よさこい人生開幕
「はい。最後に深呼吸吸って~~吐いて~~吸って~~吐いて~~」
あのカオスな場面から練習合図とともに奈美さんの一声で、真面目なストレッチの時間に早変わり。
今、最後の深呼吸を終えたところで、一度吸水タイムになった。
もちろん、椿も真っ白な姿から色合いを取り戻し普段通りに通常運転をしている。
奈美さんの本気のプレッシャーに逆らえる強者はいないということだな。
「はい、それじゃぁ、新人組とまだ振り付けが入って無い人は私の所へ集まってくれるかしら。ある程度踊れる人は椿ちゃんとカノンちゃんの所で細部の確認ね。晃くんと村越くんは椿ちゃんとカノンちゃんの手伝いをしてあげて。それじゃぁ、各人それぞれバラけましょう。一時間後に休憩ね」
俺は、新人組として体育館の鏡の前にいる奈美さんの方へと歩いていく。
「さてと、初めての人は気負わないようにね。最初は誰でも失敗するし動けないものよ。私たちはプロじゃないんだからね。それじゃぁ、先ずは基礎から始めましょうか」
奈美さんが笑顔で鏡に向かい合うように立った。なるほど、これで前の動きは鏡を見れば分かるし、後ろの動きは奈美さんを見れば分かるわけだ。
昔、小学生の頃運動会とかの出し物練習で、先生が俺たちと向き合うように前に立って“先生はみんなから見たら反対を向いているから、先生の振りと反対のうごきをするのよ”と言いながら、練習をしたときは頭がこんがらがって右左が分からなくなったことがあったなぁ。
「じゃぁ、一番始めからゆっくりとやってみましょうか。踊りは基本8カウントで一区切りだから、先ずは8カウントだけやってみましょう。先ずは足の幅を自分の肩幅より大きく開いて足の爪先は外を向けて立ってみて」
言われるがままに、足を広げ爪先を外側にして立ってみた。
「そこから、右肩を少し後ろに引いて胸を張ってみて。……そうそう、そんな感じ。後は顎を引いて、胸を前に向けてみましょうか。あっ、右肩が前に出ないようにね」
こんな感じっかな?
うん。なんか格好いい立ち方になってる。
普通に足開くだけなら、凛々しくはあっても勇ましくはなかったけど、右肩を引くだけで勇ましく見えるようになった。
「それが、わたしたちのチームで使う“かまえ”のポーズよ。踊り始めの時と、途中で立ち位置を移動して次の振りが始まるまでの待っている時の踊らない時は大抵このポーズで待っていること。踊らない時も気を抜かないようにってことよ。このポーズをわすれないようにね」
なるほど。
確かにただ立って居るだけと比べると天と地の差があるのが分かる。
「それじゃ、振り付けを始めましょう。まずは……。」
「よし。それじゃぁ、少し休憩しましょうか。ちゃんと水分は取っておいてね。熱中症になったら大変だから」
ハァハァ……。や、ヤバイ。
これ初心者の俺にはムリじゃねぇ。
というか、奈美さん俺に対してだけやけに厳しいというか細かいような気がする。
「京介。大分シゴかれてたわね。奈美さん、筋がいいと判断した人には容赦無いからね」
椿がタオルで汗を吹きながら座り込んでいる俺の隣に近付いてきた。
「筋がいいって、俺今回が初めてで経験0の初心者だぜ?!あれは完全に私情が入ってるってマジで。主にこの間のファミレスのこととかで」
さすがの俺でも今の練習の自分がかなりヤバイくらいのレベルでヘッポコだったのが分かる。
「そうかしら?少なくとも、あたしにはそう見えたわ。もっと自信を持ちなさいよ」
「へいへい。御世辞のコメントありがとごぜぇます」
明らかな、慰めのような哀れみのようなコメントだけど、少し気持ちが軽くなった気がする。
「さぁ、それじゃぁ、今やったところをダメ元で曲に合わせて踊ってみましょうか。他の子たちも一緒に全員でやるからみんな好きな場所に立ってくれるかしら。新人組たちは、真ん中に集まって。前に椿ちゃん立ってあげて、後ろにはカノンちゃん立ってあげてくれる。新人組たちは二人を見ながら頑張って踊ってみてね。踊れなくて当たり前だから不安にならなくても大丈夫よ。それじゃぁ、村越くんよろしく」
そう言いながらスピーカーの前で音を出すためにスタンバった奈美さんに変わりに前にはマイクを持った村越さんが登場した。
「そんじゃぁまぁ、やるとするか!」
「一颯…………かまえ!!!」
♪♪♪♪
「お疲れ様。今日の練習はここまでね。ありがとうございました」
「「「ありがとうございました!」」」
分かっちゃいるけど、心が折れそうだわ。
むずかしいっていうか、体が動かない。
リズム感なんて全くわかんねぇし、機敏に動くなんて不可能だ。
ヤベッ。これは久々にプライド砕かれたわ~。
うん。これはあれだね。やるしかないね。リベンジだね。
そうして、俺の長いよさこい人生が幕をあげたのであった。




