さくら日記 10歳 冬休み ホーリョンの里
さくらはエルフの兄弟、カスズタンビエガックとゾタッヅビエガックが、今来た森の中に消えて行く姿を見送ると、大きな三本の大木が並ぶ『ホーリョンの里』の入り口に向き直った。
「さあウメ、私のおじいちゃんとおばあちゃんのいる里に着いたよ」
トゥクルトッドドゥーのウメは頭を掲げ『クワゥ!』と声を上げ、さくらに返事をした。
三本並ぶ大木を回り込み、ウメと並びホーリョン里の中に入る。
『ホーリョンの里』は森の中。先程さくらが抜けて来た森に比べると木々の背は低く、木々の間も広く空き、適度に伐採されていてエルフ達が住まう空間が作られている。
森の中で立ち並ぶ家屋は木材で造られており、ログハウスのような丸太組みの家屋に見える物が多い。
ただ木の組み方が少し違い、昨今の人間社会では丸太を横方向に置き、積み上げログハウスを作る事が多いが、ここでは縦方向に丸太や木材が並び家屋が作られている。
縦方向に並ぶ丸太や角材を壁面として、屋根も木材が使われており、板状に加工された物を重ねる形で作られている。
壁に関しては、地面より1m辺りまで、石を積み上げ木材を囲む様に補強がされていたり、実際土間と壁面の一部を積み上げた石や岩で造られている家屋もみられる。
いずれにしても、この森内や周辺地域から集められた自然素材が材料となり、家々が形造られている。
基礎に当たる部分は石組がされており、屋内に入ると土間とかまどが見られ、いつかの時代の日本的な炊事場、台所の風景を思い浮かべる所も有る。
その先に進むと板張りの部屋に繋がり、テレビやエアコンといった家電製品は無い。
各家屋は日本社会の家屋と比べ、2倍程の大きさである。部屋数が多いのも特徴であるが、家屋の外に物置や倉庫等を作らない事が、部屋数が多い事と関連しているのかも知れない。
明かりに関しては、ガラスの無い窓や天窓から多くの光が差し込み、屋内は思いの外明るい。
夜の照明は光鉱石が使われる。
エルフの里国では、多くの種類の特殊な力を秘める鉱石が使われる。
光る性質を持つ光鉱石、熱を出す熱鉱石、火を起こす火鉱石、石を削る事の出来る研鉱石などである。物を冷す事の出来る冷鉱石は稀少なモノである。
エルフ達はそれぞれの鉱石に術を流し込み、その性質を引き出し生活の用として利用する。
「こんにちは」
さくらは道行くエルフ達に自分から(日本語で)挨拶して歩いた。
さくらは『ホーリョンの里』に来る事は初めてでは無い。
トキヒコとリーザに連れられて幾度か訪問している。そしてここで暮らす多くのエルフ達とは何度か顔を合わせている。
それはトキヒコがいつの日にか、さくらがこちらで暮らす事となった時、エルフの皆に自分の子供の手助けをしてもらいたいとの思いから。
道行くエルフ達に挨拶をしながらも、トゥクルトッドドゥーのウメを連れて歩くさくらを見たエルフ達は、(少し)驚きの顔でさくらを見る。(エルフは感情表現を余りしない。表情にも出し難い)
トゥクルトッドドゥーは従順で大人しい。
しかし彼らの生息数は少なく、稀少種でもある。
従順で大人しく尚且つ、こちらの意思を汲み取り、知性すら持つと言われている。それ故気分屋でもある。
『術』を用いて従わす事は容易かも知れないが、『術』を行使し続ける事は大人のエルフであっても並大抵の事では無い。
気分屋と付き合う方法、、、相手から信頼を得る事しか無いのかも知れない。
そんな理由から、トゥクルトッドドゥーの成体で無いにしろ、子供がトゥクルトッドドゥーを連れている事は驚きでしか無い。
「おーい!おーい!おじいちゃん、おばあちゃん、来たよー!」
さくらは駆け出した。
さくらの祖父母は自分達の自宅前でさくらの到着を待っていた。
リーザから事前に連絡が入っていたのである。
祖父母はさくらを見て、優しい顔になる。
でも、トゥクルトッドドゥーを連れて来たさくらに、少し驚き顔だ。
さくらの祖父母。おじいちゃん、おばあちゃんと二人を呼ぶも、二人の見た目の姿や年齢のイメージは、トキヒコと変わらない。むしろ若く見えるかも知れない。
当初さくらは戸惑いを見せたが、親子との位置関係を理解し、今では愛情を込め、無邪気に二人を『おじいちゃん』『おばあちゃん』と呼ぶ。
エルフの社会では我々日本人の様な里帰りの習慣は無い。
エルフ達は、自身の出生の地に対する思いは強く、里から出て暮らす者は少ない。
しかしながら自分の進む道、自分の行いを里の外に求める者も要る。
その者達は出生の地に強い思いを抱きながらも日々の暮らしを行う。自分の里は自分の中に有り続けるとの思いを秘めながら。
親元へ戻る事も似たような理由から余り行われない。
親から独立したエルフは、自身の親、そして周囲の者から認められた存在として、エルフとして自身が決めた道を歩んで行く。
「さくらよ、良く来た。待っておったぞ」
トゥクルトッドドゥーのウメは家の中には入らない。
トゥクルトッドドゥーは四方が囲まれた場所、天井が低い場所を嫌う。であるから、王宮の厩舎は天井屋根が高く、その上半分が無い。出入口もオープンスペースのごとく壁が半分以上無い。
それゆえウメは、この家の周りに繋がれる事も無く、屋外にて、さくらが家の外へ出てくる事を(信頼関係が構築されている為)待ち続けるのである。
「さくらは大きくなったのかい?」
祖母であるホーリョンの紡ぐ者が話し掛ける。
さくらの来訪は約1年振りだ。
「うん、新しい洋服を沢山買ってもらったし、靴もキツくなったの。クラスでも後ろの方になったよ」
さくらなりに、自分が大きく育った事を表現したが、上手く伝わったかは疑問が残るモノである。
そんなさくらを祖父母は微笑みを携え見守る。
「さあ、疲れたろう。これをお食べ」
さくらに出された物は、豊かな新鮮採れたての木の実と熟成された木の実の盛り合わせだ。
それに合わせてクッキーの様な焼き菓子。
冷たい水と(何かの)ミルクも合わせて。
さくらの祖父母も日本語で話し掛けてくれる。文字を書く事は怪しいが、トキヒコとの会話で日本語での対応は始まり、相手の思い、意識を感じ取るエルフの持つ能力とも合わさり、会話は思いの外スムーズに行われる。
エルフの持つ能力は、種族の壁を打ち消してしまうようだ。
さくらはお土産として、自宅で描いた絵を沢山持ってきた。
「これはおじいちゃんとおばあちゃんを描きました」
水彩絵具で描かれた二人のエルフが並んでいる。
「わぁ、これは良いな。さくら、ありがとう」
「まだまだあるよー」
さくらは何枚も何枚も、、、10枚に及ぶ絵を床に並べた。
「さくらはすごいなぁ」
「近所の公園。写生大会のを描き直したやつ。運動会の思い出とこの前見た鳥。それと、、、」
エルフ達も絵を描く。
しかしながら、我々の世界の様な色取り取り、極彩色の道具は無く、また製紙技術相当の物は有るが、紙類は積極的には生産されていない。
「それとね、これはナイショだよ」
さくらは1枚の写真を取り出した。
写真には、トキヒコ、リーザ、さくらの三人が並んでいる。
「お父さんがね、こういったこっちの(地球環境での技術的な物)モノは、あんまり持って来ちゃダメだって言ってたけど、この写真は特別だからって、持って来たんだよー」
リーザの父母であり、さくらの祖父母となる『ホーリョンの狩りの刃』と『ホーリョンの紡ぐ者』はお互いの顔を近付け小さな一枚の写真、サービスサイズにプリントされた写真を覗き込む。
「さくら、これはなかなかに面白い物だ。良く良く描かれている。点描、うむ、写し取った物だの」
「そう、写真だよ。へへ、実は私も持って来た」
そう言うと、さくらは写真をもう一枚、リュックの中から取り出した。
プリントサイズの写真に写されていたのはさくらである。七五三の時にトキヒコが撮ったモノだ。
写真のさくらは赤い着物を着て、少し澄ました顔をしている。
「まあ、可愛らしいわ。着ているモノも綺麗ね」
祖母である『ホーリョンの紡ぐ者』は服作りを行う。さくらの赤い着物を見て、何かインスピレーションと創作意欲が湧いたようだ。
リーザの母でありさくらの祖母『ホーリョンの紡ぐ者』の本質は衣服作りだ。
今までも多くの服をトキヒコの為に作り、渡した。
トキヒコがエルフの里国で活動する時に好んで身に着け、リーザのエルフの里国の王より与えられている家屋に納めている。
エルフの洋服作りは、我々人間と変わらない。
動物の体毛由来や植物繊維から糸・布を作る。
トキヒコはマクラメ結び(色取り取りの糸や紐を交差させて結ぶ、ミサンガで良く見られる技法)で作り上げられた厚手で重たく色鮮やかな上着が大のお気に入りである。
さくらの会話は尽きる事が無かった。




