第二十三話 放蕩息子の帰還っスね。
「着艦ですって? ただでさえ、それを受け入れるスタッフも、未熟だって言うのに」
「温存しているもう一機のFー16も、整備記録を見ると、飛行は無理だと分かりましたし……」
「なにがあるか分からないから、パイロットと機体は回収しとけって言うのね? 英輔」
「その……着艦は無理でも、パイロットは一名必要なんじゃないでしょうか? と、早坂中尉が」
「あぁ、そっか。すっかり忘れてたけど、そんな物もあったわねぇ……あんたに任せる」
「分かりました……皆で力を合わせて努力してみますが、危険ならパイロットだけでも」
「ねぇ、ローネ……ちょっとこっちにおいでなさいな」
「は、ハイ……。どうかしたんたですか? 詢子サン――」
御笠少佐が、まるで猫を呼び寄せるような手つきで、わたしを呼んでいます。
「わぁ……。思っていたよりも、速く進んでいたんですネ」
「三十ノットは出てるでしょうね。時速にすると五十五キロぐらい」
これまでは危険だからと、行けなかった艦橋に連れていってもらいました。
「海水の抵抗がありますし、この船、重いですから大変デスよね」
「そうそう。この寒空の中、おっさんを一人拾いにいくのよね……ただでさえ着艦ってむずかしいし、ここに突っ込んだらしゃれにならない事になるの」
「わかりました。危険な状態になったら、魔法で重力をアレして、何とかしちゃいマスね」
「そういう事なのよ。お願いするわね……ローネ――」
「ハイ! 任されましたデスから!」
御笠司令も着艦を見守るべく、艦橋にのこるそうでした。
「ねぇ……ちょっとでも失敗しそうなら、アボートしてよね」
「だーいじょうぶだってぇ……心配しすぎるとハゲるぜぇ? ねえちゃん」
ようやく機影が見えて来ました。ほんとにお気楽なおっさんです。
「いよーし! そのまま……そのままぁ……。いいぜ、ベイベー」
「お願いだから、まじめにやってちょうだい」
「へっへぇ……もう燃料は、限りなくゼロだ。大きいケツを振って待ってろ」
「ひぃーっ! それ失敗したらアボートできないじゃない」
「もうちょい……もうちょいっ……もうちょいだ……アァッー」
いま、まさに着艦しようとした飛行機は、失速して頭から海に突っ込んでいきました。
「ぬわぁー……って、ありゃ、これはどうした事なんだぜ?」
「モウ! 世話がやける、おっさんですね……ホントに!」
間一髪、魔法で機体をとらえる事に、成功しましたです。
「モウ! 機体を揺らさないでです! 少しの揺らぎでもバランス狂うです!」
「んもうっ、あんたには何にもできないんだから、じっとしていなさい!」
「うぉうっ……ジーザス――なんてこったぁ! オレは神の奇跡に救われたのか!」
わたしは機体を慎重に飛行甲板の上に導いていきました。
「あちゃー……まぁ、この船も魔法の力で動いているんだし、時間の問題だったわよね」
情報は秘匿しておくのが基本方針だったですけど、それがくずれたみたいですね――。
「ウォー! マジで助かったぁ。こんなオレを助けてくれたのが、カワイコチャンだなんてぇ!」
「あんたのせいで、方針の転換を余儀なくされたんだからね……。こき使ってやるから!」
作戦司令室に、問題のパイロット……自称、エリック坂井さんが姿を現しました。
御笠司令はすっかりオカンムリですけど、それも仕方ないですよねぇ……。
「実験機が一機残ってるから、場合によったら乗ってもらうわよ! エリック!」
「ひぃっ……なんだか、おっかないオネエチャンだこと……。もしかして、あの日?」
「ちょっ、殴り殺される前に、ヘンリーのおやっさんのところまで案内するっす」
「あぁそうね。もう飛行甲板は開いたんだから、ローネもお願いできるかしら?」
わたしは笑顔でうなずいて、アコさんとエリック坂井さんに同行しましたです。
「どもっ! 作業は進んでるっすか? ヘンリーのおやっさん!」
「あ、あぁ。進んでるけどよ……って、エリック……おめえ、戻ってこれたのか!」
「それなんだ! 聞いてくれよ! このカワイコチャンが、魔法を使ったって言うんだぜぇ?」
「はぁ? 何か悪い物でも食ったのか? エリック」
「説明するのも面倒っすよねぇ。いいから、やっちゃって」
「エト……そうですネ……。飛行甲板のどれぐらい上に、出現させたらいいですかね」
「あぁ、タイヤの仕様によるっすけど、おやっさん、ちょっと上から落としても耐えられるもんなんスか?」
「んー? まぁ、着艦の衝撃に耐えられるんだから、少々なら平気だが……」
「いまから、上に上げてもいいなら、みなさんは後ろに下がっててクダサイ」
わたしが両手を上げて機体に近づくと、あわてて下がってくれました。
上の飛行甲板には、誰もいないのは確認しましたから、ヤっちゃいマス!
「うぉっ! 消えちまった……ってこの音は?」
「成功みたいっすね。上でその目で確認すればいいっす」
「な、なんてこったぁっ……。いったい世界はどうなっちまったんだ……ジーザス」
飛行甲板には『シャイニングホーク』と名付けられた飛行機が鎮座していました。
「こいつを……。このオレが、再び飛ばす事ができるってのかよ、オイィ!」
「いや……エリック。おめえはシミュレーターしか、やってないじゃねえかよ」
「まぁ……。それでも、何の経験もないよりは、マシっすから!」
「それじゃあ最終チェックに移るぜ、エリックはマニュアルを確認しとけ」
「バカ言え! これを飛ばすのを、何度夢に見たと思っていやがるんだ!」
「ありがとねぇ、ローネ! いま誰かに、作戦司令室まで送らせるから」
わたしの用は済んだみたいなので、アコさんたちと別れて作戦司令室に帰りました。
「お疲れさま……ローネ。あの位置ならヘリが降りるのにも邪魔にならないわね」
「ヘリですか? 誰かここに、乗り込んで来るんですか?」
「うん……。だいぶ落ち着いて来たんで、元部下を受け入れる事にしたのよね」
「ジョーホンビルの人たちですか? 良かったですね、詢子さん」
「敵の艦隊が、もうすぐ大島の南に到達するってぇのに、みんな物好きよねぇ」
詢子さんは、ビルの倒壊で失った、部下の人を思っているようでした。
「あ、もうヘリが到着したみたいですねぇ」
「なんとか受け入れの準備ができましたよ……お姉様」
瑞穂さんは資料を手に、ため息をついたです。
「そういえば……純一サンを見ませんけど」
「彼は西日本の備えとして第二分析班を指揮してます。人員も増えますし大丈夫でしょう」
法務官ですのに意外と何でもできるんですね。
「アノ。純一お兄様とは言わないんですネ」
「ちょっと、ローネちゃーん……。そんな事を言うと、心ゆくまでハグハグしちゃうわよ」
瑞穂さんは、笑みを浮かべて振り返りました。
「そっ……それは、もう勘弁してクダチャイ!」
「うぉっと……大丈夫ですか? ローネ大尉!」
瑞穂さんの魔手から逃げていると、天城大尉と、ぶつかりそうになったです。
「あ、ハイッ……。すみませんです」
「えぇと……姉さんの姿が見えないんだけど、どこに行ってますかね?」
「艦橋で何か打ち合わせをしてマスけど、もう戻って来ると思うですよ?」
後ろを振り向くと、詢子さんが階段を下りる足音が響いてきたです。
「詢子お姉様! 最終確認をお願いしますね!」
「了解……。んー。分析部の生き残りが、ほぼ全部乗り込んで来るとはねぇ」
司令は、瑞穂さんから受け取った資料を眺めて、ため息をつきましたけど、うれしそうでした。
「司令、シャイニングホークはチェックを続けていますが、稼働は可能です」
アコさんも、作戦司令室に戻って来たです。そろそろ始まるんですね。
「それでは、現在の味方の戦力をほぼ確認しましたので、報告をさせていただきます」
メンバーが全員そろったのを確認して、天城大尉が電子パネルを操作しました。
「護衛艦八隻。イージス艦三隻……いずれも被害は軽微で、戦闘の続行は可能だそうです。ですが、直接的な火力としては、短魚雷と誘導なしのハープーンしか期待できません。すべてを一気に撃ちつくしたあとは、敵の魚雷の掃海任務ぐらいしか、できませんね」
空母の航空隊がいなくなったので、天城大尉は艦隊の指揮をする事になったようです。
「うーん。向こうも魚雷を撃って来るでしょうし、サンダーホークを守るのも大変よね」
「ええ……そのために、目的地を伊豆大島の北側に設定し、護衛艦とイージス艦を二手に分けて、接近して来る時に攻撃をしかけて、一撃離脱を行う予定になっています!」
「百里基地とは、リンクが確立していませんが、そろそろ中継機が離陸する予定っすよ。対艦ミサイルを装備したFー2が四機と、爆装したFー15Jが四機ですべてっすね。例のパスファインダーがいるので、航法的には問題ないそうですが、支援は必要っす」
アコさんは、端末を見ながら御笠司令に報告をしました。
「そう……戦力的には、ほぼこれで全部なのよね。陸上部隊の出番はなさそうだし」
「関係各所に連絡はしてみましたが、山東軍や上海軍も不穏なので支援は断られました」
瑞穂さんは、いろいろと便利に使われているみたいですけど……とっても優秀ですヨネ。
「まーねー。敵も引くに引けない状態だろうから、文字通りの血戦になるのは確定よね」
御笠司令は頭が痛いのか、側頭部を押さえながら戦術スクリーンを見上げていました。
「姉さん! て、敵艦隊が大量のハープーンミサイルを、視界外から放ったそうです!」
純一さんが血相を変えて飛び込んで来て、その情報を告げると、全員硬直していました。




