さくら日記 10歳 冬休み 夜の森での捜索
エルフの里国に夜が来た。
エルフの里国の夜空には、大きな大きな月が上がる。
大きな月の月明かりで、エルフの里国の夜は明るい夜となる。
その夜、『ホーリョンの狩りの刃』の元に報せが来た。
「おじいちゃん、どうしたの?」
光鉱石に照らされる屋内で、さくらは祖父を見上げた。
祖父の取る表情からは、何も読み取れない。
「ピェッチュリークの兄弟が帰って来ない。行方不明では無いかとの事」
兄弟!?
「おじいちゃん、もしかしてその兄弟って、カスズタンビエガックとゾタッヅビエガック?」
「さくらは知った者達となるのか」
「うん、今日森の中で会って、ここまで案内してくれた兄弟だよ」
どうしたのかな?
「おじいちゃん、どうするの?皆で探しに行くの?」
さくらは、渡された少し小さい光鉱石を先に付けたステッキの様な棒を手にして、祖父の後に続き、ピェッチュリーク兄弟二人の捜索に参加した。
『ピェッチュリークの里』は、ホーリョンの里とさくらが抜けて来た深い森を挟んだ反対側のエルフの里である。
さくらは、この捜索に勇んで参加したものの、少し不安に駆られていた。
今日出会った二人の事を心配に思った事は変わらない。でも、、、
(自分に何が出来るか分からない。何度が来訪した事があってとしても、知らない土地には変わりは無い。その上、夜の森に入って行く事になる。)
夜空には、大きな月が上がり、月明かりで光鉱石の光は必要が無いぐらいである。
しかし、一端森の中に入れば、夜の暗さに包まれる。
だけど祖父と一緒のさくらは、何も怖くなかった。
森の中には、既に多くのエルフ達が捜索活動を開始していた。
さくらと祖父である『ホーリョンの狩りの刃』は森へと入り、ピェッチュリークの兄弟、カスズタンビエガックとゾタッヅビエガックの捜索に加わった。でも、、、
「でも私はどうしたらいいんだろう?何をすればいいのかな?二人は森の中なのかな?」
森の中を探す理由を祖父に聞くと、別の者が別の場所での捜索を既に開始しているとの事で、ホーリョンの里の者はこの森からの捜索の開始が役割になると。
さくらは人探しなんてした事が無い。それに、こんなにも多くのエルフ達が居る中で、さくらは自分の必要性、役割を疑った。
「そうだ、二人を呼んで見よう。声を出して探しそう」
既に、ここに集まったエルフ達が兄弟を探す事で行っている事。でも私だってそれぐらい出来る!
「カスズターン!ゾタッヅ~!何処にいるのお~!」
さくらは大きな声(日本語)で、二人の兄弟の名を呼んだ。声を掛けながら森の奥へと進んで行く。
さくらの背後には祖父が居てくれる。でも、、、
さくらは無力である自分自身が腹立たしかった。
「ただ、みんなに追て来てるだけ。何も出来ないのに。子供だから?ううん、私はこの森の事もこの里の事も、あの二人の事も全然知らない。なのにノコノコと大人に追いて来た、何も出来ないのに、、、」
今日出会ったエルフの兄弟。それが自分と見た目が年端の変わらぬ子供エルフであった。
そんなエルフに会えた事が嬉しかった。
道案内もしてくれて、お話しも少し出来た。
だから、心配な事は本当だ。
でも、、、
二人は森が庭だと言っていたから、直ぐにでも見つかるだろうと思った。
それと、、、
夜の森に行く事が「面白そう」と思った(チックっと罪の意識が広がる)。
だけど、、、
こんなにも多くのエルフ達が探しているのに見付からない。
私は、、、
軽い気持ちで、面白半分にここに来た。こんなに皆が探しているのに、、、
私は、、、
さくらの内側から何かが沸き上がって来る。
自分は何も出来ない。あの二人を探す為に何処に行けばいいのか?何をすればいいのか?
不甲斐ない自分。何も出来ない、分からない自分に腹を立て、その怒りがピークに達した時、、、
さくらは叫んだ。
「カスズタン、ゾタッヅ、何処にいる!」
声とは違う声。だがそれは念話であり、この森、エルフの里国に轟き響いた。
「何処に居るの!私の名を呼べ!」
この場にいた全てのエルフにこの声は届き、皆は驚きと共にさくらを注視した。
「カスズタンビエガック、ゾタッヅビエガック、何処にいる!返事をしてー!」
さくらは炎を纏っているかの様に、大きく揺れ動く赤い光に包まれていた。
さくらが内に秘めていたエルフの『術』、それも高位とされる『念話』の一種を繰り出していた。
『術』だけに止まらず、何か大きな力も合わせて、、、。
さくらの瞳は自身が発する炎の様な光と同様に、燃える様な赤色に染まっていた。
「カスズタン、ゾタッヅ、何処にいるのー!返事をしてー!」
さくらの高度で広範囲に届く『念話』は繰り返された。
『、、、さ、くら、、、』
聞こえた。ゾタッヅだ!でも、何処に。
さくらは自分を呼ぶ声がした方向に駆け出した。
その場に居た全てのエルフもさくらを追った。
さくらは速かった。
大人のエルフは誰一人として、さくらに追い付く事は出来ない。
「カスズタン、ゾタッヅ何処にいるのー!」
「、、、さくら、ぁ、、、」
居た?この場所、この辺り。
さくらがたどり着いた場所は同じ森の中であり、特に変わった場所でも無く、変わった物などもなく、言い替えれば何の変哲も無い、ただの森の中。
「でもこの辺り。でも何処に?」
さくらが渡された光鉱石は小さな物。でも自身が赤く発する光が周囲を暗闇にはさせていなかった。
ようやく大人エルフ達もこの場所に着いた。
「皆さん、ゾタッヅの声がこの辺りから来たと思うの。皆さん探して下さい!」
大人エルフ達には、さくらの言葉では無く、さくらの想い、意識が飛び込んで来た。さくらを中心に光鉱石を掲げて森の中へ散って行った。
さくらはこの場所の捜索に当たった。
木を見上げ光鉱石をかざす。しかしさくらの持つ光鉱石では上の方までは明かりが届かない。さくら自身が放つ赤い光でも、それは変わらなかった。
「よしっ!」
四這になって低木を掻き分け出した。
「私が出来る事。手の届く下の茂みの中だ」
「カスズタン、ゾタッヅ、何処に居るの」
さくらは這ったまま、低木から低木へ渡り、大人の目線からは見え難いであろう茂みの中を泥と草まみれになりながらも調べた。
「あっ!」
穴が有る。縦穴だ。まるで落とし穴の様な穴が有る。
穴の回りの土は柔らかく、崩れ落ちている。
はっ!もしや!
光鉱石を手に穴に顔ごと覗き込んだ。
大人の体格であれば落ちないだろうが、子供であったら入ってしまいそうな小さな穴。
「ダメだ。暗くて見えない。穴も深そうで光が届かない」
さくらは改めて二人を思った。
「カスズタン、ゾタッヅ、ここに居るの?」
『さくら』
弱々しいが、ハッキリと聞こえた。
この穴の中に居る!
「カスズタン、ゾタッヅ、ここに居るの!?」
さくらは再び穴に顔くっ付け覗き込む。この穴の中に居るであろう、二人に向かって声を掛けた。
「、、、さくら、、、ここ、、、」
聞こえた!この穴に落ちたんだ!
でもカスズタンビエガックの声がしない。さくらに猛烈な不安が襲い掛かる。
「ゾタッヅ、カスズタンも一緒なの!?」
返事が無い。
さくらは立ち上がると、大声で大人のエルフ達を呼んだ。
「二人はここ!ここにいます!」
光鉱石を頭の上でぐるぐると回して皆に呼び掛けた。
しかし、さくらが持つ光鉱石よりも、さくら自身の方が明るい光を放っている。
大人のエルフ達は直ぐに駆け付けた。
「何か長く紐かロープをお願いします!カスズタンビエガックとゾタッヅビエガックはここに、この穴の中です!」
数人の大人エルフがおのおのの方向に駆け出した。
あの後、返事が無かったのが気掛かりだ。二人は無事なのだろうか?
さくらの隣で一緒になり屈んでいた祖父、ホーリンの狩の刃が話す。
「これはワゥズジィスズズルカの巣穴。」
「ワゥズジィスズズルカ?」
「うむ、ヘビに当たる。しかしヘビに短い手足を持つモノ」
「ヘビトカゲ?」
「それは、トゥクルトッドドゥーの首ぐらいの大きなモノ。長い体に短き手足を持つヘビだ。最近この森では見られなくなったが。集団で移動するモノ達だ」
大ヘビ!?いゃぁヘビは苦手。でも今はそれどころじゃない!
「この巣穴の主は、もうここにはおらん。それにエルフを襲う存在では無い」
ここにはいないと聞いて、ちょっとホッした。
再び穴を覗く。
「明かりが届かない」
「おじいちゃん、ゴメン!」
さくらはそう言うと、ステッキの先から光鉱石を取り外し、光鉱石を穴の中へ落とすように投げ入れた。
『コーン、、、ボトッ、、、』
さくらの投げ入れた光鉱石は止まってしまった。
どうやらこの穴は真下に向かい真っ直ぐにはなっておらず、途中で曲がりくねっているようで、奥の方まで光が届かなかった。
これではロープをカスズタンとゾタッヅの元へは届けられない。
再びさくらは無力感を味わう事となった。
「あー!どうしたらいいの?どうするのー!」
さくらは先程以上に燃え上がった!
隣に居た祖父が後退りする程に。
「どうして私は二人を助けられないの?子どもだから?力が無いからなの?」
さくらは燃え上がり続ける。自身が発する燃える様な赤い光を濃く強く広げ、周囲の小石や土の表面が浮き上がり出した!
「ほれさくら、如何した」
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは突然現れると、さくらの肩にポンと手を乗せた。
さくらが放っていた赤く燃え上がる様な光が収まって行く。
「ああ、女王様!」
さくらが無意識の内に解放した未知の力と高位の術は女王により収められた。
さくらの祖父であるホーリンの狩の刃は女王の登場に対し膝ま着き畏まっている。
周囲に居た大人エルフ達も同様の形を取っている。
「どうしたのじゃ、さくらよ」
さくらは女王ユーカナーサリーの突然の登場により安心感に満たされ、同時に解き放った力が収まったせいも有り、心地好い脱力感から涙が出てきた。
しかし、今は泣いている場合じゃない!
「女王様!私のお供だちがこの穴に落ちてしまった様です。ワゥズジィスズズルカの巣穴なので穴が真っ直ぐではありません。ロープを入れても届かないかも知れません。どうしたらいいのでしょうか」
女王ユーカナーサリーは嬉しそうな顔をしていた。
(さくらは行方不明者を発見した。また状況の説明もまあ問題無い。人間の10の歳と成る者が如何程かは分からぬが、良いじゃろう)
エルフの里国の王は満足していた。
「さくら、我が術にて長きロープを奥に居るであろう者に届ける事は可能じゃ。しかしの、ロープが届いたとせよ、その者はこのロープを掴む事は出来るのじゃろうか?引っ張り上げる事に耐えられるじゃろうか?」
あっ、確かにそうだ。ロープが届いてもカスズタンとゾタッヅはしっかりと持てるのだろうか?カスズタンは返事もして来なかったから怪我でもしていたら尚更だ。
「女王様、どうしたらいいのでしょう。私は、私はどうしたらいいのでしょうか?」
さくらの内側で何かがまた、フツフツと沸き上がって来る。
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは改めてさくらの肩に手を当て、再びさくらの中から沸き上がろうとする“力”を抑えつけた。
「さくらよ、エルフの民が困った事、解決が困難とされる事。エルフは自身で立ち向かわなければ成らん。しかしの、それでも難しい時には我が居る」
女王ユーカナーサリーはそう言うと、服装が汚れる事を意に返さず、巣穴の元に屈むと、穴に右腕を肩まで突っ込んだ。
そしてすぐさま引き上げた腕にはゾタッヅビエガックの姿があった。
続けざまに腕をもう一度腕を突っ込み、今度はカスズタンビエガックを引き上げた。
ゾタッヅは泣きべそをかいていたが、カスズタンは青い顔でグッタリしていた。
「カスズタン!」
「まあ酸欠の類いじゃな。だが命は取られん」
女王ユーカナーサリーはカスズタンビエガックにその手をかざした。
カスズタン自身が持つ、治癒の力を増幅させ、細胞を活性化させる。
カスズタンビエガックの顔に血の気が戻って行く。
女王ユーカナーサリーの治癒の『術』だ。
咳き込みながら、カスズタンビエガックは起き上がった。
「王!さくら!」
意識を取り戻したカスズタンビエガックは、エルフの王を前にして、咄嗟に畏まった。
「良い良い、楽にせい。お主は今まで死に損なっていたのだからな」
(さくらとの会話とは少しニュアンスの違いが?)
さくらは二人に飛び付き抱き抱えた。
「良かったー!良かったー!」
さくらのこの涙は嬉し涙である。
涙を流すさくらに、エルフの兄弟は大変に戸惑い驚いている。
エルフはここまで感情を露わにしない。こんなにも相手から感情的にされた事が無く戸惑った。
しかし、さくらの気持ちを直ぐに理解した。そして嬉しかった。
周囲に居た大人エルフ達から低い歓声が上がる。
だが大人のエルフ達は、王を眼前にして何やら抑えているようだ。
さくらの暴走気味に出した高位の術の念話、そしてさくらが放った異次元であり未知数な”力“もエルフの里国の王に届いていた。
(さくらの結びが外れとる。全体の半分近くが、、、)
(さくらは自身の力で自身に付けられた『枷』を外せるのじゃな。これでは『枷』にならぬ。トキヒコ殿とリーザに申さねばならぬな)
「さくら、こちらへ。お主も慣れぬ力を使い疲れておる」
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーはさくらを自身の正面に立たせ、さくらに向かって両手を掲げた。
さくらが自ら外した、さくらが持つエルフとしての力をユーカナーサリーによって抑える為の魔術的な『枷』。
それを戻して行った。
さくらと女王ユーカナーサリーは無言のまま立ち合った状態である。
周囲の大人エルフもカスズタンビエガック、ゾタッヅビエガックの兄弟も二人を見守っている。
しばらくこの状態が続いたが、突然 さくらは電気が切れたように、ガクッと崩れた。
その体を女王ユーカナーサリーが支えた。
「ホーリンの狩の刃よ、さくらを連れ帰れ。今日は力を極端に使い過ぎたようじゃ。眠っておる、手厚く眠らせれば良い」
さくらの祖父であるホーリョンの狩の刃は、女王ユーカナーサリーより眠るさくらを渡され抱き抱えた。
女王ユーカナーサリーはこの場に居るエルフの民達に向き直る。
「皆の者、ご苦労であった。皆の働きで二人のエルフが救われた。明日にでも誰ぞこの穴を塞いでおけ。ワゥズジィスズズルカが再びこの地に来ようとも、新たな巣穴は作るであろう」
この女王の言葉でこの場は解散となった。だが、エルフの兄弟は王に対して感謝の姿勢のままだ。頭を垂れているままだ。
「カスズタンビエガック、ゾタッヅビエガック、ピェッチュリークの兄弟よ。礼はさくらにせよ。明日にでも何か旨い物でも届けてやれば良い」
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは自身の術と魔力によって、この場から立ち消えた。
エルフの兄弟は震えていた。
我が王にこんなにも近くで、その上直接声を掛けられた。それよりも、人間であるさくらに救われた。命を救われた。
何やら分からぬ感動で二人揃って身震いしていた。




