#01 雅
大船課長へ連絡した次の日、雅と斉明にできる事はなく、孝治たちに悟られぬよう、何もしていない演技をしつつ、一日を過ごした。
裁定委員会は、いつ頃に来れるだろうか――孝治たちの文書が届いてからだとして、早くとも明日の昼ごろだと思っていた。今日は何もないと思って、斉明の言われるまま、自衛のための道具の点検をしていたら、あっという間に一日が終わった。
まさかこの間に、裁定委員会では大変な騒動になっていたなどと、考えているわけもなかった。
また明日にでも連絡してみようと、その日は床に着いたのだ。
草木も眠る丑三つ時、誰もが一様に眠りについている中で、その異常を上宮邸内で真っ先に感知したのは、他でもない雅だった。
誰もが眠っていようと、彼女が使用する『庭園の眼』は働き続けている。それが異常を捉え、警鐘を鳴らしたのだ。
今までこんな事は無かったため、雅は何事かと思ったのだ。庭園を囲む四方の門――その隙間から、侵食してくる『何か』があった。
透明なそれは、まるで水のようだ。しかし雨など降っていないし、この動きはまるで――液体の生物が、意思をもって進行するようだ。
「まさか――」
喉が干上がる感じがした。だが、一度確信すると、もはや疑いようも無かった。寝巻き姿の斉明を起こし、異常を知らせる。
「斉明くん、起きて。誰かが動いてるは……邸内に、なにか侵入してる」
眠たい目を擦りながら、斉明は跳ね起きた。
「裁定委員会……でも、あんな理由で動くとは……とりあえず、様子を伺いましょう。雅姉さんは引き続き、監視をお願いします。僕は道具を引っ張り出します」
押入れに隠しておいた得物を斉明が取り出したとき、雅のもう一つの視界に広がったのは、各所で上がる火の手だった。




