第十八話 静止してられない闇の中でっス
「非常用ライト……あったわ! 早く靴をはきなさい! 素足じゃけがをするわよ!」
「了解っす! あ、ローネ大尉……これを渡しておくっす! 足元程度ならなんとか!」
「あ、ハイ……キーホルダーですか……。って、非常事態ですし、ローネでいいですよ?」
「こんな事なら拳銃の一丁ぐらい持って来るべきでした……悔やんでも遅いですけど!」
わたしたちは携帯電話|(早坂さんは小型の端末も)を手にして、玄関に殺到したです。
「ただの停電じゃなくて敵の特殊部隊の潜入よ! 警務隊の詰め所に連れて行きなさい」
マンションを出ると、二台の黒塗りの車はライトを点灯させて待機していました。
「少佐っ! どうして、情報本部に向かわないんっスか? せめて、連絡だけでも――」
「私が敵の特殊部隊員なら、携帯の基地局もたたくに決まっているからよ! 出して!」
一台の車に四人もは乗車できないので、瑞穂さんは二台目の車に乗り込んだようです。
「圏外になってますね……端末はどうなってますかねぇ?」
「地下ケーブルの結節点を数か所吹き飛ばせば終わりよね」
車は暗闇をライトで切り開くかのようにして走りました。
「いい? 詰め所に着いたら手分けして説明するのよ? 潜入したのは日本人工作員よ。その情報を伝達できるかどうかで、あなたたちや基地の人々の生死にかかわるわよ!」
御笠少佐は、厳しい表情を浮かべて、車を運転している人に説明をしていました……。
「やはり……そうなんでしょうかねぇ。占領下にあるとはいえ同邦人が加担するなんて」
「家族を人質に取られて、逆らえば殺すと言われたら……あんたなら、どうするのよ!」
「たしかに……そうですね。でも、人質を取っている人に、情報を伝達させなければ!」
「無理よ。私が上海軍なら作戦が失敗した時点で、生かしておく必要なしと判断するに決まってるもの」
「日本人だったとしても、テロリストと同じよ! そう判断しなさいと、見誤るわよ!」
「まだ、電力が復帰しないっすね。もしかして旧綾瀬市のメタンハイドレード発電所がやられたんすかね」
「南の空がかすかに明るいわ……基地外からの電源供給ルートも、絶たれているわよね」
「アノ……テンゲンで、監視をした方がいいでしょうか?」
「潜入している工作人を見つける事は、無理だと思うから、いまはかまわないわ」
「侵攻があるとしたら、払暁|(明け方)ですよね、少佐?」
「じゃあ温存しておきますケド、いつでも言ってくださいネ」
「わたしたち……あと、SPの彼女にも拳銃を渡しなさい!」
「はっ! ただちに情報を共有し、各所に伝達いたします」
警務隊の詰め所に到着すると少佐は口早に命令シました。
「連絡のために運転手を一人つけてくれればじゅうぶんよ」
少佐はそう言って、助手席の黒服の人を追い出しました。
「拳銃三丁と予備のマガジンを小袋にひとつ預かりました」
少しして瑞穂さんが、両手に荷物を持って乗り込みました。
「じゃあ、情報本部にいって……。ただし、安全確認が先よ」
「向こうの警務隊で、一人でも行方不明がいたら、撤退した方がいいっすね」
「はっ! いちおう、無線でも呼びかけてはいますが……」
「ジョーホンビルは見えて来たっすけど……。夜勤のみんなは、無事っすかね」
「予備電源で動いてるんでしょうかね。けど、動きが……」
「悪い予感がしてならないわ……そこで止めてちょうだい」
「はっ! 御笠少佐殿……。無線応答は……ありません!」
「この距離なら、多少電波障害があっても届くはずなんすよ! もっと下がった方が!」
「たしかに、屋上のアンテナは壊れてないようだし……そうね、そうしてちょうだい!」
黒服の運転手は、お二人のけんまくに、返事もせずに車を逆方向に走らせたです……。
「きゃぁっ! とっ、止まらずに、全速力でまっすぐ走ってちょうだい!」
後ろから閃光(せんこう)と共に、衝撃波が車を襲って来ました――。
「ああ……。ジョーホンビルが崩落してる……って、トーカンビルもっす」
安全だと思われる場所で車は停止し、早坂サンが車から降りて確認をしました。
「いくら便衣兵だとしても、こうもむざむざとやられるだなんてっ」
少佐は悔しそうに、握った拳を震わせていました……。
「あぁ……ウチの夜勤のみんな……。きっとかたきは取るっすよ!」
「この時間帯だと、潮風がなくて内陸部に電波障害が……」
「ようやくサイレンか……何もかもが遅すぎたのよっ」
「そうだ、ローネ……ぱーっと明るくするような魔法ってない?」
「バカ! そんな事をしたら、潜入している敵兵に撃たれるわよ」
「そ……そうっすね……考えが足りませんでした……少佐」
「詢子お嬢様は……電力の回復は、夜明けまでは無理だと、そうお考えなんですよね?」
「まぁね……。そうじゃないと、作戦の意味がなくなるでしょう?」
「軍都とは言っても、日本人なら、その気になれば、いくらでも入る方法はあったっすね。いくら使える土地があったからって、広げすぎたんスよ」
「そうねぇ……重要地域以外は、ほぼザルだものね」
「でも……払暁に攻めて来るとしたら策源地はどこっすか」
「伊豆大島以南は、ほぼ制空権と制海権を失っているけど、ハワイじゃ遠いっすよね?」
「東南アジアに根拠地を持つ、香港軍も共同だとしたら……。台湾からかもしれないわね」
「その二つが手を結ぶ可能性があるのなら、中国北東部と朝鮮半島を占領した山東軍も」
御笠少佐と早坂姉妹は、お互いの表情を探っていました。
「最悪の事態を想定して動くしかないわね……ここで判断を誤ると、マジで詰むわよ?」
「うーん……。今すぐに攻め寄せて来なくても、反抗する気持ちを折ってしまえば……」
「姉さん……。何か気づかない方がいいような事に、気づいてるんじゃないんですか?」
「え? もっと最悪のシナリオがあるって言うの? 早坂」
「中華連邦の連中は、占領後の日本全土を掌握する必要も、義務もないって事なんすよ!」
「戦術核を搭載した戦闘機を二機……。軍都と永田町にでも突っ込ませれば……ああっ!」
早坂姉妹は、ほぼ同時に同じ結論に達したようで、ぶるぶると体を震わせていました。
「となると、戦闘機による防空を第一義だとする必要があるんだけど、どうすんのよ!」
「便衣兵的なやり方なら、九州の軍飛行場とかに眠っているFー2が二機でもあれば……」
「通信ができない状態なら、ぱっと見で分からないじゃない……。あー聞きたくなかった」
「じゃあ、伊豆大島や小笠原諸島のレーダー基地を破壊したのも、布石の一手っすよね」
「それじゃあ防空網は穴だらけじゃないのよ……。対空ミサイルなんて、気休めにもならないわよ!」
「えーと……。日本軍の戦闘機だと誤認されない飛行機で撃退すればいいんですよね?」
「理想的に言えばそうなんだけど……。って、あの方向は……横田基地?」
「あちゃー……。同時に二か所っすか……。あれは、厚木基地の方向っすよ!」
「冷静に考えて、さっきの懸念が事実だとしたら、最優先攻撃対象ですよね」
窓の向こう。右手と左手のそれぞれの方向に火柱が立っていました。
「あちゃー……この時間なら、さすがにパイロットは無事でしょうけど!」
「パイロットをかき集めて、日本軍の飛行機だと誤認されないなら、どうでしょうか?」
「さっきから何言ってるすか? 瑞穂……そんな都合のいい飛行機があるんすかぁっ?」
「なに? どういう事なの? なんでも言ってちょうだい、瑞穂」
「空母サンダーホークには、機種転換ができず放置してるFー16が、十数機あるんです」
「機種転換ができない上に、旧式すぎるから、放置してるんじゃないっすか? 瑞穂!」
「そんなの、飛ばして機銃で攻撃するなら、じゅうぶんですよ!」
「だとしても、空母は風上に向かって運行しないと、離陸するのは無理があるんっすよ!」
「そうは言っても、一機だけでも飛ばさない事には、どうしようもないじゃないですか」
「あの空母は、どうして動けないんですか? 早坂サン……」
「え? 原子力炉が停止してしまったから、無理なんすよ」
「その原子力炉というのは、具体的に何をするんですか?」
「そりゃタービンを回すんですけど……。でかい扇風機みたいなもんっす……」
「なら、ワタシの魔法で、ぶんぶん回せますですよ? 早坂サン!」
わたしのその言葉に、少佐も早坂姉妹も硬直してしまいましたです。
御笠・早坂の、ワンポイント・えせミリタリー講座
御笠:「もし、ローネの魔法で電力が回復しても、飛べるのかしら」
早坂:「そもそも、風上に向かって航行しないといけないっすから」
御笠:「じゃあ横須賀の軍港との固定も解除しないといけないのね」
早坂:「未来の空母と魔法なら、理屈と膏薬はどこにでも、(ry」




