ジゴクからの招待 荒ぶるリーザ
リーザはエルフとしては珍しく、気持ちを荒ぶらせていた。
愛する者、トキヒコを連れ去った者に対し、怒りの気持ちを持った。
それは、リーザが持った、初めての感情かも知れなかった。
トキヒコを『ジゴク界』で探すべく、迎えに来たリーザは、5歳となったさくらを連れて(抱えながら)、ジゴクに到着した。
それは、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーの魔力による助力を受けて。
「さくら、トキヒコさん、お父さんを探しますよ。必ず見つけ出します!」
「うん」
さくらは母リーザに返事をしたものの、煌びやかな世界、ビビッドカラーに囲まれたこの景観に目を奪われ、ウキウキしていた。
「トキヒコさん、どこですかー!」
トキヒコの捜索を開始してリーザは、1軒目の建物に差し掛かった。
しかし、これと言ってトキヒコを探す手立ても無い中、片っ端から探す事にしていた。近くから順ぐりに。
怒りの感情を持ったリーザの思考回路は働いていない。
1軒目の家屋の前に立つ。
ノックも声掛けもせず、いきなりリーザが扉のノブに手を掛け引っ張る。
すると、扉が建物の枠から千切れた。そのまま扉を後方に投げ飛ばす!
「トキヒコさん!」
建物の中には人の気配は無い。
「さくら、次です!」
(ここで暮らす『魔女』達のほとんどは、この世界に来訪した(拉致されて来た)トキヒコを見る為に皆出払っていて、留守だったから。)
次の建物に向かうも、リーザがノブを引くと、またも扉ごと千切れた。
「トキヒコさん!ここですか!」
そんなこんなで、リーザがトキヒコの姿を追い求め、向かう建物の扉が次々と扉が千切れ、飛んで行く。
「トキヒコさ~ん、どこですか!」
さくらも面白半分に建物に体当たりしたりして、破壊活動を開始した!
「ママ、面白い、面白いよっ!」
「トキヒコさ~ん、どこですか~!」
元々、色々と作りが脆い『ジゴク界』で『魔女達の世』は、リーザが強く触れたり、さくらが暴れる事で、まるで嵐にでも合った様に建物から何やらがバラバラに飛び散る。
ド派手でビビッドな破片や埃、塵が捲き上る!
「トキヒコさ~ん、必ずご無事で待っていて下さい!必ずや見付けてみせま~す!」
「魔王様、魔王様!大変です!大変です!エルフが、エルフが攻めて来ました!女エルフです!エルフが私達のジゴク界に来てしまいましたー!」
魔女達はパニック状態になる。
元(?)魔王、魔法大臣、魔法僧侶達もワナワナと震え、ウロウロと歩き回る。
「また再び、あの悪夢が再来とは、、、この世の終わりだ」
「エルフが攻めて来た!もう私達は為す術が無い、、、」
「終わりだ。終わりだ」
えー、エルフが来たって、知ってるエルフかなぁ?
「そ、そうだ!新魔王様、新魔王様、お助け下さい!」
「新魔王様、新魔王様、お助け下さい!」
「新魔王様、新魔王様、新魔王様!」
「え~、オレ新魔王なんてなぁ。そんなのやるって返事して無いし」
まあ、エルフが来たって事は、元の世界に戻れるな。
あ~あ、リーザに『すあま』を持って帰れないよ。トホホ。
今いる建物の高台に登り、窓から見た景色の中にカラフルな砂埃が沸き上がり、こちらに向かって来るのが分かる。
「あー、誰か派手に暴れているなぁ」
相手が『エルフ』と聞いて、慌てふためく魔女達は他所にトキヒコはのんきだった。
「よし、ちょっと見に行ってくるか」
知っているエルフだといいけどなぁ。
「あ~~~新魔王様お願いします!」
「新魔王様お願いします!」
「新魔王様、私達を私達の世界をお救い下さい!」
何か言ってるけど、放っておこう。
トキヒコが建物を出ると、多くの魔女達がついて来る。
「エルフが怖いなら、隠れていた方がいいんじゃないの?」
「いえ、私達は新魔王様しか頼れません!」
「新魔王様と共に戦います!」
「新魔王様お願いします!」
いや、戦うって、、、それに『新魔王様』と呼ばれても、魔法なんて使えないのになぁ~
新魔王トキヒコは、暴れるエルフと対峙した。
「あれ?リーザ、どうしてここに?」
「あ〜あーあートキヒコさん!トキヒコさん!見付けましたー!」
リーザはトキヒコを見付けると、直ぐ様駆け出し、抱き着いた!
ランニング&ジャンピングボディーアタック!
トキヒコはゴチンと後頭部を地面にぶつけた。
「あっ痛ってー!おーおぉ~」
リーザはトキヒコを見付け感激で涙した。
「エ、エルフが泣いている!新魔王様はエルフを泣かしてしまわれた!なんと、なんという強さ!」
「新魔王様は無敵!これなら私達のジゴク界はこの先も安泰だ!」
「新魔王様、万歳!」
「万歳!万歳!」
ワーワーとジゴク界の魔女達は盛り上がっている。
「ひよっ子、ひよっ子エルフもいるぞー!」
「ヒヤァ〜」
魔女達は叫び、ワーワーと再び慌てふためく!
「あー、さくら!さくらも来てたのか!」
「うん、ここ面白い!」
「そっかそっかー、良かったな」
トキヒコはカラフルな埃まみれとなっている、さくらを抱き上げた。
「な、なんと!新魔王様はひよっ子エルフも懐柔してしまわれた!」
「や、やはり新魔王様は無敵!これで私達のジゴク界は正にこの先も安泰だ!」
「新魔王様、万歳!」
「万歳!万歳!」
「新魔王様は無敵!」
「新魔王様、万歳!」
「万歳!万歳!」
何か後ろが騒がしい。
「ところでリーザ、よくココへ来れたね。感激したよ!」
「はい、トキヒコさんの置き忘れとなりました鞄を頼りに、それを我が王、ユーカナーサリーに繋いで頂きました!」
あー『地獄』まで本当に迎えに来てもらっちゃったよ。まあ『ジゴク界』だけど。
でも、鞄を頼りにって、警察犬か?リーザからは違う世界に行こうが、逃げられないって事か?
「ユーカナーサリーとは異なる『繋ぎ』を観察しました。初めての感覚でしたので、直ぐ様に現場に向かいましたが、トキヒコさんの鞄のみ、ございました」
「そして、我が王のお力添えで、この地に到着しました次第です」
「トキヒコさん、ご無事でなによりです。ご無事で私は、私は、、、」
荒ぶっていたリーザの緊張の糸は切れ、ヘナヘナと脱力して屈み込んだ。しかし、
「トキヒコさん、ご無事でなによりですが、何やらご婦人方に囲まれており、何やら気掛かりです」
リーザは人間社会で暮らすようになり、妬きもち焼きとなった様である。
「いやいやリーザ、何もヤマシイ事は無いよ」
何で魔女達ココに居るんだよ。
「そうですか」
あ、何か疑ってるなぁ
「リーザ、私に開いてみてよ」
『開く』とは、エルフが自身の意識や思いを相手に『開く』事により、お互いに相手の思いや意思を知る『術』の一つ。エルフ社会で日常的に使われており、相手の思いや表層に有る意識を読み取り感じ、意思の疎通を行う事。この能力で、エルフ同士は敢えて言葉を交わさず共、会話が成立する時も有る。
しかし人間社会でリーザが開いてしまうと、相手の一方的な思いや意識(人間が持つ妄想、悪意、下劣、卑猥、偽や嘘等)が流れ込んでしまうだろうと、トキヒコが使わせていない。
「よろしいのですか」
「うん、やってもらわないと私の潔白が晴れないから」
「では、少しだけ」
リーザと見つめ合う。
リーザの耳がヒクヒクと動く。
あ、久々に見た。
私の推測なんだが、エルフはお互いに向き合い『開く』事により、頭の中の意識を聴き(感じ)合う。
その行為の時に、特徴的な少し尖った耳が動く。と思う。
(うわぁ〜、やっぱドキドキする。嘘発見器をやられると、こんな気持ちになるのかな?あ、無いよな、オレ。やましい事、、、う〜ん、、、なんか自信が、、、)
「はい、トキヒコさん!やはりトキヒコさんは私とさくらの事を第一に思って下さっているのですね」
「あったり前じゃんか!」
「でもですね」
「はい」
(あれ?何か見付かった?)
「『ハーレム』とは如何なモノでしょうか」
(うわ!確かにちょっと思った、、、)
「トキヒコさん、戻りましたら、詳しく聞きとうございます!」
「あ、は〜い」
このやり取りを遠巻きに見ていた『ジゴク界』『魔女達の世』の魔女達は思った。
「やはり、人間の男は女に弱い、、、じゃんか!」




