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5時46分ー僕が僕として歌う理由を探して  作者: はお
第3章 人生の余暇

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13/22

ep.3-1【人生の余暇】過去と未来を繋ぐ橋

第3章の幕開けです。


神戸を抜け出し、淡路島へ向かう道中になります。早速ご覧ください!

朝日を拝んだ後いくらか仮眠をとると、湊たちはレンタカーに乗って神戸を後にした。


まず目指すは、淡路島。


海都は大学の友人たちと少し遠出をしに行こうという話になったとき、よく今日みたいにレンタカーを借りて淡路島まで遊びに行くらしい。

湊も海都も車の免許は持っているから、2人で運転を交代しながら旅をすることにした。1走目は湊、人を乗せて運転するのは久々だから普段より一層安全運転を心がけようと思う。


「あ、Bluetoothでスマホ繋いで音楽流せるよ!どうする?何流そうか」


ここはやっぱりメアリーだろうと海都は上機嫌で流すアルバムを吟味し始める。ここは腕利きのDJに選曲を任せようと思っていたが、海都が気を遣って湊にもどんな曲を欲しているか訊いてくれた。

「何でも大丈夫だよ。強いて言うなら海都のおすすめが聴きたいかな」

実家では典型的な親バカたちが芽亜莉と湊の曲をエンドレス再生しているから、メアリーが携わっている曲ならおそらくどれでも知っている気がする。


「そしたらシャッフルで再生させて、イントロドンしようよ」


名DJがそんな名案を繰り出してくれたため、車内は突如としてクイズ会場へと化した。メアリー推しと芽亜莉の実弟がそれぞれの面目をかけた意地の対決である。

結論としては、正答率でいえば五分五分といったところだった。湊は車を運転しながらというハンデ付きであったから、実際のところは湊の方が優勢であっただろう。弟歴20年の実力を舐めてもらっては困る。

「楽しすぎる、この勝負!相手のがちょっと強いってところが、また癖になるというか」

海都も湊の実力を認めてくれるから、ファンからのお墨付きを頂けた気分だった。わるくない。


「気づけば、そろそろ本州脱出か」


海都が高速で流れていく車窓を眺めながら呟く。

「絵に描いたような逃避行だよね」

湊も海都も、居た堪れず逃げてしまいたい現実があった。その場に留まっていたら、いつか得体の知れない圧力に自分という存在が押しつぶされてしまっていたかもしれない。一度離れてみたら見えてくる景色もある。今はそう信じて、自分たちを肯定して突き進むしかなくて、ただひたすらに湊は車を走らせる。

「どうせなら、本州脱出する前に食べればよかったな。明石焼き」

兵庫県のソウルフードのひとつといえば明石焼き、という概念が湊の中にはあった。隣り合わせた府に住んでいる湊にとっては、実は府内にも店舗があったりするためさほど遠い存在でもなかったが、とても"玉子焼き"と呼べるほどの親しい間柄ではない。必ずと言っていいほど一家に一台専用機械があるたこ焼きとは訳が違う。それだけに、お店に足を運んで食べたい料理のひとつだった。そして現地で食べる、ということに意味がある。

「淡路島にもあるとは思うけど」

同じ県内に住む海都には湊の拘りは伝わらなかったようで、そう言って苦笑していた。

「見えてきたね」

気を取り直して湊は、高揚感を含んだ声色で呟く。


進行方向真正面に、大きな橋が架かっている。明石海峡大橋である。


橋に吊られている電飾は、陽の光に支配された青空に包まれ光り輝いている。夜空が背景であれば尚のこと綺麗だっただろう。ステージ上の照明機材と一緒だ。何色にも自由自在に光輝く照明は明るい場所でも光を放つことができるが、暗闇という空間の中でこそ最も美しさを発揮する。そしてその光に照らされて、この橋もアーティストもより一層その存在感を確立することができる。そういった環境を用意してくださるスタッフたちにも日々感謝して活動していこうと、湊はこの橋に誓った。

「芽亜莉って、こういう橋を通る時のカーナビ画面が好きなんだよね」

ふと思い出して、つい姉のエピソードを話題に出してしまった。マウントと受け取られてしまわないか一瞬心配したが、海都はそのような器の小さい人ではない。どちらかというとそういう話を貴重な情報として受け取るオタク気質なところがあり、湊の話を文字通り前のめりで聞いてくれるのだった。有り難く話の続きをさせてもらう。

「画面上が橋と海だけになるでしょ?これが好きらしい」

湊たち家族も何度か車で淡路島には来たことがあり、そのときによく芽亜莉はこの真っ青な画面を見て1人はしゃいでいた。湊はそれを微笑ましく見守るのみであったが、そんな物好きは芽亜莉だけでなかったようだ。

「たしかに、なんか水中を泳いで移動してるみたいでいいよね」

彼の共感性と想像力は才能のひとつだ。歌が上手く歌えることより身近な人を幸せにするかもしれない。

さすがの芽亜莉もこの画面を見て擬似水泳までは想像できたかわからないが、海都がメアリーに没頭する理由は何となく理解できた気がした。感性が合うということは、何より人と人を繋げるものである。


「ついに、脱出」


橋を渡り切ると、一層晴々とした口調で海都は言う。

この橋のように、過去と今、そして未来への架け橋になるような旅になることを願うばかりである。ウィンカーを左に出した湊は、慎重にブレーキを踏みながら緩やかに車のスピードを緩めて道なりに高速道路を降りていく。


旅はまだまだ、始まったばかりだ。


というわけでようやく神戸編が終結し、淡路島へと渡ってきました。

旅行は観光地を巡ることがメインイベントになりがちですが、こういう道中の何気ない会話も旅の醍醐味だったりするよなあと思うこの頃です。そのため彼らの車内での様子も少しばかり覗き見してみました。いかがだったでしょうか?


さて、次回はいよいよ淡路島に到着します!まだまだ巡りたいところが沢山あるので、ここから急ぎ足にはなってしまうかもしれませんが、お付き合いのほどよろしくお願いします。次回もお楽しみに!

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