王様、光りの者、花の王
エルフの里国。
ここはその里国の中心部に位置し、今リーザが居るのはエルフの王宮の中心部、王の玉座の在る間。
別名『花の間』と呼ばれ、皆に愛される王に相応しい場所である。
柔らかいラインで構成された壁は、大きな窓から取り込まれる光を美しく反射し輝いている。
玉座は、多くの美しい花に囲まれ、瑞々しく美しい木々がが生い茂っている。この美しい空間を作り出している処が『花の間』と呼ばれる由縁でもある。
そんな美しい花々に負けず劣らず美しい王、『花の王』とも呼ばれる呼称をも持つエルフの里国の王、女王ユーカナーサリーの座る玉座の前にリーザは片膝を着いて畏まっていた。
「どうした越える者、月夜に走る者よ、改まり。」
リーザは複数の“呼称”を持つ。
リーザは自身が仕える者、王に対し恭しく頭を垂れている。
「我が王よ、ご報告がございまする。」
リーザは玉座の前で畏まったままだ。
「どうした越える者よ、また畏まり、申してみよ。」
リーザは顔を上げると女王を見つめた。
「この度わたくし、リーザリー・エストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンは婚姻する運びとなりました事をご報告いたしましょう事。」
女王は目を丸く見開き、玉座を倒してしまうかの勢いで立ち上がった。
しばらくの沈黙が『花の間』を支配するかの如く、刻過ぎる。
が、女王は我に返るように言葉を発した。
「何と、何と素晴らしく喜ばしい事か!詳しく聞かせておくれ」
女王ユーカナーサリーは言葉を繋ぐかの様に、玉座から踏み出す。そして畏まるリーザの手を取った。
「祝福するぞ」
そのままリーザと連れ立って、玉座を回り込むようなかたちで、奥へと続く王の私室へと移動を開始した。
「しばらく席を空けよう。皆の者も下がるが良いぞ。」
二人の姿は王の私室に向かう扉へと消えた。
バタン。
扉が閉まると女王は俯き立ち止まってしまった。
リーザは部屋全体に弱く結界を施した。
他の者の出入りが無いように。会話が外に漏れないように。
「悔しい」
女王が小さく呟いた。
「悔しい、悔しい、悔しいー!何でよー!」
今度は声を荒げ、リーザの胸元を掴むと駆け出すような勢いのまま、ベットのように大きなソファーに二人して倒れ込んだ。
エルフにとっての婚姻。それはこの世界であっても、特別な事には変わらない。
エルフにとり『添う者』の存在は大きい。
エルフの里国では、全ての民達が王を中心に置きながらも、皆が皆、お互いが添うかの様な形態を取っているいるかの印象を受ける。
婚姻し『添う者』を得る事、決めた事はその意味合いが大きく違う。
婚姻の期間においては、自身の生命を捧げるに値する者を得るに至る事。
「何でよ何でー!」
女王ユーカナーサリー、ゆさゆさとリーザを揺さぶる。
「誰なのよ!誰ー!リーザを射止め、認めさせた者はー!!誰よっ!!」
そこに王の威厳など微塵も無く、ただただ駄々っ子状態である。それはこの場が、リーザとの二者のみの空間であったから。
「何でよ、何でよ、何でよー!誰よ、誰よ、誰なのよー!ワーン」
その上、泣き出す様に、目を腫らしてしまった。
リーザの驚きは隠せない。この様な姿の我が王を見るのは初めてである。しかし同時に、自身と王との関係性、王が自身に対する慈愛の念を授けて下さっている事を悟る。
しかしリーザに出来る事は無かった。唯一行えそうな行為、それは子供をあやすように女王の背中をゆっくりとさすり、落ち着きに促す事。そして待つ事。
どれぐらいの時間が流れたのだろうか。女王の涙も止まり、くしゃくしゃになった顔を上げた。
「リーザよ、すまん、少し取り乱したわ。」
リーザは微笑んでいる。王からの寵愛を感じ、自身を取り巻く環境にも満足していた。
「良き事、心から祝福するぞ!」
そう言うと、今度はそっとリーザを抱きしめた。
「我が王よ。私など也に、、、」
リーザも答えるのようにそっと抱き返した。
リーザのグリーンの瞳からポロリと涙がこぼれた。
女王の瞳からも、先程とは違った涙がポロリと流れた。
今この時、王と従者という垣根を外した女エルフ同士の友情の一幕である。
「王?女王よ、ですが力が、ちょっと力が、強い、強い~!」
女王は締め上げるのうに、リーザを抱く腕に力を込め出した。
「やっぱ悔しい!ズルい〜!」
女王は穏やかで喜怒哀楽を強く表さないと云われるエルフの型にはまらず、愛情表現も感情表現も真逆な程に大変豊かである。凄く人間っぽい。
ただそれも、気心を許している友人であるリーザと二人きりの時だけに限るが。
「ユーカナーサリー!痛い、痛〜い!」
「何か、許せんのじゃ!」
女エルフ同士の『キャッキャッ、ウフフ』の珍しい現象、、、とはちょっと違って見えるが、二人にとっては同じ事なのかも知れない。
「あーひと泣きしたらお腹が空いた。何か持ってこさすとしようぞ。」
リーザが「私が」と席を立つ前に、女王は呼び鈴を鳴らした。
リーザはそっと結界を解くのを忘れなかった。
何時もであれば、食堂の間へと向かうのであるが、時間も変則。何より多くの者達に少し取り乱した後の自身の姿を見せたくなかった。
いや、リーザと二者にて、今の時間を過ごしたかった。
程無くして、テーブルの上には温かいティーポット、パンや果物、具だくさんのスープが並べられた。
女王は自ら給仕者に礼を言い、その者の退室に合わせテーブル上の物を採りだした。
先ずは具だくさんののスープから。
「うまい!」
部屋の外にも聞こえるだろう声!しかしこの声を聞き及んだ者は皆喜ぶだろう。
『我が王が喜んで下さっている』と。
続けざまに他の物も手に取り、もぐもぐと食べる。
「もぐもぐ、それで誰なのよ~リーザの婚姻相手って、もぐもぐ」
エルフに取って、婚姻相手は特別な意味を持つ。そして女王ユーカナーサリーはリーザが婚姻の後にも、自身との関係性は変わらない。それよりも新たな者が加わる事となる。
それは喜ばしい事。
女王の食欲旺盛さに安堵し、リーザもパンとお茶を頂いた。
「リーザもぐもぐもぐ、今日は相手が誰なのか白状するまで帰らせないよ。もぐもぐ」
リーザは少し照れながらも真っ直ぐに女王を見つめ、控えがちに答える。
「で、誰?もぐもぐ」
「スルガ トキヒコ様、、、人間と成りまする。」
先程より大きく女王の目が見開かれた。
女王はティーカップを持ったまま、卒倒してしまった。




