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空と海の掌握者(コンダクター)  作者: 小田崎コウ
第一章
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第十四話 国会議事堂前の乱っす

「エェー……。御笠大尉の弟さんナンですかぁ? このヒト――」

 そういえば、御笠大尉の家族構成の事を知らなかったです。

「いやー……姉さんと、いつかは仕事したいと思ってたですけど、こんなに早くなるとは」

 顔の造作は整ってるとは思うですけど、そんなに御笠大尉に似てるとは思わないです。

「どうも、早坂のアネゴ……。最近ちっとも帰って来ないですねぇ」

「エェー……早坂サンといっしょに暮らしてるんですカ?」

 という事は、オトナの関係なんですカ? 乙女なんじゃ?



「ちょっとローネ。おちつきなさいな。説明するから」

 御笠大尉。いえ少佐は、あわててわたしをなだめました。



「自分が説明するっす。ほとんど帰ってないすけど、少佐の実家に間借りしてるんすよ」

「離れの部屋ですけどね……。本邸でも部屋あまってるんで、遠慮しなくていいのに」

「ちょっと、純一? あんたは、私がいいって言うまで、いっさい口を開かないでくれる?」

 説明されても、頭がついていかないぐらいビックリです。

「自分の父は御笠の家に仕えてた元書生で、母は通いのお手伝いさんだったんすよ」

「早坂とは縁があるとは言っていたけど、そういう事なのよ……。黙っててごめんなさいね」

「ハァ……そうだったんですか……べつにいいですけど」

 よく分からないですが、少佐のご両親との関係ですよね?

「えーと純一クンは、自分のいっこ下になるっすから、二十三歳になるんでしたっけ?」

「東央大学を在学中に司法試験に受かって、司法修習を済ませてるから法務幹部なのよ」

「法務幹部候補生学校をつい先日卒業し、正確には法務少尉です。まだ研修中ですけど」

 アレ? 御笠少佐の弟サンって、だまってろって言われてたですよね? たしか……。

「純一ぃ……。今日のところは、あいさつだけの予定なんだから、もう原隊に帰りなさい」

 御笠少佐は予想通り顔をしかめて、にぎり拳に息を吐きかけながら、どう喝したです。

「エェー、せっかく、うわさの美少女とお近づきになれたのにぃ。うそうそ冗談ですって」

「いいから早く行きなさいよ。正式な配属は研修開けになるから、その時に来なさい!」

 御笠少佐は、なかばけり出すような形で、弟さんを第三会議室から追い出しました。



「はぁっ……まったくもう……妙にずうずうしんだから!」

「いやー……せっかくの女の園が、男子に汚されるっすね」

 お二人とも、口々に弟さんへの不満を口にしていたです。



「あれぇっ? なんで、純一がこんなところにいるんだ?」

「英輔兄さんじゃないですか。法務少尉になったんですよ。姉さんから聞いてません?」

 扉の向こうでは、どうやら純一さんが天城大尉と出会ってしまったようです。

「おまえ……東大の法学部を出てまでして、国防軍に入る気はないんじゃ、なかったのか? 数年、キャリア官僚として勤めてから、出馬するものだと……」

「いやー……。とてもじゃないけと、ボクには継がせられないと、親父に言われましたし」

「当分は、国防軍で鍛えてもらえって事か? 御笠の伯父さんは、厳しいからなぁ……」

「ええ。まぁ……思いがけない事に、週明けから、姉さんのところに配属されるんすよ」

「まじか……。じゃあ、今晩にでも、いいところに連れていってやろうか……」



「…………」

 少佐が扉を開けて、ひとにらみすると、ふたりは無言で姿を消したです。



「見ての通り、英輔と妙に仲がいいのよね。頭が痛くなるわ……」

 あれ? まるで天城大尉の事まで、弟さん扱いみたいですね。

「あと、シフトが変わったから、今日は定時で上がれるわ」

「そうなんスか……。じゃあ、それまでは、報告書書きまくりっすか?」

「その通りよ……。早坂は、例の裏ネットの仕様書を出しなさい」

「エェー、そんなん出したら、穴をふさがれるじゃないすか」

「今後は、私の承認が必要なシステムに変えろって命令されたのよ」

「はぁ。自分の首に鈴をつけろって、言われたんっスね?」

「わかっているのなら、さっさとやりなさい!」

「ヒイィ……今日の少佐は、機嫌悪いっすよ」


「あ、ローネは課業終了まで、休んでいてね……」

「自分は、この部屋で仕様書を書くっすから、何でも言ってくださいっす」

「は、はい……。わ、わかったですけど……」

 なんだか混乱してきたので、ふとんにくるまりました。



「はぁ……つっかれたぁ。なんだか、気苦労するわよねぇ……」

 御笠少佐は、しんどそうに肩を上下させながら、ため息を漏らしました。

「それは、純一の事っすか? それとも、黒服の事なんすか?」

 警備の都合があって、夕食をジョーホンビルで食べたんですけど、黒服の護衛が、常時わたしたちに張り付いていたので、周囲の視線も怖かったです。

「ちょっ! そんなの、両方に決まってるじゃないのよ……。言うまでもないわっ」

 話す事があるという事で、詢子さんの部屋に集まっていマス。

 すでに二本目のワインの小瓶を開けていて、詢子さんは、上気していました。

「やー……。けど、どういう経緯で純一が配属されたんっすか?」

 アコさんも、ラフな格好で、ソファーに寝転がっていました。

 マンション内では黒服の護衛がない事で、ようやくリラックスしたみたいですね。

「向こうの言う事もわかるわ。ただでさえ、人事計画は、急に修正がきかないものなのよねぇ」

「分析部の設立にも、時間かかるっすからねぇ。いまのままじゃ、スタッフが足りないっす」

「あまりぜいたくも言えないけど、最低条件として、女性で戦略か情報の専攻者を要求したんだけど」

「たしかにそんな幹部、そうそういるワケないっすよねぇ。いても、どこから引っぱって来るんだって事ですよね」

「それで、最高機密だから、私が信用できる人間しかダメ! って主張したら」

「弟さんなら文句はないだろうって、押しつけられたんっすね?」

 図星だったようで、詢子さんはワインの小瓶をくわえて流し込みました。

「あの子はねぇ。能力はあるけど、わざと空気を読まないところがあるから」

「ですよねぇ……。自分が純一を苦手な理由も、おもにソレっすよ」

 純一さんは、詢子さんやアコさんに甘えているんでしょうか?

 まだ一言二言しか話した事しかないのに、そう思ったんです。



「純一の事はもういいわ……で、ローネ。魔法の事なんだけど……」

「ご心配をおかけしましたです。けど大丈夫ですから」

「あれから、いろいろと考えたんだけど……制限時間ギリギリまで魔法を使うのは禁止するわ」

「エェっ? どうして禁止になるんですか?」

「それは正解だと思うっすよ……。実際、まだ行けるってのは……もう危ないんスよ」

「エェ? そんなぁ。昔のRPGのゲームじゃないんですから」

 わなが発動して、大量の敵に囲まれて全滅した事があるです。

 そのRPGの格言は、それいらい胸に刻み込んだんです……。



「まぁ、そういう事だから。もう、私も早坂も……あんな思いは、したくないの」

「それがいいっすよ……ローネの体がなによりなんっスから」

「ハイ……。わかりましたです」

 ワタシは信用を失ったんですね。けど、心から心配されているのが、うれしいんです。




「こんな時間に電話ぁ? この着信音は……天城の伯父ね……」

 詢子さんは、さも嫌そうにまゆをひそめたです。って留守番電話モードに、しちゃったんですカ?



「やぁ……詢子。現在、某所への移動中だよ。なんだか知らんが、手ごまを得たようだな。いろいろと空手形も切ったようだが、英輔の顔を立ててくれたようだし、感謝するよ。夜遅くになると思うが、会議が終わり次第、一度そちらに連絡をさせてもらうよ」

「いやぁ、今日は一歩でも対応を遅れると……ん? なんだっ? た、待避しろ!」

 その直後に、携帯電話のスピーカー越しでもわかる爆発音がひびき、電話が切れたです。

「そんなウソでしょ? まだ……なんにも……。言わないといけない事を言ってない!」

 詢子さんのその叫びが、わたしとアコさんに別の意味での衝撃を付け加えたです――。



 御笠・早坂の、ワンポイント・鬼引き講座

御笠:「なんだかんだで、新事実が盛りだくさんでて来るわね……」

早坂:「最近は、話が終わる時の引きが鬼すぎやしないっすかね?」

御笠:「それはきっと『営業努力』よね。見捨てられたくないのね」

早坂:「今回の終わりでも、何やら意味深な叫びで、鬼引きっすね」


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