ep.3-3【人生の余暇】空の青と海の青
引き続き、淡路島編です!
再び車に乗り込み、淡路島縦断の旅を続行した。
運転手は海都に交代、湊は助手席でDJを一任された。
ただそうは言われても湊自身、固執して聴くほど特別好きなアーティストがいるわけではなく、普段は流行りの傾向を探ったり作品づくりに向けてのインプットのためにサブスクで曲をシャッフル再生させるような聴き方しかしない。強いて言うなら自分の曲は今後に活かすため敢えて世に出ている状態のものを連続的に聴き直したりはあるが、海都の前でそれをするのもまた少し違う気がした。
結局正直に普段そうしていることを伝えたうえでシャッフル再生を提案すると、彼は思いの外乗ってくれた。1アーティストをエンリピ勢には、流行りの楽曲シャッフル再生をも新鮮且つ画期的な聴き方らしい。
公式が組んだ「今月最も聴かれたTOP50」と題されているプレイリストを選択すると、シャッフルボタンを押す。最近街中やテレビでよく耳にする有名バンドの最新曲が流れ始めた。2曲目はTikTokか何かで流行っているというアイドルソング、これには運転席の海都が「これ知ってる!」と反応を見せる。メアリーを好きになってからアイドルの界隈は広く浅く聴くようになったという。
3曲目が何だったのか―記憶にないということは、その時点で湊は寝落ちていたということになる。友が運転してくれている隣りで爆睡をかましていたと気がついたのは、聴き馴染みがあるにも程があるその曲が流れ始めたからだった。
「あ、起きた。やっぱりアトムが好きなんだね」
己の最新曲を耳にして起きるというのは、何ともむず痒い目覚めではある。伸びをして気を紛らわせることにした。
「ごめん、寝てた」
朝にそれほど強くない湊にとって、今朝は早起きに分類される朝であったため眠気の限界を迎えていたらしい。
「全然いいよ。むしろ俺の運転に安心してくれてるんだな、って嬉しくなったくらい」
海都の心の広さは健在である。湊も今度からうたた寝してしまった助手席の人にはその心持ちで接しようと考えを改めた。
湊が夢の中に屯していた間に、車は南あわじまでコマを進めていたようだった。どうやら眠り姫と化していた湊に気を利かせて、どこかへ立ち寄ることもせずにここまで来てくれてしまったらしい。
「この際、淡路島を越えて四国まで足を伸ばしてみようかなと思ってさ」
四国に湊を連れて行きたい場所があるのだという。海都お得意の、運命を感じる場所。四国にもそれがあるらしい。海都といると、運命なんて幾つあってもいいものだななんて思えてくる。
「でもその前に、ひとまず休憩しようか」
南あわじの先端にある、道の駅。昨年の秋にリニューアルオープンしたというだけあって、建物もそれを掌握する空間そのものも鮮度が高い。
円柱状の巨大な建物には飲食店やお土産ショップ、大きなデジタルサイネージなどがあり、全体的に洗練された印象だったが、その店内には良い意味で異質さを放っているこの道の駅のキャラクターであろう水色の渦巻いた形の生き物が随所に飾られている。
「このあたりは渦潮が有名だから、きっとこの子も渦潮から着想されたんだろうな」
海都は微笑ましそうにそのキャラクターの大きな瞳を見つめながら呟く。たしかにこの道の駅のすぐそこにある鳴門海峡は渦潮が見られることで有名な場所である。発生には干潮や満潮が関わっており日によって見られる時間帯は異なるため、事前に調べて狙った時間に向かわなくてはこの目で見るのは難しい。今は既に本日2回分の機会が過ぎてしまった後のようで、見ることは叶わなさそうだ。
「でも、せっかくだから展望台は登ってみようよ」
淡路島の先端という好立地に位置するこの道の駅は、リニューアルに伴い鳴門海峡を含む全景360度を見渡すことができる展望台が誕生した。
建物自体もなかなかの大きさだが、そこから伸びる幅広なモザイク柄の階段は場内の面積を建物同等もしくはそれ以上に占めている。その階段を登った先が、展望台である。
目の前に広がる淡路の海ー花さじきが花の絨毯なら、こちらは海の絨毯といえよう。空の青と海の青、漢字にすれば同じ字だがそのアオは似て非なるもの。そしてその青に架かる大きな橋、大鳴門橋が風景に良いアクセントを与えていた。
「この景色は、昔からずっとここにあるんだよな」
この道の駅はリニューアルして生まれ変わったけれど、この景色はずっと変わらずこの地域の象徴として在り続けている。ある意味では、神戸の北野天満神社と異人館が成す関係性とは真逆ともいえる。この景色が見たいから、人々はこの場所にこの高台を作った。
「俺らは今から、あの橋を渡るんだね」
大鳴門橋を渡れば、いよいよ四国へ足を踏み入れることとなる。仕事でもなかなか降り立たない場所である。個人としては未開拓といっても過言ではない。
「でもその前に、腹ごしらえだな」
海都が苦笑しながらお腹を摩る。
気づけば健全な昼食の時間はとうに過ぎていた。どうりで先ほど店内で食事処を見て回っていた時に腹の虫が騒がしかったはずだ。
「ハンバーガーとかあったよね」
淡路の海は何だか自然と気持ちが解放されて、普段なら選ぶことのないジャンクフードの口になっていた。
「ハンバーガー!いいね、そうしよう」
海都も賛同してくれたため、満票を得たハンバーガーに本日の昼飯は決定である。
2人して悠々と手を広げて幅広の階段を降り、空きっ腹にハンバーガーを詰め込むべく再び建物の入り口を潜っていった。
今回は、南あわじ編をお届けしました。
とは言っても作者がこの目で見た淡路島の観光地が数知れていて、物語に組み込めそうなスポットは残念ながら早くもネタ切れなので(あとは某赤リボンをつけた白猫さんの施設くらいしかネタ帳になく(汗))、これにて淡路島編は終了となります…もう少し淡路島を開拓したいところです。
というわけで、次回からはいよいよ四国編へと突入していきます。色々描きたいスポットはあるのですが、全てをまわっているわけにはいかないので厳選してお届けできればと思います。お楽しみに!




