第二十二話 亜音速飛行機シャイニングホークっス
「大島以南には、観測要員しかいないんだから、足止めも期待できないわよね……うーん」
「御笠司令……わたしはまだ理解がおよんでいませんが、EMPで足止めをなされては」
頭をかかえて悩んでいる御笠司令を見て、瑞穂さんがわたしを、指し示しながら進言しました。
「向こうはそもそも旧式の艦艇ばかりで、視界内での火力制圧が売りなのよねぇ――」
「姉さん……じゃあじゃあ、魔法で海水に作用させて、足止めとかできないですかねぇ」
「うーん。敵が一定距離まで近づいたら、ローネの魔法で索敵するのが前提なのよ」
「はい……テンゲンに集中して拡大とかをしている時に、未知の魔法を使うのは無理なんです」
「そもそも、太平洋岸でEMPなんて使ったら、味方のレーダーや防空陣地もおじゃんよ」
「司令! 第一飛行隊の離陸はまもなく可能です! 当艦を風上の方向に移動させます」
御笠司令に制止されなかった事もあり、天城大尉は艦橋にその旨指示をしました。
微速で前進し続けていた空母サンダーホークは、急に波音を高くして動き出しました――。
「瑞穂、リンク確立圏内からUAVか何かを百里基地に飛ばさせて、情報を共有させて。敵艦隊が大島に到達した時点で、そちらの判断で攻撃セヨ。敵機はこちらで落とすと」
御笠司令は、百里基地の飛行機は、敵の艦隊への切り札に残しておくみたいです。
「うーん。なんか、いい方法はないもんスかねぇ……戦局をひっくり返すような方法が」
アコさんは端末で、戦術データリンクの未確立な部分をつなぎあわせていました。
「純一! どこかで試験的に製作したような、極秘の兵器でも引っぱってこれないの?」
「ちょっ、姉さん。僕は青いロボットでも、クレムリンでも引っぱってくる武器商人でもないんですから」
御笠司令のストレスのはけ口は純一さんに向かいましたが、軽く受け流していました。
「電力が無尽蔵で使えるのでしたら、超電磁砲でもあればいいんですけどねぇ……御笠お姉様」
「そうねぇ。超電磁砲って厚木かどっかにあったりしないの? 純一! ん、お姉様?」
「以前、御笠大臣から姉ともども養女にという話もありましたし、そう呼ばせてくださいな」
「娘なら何人いてもいいってかい、あのオヤジ……。まぁ、好きに呼べばいいわぁ」
「うっはぁ……マジでぼく、いらない子あつかいなんだなぁ……。えと、ナイッスワ!」
さすがにそうそう、都合のいい兵器が転がってはいないという事なんでしょうカ――。
「第一飛行隊が、順次離陸を開始しました! 下田周辺で、要撃が可能だと思われます!」
天城大尉が一人だけ、仕事をしているような空気を、感じなくもないんですけど……。
「おぉー……ちゃんと動いてるっすねぇ……。この振動……ぞくぞくするっすよぉ――」
「結局、攻撃は機銃しか期待できないって言うし。向こうも大型ミサイルしょってるなら」
「切り離せない仕様にしているのなら、逆に安心できますけど……わかりかねます」
「ねぇ、九州の廃止した原発から核廃棄物集めて、積んでるとかは想定してるかな? 姉さん!」
「うあー……マジで勘弁してちょうだいよう。落とす場所も大事って事じゃないのよ!」
純一さんの何気ない言葉に、御笠司令はふたたび、頭を抱え込んでしまいました。
「第二飛行隊も離陸完了! 姉さん、あと数分で敵と接触する可能性がありますが」
「そうね。三十分で撃退できなければ、きっと日本も終わりだから。先生お願いします」
「どうれ! って言えば、いいんでしたヨネ? アコさん」
冗談はともかく、わたしはテンゲンを、発動させました。
『エェト、第一飛行隊の右の方にいる二機……迂回する敵機を頼みマス!』
※英語で直接パイロットに指示しています。
「おそらく乗ってるのは日本人よ……。片方の翼を半分ぐらい吹き飛ばせばきっと――」
「そのように指示をしてはいますが……いま、敵を一機撃墜したとイージス艦から連絡が――」
「うーんと……。だいたいでいいから、敵機の総数はわかるのかしら? ローネ……」
「エト、シモダの最短ルートを突破しようとするのが四機。海にも四機いますです――」
「同数同士ですかぁ……一機でも突破されたら負けですから、護衛艦もフル動員します」
「そうね。敵艦隊の到達までには、若干の時間差があるから、見張り以外は対空防衛に」
「第一飛行隊が、敵の下田ルートの敵機をほぼすべて、太平洋側へと誘導しています!」
二十分ほどの間、わたしは必死になって、味方の戦闘機をサポートし続けました。
「第二飛行隊は敵機を一機にまで減らしながらも、追撃を続けていますが被害も甚大のようです!」
「脱出は確認できているの? そっちの方に、エースパイロットを回したのかしら――」
「墜落した二機は脱出を確認! 護衛艦が現在回収に向かっているところだそうです!」
いまは警視庁との連絡業務もないため、瑞穂さんが護衛艦隊との連絡役をしていマス。
「こちらの第二飛行隊長が戦闘を継続していますが、僚機は燃料限界で撤退しました!」
「大丈夫なのかしら。この寒いのに、寒中水泳をする気じゃあないでしょうねぇ……」
「さすがに、五年も着艦訓練をしていないのでは、不可能と言ってもいいですからね!」
ですけど、最初の攻撃はほぼ乗り切ったと言っても、いいんじゃないでしょうか――。
「ローネ! 時間だから、魔法を中断するっす! あとはあのパイロットに任せるしかないんス」
「ハイ! アコさん……。テンゲンを解除しました」
「ローネ、お疲れさま……おかげで助かったわよ? 敵艦隊が近づいたらパッシブでお願いね」
わたしは、おふたりにねぎらわれながらも、心配のたねがつきまとっていました――。
「イージス艦が、データリンクを補ってくれたっすから、第二飛行隊長と話せるっすよ」
「いよう。こっちもあちらさんも、機銃を使い切ってしまったんだ。すまないな――」
「まさか、体当たりで敵を落とそうなんて、考えてるんじゃないでしょうね? あなた!」
「それしか手がないと思うんだが……ん? 敵機から通信が入っている。転送するぞ!」
「指揮しているのが誰なのかは知らないが、見事だな。見事すぎる勝利だ――」
「私は、統合任務部隊『サンダーホーク』の司令をしている、御笠です」
「そのたぐいまれなる指揮能力を、第一次で発揮していてくれたらと……いやよそう」
「五年前の当時は、幹部候補生学校を卒業して、幹部任官した直後でしたから」
「そんなに若いのか……。潜入したという連中は、仕事をしたようだな」
「お願いです……。引き返してはくださりませんか? もしくは投降を……」
「バカを言うもんじゃない。片道切符しか持たされていないし、近づくとドカンだ」
「もう作戦は失敗に終わっているのですから……機を捨ててはもらえないでしょうか?」
「ふっ……脱出装置なんてものは、重量軽減のために捨てられているから無理なのさ――」
声しか聞こえないんですケド、このパイロットさんは、絶望しています。
「左に寄せようとすると、ぶつけられるから並行して飛んでいるが、燃料も限界だな。もう少しだけ、話に付き合ってもいい。そもそも中華連邦の行動は、棄民政策だよ」
「火山灰で食糧生産が落ちる事を察したから、いち早く増えすぎた人口を排出したのさ。だが、そうでもしなければ生きていけないのは、日本でも戦国時代で立証済みだろう」
「どうやら、君たちはまだ知らないようだが、香港軍はその根拠地をすでに失っている」
「なっ……それは、本当ですか? ベトナム・ラオス・タイ・カンボジアのすべてを?」
「本当だよ。南下を恐れたインドとパキスタンが同盟を結び、戦略核で、地上戦力をねこそぎにな!」
「戦略核兵器でですか? 南半球は、そこまで火山灰の影響が少ないんでしょうか――」
「ああ……。電荷火山灰はやっかいではあるが、大陸弾道弾を防ぐ盾でもあるのだ……。台湾は香港軍の従属関係にあったが、フィリピンと親交を結ぶ事になったようだよ!」
「では……日本に侵攻している艦隊が、香港軍の残りすべてという事になるのですか?」
「彼らには帰るべきところなど、どこにもないぞ? 上海軍の戦術核が失敗したのなら、なおさらだ。艦隊を率いているのは、イギリス帰りの優秀な提督らしい。それでは、健闘を祈る!」
「うぉいっ! あ、やっちまった……。燃料切れてたのかよ……。海面に突っ込んだぜ!」
「反逆してまでして、もたらしてくれた、この情報を……。国防省に早く伝えなさい、瑞穂!」
「は、はいっ! 文章にまとめていましたので、すぐにでも伝達が可能です、お姉様!」
「当艦は南に向けて移動中ですが……。そちらの燃料はどうなっているんでしょうか?」
「ん? あぁ……。空母までならたどり着いてみせるぜ……。なあに、心配するなって」
さすがにソレは。心配するなというのが無理だという事は、わたしでもわかるですヨ?




