわ、今着てます。見ますか」
と、リーザはすごく嬉しそうである。
「あわわわわ」
周囲の目線が一気にリーザに注がれる。
「リーザ、リーザ、人前では余りそう言う事は言わないの」
リーザが少し困った顔をした。
エルフは、嘘や隠し事をしないので自然とストレートな会話になりがちだ。
また、リーザは日本人独特な言い回しや控え目な表現、周囲の目を気にするといった習慣がないので、周辺の人が聞いたら少しドキっとさせてしまう事があるかも知れないので、注意、注意。
「リーザが悪い事を言ったのではないから、誤解しないで。リーザの下着姿を見れるのは私だけの特権。帰ってからゆっくり見たいな」
と小声で言った。
「はい!」
リーザは素直で明るい。一緒にいて楽しい。嬉しい。
「リーザ、他の店も見て回ろう」
「はい、楽しみです。」
「ところでさ、リーザ」
「はい」
「王様ってどんなお方?」
歩きながら説明を受けた。
「我が王はエルフの民、例えたった一人であってでも、その民を守る為ならば王は自らの命を掛けて下さるでしょう。ですから我らエルフの民は皆、王にその命を捧げる事が出来ます。」
うひゃぁ~、いきなり何か重い話しだなぁ。
「でも、ここだけの話しにして下さいね。今の私は半々なんです。」
リーザの声が囁きとなる。
「半々?」
「はい、ナイショですよ。トキヒコさんは今や私の命の半分ですから。」
重く無い、無い。嬉しいよ。
「そして王は朗らかで明るく、皆に愛されてます。花の王とも呼ばれてます。呼称にもなってます。」
「わたしも王が大好きです!」
王様の事を話すリーザの顔が輝いている。
よっぽど立派な方なんだろうな。
「嫌ですわ、トキヒコさんは我が王と同じかそれ以上に好きですよ。」
あーこんなに誰かにストレートで『好き』なんて言われた事が無いから~それも人目も気にせず堂々と~リアクションに困る。
リーザは本屋と楽器店に特に興味を示し、本は数冊買い込んだ。
『あいうえお からはじめる』絵本、私が手にした事も無い科学技術の本、分厚い文学書、辞書。
ショピングモールのほとんどのお店をあーでもない、こーでもないと歩いて回り、心地良く、悔しい位に時間は過ぎて行く。
化粧品店では困った。
リーザ事を化粧したいと女性販売員に(私が)手を掴まれ離してもらえない。
仕方がなかったので、口紅だけお願いした。
女性販売員さんがリーザにリップスティックを選び出したら、芸能人でも居るかのように人だかりが出来てしまった。
結局何も買わなかったのだけど『記念に』とオレンジピンクのリップをいただいてしまった。
リーザは不思議そうに、嬉しそうに唇に触れていた。
私は歩き疲れ、イートインコーナーの有るパン屋に入ってコーヒーと紅茶を頼んだ。
「リーザ、何か発見は有った?」
「はい、すごく!」
うんうん。
「頭の中が混乱してしまうぐらい、もう大変です!」
リーザ少し興奮気味?なんか嬉しそう。
そんなリーザを見ると私も嬉しい。
リーザは紅茶が気に入ったらしく、このお店の売場にあった商品の紅茶を買う事にした。
食料品の買い物も済ませ、ショピングモールを後にしようと出口に向かった時、花屋が目に留まった。
「リーザ、ちょっとお花屋さんに寄ろう」
店内には色取り取りの花が溢れていた。
「お花屋さんに入るなんて初めてかもな」
リーザと順に花を見て回った。
「リーザ、明日王様にお会いするときに、花を持って行ってもいいかな?」
「はい、王は喜ばれると思いますよ」
明日の謁見の時にお花を持って行く事にした。いいかもな。
花は直ぐに決まった。
「白いアジサイかぁ、珍しいな」
花屋さんに聞く。
「この白いアジサイなんですが、明日になったら普通の赤紫や青紫に色が変わりませんか?」
どうにかこの色のまま、王様に届けたい。
アジサイは土壌の成分、土の酸性度で色が決まる。アルカリ性だと青色、酸性だとピンクと言うか赤紫色になるってやつ。
「この白いアジサイは『アナベル』という品種ですから大丈夫ですよ」
白色のアジサイ、アナベルを三本と合わせて淡く薄いピンク色が付いた二本も一緒に買い、花束にしてもらった。
「アジサイはね、私が好きな花のひとつ」
「他にもお好きなお花があるんですか」
「アジサイとスズラン、スズランは可愛らしい花。そして桜。桜は私が生まれた季節に咲くし、なんと言っても日本の花だからね」
特に花の栽培や鑑賞を趣味とはしてないので、知ってる花が少いだけか。
まあお花なら、お妃様や姫様がいらっしゃたらそちらに渡ればいいかもな。
外は陽が傾き出し、空はオレンジ色に染まりつつあった。
予定外に大荷物になったが、来たときと同じようにリーザと手を繋いで、少し離れた駐車場に向かった。
あー、ボーナス無駄遣いしてなくて良かったぁ~




