第十五話 やっと休みになったっす
「な、なにごとっすか? まさか市街で、テロリストが戦争でも始めたっすか?」
「大丈夫……。きっと無事だから……お願い……出てちょうだい」
御笠少佐は、携帯電話を手早く操作して、かけ直しているようでした。
「くっ……いちおう連絡をしておかないと……英輔は官舎にいるのかしら……」
業務用の携帯電話まで使用して、天城大尉を呼んでいるようでした。
「英輔? 大変よ! お父さんと通話中に、爆発音と悲鳴が上がって切れたの! いま、もう一台で呼び出しているから、電話は鳴っていると思うの」
「閣僚会議に招集されていたみたいなの……移動中にテロの被害にあった可能性が大よ……」
御笠少佐は、早口で天城大尉と話しながら、要点を伝えていました。
「少佐! 携帯の場所が特定できたっすよ! 永田町の憲政記念館の横です!」
「早坂が場所を調べてくれたわ。永田町の憲政記念館よ。目的地は、おそらく地下よ!」
早坂サンは小型の端末を開いて、携帯電話の場所を調べていたみたいです……。
「あっ……電話が切れたけど……。あそこならすぐに救急車が……手配をお願いするわ」
御笠少佐は天城大尉との通話を切断して、私物の携帯電話を操作していました。
「詢子です。天城政務官と通話中に、大きい爆発音がして、通話が切れました」
「はい……。永田町の憲政記念館前だと思われます。至急、確認をお願いします」
「だいじょうぶっスかぁ? お水でも飲むっすか? 少佐」
立て続けに、誰かと通話し終えた御笠少佐は、いすに倒れ込みました。
「ええ、そうね。お願いするわ」
「アノ、御笠少佐……これから、情報本部に戻るんですか?」
わたしにでも手伝える事があるなら……。
「うん。だけど、車は運転できないし……」
「外に、黒服の人がいるですから!」
「ナイス! 早坂も、いいわよね?」
詢子さんは水を飲み干して立ち上がりました。
「どうやら、あっちにも連絡が届いたみたいね」
出かける準備をしていると、インターホンが鳴り、来客を告げていました。
「呼応して侵攻して来る可能性もあるから」
「ワタシも、情報本部に行って調べますカラ――」
「ありがとう、ローネ……じゃお願いするわね」
わたしにすがりつくようにして、言ってくれたです。
わたし……頑張って信用を取り戻しますから――。
「自分も準備はいいっすよ? 行きましょう!」
その後、黒塗りの車に乗り込んで、情報本部に走りました。
「お疲れさま……曹長。現在の時点で、なにか判明している事はあるのかしら?」
「はっ! 現在のところは、何の情報も入って来てはおりません! 御笠少佐」
御笠少佐は、夜のシフトに入っていた人たちのリーダーらしい、曹長さんと、話していました。
「第三会議室は昼のままで使えるっすから、ローネはそこに移動してください」
早坂サンにうながされて立ち上がり、部屋を出ようとしていましたのですが……。
「電話っすね……。この着信音は、天城政務官の携帯電話からの、ものっすか?」
「あ、天城政務官……ご無事だったんですね。いったい何が起こったんですか?」
御笠少佐は震える手で、私物の携帯電話を取りだして、操作をしていました。
「詢子は……私の死に際でもないと…………呼んではくれないんだろうな」
かすかに漏れ聞こえて来る天城政務官の声は、自らをさいなんでいるようでした。
「それで状況はどうなっているんですか? もう地下に待避しましたか?」
「ああ……閃光を見て回避を指示した瞬間にドカンだよ。車が憲政記念館の庭に乗り込んだ瞬間だったから、爆風を受けて一回転したよ――」
「という事は、プラスチック爆弾を使用した、テロリストですか? 被害者は……」
「まだ詳細はつかめていないが、国防大臣が亡くなられたようだ。即死の上に、死体も見つかっておらん」
「そんな……国会議事堂の目の前でですか? テロリストはもう、撤退済なんですか?」
「地下からかけているところだよ。経路は複数あるんだが、絞り込まれたようだ」
「何とか状況を把握しました……。西からの侵攻に備えますので、これにて失礼します」
御笠少佐は、急によそよそしく口調を変えて電話を切ったです。
「ふたりとも、会議室で待機していてもらえる? 第一に顔を出したらすぐ行くわ」
御笠少佐は足早に、第二分析室を飛び出して行きました。
「うーんと……暗いですから、わかりにくいですけど、船はいないと思いますです」
「そっすかぁ……まぁ、暗闇で明かりもつけずに、突破はできないすよねぇ」
夜という事もあり、拡大する必要があったので、アクティブにしました。
「そう……杞憂だったのかしらね。じゃ残り十分だから、五分前には終了させてね? 早坂!」
「あの、御笠少佐……。気になる報告があるんですが、よろしいでしょうか」
会議室の扉を開けると、先ほどの曹長さんが、書類を手にしていました。
「今日、陸上幕僚監部に敵の上陸用ボートが向かった旨、連絡した件ですが」
「ああ、早坂に頼んで連絡しておいた件ね。敵の兵士は発見できたのかしら?」
「それが、日没まで捜索を続けたそうですが、発見できなかったようです……」
「もしかして、無駄足踏ませたとか、陸幕が怒っちゃったり……。するわよね」
「上陸用ボートの痕跡すらも見当たらなかったようで、相当おかんむりのようです」
「むーん……。上陸した兵士はどこにいったのかしらねぇ……。山の中に潜んでるんじゃ?」
「あと……茅ヶ崎周辺で、大島からの避難者が、仮住まいをしているそうです」
「急だったし、仮設テントも間に合わないか。家だけは分譲できるぐらいあるからねぇ……報告は以上かしら?」
「アノ、御笠少佐……まだ時間があるですから、敵の兵士を探してみましょうか?」
「えーと……。時間的にはもう、ギリギリだし、そこまでしなくても大丈夫よ……」
「そう……ですか……わかりましたです……。いま魔法を解除しましたです」
一時間ほど、雑多な仕事をすませてから、やっと家に帰る事になりました。
「ふわぁ……昨日はホントに、忙しい一日だったわねぇ……。ふたりとも」
詢子さんはあくびをかみ殺しながら、コーヒーカップを手にしました。
「いやー、ローネに例の魔法をかけてもらったから、超助かったっすよ……」
昨日はいろいろあったし、アコさんはわたしの部屋に泊まる事になったんです。
十時まで寝てからお二人を起こして、食事をいっしょにしているんです。
「もう十時回っちゃいましたか。あ、テレビつけていいっすか? そろそろ、ニュースをやるかもっす」
「そうねぇ……。死体は発見できなかったとはいっても、車ごと爆発じゃあね」
お二人は、昨日のテロリストが引き起こした事件を思い出して、表情を少し曇らせてました。
「昨夜の永田町における襲撃事件の続報です。渡邊国防大臣の死亡が、発表されました」
テレビのアナウンサーが国会議事堂の前で、深刻そうにニュースを口にしていました。
「はぁ……。さすがに直接の面識はないけれど……。惜しい人を亡くしたものねぇ」
御笠少佐は、テレビ画面に向かって頭を下げて、黙とうをささげていました……。
「そこで、昨夜から行われている閣僚会議では、新人事が検討されている模様です」
「えー、現場の西村さん? では、新しい情報が入り次第、よろしくお願いします……」
「えーと、いまは国防副大臣が代行って事っすよねぇ……。けど、長期療養中だったんじゃ」
「そのまま昇格って事はなさそうね……あーやだやだ……政治なんて知らない……」
「ふわぁ……じゃ、ちょいと昼寝でもするっすかね……せっかくの休みなんですし」
「そうねぇ。外出許可も降りなかったし、首席法務官も自重してくれって言ってたわ」
「まぁ、休めるだけマシって事っすか」
「あ、ローネは私のベッドにいらっしゃい。ローネ一人ぐらいなら、楽勝だからさぁ」
「ハイ……じゃあ、失礼しますです……」
わたしたちは、昨日までの疲れを癒すべく、めいめいが好みの場所で寝転がったです。
「ん? 電話……ふぁー。なんだ純一かぁ……」
「あ、姉さん? なんだか大変な事になっちゃったねぇ……」
「なにが? あぁ……昼寝してたところだから」
「え? 姉さんはまだ知らないの? じゃあテレビをつけてみなよ。どこでもいいからさ……」
「んー……わかった。じゃあね」
「どうか……したんですかぁ? 詢子さん……」
「なんか純一がテレビを見ろってさ……ふわぁ……」
詢子さんはリモコンを画面に向けました……。
「えー……お伝えしています通り、午後四時に、国防大臣の新人事が発表されました!」
「内閣官房副長官の御笠信照(みかさ のぶてる)議員が、国防大臣に任命されました」
「これより国防大臣に就任された御笠信照議員による、記者会見が行われるとの事です」
「みかさ……って、詢子さんの名字と同じですよね? ご親せきか何かですか?」
「うわぁ……まじっすか。御笠のおやっさんじゃないっすか……。少佐のお父上ですよ!」
「エェー? そんな事、ワタシはぜんぜん聞いてなかったですよ?」
「はい……御笠ですが……。SPがきてる? 女性だから通したって、んな勝手な事を」
御笠少佐の携帯電話が鳴り、入り口を警備している人たちから連絡があったようです。
「ど、どうぞ……。って、瑞穂じゃないのよ? 何してんのよう?」
「警視庁警備部警護課第二係の、早坂瑞穂(はやさか みずほ)巡査部長であります!」
すらっとして背が高く、どことなくアコさんに似た顔立ちの女性が現れて、敬礼をしました。
「御笠……少佐になられたんですね……。今後は不祥の姉ともども、よろしくお願いします!」
「エェェー……アコさんにも、妹さんがいたんですかぁ?」
にっこりと笑ったその表情は、アコさんそっくりでした。
御笠・早坂の、ワンポイント・新キャラ講座
御笠:「まっさか早坂の妹まで出て来るとは思わなかったわよね!」
早坂:「SPなんて、それこそモブキャラでいいじゃないっすか!」
御笠:「信○の野望で血縁の新武将を作って、無双してるみたいね」
早坂:「永続的なレギュラーになれるかどうかは、不明だそうっす」




