イベント後②
「いらっしゃいませー!」
会長さんの書いてくれた住所へと車で移動した俺たちは、紙に書いてある店名と店の看板が一緒なのを確認し、店内へと入っていった。
どうやら、お好み焼きとたこ焼き食べ放題の店らしい。女性のひかりさんには、ちょっとお勧めできないと思うが、大阪に来たら粉物食べて帰りっていう会長さんの考えなのだろう。
「6名さま、ご案内しますポンポコポーン」
「「いらっしゃいませ~ポンポコポーン」」
店員がみんな狸の耳としっぽを付けて語尾には“ポンポコポーン”を付ける徹底ぶり。しかも男女とも“それ、当たり前ですが何か?”という風に、自然に振舞っている。
「食べ放題メニューと単品メニューがありますがいかがしますかポン?」
「それじゃぁ、食べ放題メニューでお願いポン」
ひかりさんが、ポン返しで店員にオーダーを通している。この人何気にノリがいいよな。
「オーダーいただきましたポンポコポーン」
「「オーダー承りましたポンポコポーン」」
ホールスタッフの女性の声の後に響く、キッチンスタッフの野太い男性の声。スゲーシュールだわ。
「おもしろいお店ねぇ。高知にはこういったユーモラスなお店ないから新鮮だわ。さすが、お笑いの町ね」
「あたし達の地元にもないですよ。さすが大阪!都会は違うわね。京介、あんたもポンポコポーンってやってみなさいよ」
「お腹すいたよポンポコポーン」
「うん。キモイわね」
「性格最悪だなおまえって!!」
「あなたたち、おもしろいわね。付き合ってるのかしら?」
ひかりさんの爆弾発言に、椿が飲んでいたお冷の水を盛大に噴き出した。それをクリティカルヒットした圭吾は、目をパチパチしながら現実を受け止められずにいる。
「田村さん、こいつら、いつもこんな感じなんですわ。一緒に風呂まで入って一緒の部屋で寝たこともあるのに、この絶妙な距離感を保ち続けているっていう不思議生き物なんですよ」
晃がニヒルな笑みを浮かべながら、ひかりさんに“ダメダメのヘタレなんですわ”と言い終えた刹那、一瞬にして悶絶の表情へと変わった。
「晃くん。おしゃべりな男の子は嫌われますよ。ちょっと何言ってるかわからないけど、少しその口とじましょうか」
椿は笑みを浮かべながら青筋を立てるという器用なことを行いつつ晃に語りかけた。そしてテーブルの下では晃の足に某ストリートなファイター中国代表のお団子女子の必殺連続蹴りのような残像を伴うキックをお見舞いしている。晃はKO寸前なのだ。
「そ、そーいえば、田村さんってステージの上では高知弁でしゃべっていたのに、僕たちと会話するときは方言を出さないですよね?」
このカオスな状況をどうにかしようと圭吾が、ひかりさんへと質問を投げかけた。
「あっ、それあたしも気になってたんですよ」
圭吾の問いかけに椿は“どうしてなんですか?”と乗ってきた。晃はKO寸前で圭吾に助けられ、涙目で圭吾へと親指を立てている。
「別に深い意味はないのよ。ただ、よさこい業界では、わたしは、田村ひかりという一人の人間としてじゃなくて、“本場高知の振付師”として演じないといけないの。そのスイッチとしてよさこいの時は、常に高知弁を使っているのよ。そうすることで、踊り子たちには、プロが見ているのだから頑張りなさいっていうプレッシャーを掛けられるし、審査への不平不満も本場高知の振付師が採点するなら間違いないだろうっていう信頼感も生まれる。私を知っている踊り子さんたちは、“田村先生が見てくれるならいつもよりはりきっちゃう”って感じにやる気を出す子もいるわ。そういうこともひっくるめての営業みたいなものなのよ。他府県の人たちってなぜか、高知弁でしゃべると喜んでくれるのよ。高知弁って結構高圧的なニュアンスが多いからそんなにいいもんじゃないのにね」
そういいながら、おしぼりで手を拭くひかりさん。確かに今目の前で笑っている姿と、ステージの上で挨拶していたひかりさんは雰囲気がまるで違う。ステージ上ではなんていうのだろうか?気高いっていうか、気品があるというか、一種のカリスマ性みたいなものが感じられたが、今は、そんなこともない。普通の人と変わらないノリのいい美人さんという印象しかないのだ。
「普段は、高知弁を全く使わないんですか?」
カノンが素朴な疑問をひかりさんに問いかけると、ひかりさんは顔の前で手を左右振る。
「そうでもないのよ。今は、意識して高知弁を使わないようにしているけど、普段は普通に使っているのよ。ただ、ステージの上みたいに、普段使わないような方言も使っていかにも高知人ですっていう風にはしゃべらないわね。挨拶程度じゃぁ、そんなに悩まなくてもニュアンス的に伝わるような言葉でも、日常会話となれば、他府県の人には、全く伝わらないことの方が多いのよ」
なるほど。確かにテレビとかだと、全く何言ってるのか分からない方言って結構多い気もするな確かに。
「お待たせしました。お好み焼きとたこ焼きになります。以降はメニューよりお好きな商品をお選び下さい。次回からはお客様にて焼いてもらうことになりますので。鉄板の方火をつけさせてもらいますね。お熱くなるのでお気を付けください。御用の際は奥のベルでお呼び下さい。それではごゆっくりポンポコポーン」
キッチンスタッフの女性は、テキパキと仕事を熟し笑顔でしっぽフリフリとキッチンへと歩いていった。
「さぁ、今日は、あしの奢りやか、ごんごん頼き、こじゃんと食べましょう」
ひかりさんの一言に俺たちは、“いただきます”と合掌し、目の前の食事に箸を付けた。今の方言だと、場の雰囲気と片言の単語だけで、何となく意味が分かるが、なるほど。他愛無い世間話では理解するのは難しいかもしれない。
そう思いながら、食べ放題なので、どんどん頼んで、いっぱい食べる俺たち。食い倒れる勢いで食べること一時間。満腹で箸を置く俺たちの目の前で唯一ひかりさんだけが、パクパクモグモグと食べている。隣では、カノンと椿が必死にたこ焼きとお好み焼きを焼き続けている。まるで屋台のおっちゃんのように汗流しながら焼く美少女と、平然とそれを平らげている美女のコラボ。かなりレアな光景を見ている気がする。
「京介くんベルを鳴らしとおせ。あっ、ごめんなさい。ベル鳴らしてくれる?」
「ま、まだ食べるんですか!?」
「私の胃袋は宇宙よ」
会長さんがこの店を薦めた理由がよくわかった。
そして、もう何度目になるのか分からないベルを押し、店員さんを呼ぶとあれもこれもそれもと注文を出すひかりさん。店員さんも笑顔が引きつっている。きっと、キッチンでは店長さんが泣いているだろう。
「さぁ、椿にカノンちゃん。どんどん焼いて頂戴ね。まだまだ腹五分目くらいなんだからね」
「「は、はい!」」




