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夢は出会うもの

俺は夢を見ていた。

昔の夢を。

「京介よ~、夢ってなんだろな。叶えられる目標が夢か?それとも、手の届かない目標だから夢なのか?それともその両方なのかな。一途な夢。果てしない夢。人の数だけ夢があって、願うことも十人十色。夢の数だけ喜びがあって夢の数だけ涙もある。夢に潰される人もいれば、救われる人もいる」

佳奈さんと俺はとある夏の夜、ちょっとした山道の先にある灯台の展望台で二人寝転がり語り合っていた。

「どうしたんッスカ急に?」

いきなりの夢の話に俺は戸惑った。

「いやな、あたしの夢はどーなんだろなって思ってさ。あたしは二代目を継いでチームの看板背負って大切な仲間いや、家族っかな?みんなと面白ろ可笑しく生きている。今はそれ以上に何も要らないんだ。つうことはだ、あたしの夢はもう叶ってるってことなんだよ。あたしには夢が無い。夢が無いのに幸せなんだ」

佳奈さんは夜空を見上げ笑っている。

「なぁ、京介はどうなんだ?あるんだろおまえには夢が?」

佳奈さんがこっちを振り向き質問してくる。

「夢?俺の夢………」

俺は考え込んでいると視界が急にぼやけてきた。

夢の終わり、現実の始まりである。


「懐かしい天井だ」

かつて佳奈さんに“そこは知らない天井だ。だろ!”と無茶ぶりされたのが懐かしい天井を見上げた。

時刻は6時。

最近は仕事で四時起きが普通だったのでよく寝た方だ。

6時といえば、自衛隊時代の起床時間。

教育時代はラッパの音が為った瞬間に作業着に着替え半長靴を履き帽子をかぶって猛ダッシュ!数分内に屋上に出て点呼を取るのだ。これに遅れると寝起きの体に素敵な腕立て伏せをプレゼントすることになる。もちろん連帯責任でだ。しかも、先に着替えて布団に入っていたり、靴下などを先に履いてスタンバってるのが見つかると問答無用エンドレス腕立てのスペシャルメニューがプレゼントされるというのが日常だ。

慣れていない最初の頃は、朝飯の食器を持つのも苦痛になるほど、上腕二頭筋がイジメられたものだ。

俺は二日酔いの気だるさを体感しつつ布団から出て大浴場に向かった。

やっぱり旅館に泊まったなら、朝風呂は欠かせないよな。

晃と椿はまだ隣で寝ていたので、起こさずにそっと部屋を出て大浴場へと歩き出した。

「あ~昨日はヤバかったなぁ。これが二日酔いって気分なんだろうけど、あんまり経験したくないわ。飲み過ぎには注意だな。それはそうと、まったく椿も無防備だよな。なんで、酒飲んで酔っ払ってる男二人と一緒の部屋で寝れるんだ?俺と晃だからいいようなものの普通は別に寝るもんだろ?」

とボヤきながら通路を歩くうちに大浴場にたどり着いき、脱衣場で浴衣姿を脱いで扉をガラガラっと開け浴場に入った。

ちょうど客がいるらしく湯船に誰か浸かっている。

ちょっと残念な気持ちになるが、別にだから何ってことなので、俺は気にせず、かけ湯をした後に温泉に浸ろうとしたが、先客に声をかけられた。

「よう。朝早いな京介。ジジィかおまえは?」

一番風呂に入っていたのは村越さんだった。

俺はゆっくりと温泉に入り村越さんの隣で腰を下ろした。

「それを言ったら村越さんも同類になっちゃいますよ。昨日あんだけ飲んで騒いでたのによく普通に起きて風呂入れますね。俺なんかそんな飲んで無い筈なのにグロッキーですよ」

一昨晩、一升瓶をラッパで飲んでバカ笑いしていた人が隣でいつも通りにしている。これが年季の差ってやつか。

「ふっ。それはおまえたちが坊やだからだよ」

くっ、反論できない!

「どうだった初めての酒の味は?」

「旨かったッスヨ。コクがあって喉ごしスッキリなプリン体0%が体に染み渡ってくる感じが何とも健康的で」

「どこのビールCMだよ!素直に不味かったって言えよ。最初の一杯飲んだ時の顔見りゃすぐ判るわ。まっ、最初から酒の旨味が判るやつの方が少ないんだよ実際」

やっぱ適当に言葉並べてもダメだったか。

うん。実はまったく旨くなかった。

チューハイとかならまだよかったけど、ビールと日本酒は俺には早すぎた感があった。

レベルを上げないでボスに挑んだあげく瞬殺された感じだ。

あっ、杏子(あんず)のお酒と梅酒は中々美味しかった。

例えるならスライムやゴブリンクラスなので簡単にクリアできたのだ。

ボス級をクリアできるまで何回ゲロンチョしなきゃならんのだろうか。

先は長そうだな。

「村越さん。村越さんには夢ってあるッスカ?」

俺は今朝の夢で見た夢の話を村越さんに振ってみた。

「夢か~?そーだな。夢ってほどでもないがあることはあるぞ?なんだ唐突に?」

「俺には今無いんですよ夢が。あれがしたい、こうなりたい、これがほしいって感覚が無いんですよ。今までは佳奈さんのようになるっていうのが俺の夢だと勘違いしていたんッスけど、それはただ単に虚像を追い求めていただけで、夢でも目標でも無かったんです。夢って何ですかねぇ。どうすれば持てるんッスカね」

俺は村越さんに相談してみた。

この人は普段は変なおじさんだが、やるときはマジな人だから、何か答えを出してくれると思ったんだ。

「なるほどな。俺も真っ当な道を進んできたわけじゃねーから、偉そうに言えないが、夢ってのは、持つものじゃなくてよ、出会うものだと思うんだわ。例えば晃坊なんかは、今はバイク屋の見習い店長やってるだろう?あいつの夢は自分の店を持つことだ。しかしよ、佳奈に出会ってバイクの面白味と出会わなければあいつの夢は違ったかもしれねぇ。バイクに出会ったから晃坊は夢をもったんだ。そして夢は勝手に拡がっていくもんだ。あいつがバイク屋の店長になったら夢が叶ったことになるわな?じゃぁ、あいつの夢は無くなってしまうかって言うとそうじゃねぇ。その頃には違う夢が出来る可能性もある。例えば結婚して息子と一緒に店をやることかもしれねー。店をでっかくしてこの地域で一番のショップにすることかもしれねー。旧車やレア物取り揃えてるオンリーワンな店にすることかもしれねーな。夢が拡がるって言うのはそういうことだ。だから、夢が叶ったってやつもいれば、叶った時点で違う夢が出来たから夢が叶わないってやつもいる。要は、どんなでっかい目標を立てるかってことだな。長くなっちまったが、つまりは、京介は夢が無いんじゃなくてよ、まだ出会えてないだけなんだよ。だから夢見ることができないってだけの話だ。別に変なことじゃねーよ。出会う出会わないはそいつの行動次第だ」

「う~ん。つまり例えるなら出会った瞬間ビビビッてきた運命的な女性に惚れてしまい何とか口説き落とそうとする。この中の女性が夢で口説き落とそうとするのが夢を追うってことになると。更に付き合うことが出来たとして、その時点で付き合うという夢が達成されたが結婚したいという夢が拡がるってことですね」

ドヤ顔で言い放った俺に村越さんが微妙な顔で答えた。

「間違っちゃいない。間違っちゃいないしスゲー分かりやすい例えだ。けどよ、俺の説明が台無しだよ!」

あっ、やっぱそうですよね。何か言ったらマズイかな~とは思ったんだけど仕方ないよね。だって長いんだもん。

「それじゃぁ、俺はとりあえずビビビの美女を見つけないとダメってことですね?」

「そうだな。もうそれでいいんじゃないか。それに、山城から誘われてるんだろよさこいに。案外それがきっかけで夢が見つかるかもよ」

村越さんはニヒルな笑みを浮かべ立ち上がった。

「なんたって、俺も奈美さんのチームの一員だかよ」

「え!?村越さんもコスプレで杓文字(しゃもじ)振り回すんですか?!」

「おまえの中のよさこいどんなことになってんだよっ!!」

ん~。椿にも同じこと言われたけど、おっさんのコスプレなんて誰得だよって感じだよな。

「はぁ~。俺はもう上がるぞ。なんか余計に疲れたわ」

そう言ってドアに歩き出した村越さんに向かって俺は

「村越さん!昨日今日は御世話になりました。俺、本当に感謝してます。迷惑かけましたが、もう大丈夫です。自分の道は自分で見つけて歩みます。本当にありがとうございました」

深々と頭を下げて感謝の意を表した。

村越さんは振り向かずに手を挙げて返事を返しドアの外に出ていった。

俺は温泉に浸かり直してゆっくりと波の音に心を委ね新たな門出の始まりを感じていた。


此処まで読んで下さりありがとうございます。今回は夢についての、私なりの見解をまとめてみました。多分、また違った解釈の方もいらっしゃると思います。さてさてこれで、ようやく出会い編終わりでよさこい編突入です。次話からもどうぞよろしくお願いします。

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