第十七話 おーっほっほっほ、ターゲットロックオンですわ!!
予定は未定!!といって早二ヶ月過ぎ、ようやく投稿。
仕事を言い訳にしたくはないですが、難産でした。
…息抜きに短編、ホラーを書きたいなぁと思う最近の作者です。
では、どうぞ。
ロンドベル公爵家にやってきた新たな行儀見習い、ミランダ・コァザート・マシュー。
彼女は仕事初日からやらかした。
何をやらかしたかといえば、やる事なす事全てである。
行儀作法を習う講師に対し『よろしくレディ』とふざけ、メイドからの簡単な使いにおいても『ひとっ走りしてきます』と動きやすい男物の服に着替え屋敷を出てこようとする。
害虫が現れると壁にかけてある剣を勝手に取って振り回す。
掃除においては豪快にハタキを叩いて家一軒建つほどの価値のする壺を割ってみせた。
もちろん弁償ものである、マシュー家では即金で払うことが難しい以上、ミランダは行儀見習い兼債務者となった。
唯一役に立ったのは力仕事だが、本来の職務とはかけ離れていたため評価されなかった。
一週間経つとようやく落ち着いてきたのか、普段の業務に若干の支障のある程度に鳴りを潜めた彼女は『口を開かず、動かなければ』目つきの鋭い行儀見習いに見えるようになった。
「…ミランダ嬢、これから貴女は言葉遣いを淑女…私が使う口調に直していくのですが、一点、これだけは伝えておきますわ」
「なんです?」
あっけらかんとしているミランダに、アドリアナは積みに積まれた『被害報告書』と書かれた紙の束を執務室に響くほど力強く叩くと、こう言い放った。
「お約束していた以上、ご実家への支援は惜しみませんわ。
けど…貴女のこしらえた借金、耳を揃えて完済するまで、入り婿がやってくると思わないことね!!」
この一週間でミランダがこしらえにこしらえた借金はアドリアナが二度見してしまうほど膨らんだ額になっていた。
どうしてこうなった、とアドリアナは内心呟いたが、答えは当然雇用した自分の所為だと自答した。
「お嬢様、淑女らしさが抜けています」
執事然としたエヴァンスは、嗜める様にアドリアナに声をかけるが、その表情は様になるほど|『にやついて』いた。
「エヴァンス、貴方楽しんでいるでしょう?」
「割と楽しんでいます、お嬢様の表情がめまぐるしく変わっていく様は見ていて楽しいです」
被害としては馬鹿にできたものではない、大損害であるが、エヴァンスの懐が痛むわけでない。
ロンドベル公爵家から見ればこの程度の損害額など一日で帳消しにするほどの経済力はあった。
エヴァンスはただ、アドリアナが報告されるミランダの仕出かした所業の報告を受ける際、なんともいえない表情をする彼女を見て日々を楽しんでいた。
なんだかんだと言いながらも、これほどの被害を出しているミランダの為に入り婿を用意する気でいるアドリアナの懐の深さに感服するのだった。
行儀見習いである以上、雇用側も縁を繋ぐ為にも嫁ぎ先や入り婿先を探すのは当然のことのなのだが、それは積み重なった『実績』があればこその話だ。
「…リア充乙」
取り残されたミランダがボソッと口にしていることに気付いたアドリアナはもう一度紙の束を叩く。
よほど鬱憤でも溜まっているのか、ミランダには心当たりしかなかった。
「ミランダ、貴女にはまずその『マジデ』や『リアジュウオツ』、それに『プークスクス』といった『異世界語録』を一切禁止させていただきます。
するのなら一人きり…いえ、板につくまでは一人きりの状態でも一切禁止ですわ。
あと語尾、口調が乱れているから最低限ですます調から始めましょうか。
淑女教育を始めるまでに、まずは最低限の言葉遣いから始めていきますので、そのつもりで…よろしくて?」
「そんなぁっ!?」
ミランダがこの年になってまで口調も直さずによく貴族社会を生きてきたものだとアドリアナは不思議に思ったものだが、調べてみればミランダがこれまで社交界で恥を掻いてこなかったのは、偏に出ていないからだ。
理由を聞けば剣の鍛錬をしていたからだという、もはや酌量の余地もなく、アドリアナはミランダをスパルタ形式で鍛えることにした。
抗議の声を上げたミランダだったが、これまでの怠慢のツケがやってきたのだとアドリアナが無慈悲な一言を伝え、反抗の意思を叩き潰されたのだった。
* * *
アドリアナは執務室で今月の収支報告、および隠密から届いた各地の情報を記した報告書を手際よく読んでいく。
彼女の記憶にあった報告書を分かり易く簡潔に書くコツを周知徹底している現在では、大量に積まれた報告書であっても一枚あたりの読む速度は桁違いに速い。
速読もマスターしているアドリアナは持ち前の能力の高さを活かし、各報告書を読み上げながらこれまでの情報との修正、統合、行動予測、齟齬を洗い出していく。
筆記については控えているエヴァンス、それに速記に特化した文官を三人配置して頭で纏めた情報を口頭で伝えていく。
この作業を午前中に費やし、午後から本格的な執務が始まるのだ。
アドリアナは将来的にこの作業を新部署である『統括局』に任せる予定だ。
現在のアドリアナの体制は一極集中、つまりアドリアナがいなければ重要な局面では業務に支障の出るものばかりで、将来アドリアナがこの座を退いたとき、アドリアナと同等の能力を持っている後任者が公爵家を回す事ができるのかという懸念があった。
つい最近『能力値は全作品中で一番平均値高い』とお墨付きをミランダからもらったことで、その懸念に拍車が掛かり始めたのである。
自らがこの代行の座を退くまでに、一極集中から分業体制に移行することを最終目的としていた。
「…さてと、それではこれから今後の予定を詰めていきましょう。
今日の報告で、おかしな点があったわ。
物価の偏りね…特に南部で高騰が続いていて、あのサウスザスターに移民者まで出ているという異常事態よ」
「サウスザスターへ移民者が出るとは、まさかの事態ですねお嬢様」
サウスザスターは密告制度で有名な国で、以前アドリアナがロンドン商会をサウスザスターに支店を設けたが、権力を使って店舗の資産、つまり在庫の商品を全て強制徴収したというアドリアナにとって許しがたい記憶の残る国でもある。
三年前にもエイルネス王国に侵攻しようと情報を集めていた諜報部隊を捕縛したという事もあり、国内でのサウスザスターの印象は最悪といっていい。
権力者側でも最悪な印象を持たれている上、民側からは税もきつく治安も悪い、販路を広げようものなら更に税がかかってくると良いとこなしの印象しかない。
そんなサウスザスターに移民をする者が現れ始めたという。
しかも移民するのは大工や鍛冶師といった『技術者』たちだ。
国外に技術が流出する危険性を南部を統括する貴族、アズライト侯爵家が黙って見過ごす筈もないのにこの事態。
しかもこれは一件二件の話ではなく、既にその数は二桁にまで登り始めている。
鉄鋼が盛んなアズライト侯爵領は工業都市としても有名で、国内における鉄の6割以上のシェアを保有している、この程度で王国の鉄鋼業が廃れるほどではないが、看過できる問題ではない。
「…それにあのアズライト侯爵が、ここまでの失態を重ねるとは…思えませんわね」
「仰るとおりでございます」
アドリアナは侯爵の人となりを知っている。
アドリアナの父アリストと同等、一部ではアリストすら抜きん出るほどの能力を持つ彼が、この状況をただ手を拱いているとは思えなかった。
これは彼の得意分野、危機察知や危機管理に該当する、既に事態は治まってもいい筈の日数が経っているにも拘らずこの状況だ。
疑問ばかりが重なっていき、思考が行き詰ったところで、アドリアナはミランダに声をかけた。
「…ねぇミランダ、あなたこの事態のことを何か知っているのかしら?」
その場にいることを命じていなければ忘れていたのではと思うほどのスルー振りでミランダは自らの『原作知識』の中で該当する記憶がないか探っていく。
「サウスザスターが関ってくるのルートは、偽造硬貨事件と拉致事件と記憶していますです。
主人公がキシュワード王子と一緒に事件解明するまでに恋仲になっていく…というのが話の趣旨だったかと記憶してますです」
「……詳しく教えなさい」
口調についてはあとで躾ければ良いとアドリアナとエヴァンスは無視して、続きを促す。
要約すると、『ファン&ラブseason2』のキシュワードルートでは主人公の少女―――アドリアナの脳内設定ではミランダが登場するがありえないと即座にかき消した―――がサウスザスターがエイルネス王国内で暗躍している事件にキシュワードが関わっている事を偶然知り、それを止める為に様々な経緯を乗り越え、最終的に恋仲になった二人はサウスザスターの企みを阻止して黒幕だった国王と兄王子を退け国王となってハッピーエンド。
―――というアドリアナからすればふざけた設定を聞き、一言呟いた。
「制作会社がこの世界にあったら権力を使って潰していますわ、何ですのこの設定」
「杜撰過ぎる設定ですね、肝心な描写をあいまいにしては対処に時間がかかります。
ミランダ嬢、偽造硬貨と拉致事件についての詳細をお教えください」
ダメ出しをしたエヴァンスは、ミランダに続きを促す。
「偽金については記憶だと本物の含有量をほんのぎりぎり、普通じゃ気付かない程度にしていってエイルネス王国の信用を失墜させるって大まかな感じではこうです。
拉致事件は…技術者かは分からないんですけど、大きな商会とか、能力のある人たちの家族を拉致して本人たちには自分の意思で移住させてだんだんとエイルネス王国の基盤を削っていくっていう、正直何十年も掛かりそうな計画だった筈です、こっちはキシュワード王子のお兄さんが黒幕でした。
キシュワード王子はこの件においては実行部隊の指揮官、見たいな役割だった筈です」
「決まりですわ、次のターゲットはキシュワード王子にしましょう」
「よろしいので?」
「ええ、他の二人は直近の害はないもの、とりあえずは放置ね。
けど、既に害の出ているサウスザスター―――キシュワード王子は違うわ。
たとえ黒幕であろうとなかろうと、この件に実行犯として罪を犯しているのなら国外退去の十分な理由にもなりますもの。
更に一人、脱落ですわね…先は長いですわ」
「…お嬢様、お嬢様って王子様と結婚はしないんですか?」
ミランダはアドリアナが四人の王子たちの誰かを婿にすると考えていたが、アドリアナの言葉に違和感を覚えて疑問を投げかけた。
「婿としての能力を求めるのなら、あの四人の王子は全員基準値以下、落第ですわ。
現在私はあの四人をこのエイルネス王国から適当な理由を作って自分から自分の国に帰らせる…という面倒な計画を実行中ですの」
「玉の輿なのに、もったいない」
「…ミランダ嬢、この場合逆玉かと…ではなく、お嬢様に彼らは相応しくありません、害しかないのであれば排除しなければ…」
「執事パイセ…先輩、笑顔が怖いです」
ミランダがエヴァンスの意味深な笑みに恐怖を抱いていたが、ともあれ次の目標は決まった。
大まかではあるが事情も大分知れて、あとはこの情報の確度を更に上げるのみである。
偽造硬貨、そして拉致問題。
それに関わっているのが隣国であるならば、現地の協力者はやはり必要であろう。
となれば、最上級の協力者に心当たりのあるアドリアナは、早速使いを出した。
????「へっくちっ!!」
????「????嬢、風邪かい?」
次回、『第十八話 おーっほっほっほ、王都不思議発見ですわぁっ!!』………やばそうなら変える予定、
予定は…未定‼︎
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。