第二十六話 LOVE IN THE HOUSE
第一章の最終話になります。
ここまで読み続けてくれた人に感謝いたします。
(詢子さん……アコさん……ごめんなさいデス――)
投げ出された直後に、危うく失神しかけました。お二人の笑顔が一瞬浮かんで消えました――。
(イエ……。こんなところで、あきらめちゃダメです)
わたしは両手を広げて、体を安定させようとしました。すると、ほんの少しですけど落下速度が弱まりました。
(慣性制御――生身で急制動したら、空気の壁に当たります)
未知の魔法を練るのは、さすがに不可能です。右手に握りしめた携帯電話の角がイタイです。
(座標制御――こんな状態で、安全な位置への変移はムリです)
ここ数日に使った魔法を思い浮かべてミマス。
(摩擦係数――落ちるのが速くなっちゃいますよネ……)
みんなの笑顔に、もう一度会いたいですから……。
(磁力増強――生身じゃあ、意味がないですよね)
時間の流れが変化するような感覚にとらわれかけています。。
(電磁魔術――空気に使っても、あまり意味ないですね)
これが走馬灯とか言う物なんでしょうか――。
(たぶん……魔法を使えるチャンスは一度っきり――)
失敗したら……考えるまでもないですね――。
(時間を稼げば、何とかなるかもしれませんネ)
初島の小高い丘は、もう眼前に迫りつつありマス。
(とっても危険だけど、これしかないみたいですね――)
わたしは覚悟を決めて、脳内で魔術を構築しました。
「MAL○R――座標は上に二千メートルです!」
スカイダイビングはその高度だそうですから……。それ以上高いと、高山病になるですから――。
◇
「大原二曹って方の、かばんの中から大量の爆薬が出て来ました!」
「ちょっとぉ! IDしか調べていなかったの?」
「御笠司令! シャイニングホークから通信が来てるっスよ!」
「……こちら、シャイニングホークの大原です――聞こえますか?」
「すまねえ! あの嬢ちゃんが、下に落ちちまった!」
「敵の巡洋艦が、半島を回って当機に砲撃をしています!」
「こちらも情報伝達でピンチなの。帰って来て!」
「で、でも! あの嬢ちゃんを助けないとよぉ……」
「いいんです――いまは……これは命令です! 至急帰投セヨ!」
「り、了解……。ちっくしょぉ……なんてやつだ」
◇
「くっ、はぁっ……ふぅっ……せ、セイコウしたみたいですネ」
目の前まで近づいていた地面は、遠ざかっていきました。回りの空気も一緒も飛ばしたんですがきりもみ状態です。
気を失っていた瞬間に、何かを見聞きしたような気が……。
「こっ……コウですかね……。ふぁっ……うぅっ……クゥッ」
以前みた映像を思い出して、何とかポーズを取る事ができました。
「あっ……。シャイニングホークが……大丈夫でしょうカ?」
中型の巡洋艦からの砲撃を、よけているのを発見しました。そのせいで、かたむいてしまったんですね。
「よかった。空母の方に逃げてくれたみたいです――」
残り十数秒から数分程度まで時間は増えましたけど――。
「感覚的に、もう三十分ぐらいは、MAL○Rが使えないですから」
アクティブスキルとして使うしか方法がなかったんです。
「エト……。何かゲームに、それっぽい魔法ってないですかネ」
海外の有名RPGに、国産の二大RPGを思い出しました。
「コレしかないですね。レビテーションの概念ならキット」
これは慣性制御ではなく、重力制御になるんですかね。
「少しずつ、降下する速度を減らしていけバ!」
自分を対象に、縦の重力を一割減らしてみました。
「これを……少しずつやって行けば、理論上は!」
目に見えるほどではないですが成功しました。なんとかパッシブ魔法として作用してマス。
「くっ……ちょっと急だったですかね……デモ」
重力を三割減らしたので、衝撃を感じました。もう、高度は半分近くまで下がって来てマス。
「これ以上、重力は減らせないかもですね」
これ以上だと宙に舞う紙片のようになりマス……。コントロールを失っては、意味がないんです。
「重力制御だけじゃダメなんですよね、たしか」
慣性がついているので軟着陸はムリですよね。たしか中学校の教科書に、書いてありました。
「デモ、重力と慣性の同時作用はムリですカラ」
ほぼ同じ事象に、同時に介入するのは無理なんです。
「のこり五百メートル……切っちゃいましたネ」
どう考えても、チャンスは一度きりなんです――。
(残り数メートルでパッシブの重力制御を切って直後にアクティブで慣性を制御すれば、理論上は――)
けど、それは……。地面に直撃する瞬間まで、精神を集中させないといけないという事なんです。
(お師匠やおねえさんたちと、毎日魔法の修行をしていたころなら、きっとあきらめてました)
ミストークの血族の女性に課せられた義務と、アインスを名乗る者の責任――。それは、たしかに重いものでしたが、生きている実感というものが薄いんです。自分ですらそうなのに、数十年を同じ姿で過ごすおねえさんたちはもっと――。
(誰かを必要とし、誰かに必要とされる事で、生きがいを感じようとしているのかも――)
そんな無駄な努力をしてまで、誰かとかかわろうなんて、思っていませんでした――。
詢子さんとアコさん。わたしと悲しいほど似ていて、帰るべきところがなかった二人――。
だけど、お二人は過去に正面から向き合う事で、家族と偽りではない関係をきづく事ができました――。
わたしも……あの二人みたいに……。立ち向かわないといけないんです。未来に――。
(まだまだ……。もっと……生きていたいんですから! みんなの元に帰りたいんですから!)
眼前に迫る、死という現実――。甘い誘惑にかられそうですが、生きるしかないんです。
わたしは残り数メートルの地点で、重力制御を切り、慣性制御にシフトしました。
「うぐっ。あっ、あぁぁっ! 誰かぁっ……助けてっ……けふっ!」
自分の体にかかった慣性は打ち消しましたが、丘の斜面を転がってしまいました。
「はぁっ……けふっ……んっ……ワタシ……生きているんですネ!」
危うく谷底に落ちてしまいそうなところで、停止しました。
「ワタシ……みんなのところに……帰り……ますカラ――」
必死に意識をつなぎ止めようとしたけれど、無理でした。体中の力という力が抜けていき目の前が暗くなりました。こんなに一度に魔法を使った事は初めてでしたから――。
世界と自分を分かつ境界線が、ぼやけていくような感覚。門に飛び込んだ時の感覚と似ているような気もしますネ。頭のてっぺんから、意識があふれ出していくような独特の感覚が、わたしを包んでいきました。
◇
「どうして、ローネを放っておくんスか! 魔法で即死は避けてるかもしれないっスよ! いまなら間に合うかもしれないんス!」
「落ち着きなさい……。それが理由よ。このままじゃ突破されて、東京は火の海なのよ?」
おかしいですネ……詢子さんとアコさんの姿が見えているような気がするんです――。
「姉さん! 大島の西に配置した護衛艦とイージス艦は、その過半が移動ができません!」
「動けないなら、誘導なしでいいから、ハープーンでも対戦車ミサイルでも、撃たせてちょうだい!」
天城大尉が血相を変えて報告しましたけど、詢子さんは無表情で命令をしていました。
「シャイニングホークを攻撃していたという巡洋艦は、補給に帰るFー2がたたきます」
「シャイニングホークが戻ったら、地上の砲兵部隊と連絡をつけなさい。総力戦よ!」
瑞穂さんが航空隊の指揮をしているようです。シャイニングホークは無事みたいですネ。
「御笠司令! 敵の大型攻撃ヘリが二機、左舷方向から、高速で接近して来ています!」
「左舷のCIWS|(近接防空システム)を全自動迎撃モードにいますぐ変更しなさい! 左舷の五十インチ砲の弾幕が薄いわよ! 砲身が焼け付くまで撃たせなさいっ!」
上の艦橋から、監視員が直接駆け下りて報告し、詢子さんが即座に対応をしていマス。
「大島の北東の護衛艦は健在なの? なんとしてでも、浦賀水道をふさぎ続けなさいっ!」
「イージス艦はすでに航行不能で脱出中! 大島の東の護衛艦二隻がいまも健在です!」
想像を超えた猛攻撃を受けているようですね。わたしも役立ちたかったですケド――。
「飛行甲板の二カ所に、敵の砲弾が命中! 幸い、火災はすぐに消し止められました! ですが、このまま砲撃が続けば!」
「なんで曲射砲なんて物を空母の甲板に並べてるのよ。常識では、はかれない相手なのね」
英国帰りの提督の実力……。詢子さんの想像をはるかに超えているみたいですね……。
「Fー15は補給がまだ終わっていないの? 早く敵の空母を沈めないと、このままじゃマズいわよ!」
「通常爆弾による爆装では速度が落ちるので、虎の子のマーベリックを装備しています」
瑞穂さんは、百里基地との通信をいったん止めて、御笠司令の問いかけに答えました。
「姉さん! 東から迂回(うかい)して来た魚雷艇からの雷撃です。後方に航跡三本!」
純一さんが泡を食ったような表情で、作戦司令室に走り込んできて報告しました――。
「なんですって? 後方のCIWSは使えないし……右に進路を。きゃぁっ! くぅっ……やってくれるじゃないのよぉっ!」
三発の魚雷は、空母サンダーホークのスクリューに直撃してしまったようです。
「御笠司令! 左右のスクリューが全損の模様! すぐに行き足が止まってしまいます!」
「わざわざスクリューを狙ってきたって事は……。来るわね」
「いったい何が来るって言うんですかぁ? 詢子お姉様!」
「総員に告げる! 武器庫を開放して戦闘の準備を! 敵がすぐに乗り込んで来るわ!」
「て、敵の高速艇が左右から急速接近し、接舷用のアンカーを撃ち込んで来ています!」
「やっぱりか……手のすいている者は、迎撃しなさい! 本丸を落とされたらそれで終わりよ! 東京を守れるのは私たちだけなのよ」
大丈夫ですよ、詢子さん。わたしがそんな事はさせませんから!。
わたしはテンゲンの要領で、少し意識を上昇させて行きました。
Fー15の飛行隊を発見しました。なんだか苦労しているようですねぇ……。
「くっ。もう少し、電波障害が収まらないと、ロックができんっ! 一度散開せよ!」
なんだ……。そんな事で解決するんですか? なら……わたしにおまかせあれデス――。
「隊長! 急速に電波障害が低減していきます! まもなくロックが可能になります!」
「なんだと? 全機、敵の旗艦の軽空母に、順次発射せよ! ここが勝負の分かれめだ」
その後、旋回して位置についたFー15は、一発づつの対艦ミサイルを放ちました。
「隊長! 敵空母は撃沈しました! 次の攻撃目標はどこにしますか?」
「空母サンダーホークが接舷されかけているそうだっ! 機銃で高速船を撃破しよう!」
「御笠司令! Fー15が後方から支援してくれています! 敵兵は接舷を断念の模様」
これで戦局はほぼ決しましたネ……あぁ、意識が薄れていきます……モウ終わりなんでしょうカ?
せめて、最後だけは……みんなのいるところに……。魂だけになってでも……還りたいんです――。
デモ……限界が近づいているようですね。わたしの体内に門が開いたかのような感覚が――。
詢子さん……アコさん……瑞穂さん……天城大尉。オマケに純一さん。ありがとう。
みんなのおかげで、わたしは一人の意志を持った人間として……短い間だけですが、胸を張って生きる事ができました――。
「御笠司令! 百里の航空隊から連絡です。残敵の掃討中だそうですが、不可解な事が。急に電波障害が消えて、敵の旗艦を撃沈する事ができたとか……不思議がっています」
「くっ……ローネ……私たちはもっと……あの子の事を理解すべきだったのよぉっ……」
「まさか……ローネのやった事だって言うんっスか? 御笠司令」
「世界を救うために孤独な戦いを挑む。そんな子を、決して一人で行かせるべきなんかじゃなかったのよ!」
御笠司令は、握りしめたこぶしにツメが食い込んで、血が床までしたたっていました。
◇
みんなを……泣かせるつもりじゃなかったんです……みんなのところに……な、なに?
どこからともなく、たえなる調べが聞こえて来ました。もしや召されちゃうんですか?
歌を歌っているのは……見覚えのある草原で……アインスの貫頭衣を身にまとう――。
不思議な圧力とでもいうようなものが、この空間にいるわたしに響いているようです。
この伊豆大島周辺に広く薄く存在していた『わたし』は、急速に収束していきました。
「こ、これって……ワタシ、まだ生きているんですネ……」
まぶたを開くとあふれる涙の向こうに、夕暮れの空が見えました。あれから、どれぐらいの時間がたってしまったんでしょうか……。まさか、別の世界に飛んだり……。はしていないようですね。
「何時間も眠っていただけのようデスね――」
空母シャイニングホークがいるだろう方角を見ると、いまでも、はるか遠くに、点のような大きさで浮かんでいました――。
「アイタタ……骨が折れたりは、していないみたいですね」
けど、斜面を転がった時に擦り傷を作ってしまいました。ずっと寝ていたせいか、体のふしぶしが痛いです。
「ワタシが帰らないと……詢子さんが……アコさんが……みんなが泣いちゃいますから――」
わたしは痛む腕や足をかばいながらも立ち上がり、近くの海岸へと向かいました――。
「はぁ……はぁ……。ワタシでも乗れそうなお船は……って、ナンですか? コレ?」
ヨットやボートが並ぶ波止場には、恐ろしく場違いなソレが、鎮座していました――。
「迎えは当分来そうにないですし……自力で帰るしかナイですね」
わたしは覚悟を決めて、その『乗り物』に乗り込んでいきました。
◇
「御笠司令……シャイニングホークの整備が終わりましたけど……エンジンに弾を食らっていて、ちょっと飛ぶのは無理みたいですね」
「御笠司令……。初島で取り残されたという子どもですが、別の船で避難していた事がようやく判明しました」
「司令……。もうヘリも厚木に帰るのが精いっぱいで、捜索は断念するそうっす……」
「くっ。このデカブツが動くのなら、初島でもどこでも……ローネのところに乗り付けてあげるのにっ――」
◇
「フウ……すっかり遅くなっちゃいましたネ。早く帰りたいデス」
途中で二度ほどヘリコプターが上を通過しましたけど、わたしに気がついてはもらえませんでした。乗り物だけが漂流してると思ってるんですね。
「うんしょ……うんしょ……これじゃ夜中になっちゃいマスねぇ!」
こげどもこげども、空母はちっとも大きくなってくれないです。
「歌でもうたったら、元気出るデスかね……」
わたしはセーフハウスで暮らしていたころの事を思い出しました。テレビを見ていると、あるコマーシャルの歌を聴くたびに、胸が締め付けられそうになって……いまにも家族を求めて外に駆け出したくなる衝動にかられるのに、わたしは一歩も部屋を出る事ができず、涙をこらえてテレビを消して、うずくまる事しかできませんでした。
とてもつらい思いを感じてしまうはずなのに、その歌はわたしの心にしみこんでいきました。英語版の歌詞もそらで歌えちゃいます。
「うんしょっ……えぇと……。英語版の詞を日本語に意訳すると、こういうふうな意味デシタよね……」
☆☆☆
http://www.sekisuihouse.co.jp/sekisuihouse_no_uta/
二番目のLOVE IN THE HOUSE英語バージョン。
歌詞表示エリアの英語Verボタンを押してください。
http://www.sekisuihouse.co.jp/cm/
もしくはCMギャラリーの、家はLOVESONG編
作者による意訳版を掲載します。
☆☆☆
「我が家にまさるところなどなし。わたしは家に帰り着く事を願う」
遊び疲れて、よろける足取りで帰った家。角を曲がると見える家。
「おお! 家にたどりつく事ができれば、人生はどんなに素晴らしいか――」
見慣れた木々をなでながら帰ったわたしの家……みんなが待つ家。
「毎日でも毎晩でも、わたしは家に戻りましょう」
煙突から立ち昇る煙を見ると、お腹がクウって泣いたです――。
「とても甘く幸せな気持ちに包まれて、わたしの心は家に属します」
夕暮れになると、私の帰りを待って外に出ていたおじいちゃん。わたしのために、丈夫で暖かい着物を作ってくれたおばあちゃん。
「おお、わたしの愛する家よ……愛する…………」
ワタシの頭をワシャワシャして、もっと早く帰れというお父さん。そしてかまどのそばではお母さんが温かい笑顔を見せてくれました。
あのぬくもりに包まれる事は、もうないのかもしれないけれど。大好きな人を包んであげる事はできるんですから……。
だから、わたしは帰らなくちゃいけないんです――。
「うんしょ……うんしょっ……。空母の灯りが見えるデスね――。あの灯りの中には……詢子さんやアコさんたちがいるんデスよね」
早く抱きしめて欲しいですのに……頭をワシャワシャってやって欲しいですのに……ほおをスリスリして欲しい欲しいですのに――。
「ふぅっ……うっ、あぁっ。足が、もう……動かないんデス」
何度もにぶい痛みを感じ続けていたけど、ムリしてこいだからですかね。アキレス腱とかをやっちゃったんですかねぇ。
「早く……あそこに……帰りたいのに……どうしてデスかねぇ――」
足だけでなく体中の力が抜けていくのを感じて、わたしはハンドルに突っ伏しました。もう、すぐそこなんですけどねぇ――。
「こうなったら……魔法を使うしかないですよね……ちょっと怖い気もするですけど、重力制御……やっちゃいましょうか? けど、自力では動けないのに制御しても……波に流されるだけデスよね」
「ローネっ! しっかりするのよ」
いけません。気を失っていたようです。詢子さんの声が聞こえたような気がしますね……。本当の両親と義理の両親がいるのに、どこにも居場所を感じられなかった詢子さん……もう大丈夫ですよね。二人の弟さんもいて……。お父さんにも素直になれましたから――。
「ちょっ! ローネってばぁっ! だめっスよ?」
また意識が飛んでたみたいですね。アコさんの声が聞こえたような気がします……。妹の瑞穂さんと、これからは仲良く、一緒に暮らした方がいいですよ……だって、大事な家族なんですから――。
「アレっ? もしかして、流されているんデスか? これ――」
波に乗ってそのまま行くと、空母にたどり着けずに、外洋まで出ていってしまうかもしれないですね。魔法を使うしかないと思うんですけど、どんな魔法を使ったらいいんでしょうかネ。
「うーん……アレっ。どうして、魔法を構築できないんでしょうか」
いくらつかれているからと言っても、ふだんなら何の問題もなく、魔法の式を脳内で構築できるのに……ちっともまとまらなくて……詢子さんや、アコさんの姿しか思い浮かべる事しかできないんです。
「どうしてでしょうか……これまでは、こんな事なかったのに」
そういえば、魔術師は普通の人とも接しない方がいいって、隠れ里に住んでいたのも……心を乱すような事を避けるためなんですね。
人を愛したら、心がそっちに動いてしまうから……。こんな状態では門の制御なんて、到底無理な話ですよね……あはっ。
「はやぶさタンの気持ちが……少しわかって来たような気がします。すぐそこに見えているのに……お家に帰る事はできないんですから」
「はぁ……。このまま流されたらどうなるんでしょう。お昼ご飯も食べていないですのに……のども渇いてきちゃいましたねぇ」
わたしはここにいます……ここにいるんですから……誰か……。わたしの孤独な魂を感じて欲しいんです。すぐそこに見えている、『家』の灯りを見ながら力尽きるなんて……。そんなのイヤです。
目を閉じれば、少しはそんなつらい思いから解放できると思うんですけど……たとえ閉じても、わたしの心に灯っていそうですから。
◇
「姉さん。戦場神経症ですかね……ピンクの巨大な白鳥を目撃したという者が続出しているんですが」
「たしか初島に、新名所ができたとか……ローネ? そうなのね?」
「ちょっ! どこに行くんっスか? 司令!」
「いいから、みんな、私についてきなさい! 走れぇっー!」
◇
「アレ? 光が少し大きくなったように見えますけど、気のせいですかね……わたしの涙で、大きく揺らいだだけなんでしょうかね」
「そういえば、はやぶさタンは、こっちの方角の宇宙(そら)に浮かんでいるんですよね……。念話をする余裕すらないんデスけど」
空母の光のはるか先……肉眼では見えるはずもない、そのわずかな光から、強い意志を感じる事ができたような気がするです――。
「アレ? 波の方向が変わったんデスかねぇ……」
乗っている船が、波を切る音を感じる事ができました。けど、波に乗っているならこんな音は……あぁっ――。
「たしかに動いているです……わたしの『家』に向かって――」
何の魔法もかけていないデスのに……まるで、『家』で待つ人の思いに吸い寄せられるかのように……あぁ……詢子さん。アコさん。
「ワタシ、帰ります――。みんなに、『ただいま帰りました』って、言いたいデスから……。また、みんなといっしょに、温かい家で」
さっきよりも、ずっと強い力で『船』は走り出します。魔法だとか何とか、そんなチャチなものじゃあない事に気づきました――。
『思いは力』なんです……。心を乱される事もあるけれど、どうしても引かれあう、強い思いの前には……どんな障害もないんデス。
◇
「ほら、あれ見てみろって! たしかに白鳥だろうが! ピンクなんておかしいけどさ」
「あんなにゆっくり飛んでる白鳥がいてたまるか! 誰か望遠鏡を……って、司令!?」
「あの子ったら……さんざん心配させといて……なに、楽しそうな事をしてんのよっ!」
「エェ? アレ……ローネなんっスか? って、あれ白鳥じゃなくて、スワンボート?」
「って、アレって、空をぷかぷか浮いて移動しているじゃないですか、詢子お姉様……」
「もう、何と言っていいやら……こうなったら、魔法の秘匿は無理ですよね……姉さん」
「総員、帽振れーっ! 手の空いている者は、帰還するイアルローネ大尉を出迎えろ!」
◇
「えっと……高く上がりすぎちゃいましたね。コレ、ちゃんと降りられるんでしょうかネ――」
「手を振ってくれてマスね。詢子さん。アコさん。瑞穂さん。天城大尉。あと純一さん……」
「もっと右だ! いいぞ、コースに乗った!」
「そのままだ! ゆっくり降りてくるんだ! いいぞ、そのままっ」
「ローネぇっ! 早く降りてきなさいよっ! 心配させてぇっ!」
「ローネ! 早く降りて来るっすよ! 瑞穂があったかい海軍風のシチューを作ってくれたんスから! あぁっ気を抜いちゃだめっす」
「イアルローネ大尉! 僕がキミを必ず受け止めるから、勇気を出して、降下するんだっ! さぁっ!」
「いま、着艦用のロープを張ってますから、安心して降りて来たらいいですよ? ローネ大尉!」
ちょっと大きすぎる『家』と、多すぎる『家族』ですけど……。帰るところがあるっていうのは……とっても幸せな事ですネ――。
空と海の掌握者第一章 -完-
余韻を楽しみたい人のために、空行を空けました。
予約投稿時の現在、十一月二十三日の時点において、
週別ユニークユーザ。つまり読者は100人もいません。
50~60人ぐらいだと思います。
この現状では、これ以降の執筆はちょっと考えられません。
【帳簿はいつも真っ赤っ火】の方が完結すれば、
話は別かもしれませんけど。
ですが、一人でもいいから、この最終話で琴線を揺らして泣かせる事ができたのなら、それでじゅうぶんな成功だと思っています。
なので、続きが読みたい方は感想を送る。友人知人に紹介するなどして、お気に入り数を三桁まで増やしてください。※現時点で5(笑)
そうしたら、続きを書く気力がわいて来るかもしれません。
(他力本願どんだけー)




