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5時46分ー僕が僕として歌う理由を探して  作者: はお
第3章 人生の余暇

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ep.3-4【人生の余暇】橋の向こうのなると金時

いよいよ四国に上陸します!

いくらか寝て、たらふく食べて、すっかりHPが回復した湊が車のハンドルを握っていた。


大鳴門橋、淡路島の南端と四国を繋ぐ橋。湊たちは今からその橋を渡る。


姉の芽亜莉も車で大きな橋の上を走ることに類稀なる喜びを溢れさせるが、理由こそ異なるものの湊もその陰に隠れて密かに好きだったりする。

橋は陸地と陸地を繋ぐ道。橋の下には海や川、湖が絶え間なく漂っている。その隔たりを越えた先には、今までいた地とまた違う文化が、人々が待っている。車で駆け抜けていく速度も相まって、次元を超えた別世界に行くような感覚に陥る。湊も湊でありながらまた違う自分になれる気がして、気持ちがリセットされるのだった。


「あ、宿探さないとだよね。ここは俺に任せて」


助手席の海都がスマホを取り出し、画面に指を滑らせ始めた。車の運転は出来ても宿のとることはままならないおとぎの国の王子さまのために一役かってくれるらしい。

今はそろそろ夕日が空を染め始めようと準備している頃。海都が湊を連れて行きたいという場所を堪能するには時間が足りないかもしれないということで、今日は移動だけ済ませてどこかへ一泊することにしていた。

「湊は行きたいところないの?」

2人の行きたい場所を加味して宿泊場所を決めてくれるようだ。

「うどんは食べたいかな、讃岐うどん」

うどん県とも称される香川県のうどんを、一度でいいから本場で食べてみたかった。一度食べればまたさらにもう一度と欲は出てしまうかもしれないが。

おすすめのうどん屋さんがあれば、と海都を頼ってみたが、海都もあまりうどんには詳しくないらしい。

「でも俺が連れて行きたいところも香川県なんだ」

ともなれば、4県の中でも宿泊場所は香川に絞るのが良さそうだ。


「あ、香川といえば」


芋づる方式で思い出したその地は、同じく香川に位置する。湊がその名を口にすると、海都も賛同してくれる。どうやら海都も知っているらしい。

「ここから1時間半くらいかかるみたいだね。向かう前に何かつまめるものでも買おうか」

先ほど遅めのお昼ご飯を食べたばかりではあるが、たしかに2時間もあれば小腹は空いてくるかもしれない。海を越えた先に、海都おすすめの道の駅があるという。目的地は香川に定まったが、通り道である徳島の味もせっかくなら味わおうという心意気を持って向かうこととなった。


「よし!四国上陸、徳島着」


大鳴門橋を抜け、徳島県鳴門市へと足を踏み入れた。

そして市内に入り国道28号の道なりに数分車を走らせれば、さらにもう一つ橋が見えてくる。撫養橋(むやばし)だ。

四方どころではなく海に囲まれている四国は、橋の宝庫である。この旅でいくつ大橋を見られるか数えてもみたくなってきた。


「これだけ橋で本州や島に繋がれてたら、四国も寂しくないね」


橋があるから、この4県も離れ小島にならずにいる。ある意味命綱のようなものかもしれない。


「繋がれている何かがあるから、平穏を守っていられるのかな?人もさ」


大学という繋がりから暫し距離を置いて過ごしている海都には、湊の湊による感性で口走ってしまった話も自分自身と重なって聞こえたようだった。

海都と湊を繋ぐ橋は、何なのだろうか。メアリーだろうか、はたまたiM-Atomだろうか、人より少しだけ深く奥まって物事に耽ってしまうこの思考回路だろうか。

橋を渡っている間というのは、つくづく人を思考の渦へと巻き込んでいく。それを不思議と心地よく感じてしまうのが、やはり湊が湊である所以だ。


橋を抜け再び取り囲む景色が地に足つくと、車で数分走った先にその道の駅が見えてきた。大きな平面の駐車場には、車が何十何百台と停まっている。賑わっている証拠だ。

車を降りて建物へと向かう中、まず目に入ったのは"巨大なイモ"だった。無論、本物の芋ではない。鳴門市は「なると金時」の名産地。輪切りに何等分にもされたサツマイモのオブジェが実写化されたハッシュタグの標識とともに湊たちを出迎えてくれた。そんな"今"らしい光景に、人々はカメラのシャッターボタンを押さずにはいられないようだ。湊たちもそのうちの1組であった。

店内に入ると、入り口付近すぐにはベーカリーがあった。嗅覚の全てがその温かく多幸感に溢れたパンの香りに持っていかれるような玄関口である。

どうやらサツマイモのあんぱんが有名なようだ。鮮やかな紫色が、私を食べてと主張している。

他にもサツマイモを使用したパンもあれば、いわゆるお惣菜パンなど、こじんまりとした空間を埋め尽くすようにパンが並んでいる。

レジ前にはサツマイモや、もう一つの名産であるレンコンを使用した揚げ物も売っていたりする。パンはサツマイモのあんぱんを、揚げ物はレンコンのメンチを選んだ。海都は種類豊富な商品に大いに迷っていたが、湊が選んだものを後ろから覗き込みながら湊とは被らないように選んでいた。サツマイモのメロンパンとサツマイモのチップスが最終的にオーディションを勝ち進んだらしい。

ベーカリーから奥に向かって広大な物産スペースがある。湊は仕事に穴を空けている身分のため、ここでいくらかお土産を見繕いたいものだ。

「凄い気前いいね。清々しいくらいには」

サツマイモのスイーツやらレンコンスープやら瓶詰めやら、気になったものを買い物かごへ手当たり次第入れていたら、海都には笑われてしまった。たしかにこの年頃の若者の平均よりはいくらか財布も潤うほどの財力を持っているため、羽振りはいい方かもしれない。お土産を渡さなければいけない人数も会社の従業員単位であるから、これでも足りないのではないかと心配なくらいだ。


「ごめん、やっぱりもう1ついいかな」


罪滅ぼしに買い込んだお土産のほかにもう1つ、店内をまわっている間に目に入った代物があった。こう見えて、というかこの甘い顔立ちの見かけ通り湊は大した甘党である。既にサツマイモあんぱんを手にしていながらも、どうしてもこれは諦められなかった。


「さては、プリンだな?」


海都も湊の傾向は理解し始めたようで、すぐに察しがついたらしい。

プリンといっても普通のプリンではない、イモ味のプリンだ。スコップ型の小さなスプーンと表面がクランチで覆われたその風貌が、芋掘りを彷彿とさせる。粋な演出である。こういう小さなひと工夫があることで人を惹きつけるフックになってくれるのだと、表現者としても勉強になる。

店奥にある専門店へ再び足を伸ばし、無事プリンをお出迎えすると、湊たちは行きの身軽さからうって変わった大荷物で車へと戻るのだった。


目指すは香川、海の守り神が待つ場所だ。


ということで、お気持ち程度にはなってしまったのですが徳島編をお届けしました。作者が旅行で行った際は阿波踊り空港とかも行って楽しかったのですが、話に組み込むのが難しかったので断念しました。あと愛媛にもたくさんお気に入りの場所、湊たちが好きそうな場所があるのですが、こちらも描けるか微妙なところ…。


ひとまず次回からは香川をまわります。お楽しみに!


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