第十七話 女の戦い(エヴ○風っスね)
「なんと、国会議事堂の眼前で行われた、テロリストによる襲撃事件が都民に大きな衝撃を与えました~(~はチャンネル変更)」
「本日就任した、御笠信照(みかさ のぶてる)新国防大臣の記者会見が早くも、大きな反響を呼んでいます~」
「御笠信照新国防大臣の記者会見における、行動方針の転換が更なる軍備につながり、それにより中華連邦を刺激する事により~」
「事情通の情報によれば、この襲撃には対戦車ミサイル二発と、プラスチック爆弾が使用されたとの事です~」
「御笠信照新国防大臣の父親である、故御笠信昭元首相もタカ派と呼ばれ、軍事的な政策を推し進めていました~」
「みんなっ! あと少しだけでいいから、時間を稼いでくれよっ! 『フッ――。無駄だと言っている……いまのはただの、』~」
「いやー……。この局だけは相変わらずっスね。なんだか、一息つけた気分っすよ……」
時間は午後六時をすこし回っていて、部屋の中では張り詰めた空気が漂っていました。
「何見てるのよ……。聞けば何でも答えてもらえるとでも思っているの? ふたりとも」
視線は自然と、いすにしがみつく格好で回答拒否を通している、詢子さんに集まりました。
事情を知るもう一人……。瑞穂さんは護衛の人と打ち合わせして夕食の調達をしてマス。
「いやー。説明責任を求めているようなワケじゃないっすよ……。話せる事からでもと」
「だから、一言で切ってすてるような事ができるような、単純な問題じゃないのよ――」
「うーんと……。じゃあ……天城大尉は、この事についてご存じなんでしょうかね?」
「……ったく、わざわざ一番クリティカルな部分を、突いて来るんじゃないわよ――」
詢子さんは顔をしかめつつも、いすに座り直しているので、何か話してくれそうです。
「英輔は、この事を知らないと思うわ……。けど、何らかの事情がある事は知ってるはずよ」
「と言いますと……。国防大学時代に、ごく一部で流れたという、うわさが関係するっすか?」
「ムッキー! あんた、知っていて、私をなぶってるんじゃないでしょうね? 早坂ぁ」
「さすがに自分も間接的な情報しか知らないっすから。天城氏が告白し玉砕したとしか」
わたしは、お二人の会話に踏み込む勇気はなかったですけど、耳をすませて聞いていました。
「そりゃあ……実の弟に、結婚を前提とした交際をしてくれ、と言われたら、断るしかないでしょうが」
「という事は……そのころ天城大尉は事情を知らず、少佐だけは知っていた……んスね?」
「あんたねぇ……寸分の乱れもなく、致命的な部分によくメスを入れられるわよね」
「えへへ……お褒めにあずかり光栄っス。という事は、ご両親ともに同一であるんすね」
少なくとも、不倫であるとかフギミッツーであるとか、そういう事じゃないんですね。
「はぁっ? いや、そこまで分かるような情報なんか出して……。はかったわね! 早坂」
「えっへっへー……。有効的だからこそ、長く使われる手法である事は、ご存じの通りで」
「もー……。そっちが、そういう手法まで使うのなら、もう口は開かないわよ? 早坂!」
「なら勝手な推測をば。長男が産まれたから、子どもがいない御笠家に請われたんすね。天城氏がその事実を知らないという事は……少佐が二歳か三歳ぐらいのころなんすよね」
「四菱グループの、総帥と呼ばれる人物のめいを養子にする事により……関係を強化……」
「ストップ! そのあたりは私も確認した事でもないし、踏み込むべき問題じゃないわ」
「コホン……御笠夫妻には子どもが産まれず、めいである少佐を養子として迎えた――。どちらの家にも利益をもたらしたが、まさか四年後に御笠夫妻に長男が産まれるとは」
「あんた、コンピューターがなくっても、内調でも公安でも、どっこでも活躍できるわね」
「詢子さん。あんた、なんで自分に言ってくれなかったんすか! こんな事を一人で抱え込んで!」
「仕方ないじゃないっ。女だから不要だと思われた事にたいする、腹いせにあんたを……。いもうと同然のあんたを、巻き込めるわけがないじゃないっ……っく……ふぅっ……」
お二人は涙を流しながらお互いの体を抱きかかえ、おえつをこらえているようでした。
わたしはそこに踏み込む資格がないから……いっしょに泣いてあげる事しか……。
「私は天城家に不要だとされたのに、英輔は一人息子として愛されて……そんなあの子に、結婚を求められてみなさいよ……あの子に罪はないけど、傷つける事しかできないじゃない」
少し落ち着いて来た詢子さんは、涙をぬぐいながら、再び口を開いて話し始めました。
「天城の、父さんは……勝手なのよ。ずっと黙っていればいいのに、息子の世話を任せておいて……。間違いが起こらないように、私にだけ事実を告げるなんて……残酷なのよ」
「御笠の母さんは……心から愛する兄の子だからもらったと、なじった私に説明したわ。けど、御笠の父さんは……説明しようともしなかったわ。だから私は家を捨てたのよ」
「そもそも、弟の純一……あんな名前をつけたのも、わたしには、当てつけに見えたのよ。だから私は、自分の能力を証明する事でしか……復讐(ふくしゅう)できないと、思ったのよ」
「英輔も、純一も……何も知らないから……それ故のごう慢さで、私を責めていたのよ! 二人にそんな事をされてみなさいよ……。仕事に逃げる事しか……できないじゃないっ」
「天城にも……御笠にも……二人の弟にも、目に物を見せたかったから、石にかじりつくようにして勉強して……力を蓄えていったのよ……いつか復讐する時のためにっ――」
「本当はどちらの親からも、愛されているのかもしれない……けどそんな事を認めたら、私は、ただの一歩も……前に進む事はできない状態だったのよ……こっけいよね」
「そんなひどい事をされても……恨み切れなかったんっスね……。だから、自分を……」
「そうよっ! 恨みきれるわけないじゃない……天城の両親もかわいがってくれたもの。だけどその事が英輔にたいしても、何らかのうっ屈を生じさせたのかもしれない」
「直接的には知らないけど、私にできる事が英輔にできず、しかられた事もあるのかも。だから一番悪いのは、養子を迎えておいて、それでも男子の後継者を求めた父なのよ!」
「純一はそれを知っていて、あんなふうな性格になってしまったのかもしれないわ……。だっておかしいもの! あの子は軍なんかに進まずに、政治家になればよかったのよ」
「たしかに、東央大学に合格したてのころは、そういう野心を見せていたっすよね……。これは憶測ですけど、入学手続きの時に戸籍抄本でも見てしまったのかもっすね」
「そのころには、私もかなり純一とも距離を取っていたから……恨んでる事に気づいてたのかもね」
「それって……恨んでる事にはならないですよ。愛しているから、そんなに苦しむんすよ……」
アコさんは涙を流しながら、詢子さんの手を取って、包み込みながら言ったです。
「自分も……。どことなく、詢子さんの思いには気づいてたんスけど、父の事があって」
「いいの……。私も今回の事で、どれだけ父の事を愛しているのか……気づけたのよ」
「どうも、遅くなりました! なにせ、調理してるところを監視したりしてましたので」
保温ボックスを手にした瑞穂さんが入って来たんですけど、空気読んでクダサイ――。
「あのイタリアンレストランって、テイクアウトはしていないんスよね……よく認めたっすね」
「そりゃあ……。警察のSPと、軍の警務隊がコンビを組んで交渉すれば、一発ですよ」
Lサイズのピザを三枚と飲み物を買って来てくれたので、ちょっとしたゴチソウです。
「そういえば、ボートで上陸したって言う敵兵士は、いったいどこに消えたんすかね?」
「軍服を着た敵兵士を見たら、いくらなんでも発見できそうな気がするんですけど……」
アコさんと瑞穂さんは、ピザをジュースで流し込んだあと、不思議そうに話しました。
「軍服を着ていなかったら……。もし、上陸したのが日本人だったら……。って茅ヶ崎!」
詢子さんはピザのピースを取りかけていた手を止め、血相を変えて立ち上がったです。
「わわっ……なんすか、なんすか? ってこんな時間に停電なんっすか? 御笠少佐!」
その次の瞬間、部屋の照明が消えてしまいました。
「私の大失態よ……どうやら一歩も二歩も遅かったみたいね……敵に浸透されるわよ!」
窓から見えていた建物の明かりも次々と消えていき、わたしもようやく気づきました。
後に第三次攻防戦と呼ばれた戦いは……まだ、始まったばかりだったという事に――。
御笠・早坂の、ワンポイント・ミリタリー講座
御笠:「便衣兵は、あの国の常とう手段だったのに」
早坂:「便意兵? トイレぐらい、我慢せずに行けばいいっすよ?」
御笠:「台本通りのボケをありがとう。けど、ぜんぜん笑えないわ」
早坂:「上海軍の闇夜の浸透を撃退できるのか、乞うご期待っすね」




