甘い蜜には棘がある
「それでは、これにて大阪メッチャハッピー祭りIN大阪城閉会とさせていただきます。みなさま、秋の本祭は大阪城ホールにて例年通り開催致しますので、どうぞご参加くださいね。それでは、踊り子のみなさま、観客のみなさまありがとうございました」
すべてのプログラムが終わり、閉会の挨拶にて幕引きとなった今回のイベント。
今回初めてのよさこい観賞をした俺は、このよさこいと言うものを今まで軽く見ていたようだ。
まずは、子供たちの踊るよさこい演舞。その練度の違いはあるが、大人顔負けの踊りを踊る子供たちに俺は驚愕した。そりゃ、ダンススクールや教室等に通っている子供なら当たり前の技術でもただのサークルや学校の集まりのような非営利チームにはプロの講師もいなければ、技術を持った指導者もいないはずだ。ましてや、子供たちは好奇心の塊だ。練習中でも集中力がずっと続くわけもなく、遊んだり脱線したりとあるはずだろう。チームの大人も凄いと思うが、やはり踊り子としての子供達の意気込みがすごいのだろう。やるからには全力投球という風な感じがヒシヒシと伝わってきた。
そして、もう一つは表情だ。これは、子供限定ではなく、踊り子全体として感じたが、表情が豊かなのだ。なんというのだろう、見ていて楽しいというか、清々しいというか、あまり今までに感じたことの無い感覚を味わった。
圭吾も思うところがあったのだろう。晃と話している表情は初めておもちゃをもらった子供のような感じだ。
「それじゃぁ、あたしたちも行きましょうか?」
椿の先導でとりあえずこの広場から出ようとした俺たち。腰を上げ少し歩くと前方に会長さんがいた。
「ちょいとあんたたち」
会長さんは手招きしながら俺たちを呼んでいるみたいだ。
なんだろう?
「あんたたち、どこのよさこいチームなんだい?」
会長さんは、俺たち全員を見渡してから、椿に声を掛けた。
多分、この中で椿がリーダー的なポジションにいるのだと判断したのだろう。
雰囲気だけで、悟るとはこの会長さんやはり只者ではないな。
「あたしたちは、和歌山の一颯っていう社会人チームに所属しています。会長さんよく、あたしたちがよさこいやってるってわかりましたね?」
「長いこと、この業界にいると自然と分かるもんさね。それに演舞を見ている時の表情を観たら誰だってわかるよ。そんなよさこい界の大先輩からの忠告だ。うざいと思うだろうが聞いていってちょうだいよ。チームの気持ちを一つにするのは一見簡単そうで相当難しいもんだよ。ましてや社会人チームとなるとね。それぞれの想いの度合いはピンキリだから葛藤に押しつぶされるやつも少ないくないさね。あんたにそこのでっかいのあと天然っぽいお嬢ちゃんも、あまり思いつめないことさ。あんたたちの先はまだ長いんだ。少しずつ現状を変えていけばいいさ。間違っても、先を急かないようにね。それで、辞めていった子たちを私は嫌というほど見てきたからね。根を詰めずにもっと肩の力を抜きなよ」
椿たちは驚愕の表情をしている。
会長さんが言っていることは俺にはよくわからないが、椿たちは理解したのだろう。
「あ、ありがとうございます。なんだか、奈美さんに窘められてるかんじがするね」
「奈美?もしかしてあんたたち、正木んとこのメンバーかい!?」
「はい。正木奈美はあたしたちの代表です」
「そうかいそうかい。あの子もいっちょ前に人を育てる立場になったんだね」
「失礼ですが、奈美さんとはどういった関係なんですか?」
「ん?っま、話せば長くなるからね。あっ、そうだ。正木に伝言頼めるかい?」
「なんでしょうか?」
「“関西国際空港会場の出演枠開けておくからエントリーしな”ってね。もしあの、跳ねっ返りが断ろうとしたら、一言“甘い蜜には棘がある”と言えば喜んで参加するだろうよ。頼んだよ」
そう言いながら、椿の背中をバシバシと叩く会長さん。そんな会長さんに椿は苦笑いで答えている。
「そうや。そこのボーズ。そうあんたやあんた」
会長は俺に声をかけてきたので、え?俺??と自分で自分を指差したところ、こっちこいと手招きをしてきた。
「ゆかりさんがあんたに礼を言いたいって言ってたからちょっとここで待ってな」
そう言いながら、テントの方へと歩いていった会長さんはすぐに、ゆかりさんを連れて戻ってきた。
「さっきはありがとうね。ちょっとバタバタとしていたから、ゆっくりお礼もいえなくて」
「そんな大したことしてませんから。いやー、でもゆかりさんが有名人だったなんて俺全然知らなくて、よければ、この後ゆっくりとお茶でも飲みなが―」
と、最後まで言い切る前に椿とカノンが俺にフライングレッグラリアットをかましてきやがった。
そして、死ねといいながら、晃の方へと俺を蹴り飛ばしたのだった。




