GW①
5月のGWがやってきました。
みなさんいかがお過ごしでしょうか?
家族や恋人と旅行に出かける人。友人たちと思いっきり遊びまくる人。ショッピングを楽しむ人、娯楽にレジャーにとそれはそれは楽しい時間を過ごされていることでしょう。
しかし、私こと正木京介は、そんな皆様とは違う一風変わったGWを過ごすこととなりました。
ことの発端は数日前の練習後、椿、圭吾、晃、カノンの4人組で駄弁っているところに現れた奈美さんと村越さんのある一言から始まったのです。
「みんな今日は疲れたでしょう?偶には一緒にご飯でも行きましょうよ」
練習後に、いつもの4人で何気無しに会話をしていると、奈美さんが笑顔で食事に誘ってきた。
「(ま、まさか!?)あ、あたし、急用思い出したから先に帰るわね」
どうしたのだろうか?
奈美さんの笑顔を見るや否や椿がいきなり立ち上がり、逃げるようにその場から立ち去ろうとした。
気のせいかもしれないが、他のメンバーの人たちもそそくさと帰り支度を終え体育館から我先に脱出しようとしている。
奈美さんは、逃げる椿に素早く近付き、肩を後ろからがっしりと掴みつつ何やら耳元で囁いた。
すると、椿は心なし虚ろな目をしながらこっちに引き返してきて悪魔の一言を呟いたのだった。
「みなさん。ご飯に行きましょう」
すごく嫌な予感しかしない。
俺たちはその後、椿の泣きそうなくらい必死のお願いに若干の不安を覚えつつ、誘いを断るのは無理だと感じ、奈美さんに誘われるがまま車で移動し、今現在、綺麗に横一列に並びながら店の看板を見上げている。
「な、なぁ、みんな、俺たち何でこんな高そうな店の前にいるんだろうな」
「京介さん、俺、こんな店入ったことないですよ!ってか、毎回ファミレスとか牛丼屋が主流の学生にはこの敷居はあまりにも高すぎます」
「うんうん。古き良き日本の伝統を感じつつワビサビの効いた趣のある店構え。京介、わたし怖いわ」
「………」
俺が軽く現実逃避をしつつ、圭吾があまりに普段利用する飲食店とのギャップに唖然とし、カノンは余裕そうにしゃべっていると思われたが最後に本音を吐露しながら俺の裾を引っ張り、椿は終始無言で店を眺めている。
「おーい。何突っ立てるんだおまえら。店の迷惑だろ早く入ってこいや」
先に入った村越さんが声を掛けてくれるまで、フリーズ状態だった俺たちは店の前だということで、そそくさと中に入り、奈美さんの誘導のもと個室へと通された。
「さぁみんな、何にする?私のおすすめはこの店自慢のこの御膳なんだけどって、みんなどうかした?」
奈美さんと村越さんに連れられて入ったお店は見るからに品のある日本料理店だ。
この町の歓楽街の一角に店を構えているあたり老舗なのはなおのこと、メニューの中に‘‘時価”と書かれている時点で、俺たちが気軽に入れる店ではないのは明白だろう。
「あの奈美さん。こんな高そうな店でジャージにスポーツウェアってすっごい場違いな気がするんですが…」
そーなのだ。いつ着替えたのか奈美さんは着物姿。村越さんはスーツ姿なのに対し俺たちは庶民の味方、部屋でも外でもオールマイティーに着こなせるジャージというハイスペックな庶民着とラフなスポーツウェアを着用しているだけ。
さらにスポーツ用のバックにタオルを首に巻いた姿はまさに部活帰りの学生そのものなのだ。
だって仕方ないじゃん誰もこんな展開創造してなかったんだし、第一、飯に誘われた時点で俺たちの脳内では精々ちょっとお高いレストランくらいしか想像していなかったんだから。
というわけで、俺は意を決して4人の代弁者となるべく奈美さんに問いかけた。
「……俺たち、そんなにお金持ってないですよ」
それを聞いた奈美さんと村越さんは分かっているというような雰囲気で笑顔を向けている。
「大丈夫大丈夫。みんなは、お金の心配はしなくてもいいのよ」
「そうだそうだ。そんな些細なことは忘れちまえ。そんなことより此処の飯はうまいぞう。お前ら滅多に食えないんだから今日はおもいっきり堪能しろよ」
怪しい。いやに優しいというか何というか絶対に裏がありそう。あの笑顔も胡散臭い。あれは絶対何か企んでいるはずだ。
よし。こんな時は頼れる椿さんに相談するとしよう。そうしよう。
「奈美さん、あたしそのおすすめ御膳でお願いします」
って、もう頼んじゃってるし。
「おい椿。大丈夫なのかよ!?」
俺は、椿に近寄り肘で椿を小突きつつ小声で聞いてみた。
「京介。この期に及んで見苦しいわよ。この店に入ってしまった時点であたしたちの退路は断たれてしまったのよ。つまり拒否権なんていうものは無いってこと。だから、あたしと一緒にあんたも潔く受け入れなさい。これから知る真実と言う名の無慈悲な現実を」
椿は俺の肩をポンポンと叩きにこやかに微笑むと、メニューに視線を移しデザートの品定めを行っている。
「そ、それじゃぁ、俺もそのおすすめ御膳で」
「私もそれでお願いします」
圭吾とカノンも椿につられ各々に奈美さんおすすめ御膳を注文し、俺も不安ながらこのままではどうすることもできないので同じものを注文した。
数分後、机の前に並べられた御膳は今までに見たことはあるが食べたことが無い数々の高級食材てんこ盛りで4人ともあまりのゴージャスぶりに先の不安など一気に吹き飛び無我夢中で食べ始めたのであった。
その光景をにこやかに微笑みながら見つめる奈美さんと村越さんの唇がいやらしく吊り上がったことに気付きもせずに。




